第22話
7月24日、健一は小屋の草を敷いた寝床で目覚めた。
窓から差し込む朝の光が、今日も快晴だと知らせる。いつも晴天のこの世界に、健一は奇妙な安心感を覚えた。
健一は起き上がるなり、ポケットからスマホを取り出し、日記アプリを開いた。
『野比さんと連絡取れて話し合いしました!伝言です。心配したぞ、待っていろ。全力を尽くすだって。良い人ですね、頼れそう!高原の地形や風景、詳しく教えて下さい。それとスマホの電源、どうなっています?』
「岳人に……届いた!」
健一は思わず声を上げ、拳を握った。野比岳人に自分の生存が伝わった。
親友の「心配したぞ、待っていろ。全力を尽くす」という言葉に、胸が熱くなる。
岳人の豪快で揺るがない性格を思い出し、最高の知らせに歓喜した。「あいつなら、きっと何かしてくれる!」 高校生の「良い人ですね、頼れそう!」という言葉にも頷いた。
スマホの電源については、バッテリーが増える謎をどう説明すべきか。
地形や風景の情報は、特徴をしっかり伝えよう。
日記は夜に書くことにし、スマホをポケットに戻した。
手製の槍を手に、健一は湖に向かった。
昨日、仕掛け直しておいた魚罠を確認に向かう。
湖畔の浅瀬に近づくと、水面下で動く影が見えた。罠を引き上げると、銀色の魚が三匹、網目の中で跳ねている。
「よし! 今日も獲れた!」
機嫌がどんどん良くなる。魚の鱗が朝日にキラキラと輝き、健一は笑顔を抑えきれなかった。
冷蔵庫がない生活だ。新鮮なうちに食べようと、早めの昼食を準備することにした。
今日は小屋の外で焚き火を起こす。湖畔の草地に乾燥した枝を集め、火打ち石で火をつけた。
パチパチと炎が上がる中、魚をナイフで丁寧にさばく。鱗をこそぎ、内臓を取り除き、水で洗う。枝に魚を刺し、焚き火の上に掲げる。
木の実の塩を指で潰し、振りかける。青臭い塩の香りが立ち、魚の脂がジュウジュウと音を立てて炎を揺らす。
香草は使わず、シンプルに焼き上げた。魚の表面が黄金色に輝き、香ばしい香りが漂う。
「これぞ自然の恵みだ!」
健一は満足げに頷き、魚を頬張った。
カリッとした皮とふわっとした身、塩の風味が絶妙に絡み合い、素朴だが満ち足りた味わいだった。
満足のいく食事を終え、健一は目新しい発見を求めて湖周辺を歩き回った。鳥のさえずりや小動物の足跡が目に入る。
「鳥やウサギを獲れれば、肉も食えるな。この槍でいけるか?」
だが、槍で素早く動く動物を仕留めるのは難しそうだった。
高校生の魚罠のアイデアを参考に、鳥や小動物用の罠を考えるべきか? 麻紐と小枝で試せそうだが、技術と時間がいる。
歩きながら、守護者の老人を思い出した。「次はいつ会えるんだ?」コンタクトする方法を聞くのを忘れたのが悔やまれる。
次の機会には、連絡手段や再会の方法を必ず確認しよう。
生活が安定し、危機感が薄れたせいか、健一はふと「この高原の生活も悪くないかも」と思った。
澄んだ空、湖の美しさ、静かな自然。東京の喧騒とは別世界だ。だが、帰りたい気持ちは変わらない。
老人の贈り物、米、干し肉、鍋、麻紐、ナイフを思い返し、物資の調達について考えた。
「米はどこで作ってるんだ? 道具の作りからして、街や村があるはず」
老人を通して物資を交換できないか? 特に米はもっと欲しい。
代価として何を用意できるか? 魚や果実を干して保存食にできれば、交換に使えるかもしれない。
財布の小銭はどうか? この世界に金銭経済がなくても、珍しい金属や装飾品として価値があるかもしれない。
次に老人に会ったら相談しようと健一は決めた。
日中の探索では新たな手がかりは見つからなかった。
湖周辺の生活は安定しているが、帰る方法は手掛かりが無く、老人や高校生に期待したい。
岳人に生存が伝わったのは大きな一歩だ。
「この異常事態でも、岳人なら何かやってくれる」
健一は信じる事が出来る。
それと高校生の地形や風景の質問に応えるため、特徴をしっかり書こうと思った。
夜、暖炉の火が揺れる中、健一はスマホを取り出し、日記アプリを開いた。
『岳人に感謝する。頼むと伝えてくれ。勿論、君にも強く感謝している。今の私の心の支えだ。老人によると高原は白竜の庭と呼ばれて居る。巨大な山と周囲を山脈が囲み、この高原がある。麓は森林で囲まれており、森林を抜けた先はを渡す限りの大平原だ。スマホのバッテリーは充電できない状況だが、勝手に増減を繰り返している』
これで良いだろうかと悩みながら、保存ボタンを押す。
スマホをポケットに戻し、草の寝床に横になった。窓から見える二つの月を見ながら、健一は思った。
「岳人が動いてくれる。高校生も支えてくれる」
戻れたら恩返しを必ずすると思いながら、十日目が終わった。
最後まで読んでくれて感謝します!




