第3話
7月16日、めっちゃ暑い昼下がり。東京の郊外にある、ふつーの公立高校の教室で、窓際の席に座ってスマホいじってた。
一番怠く感じる週の初め、月曜日。わたし、佐藤葵、17歳、高校二年。
友達の彩花と一緒に帰る約束してたんだけど、アイツまだ来ない。
「遅えな、彩花」
ぶつぶつ言いながら、スマホの画面スワイプして、推しのアイドルの新曲聴いたり、SNSチェックしたり。いつも通りのダラダラ時間。
わたしのスマホ、去年の誕生日に親が買ってくれた中古のやつ。最新モデルじゃないけど、SNSも動画も音楽もサクサク動くし、めっちゃ使いやすい。
カバーには推しのステッカー貼ってるし、壁紙もライブ写真。ザ・女子高校生って感じのスマホだよね。
少し前までシンプルなスマホケースだったけど、親友に可愛くないって言われて魔改造したんだ。ネットもバッチリ繋がるし、LINEも問題なし。いつものように、なんの不具合もない。
でもさ、今日、なんか変だったんだよね。
「え、なにこれ?」
ホーム画面スクロールしてたら、なんか見慣れないアイコン見つけた。白い本にペンのマークがついた、メモアプリっぽいやつ。
アイコン下には日記と表示。こんなの、インストールした覚えないんだけど?
首かしげながら、試しにタップしてみた。アプリ開いたら、たった一つのメモが出てきた。
『2025年7月16日、50歳の誕生日。突然、知らない場所に居る。気がついたら草原と湖、山脈に囲まれた高原。なんで?戻れるのか?古い小屋を見つけた。今日はここで夜を過ごす。ここはどこだ? 日本にはとても見えない。外国か、まさか異世界?誰もいない。どうすればいい?』
は? ちょっと待って、なにこれ?
まず、2025年7月16日って今日じゃん。わたしの誕生日じゃないけど、なんかゾッとする一致。
そして、「50歳の誕生日」ってなに? わたし、17歳だよ? 33年も先の話?
それに、「異世界」って…え、ラノベ? アニメ?
めっちゃファンタジーじゃん。頭バグるんだけど。
「うそ、なにこれ。誰かの日記?ハッキング? でも、わたしのスマホ、ロックかけてるし」
周り見回した。教室にはまだ何人かクラスメイトが残ってて、みんなスマホいじったり、友達と喋ったり。誰もわたしの異変に気づいてない。
彩花もまだ来ないし。もう一度、メモ読み直した。シンプルな文章なのに、なんかリアルすぎて、読むたびに背筋がゾクッてなる。
「どうすればいい? って、え、わたしに聞いてるの?」
思わず声に出しちゃって、隣の席の男子がチラッてこっち見た。うわ、めっちゃ恥ずい!
慌てて口閉じたけど、心臓バクバク。自分で書いた覚えないよ。
友達のいたずら? いや、ないでしょ。だって、スマホ、パスコードと指紋認証でガチガチにロックしてるもん。
誰かが勝手にいじるなんて、ありえない。試しに、LINE開いて彩花に「どこ?」って送ってみた。
すぐ「HR長引いた、ごめん!」って返信来た。SNSもサクサク動く。YouTubeで推しのMV流しても、普通に再生される。ネットもバッチリ。
変なの、このアプリだけじゃん。
「とりあえず、返事してみようかな」
半分冗談、半分マジで、メモの下にキーボード出して打ってみた。そしたら、画面の右上に0/200って出てる。「え、文字数制限? なにそれ、めんどくさ!」って思いながら、でも、なんか気になって、打ち始めた。
『17歳、高校生。あなたの日記、急にスマホに出た! どうやって私のスマホに送ったの?そこはどんな場所?冗談じゃないなら、私に何か出来る?落ち着いて、教えて!』
短いけど他に書く事も思い浮かばない。名前は、なんか、いきなり教えるの怖いな。
ネットで知らない人に個人情報教えるな、って親にめっちゃ言われてるし。まぁ、これでいいか。で、「保存」押したら、画面が一瞬チラッて光った。ん? バグ?
でも何もおかしくなってない。あれ、保存ボタンが暗くなってる?
もう一度入力欄タップしたけど、キーボード出てこない。「保存」ボタンも反応なし。
アプリ閉じて開き直しても、変わらない。
アプリの詳細チェックしたけど、開発者情報とか何もない。名前もただ「メモ」ってだけ。
Googleで「謎のメモアプリ」とか「スマホ 知らないメモ」とか検索してみたけど、普通にネット繋がるのに、似たような話は全然出てこない。
「うそ、なにこれ。怖すぎなんだけど」
教室出て、廊下の窓から外見た。いつもの住宅街。蝉の声うるさいし、遠くで車の音するし。異世界とか、草原とか、そんなのどこにもないよ。
なのに、このメモ、なんかリアルすぎる。まるで、誰かが今、ほんとにどこかで書いてるみたい。
試しに、推しの新曲もう一回流してみた。バッチリ流れる。
LINEで彩花に「早く来いよー」って送ったら、「もう着く!」って返事。
スマホ、日記アプリ以外はマジで普通。
「葵ー! ごめん、遅くなった!」
後ろから彩花の声。ビクッて振り返ったら、アイツ、いつものニヤニヤ顔でカバン持ってる。
「うわ、葵、顔真っ青! どしたの? 推しがスキャンダル?」
「バ、バカ! 違うよ! ちょっと、スマホが…変なアプリ見つけてさ」
慌ててスマホポケットに突っ込んだ。彩花にこのアプリ見せるの、なんか抵抗ある。
こんな変な話、信じてもらえるわけないし、絶対笑われる。
彩花、怪訝そうな顔してたけど、いつもの調子で喋りだした。
「ふーん、変なアプリ? ガチャゲー? まぁ、いいや。帰りにコンビニ寄ろ! アイス食べたい!」
「うん、いいよ。行こ」
笑顔作って頷いたけど、頭ん中、メモのことでいっぱい。
コンビニで彩花がアイス選んでる間に、こっそりスマホ出してアプリ開いた。特に変化なし。新しい文章もない。
もう一度入力してみたいけど、入力欄、反応しない。まるで、「もう書かせねえよ」ってアプリが言ってるみたい。
「葵、なんかマジ変だよ? さっきからソワソワしてる。やばいDMでも来た?」
彩花がアイス持ってニヤニヤしながら言う。わたし、苦笑いして誤魔化した。
「いや、ほんと、ただのアプリのバグだから。ほら、行くよ」
コンビニ出て、夕暮れの住宅街歩きながら、ふと空見たらオレンジ色に染まってた。
ハッてなって、メモに書いてあった「草原と湖、山脈に囲まれた高原」って頭に浮かんだ。
綺麗な夕焼けが突然怖くなってゾワッと鳥肌になった。
いや、まさか。んなわけないよね。自分を落ち着かせるみたいに、深呼吸した。
家に帰ってからも、スマホ握りしめて何度もアプリ開いた。新しい返事、来ない。入力もできない。アプリ削除しようとしたけど、なぜか「削除」ボタン出てこない。
スマホ再起動しても、アプリ消えない。なのに、SNSも音楽もネットも、全部いつも通り動く。マジで、日記アプリだけおかしい。
夜、ベッド入っても、スマホ手放せなくてさ。考えちゃうんだよね。
「これ、ほんとに誰かが書いてるなら…その人、めっちゃ困ってるよね?」
でも、返事書けないし。どうやって助けるの? これ、本物なの?
メモ何度も読み返して、頭整理しようとした。草原、湖、山脈、小屋。50歳の誕生日。異世界。
なんでこんなメモがわたしのスマホに? なんで、もう書けないの?
スマホの画面、ふと暗くなった。「うわっ!」って声出ちゃったけど、すぐ元に戻った。
時計、ちゃんと動いてる。20:03、2025年7月16日。普通の夜。なのに、なんか胸がモヤモヤする。
わたしのふつーの日常、たった一つのメモで、なんかガラッと変わっちゃった感じ。
最後まで読んでくれて感謝します!