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交換日記は異世界から ―教室に届いた異世界からのSOS―  作者: クサフグ侍


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第35話

 7月29日、佐藤健一は小屋の草を敷いた寝床で目を覚めた。窓から差し込む朝の光が、湖の水面を優しく照らし、高原の草地がそよぐ風に静かに揺れている。体を起こし、深く息を吐いた。


「今日で、この小屋ともお別れか」


 感慨が胸に広がった。この異世界に来てから、健一は小屋を拠点に高原で生きて来た。湖の澄んだ水、草原の緑、遠くの山脈。静かで美しい場所だけど、言葉を交わしたのは守護者のヴァル爺さんと、白竜のアルビオルだけ。東京の喧騒とは正反対の生活だった。


「色々と不便はあったけど、悪くなかったな」


 飢える事は無かったし、なんだかんだと危険な目にも合っていない。

 ポケットからスマホを取り出し、日記アプリを開いた。圏外のまま、新しい日記が届いていた。


『健一さん、私達の住む県にも神隠しの話しがありました。不帰森って知ってましたか? 禁足地で神隠しの話も多くあります。行方不明の人が帰って来た場所って話しもありました。なにかヒントになるかもって皆で調べてきます』


「不帰森……?」


 健一は目を細めた。地元近郊にそんな場所があったなんて、知らなかった。

 神隠しの話、行方不明の人が帰ってきた場所?


「ヒントになるかも、か。葵、みんな、ありがとう」


 胸が温かくなった。葵や岳人、千智、彩花も健一の帰還を探してくれている。帰還の具体性が出て来た事も喜んでくれるだろう。

 スマホをポケットに戻し、健一は朝食に黄緑色の果実を食べた。甘酸っぱい味が口に広がり、体がしゃんとする。


「よし、準備だ」


 皮袋に物資を詰め直し、麻紐でしっかり縛った。ナイフ、火打ち石、鍋、残りの米と干し肉、木の実の塩。槍も持ってくか。ヴァル爺さんが移動手段を用意してくれるそうだけど、何が来るんだろう。

 しばらく小屋で待っていると、外から足音が聞こえた。窓から見ると、ヴァル爺さんが近づいてくる。


「おじいさん!」


 健一は扉を開け、迎え入れた。


「もう出発しますか?」


 ヴァル爺さんは淡々と頷いた。


「もう少し待て。まだ来てない。来るまで、話そう」


 健一はヴァル爺さんに椅子を勧め、その向かいに座った。


「聞きたいことがあります。あの子供のこと、森の守護者に聞いてくれましたか?」


 ヴァル爺さんは目を細めた。


「ああ。その子供と思われる存在は、森の民の夫婦に保護されていた。一緒に暮らしていたそうだ」


 健一の目が輝いた。


「本当ですか! じゃあ、無事なんですね?」


「だが、異変の後、どうなっているかわからん。夫婦の住む小さな森は、目的地に行く途中に寄れる。お主、行くか?」


 健一は即答した。


 「お願いします! 子供も連れて帰りたいんです」


 落ち着いた口調で、でも真剣に言った。ヴァル爺さんは小さく笑った。


「よし。では、そうしよう」


 健一は胸が軽くなった。異変の後は確認できてない様だが、森の民の夫婦に保護されてたのは朗報だった。健一と違い、まだ子供で異変にも近くで影響強かっただろう。早く無事を確認したい。


「その森には、どれくらいで着くんですか? 目的地行きに影響ないですか?」


 ヴァル爺さんは淡々と答えた。


 「夕方には到着する。そこで夜を過ごし休息する。翌朝に出発、目的地には昼前には着くはずだ」


 健一は頷いた。


「よかった。それなら、子供を探せますね。おじいさん、ありがとう」


 ヴァル爺さんの言葉に、頼もしさを感じた。計画が具体的に進むのは心強い。

 しかし、歩けば5日以上の距離を半日とは。移動手段とは何なんだろう。ヴァル爺さんは楽しみにしとけとしか言わない。

 二人は小屋の椅子に座り、移動手段が来るまで話し続けた。健一はふと、真法のことを思い出した。アルビオルに教わった力だけど、まだよくわからない。


「おじいさん、真法のこと、もっと聞いていいですか? 水や火以外にも、自由に使えるんですか?」


 ヴァル爺さんは目を細め、静かに説明した。


「ああ。水や火に限らん。術者のイメージと世界の理が重なれば、伝えることができる。世界に水はある。だから水をイメージすれば出せる。だが、凍らせる炎はイメージできても、世界の理とは重ならん。故に発動しない」


 健一は考え込んだ。


「なるほど。世界のルールに合わないとダメなんですね」


 物理法則みたいな感じなのか。地球と同じとは限らないが。ヴァル爺さんは続けた。


 「真法を使える基準は、世界の理に激しく反そない生き方をしてる事だ。憎しみや攻撃性に偏りすぎなければ、だいたい許容範囲になる。厳しい基準ではない」


 健一は頷いた。聖人君子だとか徳が高くとかじゃ無くて良かった。


「だから、俺みたいな普通の人間でも大丈夫なんですね。よかった」


 真法の力が使える事は、単純に嬉しい。会話は異変のことに移った。


「あの異変は、世界の理に反した者達が引き起こした」


 ヴァル爺さんの言葉に、健一は息をのんだ。


「理に反した者達……? 誰なんですか?」


ヴァル爺さんは首を振った。


「詳しくはわからん。だが、大平原が黒い森に変わったのは、その影響だ」


 健一は背筋が冷えた。あの規模の変化、ただごとじゃない。


「おじいさん、そんな連中がいる世界で、俺は大丈夫ですか?」


 ヴァル爺さんは小さく笑った。


「心配いらん。黒い森で壊滅した筈だ。この高原まで来るとも思えんし、移動中も俺が付く」


 健一はほっとした。そいつらに対する攻撃として、その手段が黒い森だったのだろうか?

 しかし、平原の民や守護者もいた筈。大平原が黒い森に覆われてるなんて、なにか複雑な話がありそうだ。

 健一が考え込むと、小屋が静かになった。しかし、すぐに静寂は破られる。


 外から大きな風音が聞こえてきた。ゴオオオという低く響く音。健一は窓から外を覗いた。


「えぇ、移動手段ってもしかして?」


 ヴァル爺さんが立ち上がり、淡々と言った。


「移動手段が到着したようだ」


最後まで読んでくれて感謝します!

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