第33話
第32話の内容が31話と重複して投稿してしまいました。
大変申し訳ございません。32話本来のものに修正してありますので、ご確認下さい。
7月28日、佐藤健一は小屋の草を敷いた寝床で目を覚めた。白竜の庭での生活も15日目。
スマホを取り出し、日記アプリを開いくと、新しい日記が届いている。
『今日、健一さんから日記が来て、本当に安心した。怪我はありませんか? 身の安全が最優先ですよ! 異変やアルビオル、真法と気になる事沢山ですが、こちらも進展ありました。健一さんと同じ世界に飛ばされた子供が居るの! 名前は高橋潤くん。でも連絡取れなくなってる。居場所は平原の小さな森、一本の大きな木が特徴。守護者さんや、アルビオルさんに聞ける?』
健一は優しい言葉に胸が温かくなった。心配してくれる相手が居る事は、健一の状況では心の支えになる。
昨日の二人目の話しの続報だな。子供がこの世界にいるかもしれない?
「平原の小さな森、大きな木か。覚えておかなきゃ」
アルビオルや老人に聞ければ、何か分かるかもしれない。老人は、昨日は領域に居ないと言っていた。葵の記述からも、眼下の大平原だった場所に居た可能性が高い。だが、その範囲はとんでもなく広い。
連絡が取れなくなってるのは心配だけど、まずは無事を祈るしかない。スマホをポケットに戻し、活動を始めた。
朝食に黄緑色の果実を食べ、真法の水で喉を潤した。手製の槍を手に、湖の魚罠を確認しに向かった。
湖畔の白い小石を踏みながら進むと、遠くに人影が見えた。昨日に続き、老人が来てくれた様だ。
「ヴァル爺さん!」
健一は思わず笑顔になり、駆け寄った。健一を見ると、老人は静かに頷いた。
「来たか。話がある」
淡々だが温かみのある口調に、健一は落ち着きを感じる。
「話しですか?なんでしょう?」
「お前の帰還方法だ。やって見なければ判らんが可能性は高い」
健一は老人の言葉に驚く。昨日の今日で目処が立ったのだろうか。
「世界の揺らぎを利用すれば、世界を渡る扉の様なものを開けることが出来そうだ。お主が揺らぎの強い場所に行き、その道具、お主の繋がっている相手が、向こうの世界で同じく揺らぎの強い場所に行く。道具を道標に、扉を繋げる。」
健一の心臓がドキッとした。
「本当ですか? 帰れるかもしれないってこと?」
「ただ、揺らぎは収まりつつある。急ぐ必要がある。次の機会はわからん」
老人は淡々と続けた。
「目的地は大平原だった場所の中央。今はどうなっているか、行ってみなければわからん。歩けば5日以上かかるが、移動手段を用意する。それなら明日出発して、1日で着く」
健一は息をのんだ。
「明日!? そんな急に……。」
でも、帰れる可能性があるなら、迷ってる場合じゃない。
「揺らぎが小さくなる前に急ぐ必要がある」
「わかりました。頼みます!」
老人は頷いた。
「お主の世界の相手には、揺らぎの強い場所を探し、明後日にそこで待機するよう伝えろ」
具体的になった帰還方法に、健一は心臓が痛くなる程に動悸が強くなる。明後日には現代に帰れるかも知れない!
だが、葵からの日記の情報にあった、同じ世界に飛ばされたかもしれない子供のことも気にかかる。健一は落ち着いて言葉を選んだ。
「おじいさん、もう一つ。昨日も聞いた同じ世界から来た人間についてです。どうも子供らしく、平原に囲まれた小さな森にいたらしいんです。大きな木が一本、目印だとか。出来れば助けたいです。場所ってわかりますか?」
老人は顎を撫で、淡々と言った。
「大平原には小さな森がいくつかある。いや、あっただな。その一つだろう。だが、今は黒い森に変わっている。大平原の守護者は……今、難しい状況だ。だが、森の守護者なら把握しているはずだ。俺が聞いておこう」
健一はほっとした。
「ありがとう、おじいさん。子供が無事だといいですが」
老人の頼もしい言葉に、希望が膨らむ。子供がどこにいるのか、合流できるのかはわからないけど、老人に任せれば何か分かるかもしれない。
老人は静かに頷いた。
「準備をしろ。明日、移動手段を用意する。目的地には1日で着く。問題がなければ、明後日に扉を開ける事になる」
健一は頷いた。
「わかりました。絶対、行きます」
「では、また明日だ」
そう言うと老人は湖畔をゆっくり歩き去った。健一は見送りながら、胸がドキドキした。
「帰れるかもしれない……ほんと、ついに」
小屋に戻ると、健一は準備を始めた。老人からもらった皮袋をチェック。火打ち石、鍋、米、干し肉、麻紐、大型ナイフ、木の実の塩。黄緑色の果実もある。
「これで十分だろ。水は自前で用意できる」
移動に備え、麻紐で皮袋をしっかり縛った。明日の出発、30日の到着、そして扉での帰還。予定が頭に刻まれる。
「今夜が、この高原の最後の夜になるのか」
健一は呟いた。湖の水面に映る二つの月を見ると、少し寂しさも感じた。この世界の美しさ、静けさ。東京じゃ味わえないものだ。
でも、帰りたい。葵や岳人、千智、彩花が待ってる。もう一人、子供がいるかもしれない。
健一は暖炉に火をくべ、魚を焼いて夕食にした。木の実の塩を振り、香草をまぶしたシンプルな塩焼き。カリッとした皮とふわっとした身が、いつも通り旨い。
「これも最後か」
穏やかに笑った。
夜、暖炉の火が揺れる中、健一はスマホを取り出した。日記アプリを開き、葵の日記を読み返した。老人が森の守護者に聞いてくれるなら、希望がある。もう一人の日記アプリの所有者のことも気になる。あちらで揺らぎの強い場所を見つけられるのか?
こちらでは老人が居たけど、葵や岳人は大丈夫だろうか。
『老人が帰還方法を見つけてくれた! 揺らぎを利用して世界を渡る扉を作るらしい。葵さんのスマホと私のスマホを目印にするらしい。老人の用意する移動手段で遠方の目的地に明日向かう。到着は明後日。葵さんには、そちらで揺らぎの強い場所に明後日待機して欲しいそう。場所を見つけて』
保存ボタンを押し、スマホをポケットに戻す。草の寝床に横になり、湖に映る二つの月を見ながら、健一は呟いた。
「もうすぐ帰れる、みんな、頼んだよ」
希望と少しの不安を抱え、健一は目を閉じた。十五日目が終わった。
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