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交換日記は異世界から ―教室に届いた異世界からのSOS―  作者: クサフグ侍


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第41話

 7月30日、佐藤健一は森の民の夫婦の家で目覚めた。家の窓から差し込む朝の光が、木の床を優しく照らす。健一は体を起こし、深く息を吐いた。


「今日、日本に帰れるのか」


 感慨が胸に広がった。この異世界に来てから、湖の高原、黒い森の変化、白竜のアルビオルや守護者のヴァル爺さんとの出会い。いろんなことがあったけど、ついに帰る日だ。5

 短いけど濃い時間だった。

 スマホを取り出して、日記アプリを起動する。新しい日記を確認し、健一は笑顔になった。


『私達も前日に目的地に向かい、現地近くで宿泊して朝から待機できる様にします。健一さんが無事に到着して、帰って来れる事を祈ってます! みんなで待ってる!』


 葵や岳人達の存在が、どれほど心強かったか。会えるのが待ち遠しい。

 隣のベッドで、潤くんも目をこすりながら起き上がった。


「おじさん、おはよう」


  小さな声に、健一は優しく微笑んだ。


「おはよう、潤くん。今日、帰れるよ。一緒にがんばろうな」


 潤くんは頷き、二人で身支度を始めた。健一は皮袋を背負い、槍を手に持った。潤くんは夫婦からもらった小さな袋を抱え、少し緊張した顔だ。

 夫婦のタニーさんとティカさんが、朝食を準備してくれていた。木のテーブルに、温かいスープ、森の果実、煮込み肉とパンみたいなものが並ぶ。


「どうぞ、食べてください」


 ティカさんが優しく言った。健一は座り、久々の手の込んだ料理に目を輝かせた。


「ありがとうございます。これ、すごいな」


 スープは香草の香りが立ち、果実の甘みが優しく染みる。柔らかく煮込まれた肉はジューシーで、パンはふんわり。東京のレストランじゃ味わえない、自然の味だ。


「旨い。本当に、ありがとう」


  健一は胸が熱くなった。潤も黙々と食べ、夫婦に「ごちそうさま」と頭を下げた。

 食事が終わり、外に出る。親友の狼が2頭、夫婦のそばで健一たちを見送っている。健一は夫婦に深く頭を下げた。


「タニーさん、ティカさん、本当にありがとうございました。潤くんを助けてくれて、俺たちの命の恩人です」


 タニーは頷き、別れを告げる。


「無事でよかったよ。気を付けて帰れ」


  ティカは潤くんを抱きしめる。


「元気でね」


 潤は涙を浮かべて、これまでの礼を言う。


「おじさん、おばさん、ありがとうございました」


 泣きながら別れを惜しんだ。狼たちも低く唸り、潤くんに鼻を寄せた。


「バイバイ。元気でね」


 潤くんは涙を拭き、健一の手を握った。

アルビオルの待つ場所へ向かうと、白竜の長い体が朝の光に白く輝いている。ヴァル爺さんは、すでに背中に乗っている。

 アルビオルの姿に、潤は「凄い!凄い!」と興奮していた。健一は潤が怖がらなくて良かったと思った。健一はアルビオルとの初対面の時、それなりに怖かったのだ。


 「おはよう、アルビオルさん」


  健一は挨拶し、潤くんを先に登らせた。潤くんは白毛を掴み、興奮していた。


「すごいよ、おじさん!」


 健一も登り、ヴァル爺さんの隣に座った。


「ヴァル爺さんも、おはようございます。今日も宜しく頼みます」


「みんな、準備できたか」


 ヴァル爺さんが確認し、アルビオルは体をうねらせ、空に飛び立った。

 白竜の背で、健一たちは少し話した。ヴァル爺さんが淡々と説明した。


「目的地までは、そんなにかからん。空の旅を楽しむと良い」


  健一は頷き、潤くんに目を向けた。


「潤くん、怖くないか?」


 潤くんは白毛を握りしめ満面の笑顔だった。


「ちょっと。でも、おじさんと一緒だから大丈夫!」


「そうか、良かった。正直言って、おじさんは少し怖い」


 そう言って健一は笑った。


 目的地までは、アルビオルの速度ならすぐに着けるはずだった。

 だが、その道のりは平穏無事とはいかなかった。


 黒い森の奥から、翼ある獣たちが次々と飛び立ち、アルビオルを追ってきたのだ。

 黒い翼を広げた猛禽、翼を持つ狼や馬に似た影。いずれも全身を漆黒の毛で覆われ、健一と潤を睨みつけるように敵意を剥き出しにしている。

 最初は距離を保って取り囲むだけだったが、その数はみるみるうちに増えていった。


「これは……危ないか!?」


 健一は思わず槍を握り直した。潤を片腕で抱き寄せ、守れるように体勢を整える。

 獣たちはアルビオルの進路を塞ぐように前方へ回り込み、じりじりと間合いを詰めてきた。数の勢いを得て、気勢を上げているのがわかる。


「前を塞ぐつもりだ!」


 アルビオルは低く唸り声を上げ、怒りをあらわにする。その声は大気を震わせ、獣たちを威圧した。

 同時に、ヴァル爺が短く言葉を紡ぎ、真法を放つ。空気に渦が巻き起こり、風の壁が一斉に獣たちを吹き飛ばした。

 さらにアルビオルの口から閃光がほとばしり、空を裂くように輝いた。

 獣たちは悲鳴を上げ、恐れをなして散り散りに逃げていく。


「……すごいな」


 健一は思わず息をのんだ。結局、槍の出番はない。

 そんな健一の心中を知ってか知らずか、ヴァル爺は淡々と告げる。


「これでよい。進め、アルビオル」


 白竜は大きく翼をはためかせ、速度を上げて再び目的地へと向かった。




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