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ほほえみデンタルクリニック、異世界で開業しました  作者: ポン吉
第1章『ほほえみデンタル、異世界へ』

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01. ほほえみデンタル、内覧会前夜

診療室にはスタッフ全員が集まり、明日の内覧会に向けた最終確認が続いていた。

チェアの位置、受付から診療室までの導線、ユニット周りの器具配置。

それぞれが決められた持ち場で動きを確かめるため、白衣やスクラブが通路を静かに行き来していた。

照明は明るめに設定され、ユニットの金属部分が光を反射して細い線を作っている。

受付側のパソコンは待機画面の光を一定の明るさで映し続け、診療室奥のCTも小さく動作音を響かせていた。


「よ~し、明日は内覧会だ!きっと大勢の人がこのほほえみデンタルを見に来てくれる!」


診療室中央に立った琴吹真人が、腰に手を当てたまま院内を見渡した。

真人の声に、チェア近くで作業をしていたスタッフが振り返る。

智子がトレーの上に置かれた器具の並びを確認し、陽菜がチェアサイドのスピットンをのぞき込む。

大和はユニットに触れ、可動部の位置を確かめていた。


「長かったわね~…土地選びからスタートして、デンタルショーも見に行っていろんな業者の話を聞いて…」


副院長の琴吹志帆がタブレット端末を指先で操作しながら言う。

画面には施工時の写真が並び、スクロールするたびに光が志帆の白衣の胸元に反射していた。

志帆は視線を診療室奥へ移し、CT周囲の壁や配線の位置をもう一度確かめた。


「志帆にもだいぶ迷惑をかけたな…」


真人はカウンターへ歩きながら言う。

足元のテープで示された導線をまたぎ、受付方向へ視線を向けた。

位置を確認したあと、再びスタッフのほうへ向き直った。


「真人さんの暴走は今に始まったことじゃないので慣れました。」


志帆はタブレットを閉じ、軽く息を整えながら真人のほうへ身体を向けた。

その動きに合わせて白衣の裾が小さく揺れた。


「院長……お願いですから明日突然泣き出さないでくださいよ?」


大地がチェア脇で器具ホルダーの位置を直しながら顔を上げる。

動かした器具がわずかに当たって小さな音が鳴る。

大地はその位置を再度直し、真人のほうへ視線を向けた。


「誰が泣くか!」


真人の声に、大和がちょっと身を引き、陽菜がくすっと口元を押さえる。

しおりが受付カウンターの端から身を乗り出して様子を見ていた。


「スタッフの採用が問題なく決まって、全員初の顔合わせの時大号泣したの誰ですか?」


智子が器具トレー横に立ったまま言う。

智子の落ち着いた声に、周囲の動きが少しだけ止まる。


「…………えっと、大地君?」


真人が視線を逸らしながら言うと、陽菜が目を丸くし、大和が少し肩を揺らした。


「僕じゃないですよ!真人院長先生です!」


大地がきっぱり返す。

チェア横のライトが白衣の背中に影を作った。


「………はい」


真人が控えめに答えると、院内の空気が一瞬ゆるむ。

陽菜がチェア周りのチェックを再開し、大和もペンチの置き位置を整え始めた。


「まぁ、院長が泣いたとしても、私たちがフォローするんで安心してください!」


あすかが器具棚の前で身を伸ばしながら明るい声を上げる。

棚の扉が揺れ、中の滅菌パックが触れ合ってかすかな音を立てた。


「そうっすよ~。……それはともかく、明日院長が泣くに1000え~ん」


大和が片手を挙げて言うと、診療室の奥で動いていたゆかがこちらを向いた。


「私も泣くに1000え~ん」


しおりが受付カウンターから頭を出す。


「わ、わたしも」


すずが胸の前で両手をそろえて小さく言った。


「僭越ながら私も泣くに1000円を」


直樹が腕を組んだまま宣言する。

眼鏡のレンズが受付モニターの光を反射した。


「おい……お前ら…」


真人は肩を落とし、ゆっくり振り返る。

その声に、つむぎもユニット横から顔を出し、全体の雰囲気をうかがっていた。


「まったく……仕方のない子たちやねぇ……」


志帆が腰に手を当てながら言う。

照明の角度で白衣の影が少し長く伸びていた。


「志帆ぉ~…」


真人がわずかに身を乗り出す。


「うちも泣くに20000円ベットや!」


志帆の宣言に、陽菜が息を飲み、大和が口を開けたまま固まる。


「志帆さん!?!!?」


真人は思わず声を上げる。


「……泣かんとけばいい話や。ちゃうか?」


志帆が軽く肩をすくめる。

タブレットの端に置かれた指先がわずかに揺れた。


「……な、泣かない!!」


真人が胸を張る。

その声に合わせて智子が器具の向きを整え、陽菜が動線テープの上を確かめるように歩いていく。


「志帆先生。この賭け金どうします?」


陽菜がカウンターのそばで身体を少し傾けて聞く。


「全員泣くに賭けたからなぁ……」


志帆が診療室全体を見渡す。

チェアの影が床に長く伸びていた。


「よ~し、お前ら全員でそう来るというのなら俺は泣かないに5万円賭けよう」


真人が宣言し、腰に手を当てる。

しおりがメモ帳を持ちながら目を丸くした。


「8万か…」


ゆかが小さくつぶやく。

受付の明かりがその横顔を照らしていた。


「智子さ~ん。2日間の内覧会終わったらみんなで焼き肉食べに行くからいいところ予約しておいて~」


志帆が智子に声を向ける。


「院長・・・・・・わざわざ焼き肉代のために寄付してくれてありがとうございます!」


智子がトレー上の器具を整えながら言った。


「絶対に明日は泣かないからな!!」


真人が拳を握った。

その宣言を合図に、スタッフたちは再び導線の最終確認へとそれぞれの位置に戻っていった。

静かな動作が重なり、診療室には準備を仕上げる音だけが残った。

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