第6話
7月18日、朝。目覚まし鳴る前に飛び起きて、すぐスマホつかんだ。
もう三日目。あの変なメモアプリのせいで、頭ん中ぐちゃぐちゃ。
白いノートにペンのマークついた、めっちゃ不思議なアプリ。
昨日まで二つのメモが来てて、知らない誰かが「異世界」とか「帰る方法わからない」とか書いてて、マジで気になって全然寝れなかった。
スマホ、いつも通りバッチリ動くよ。LINEもSNSも音楽も問題なし。ネットもサクサク繋がる。
でも、このアプリだけ、なんかおかしい。怖いけど、なんか放っとけないんだよね。
ベッドの上でロック解除して、ドキドキしながらアプリ開いた。新しいメモ、来てるかな?
そしたら、ドンピシャ! 昨日までのメモの下に、新しいやつ追加されてた。
『私は佐藤健一。湖と草原、山脈に囲まれた高原の小屋にいる。テーブル、椅子、暖炉、毛布、鉄のカケラがあるだけ。持ち物はスマホと財布、ハンカチだけ。現在地不明で帰る為の手がかりもなし。電波も無い。君はどこ? どうやってメモを見た? 助けてくれる?』
うわっ、名前! 佐藤健一さん。やっと相手の名前わかった!
てか、佐藤さん…同姓! なんか、変な縁? いや、そんな場合じゃない。
しかも、わたしにガチで話しかけてる!「君はどこ?」「助けてくれる?」って。
心臓バクバク。初めて、向こうがわたしの存在に気づいたっぽい。
一昨日、最初の書き込みに今日返事。時間差があるのかな?謎?
電波無いって、このアプリはどうやって繋がってるの?オカルト?ちょっと怖いかも。
メモ何度も読み直した。湖、草原、山脈、小屋、テーブル、椅子、暖炉、毛布、鉄の破片。手がかりなし。
小屋の中、めっちゃシンプルだな。鉄の破片って何? ナイフみたいなん? それとも、ただのゴミ? 「手がかりなし」って、めっちゃ絶望的。
胸がギュッてなる。「助けてくれる?」って。そんなん言われたら、ほっとけないじゃん!
ふと、スマホの電池、50%くらいになってるのに気づいた。え、昨日寝る前にフル充電だったのに、ちょっと減り早くね?
まぁ、朝までSNS見たり音楽聴いたりしてたし、気のせいかな。充電器に繋いで、考えるか。
ノート出して、メモの内容書き出した。佐藤健一、50歳、湖、草原、山脈、小屋、テーブル、椅子、暖炉、毛布、鉄の破片、手がかりなし。
健一さん、なんとか生きてるっぽいけど食べ物は木の実だけ?
魚や動物捕まえて食べるってハードル高いよね。火は起こせたって書いてたよね。
でも、帰る方法わかんないって、めっちゃキツそう。わたし、助けたいけど、どうすりゃいいんだ?
健一さん、どんな人? 50歳って、お母さんよりちょっと上。どんな仕事してたんだろ? 会社員? それとも、なんか変わった職業?「異世界」って言葉使ってるから、アニメとか好きなオジサン?
でも、ほんとにヤバい場所にいるから、そう書いたのかも。男の人だよね、たぶん。名前からして。湖のそばで、暖炉の火見てるオジサン想像したら、なんか寂しそう。
入力欄タップしてみた。昨日、一昨日、返事書いた後すぐ入力できなくなったから、ドキドキ。そしたら、キーボード出た!
画面に0/200の表示。やっぱ200文字制限か。めっちゃ伝えたいことあるのに、200文字じゃキツい!
このアプリ、なんなのかわかんないし、慎重に。キーボード叩き始めたけど、消して、書き直して、めっちゃ時間かかった。20分くらい格闘して、なんとか収めた。
『東京の高校生です。佐藤健一さん、はじめまして。このアプリ謎ですね、何か知ってます?鉄の破片は何かに使える?魚は焼いて食べて。動物は火を避けるって聞いた事あります。帰る方法探そう。わたし、助ける方法考えるよ!』
東京の高校生って伝えて、アドバイス何かないかと考えたけど、これが限界。せめてサバイバル知識勉強しよう!
助ける意思がある事、孤独じゃない事は伝えよう。孤立は怖いもんね。
「保存」押したら、画面がチラッて光った。いつものやつ。返事来るまで待つしかないけど、なんか、健一さんがわたしのメモ読んでるって思うと、めっちゃドキドキ。
学校行く準備しながら、頭ぐるぐる。健一さん、わたしのこと「君」って呼んだってことは、わたしの返事、ちゃんと読んでるよね?
でも、なんでわたしのスマホにこのアプリ? ほんとに「異世界」? それとも、遭難?
スマホ持っていても電波無いなら出来る事って限定されるよね?
ネットで調べようとしたけど、いつも通り、アプリの情報なんも出てこない。スマホ、普通にネット繋がるのに。マジで謎。
バスで、彩花がいつものテンション。
「ね、葵、今日のテストやばそうじゃね?英語とか最悪!」
「うん、だよねー」
頭ん中、健一さんのことで占められてて返事が上の空になってしまう。彩花、わたしの様子見て、眉ひそめてきた。
「葵、マジで三日連続変だよ? スマホのバグ、まだ? 推し、なんかやらかした?」
「ち、違うって! アプリが変なだけ!」
慌てて誤魔化した。彩花にこの話、絶対無理。こんなん、笑われるか、頭おかしいって思われる。
バスな揺れながら、スマホ握って、健一さんのこと考えた。小屋にテーブル、椅子、暖炉、毛布。鉄の破片でなんか作れる? 魚焼いて食べてるかな? 動物、ヤバいのだと怖い。火で追い払える?
想像したら、めっちゃ心配。学校着いても、頭ん中、メモで埋まってた。
授業中、英語のノートに「小屋」「鉄の破片」「手がかりなし」って書きまくって、健一さんの状況想像した。
暖炉で火焚いて、毛布にくるまって、湖見てるオジサン。
帰る方法わかんないって、どれだけ不安なんだろ。わたし、なんかできることない?
でも、スマホの向こうの人、どうやって助ける?
昼休み、教室の隅でスマホ開いた。新しいメモ、まだ来てない。入力欄、またグレーアウト。はぁ、なんでまた書けないの?
健一さん、わたしのこと気づいてくれたのに。アプリ閉じたり開いたり、ダメ。
メモ読み返して、頭整理。ふと、電池、45%になってる。え、朝充電したのに、ちょっと減り早くね?
まぁ、電車で音楽聴いたりしてたし、気のせいか。充電器に繋ぎ直して、考える。アプリのせい? いや、まさか。
放課後、彩花と帰りながら、頭ぐるぐる。健一さん、佐藤って名前、わたしと同じ。なんか、運命? いや、バカか。
わたしの返事、届いてるよね? 次も書けるはず。わたし、なんかできること探さなきゃ。
警察? いや、こんな話、絶対信じてもらえない。ネット、なんも出てこないし。
家帰って、ノート広げて、メモ見直した。健一さん、どんな人? 会社員? それとも、変わった仕事?
「次、書けたら、なんて書こう」
最大200文字で、健一さんに希望あげたい。魚の焼き方、動物の対処、帰る手がかり。ノートに試し書き。
ベッドに倒れ込んで、スマホ握った。電池、またちょっと減ってる。電源繋いでおく。
画面見つめて、謎のメモアプリを凝視する。健一さんの次の日記を待ってる。
最後まで読んでくれて感謝します!