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交換日記は異世界から ―教室に届いた異世界からのSOS―  作者: クサフグ侍


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第31話

 7月27日、佐藤健一はいつもより早く目を覚ました。まだ薄暗い高原の空が、窓から見える。草を敷いた寝床から起き上がり、窓の外を眺めた。

 湖の水面が朝の薄光を映し、草地がそよぐ風に静かに揺れている。遠くの山脈は雪の峰を淡く輝かせ、いつも通りの静かな美しさだ。

 だが、この2日間は激動だった。空間が揺れる異変、大草原が黒い森に変わったこと、白竜のアルビオルとの出会い、真法を覚えたこと。50歳の健一にとって、どれも信じられない出来事だった。


「落ち着いて、今日もやれることをやるだけだ」


 健一は呟き、ポケットからスマホを取り出した。日記アプリを開くと、新しい日記が届いていた。


『今日、日記が来ていません。健一さん大丈夫ですか? 何かありましたか? これ、明後日に届くのってもどかしい! みんな心配してました。無事を祈ります。こちらでは二人目の日記アプリの所有者を岳人さんが見つけました。この人の相手も健一さんと同じ世界にいるのかな? 詳しい話は明日だそうです』


「気を失い日記を書けなかった日の事か。昨日は書いたから無事な事は届いている筈。時差は確かに面倒だな……」


 26日の夜、異変で気を失ったせいで日記を書けなかった。葵や岳人、千智、彩花が心配してくたと思うと、申し訳なさと感謝が混じる。


「二人目の日記アプリの所有者?」


 そして、二人目の話。健一は目を丸くした。自分と同じ世界に、誰か他の人がいるかもしれないのか?

 合流できれば心強い所だが、どうやって見つける? アルビオルや守護者の老人なら何か知ってるかもしれない。

 健一は深呼吸して、落ち着いた。


「焦っても仕方ない。まずは今日を生きなきゃ」


 スマホをポケットに戻し、活動を始めた。

 朝食に黄緑色の果実を食べ、湖の水で喉を潤した。手製の槍を手に持ち、湖の魚罠を確認しに向かった。異変で高原に変化がないか、慎重に周りを確認しながら歩く。

 草地はいつも通り柔らかく、湖の白い小石がキラキラ輝いている。地割れや異常は見当たらない。


「高原は大丈夫そうだな……」


 少し安心したその時、湖の向こうに人影が見えた。白い髭、筋肉質な体型。あの守護者の老人だ!


「やっと会えた!」


 健一は思わず叫び、自然と走り出した。老人に近づき、息を切らしながら健一は声を掛けた。


「ヴァル爺さん! また会えてよかった!」


 白い髭を風に揺らし、筋肉質な体型が朝の光に映える老人は、変わらず不思議な存在感を放っている。健一は息を整え、落ち着いた声で話しかけた。


「聞きたいことが山ほどあるんです」


 老人は鋭い目で健一を見据え、淡々と言った。


「話せ。何だ?」


 冷たくはない、穏やかな口調に、健一は少し安心した。


「まず、元の世界に帰る方法、何か見つかりましたか? それと、昨日、変な揺れがあって……空間が歪むみたいで、気を失ったんです。白竜のアルビオルに助けられました。」


老人は小さく頷いた。


「アルビオルに助けられたか。無事で良かった。あいつはいいやつだからな」


 口元に笑みが浮かんだ。健一も思わず頷いた。


「ほんと、助かりました。で、あの揺れは何だったんですか?」


 老人の表情が曇った。


「あの異変か。簡単言えば、大平原の者達に苦難があってな。大森林の者達が助力したが悲劇が起きた。結果が、黒い森だ。凄まじい力が使われて、世界に揺らぎが生じた。大平原のほとんどが消え、黒い森に変わった。あんなことは初めてだ」


 健一は絶句した。


「ほとんど、消えた……? あの大草原が?」


 あの金色と緑の広大な景色が、たった1日で黒い森に塗り替わったなんて、信じられない。

 老人は続けた。


「この高原は影響が少ない。心配はいらん。だが、帰る方法はまだ見つからん。だが、今回の揺らぎは利用できる可能性がある。急いで調べてみる」


 健一の胸に希望が灯った。


「可能性? 本当ですか? 頼みます、おじいさん!」


 落ち着いた口調で、でも真剣に言った。

 老人は頷き、静かに答えた。


「約束はできんが、やってみる」


 健一はさらに切り出した。


「もう一つ。あの道具で連絡してる相手から、別の人が同じ道具を使ってるって聞いたんです。俺と同じ世界から来た人がいるかもしれない。なにか、心当たりありませんか?」


 老人は一瞬考え、首を振った。


「私の領域では、お主のような存在は感知できん。だが、調べてみよう」


 健一は頷いた。聞きたいことはまだある。真法のこと、黒い森のこと、守護者の役割。でも、老人の言葉に急ぐ様子を感じた。


 「わ、わかりました。じゃあ、調査、お願いします」


 呼び止めるのはやめた。帰る可能性が少しでもあるなら、それが優先だ。


「また会おう」


 老人はそう言って湖畔をゆっくり歩き去った。健一は見送りながら、胸がドキドキした。


「帰る方法見つかると良いが。頼みます」


 アルビオルの真法、葵や岳人の応援、老人の言葉。どれも心の支えだ。小屋に戻る道を歩きながら、健一は湖のキラキラした水面を見つめた。今日はこれから何をしようか。魚罠を確認して、食料を確保だな。


 まず、湖の魚罠を確認しに行ったことを思い出した。老人を見つけ、それどころじゃ無かった。

 湖畔に確認に向かうと、浅瀬の罠に銀色の魚が二匹跳ねていた。


「よし、今日も獲れた!」


 笑顔で魚を手に、焚き火の準備をした。

 守護者の老人との会話が頭を巡る。世界の揺らぎ、大平原が消えた異常事態、帰還の可能性。胸がざわつくけど、希望もある。

 まずは腹の虫を退治する事としよう。健一は料理の準備を始めた。

 今日は真法を使ってみよう。真なる力を意識し、手のひらに集中。


「炎よここに」


 昔に読んだ小説の台詞を真似して呟けば、ぱちっと小さな炎が浮かび、乾燥した枝に火をつけた。


「おお、楽だな、これ!」


 健一はテンションが上がる。年齢と共に薄れていたが、不思議な力を使う事に憧れていた。感無量になるのも仕方ない。

 次に水。鍋に水を入れるため、願うと少量の水が手のひらから鍋へ流れる。


「まだちょっとだけど、便利だな」


 真法の練習を兼ね、満足げに頷いた。魚をナイフでさばく。鱗をこそぎ、内臓を取り除き、水で洗う。

 ふと、東京で作った淡水魚の林檎ソースがけを思い出した。あの甘酸っぱいソース、魚の旨味と絶妙に合ってたな……。


「でも、ここじゃ材料が足りないしな」


 材料は木の実の塩と香草だけ。シンプルに塩焼きに決めた。鮮度が最高の調味料だ。

 魚に切り込みを入れ、塩をすり込み、香草を軽くまぶす。焚き火の上で枝に刺して焼くと、脂がジュウジュウと音を立て、香ばしい匂いが漂った。

 黄金色に焼き上がった魚を頬張ると、カリッとした皮とふわっとした身が、塩の青臭さと調和する。


「あぁ、やはりめっちゃうまい!」


 暖炉のそばで食事を終え、健一は老人との会話を振り返った。大平原が黒い森に変わったなんて、規模が大きすぎる。

 背筋がぞっとしたが、老人は「この高原は影響が少ない」と言ってくれた。それだけが救いだ。

 それどころか、帰還の可能性があるという事だ。老人が見つけてくれる事を祈る。

 葵からの日記も頭に浮かんだ。もう一人、健一と同じ世界に来た人がいるかもしれない。でも、老人の領域にはいないらしい。


「その人が元気でいるといいな。どこにいるんだろう……」


 健一と同じサラリーマンか、男か女か。誰であれ、合流できれば心強いけど、今は祈るしかない。岳人や千智、葵、彩花も東京で動いてくれてる。それだけで十分だ。

 夜、暖炉の火が揺れる中、健一はスマホを取り出した。日記アプリを開き、今日の出来事をまとめた。


『守護者の老人と再会し、話しをしました。今回の異変で大平原の殆どが消えたそうです。とんでもない規模です。ただ、この異変で世界の揺らぎが出ているとの事、もしかしたら帰還のきっかけになる可能性があると調べてくれるそうです。また、私の様な人間が居ないか聞いた所、老人の領域には居ないそうです』


 スマホをポケットに戻し、草の寝床に横になった。湖に映る二つの月を見ながら、健一は呟いた。


「みんなが動いてくれてる。俺も頑張らないとな。」


 疲れが押し寄せ、目を閉じた。十四日目が終わった。


最後まで読んでくれて感謝します!

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