第39話
千智さんが調べた資料を見て、私たちはちょっとざわついた。
「えっ、不帰森って、こんな街中にあるの?」
「うん、意外だったでしょ」
千智さんが地図を指さす。
「住宅街の中にぽつんと残ってる保護林なんだって。森の真ん中に小さな神社があって、そこは参拝できるけど、他は禁足地。だから地元の人でも普通は入らないみたい」
私は思わず身を乗り出した。
「禁足地!伝承にあったもんね。絶対ここだよね!」
彩花が冷静に突っ込む。
「そう決めつけちゃうのが葵の悪い癖。けど……有力候補なのは確か」
「だろだろ!」
森は保護林に指定されてるけど、実際にはすぐ近くまで住宅が立ち並んでいるらしい。さらに地図を見ると、道路を挟んで真向かいに市役所まで建っていた。なんか、市役所と禁足地が並んでる光景ってギャップすごすぎでしょ。
ホテルからは歩いて行ける距離だったから、全員で徒歩で下見に向かうことにした。
炎天下の中を歩きつつ、私はキョロキョロと周りを見て驚いてしまった。
「えー、ほんとに普通の住宅街じゃん! 子供の声も聞こえるし、スーパーもあるし!」
「でも、地図によるとすぐ先の道路向こうが不帰森なんだよな」
岳人さんが真顔で言う。
「信じられない。日常のすぐ隣で神隠し事件なんて」
彩花がため息をついた。
市役所に立ち寄ってみると、窓口の職員さんが対応してくれた。
「不帰森の神社は自由に参拝できますよ。けど、周辺の森には立ち入らない方がいいと言われてます。ずっと昔から“藪知らず”みたいな場所なんですよ」
地元ではあまりにも有名な禁足地らしく、正直に「怖いから近寄ったことはない」と付け加えられた。
「トイレは?」
彩花がさりげなく聞くと、「ここで使ってもらって大丈夫です」と笑顔で答えてくれた。
これで、明日の待機中にもしもの時は市役所に駆け込めるってわけだ。
私たちは職員さんにお礼を言って外へ出た。
すぐ向かい側に、鬱蒼とした木立が広がっていた。道路一本を挟んで、整然とした市役所の建物と、不気味な森が向かい合っている。この近さに、鳥肌が立った。
不帰森の神社は想像よりもずっと小さかった。ご神体もなく、古い石碑がいくつか並んでいるだけ。それでも空気はひんやりしていて、不思議な圧迫感を感じる。
参拝を済ませたあと、私はふとスマホを取り出した。
「うぅん?」
手に微かな振動を感じた。通知でもない、着信でもない。揺れているのはスマホそのものだった。
「どうしたの?」
彩花が覗き込む。
「スマホが、なんか震えてる。方向によって震え方が変わるよ?」
みんなで半信半疑のまま移動してみると、確かに震えが強くなる方向と弱くなる方向がある。
私は導かれるように神社の裏へ回り、竹藪の細い道を抜けた。少し進んだ先に、小さな空き地がぽっかりと広がっている。
「ここ、ここだ!」
震えが一番強くなった地点で立ち止まった。胸の奥がざわりと熱くなる。
「ここが、揺らぎが強い場所だ……!」
全員黙って空間を見つめた。何もない、ただの小さな空き地。けど、その下に何か大きなものが潜んでいるのを全員が確信した。
帰り道、近くの商店で水や軽食、タオルや追加の飲み物を買い集める。
「これで明日、一日中でも粘れるぞ」
岳人さんがレジ袋を抱えながら言った。
ホテルに戻ると、再び親子の部屋に集まって明日の流れを最終確認。
水分補給、交代で休憩を取ること、帰還後のルート……全部確認してから解散となった。
彩花と二人で自分たちの部屋に戻ると、外はもう暗く、不帰森の方角が夜に沈んで見えた。
スマホの日記アプリを開き、考える。いま、日記に書いても届くのは明後日。明日、健一さんが帰還した後になる。書く内容も思いつかないし、健一が帰還した後の日記アプリって、どうなるんだろう。
その時にならないと正解は判らないね、きっと。でも、少し考えて日記アプリに文章を打ち込んだ。
保存して、アプリを閉じる。隣のベッドの彩花に話しかける。
「明日、絶対に成功させようね」
「そうだね!」
二人強くうなずいて、布団に潜り込む。
明日は、健一さんと会える事を楽しみに。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
★やブックマーク、感想などで応援いただけると、とても嬉しいです。次の更新もがんばれます!




