第11話
7月21日、草を敷いた寝床で目を覚めし、起き上がる。毛布と草のおかげで寝心地は多少改善したが、腰にまだ鈍い痛みが残る。
窓から差し込む朝の光が室内を薄く照らし、湖の水面がキラキラと輝いているのが見えた。外の空は澄み切り、草原がそよぐ風に揺れている。
健一はテーブルの黄緑色の果実を手に取り、湖の水で喉を潤した。生き延びる基盤はできつつあるが、元の世界に戻る手がかりはまだない。
髭を剃れないのが不満だが、初めての髭のある生活を楽しむしか無いと諦める。服も湖で洗っては居るが、ヨレヨレになってきた気がする。
ポケットからスマホを取り出し、電源を入れた。圏外の表示は変わらず、日記アプリを開くと新たな日記が届いていた。
『魚罠。枝を10本ぐらい集めて束ね、底の輪をつくる。枝の先を上に曲げて漏斗形にする。枝や蔓で網目にする。入り口は狭くして餌を入れて完成。伝わるかな?画像添付したい!カラムシやカヤなど繊維が丈夫な草を探し、捻り合わせて紐の代用品。繊維は水につけると柔らかく編みやすくなる。一番簡単な武器は丁度良い枝を探して先を尖らせた槍かも。頑張って!』
東京の高校生からの詳細なアドバイスだ。「頑張って!」という言葉に、健一の胸は温かい希望で満たされた。
この孤独な世界で、誰かが自分を助けようとしてくれている。その気持ちが心を強くする。だが、説明は具体的だが、文字数の制限でぎゅっと詰め込まれている。「画像があればな……」と思うが、すぐに気持ちを切り替えた。この子は精一杯教えてくれている。
魚罠の作り方はイメージできそうだが、カラムシやカヤはどの草か? 繊維を水につけるのは理解したが、編むのは難しそうだ。
槍のアイデアは試せそう。
日記を読み返すと、奇妙な違和感に気づいた。この返事は、昨日書いた日記ではなく、一昨日の日記の「魚は捕まえられない。動物は危険かも」に反応している気がする。
「昨日のは無視された? いや、時間差があるのか?」
日記のやり取りに遅延があるのかもしれない。検証のため、今日の日記で昨日の内容に触れてみようと思ったが、それは夜にすることにした。スマホをオフにしてポケットに戻した。
いつもより少し遅れて、健一は探索に出た。湖周辺で食料や手がかりを探すのが日課になっている。
高校生のアドバイスを頭に置き、魚罠用の小枝や繊維になりそうな草を探す。
湖畔の草地を歩きながら、細くてしなやかな小枝を10本集めた。底を輪にし、枝を曲げて漏斗形にするイメージはつかめたが、網目にする蔓や草が必要だ。
湖畔の湿地で背の高い草を見つけ、茎を裂くと繊維が取れた。
「これがカラムシかカヤか?」
水につけて柔らかくし、捻ってみたが、糸にするには時間がかかりそうだった。
槍のアイデアも試した。湖畔で丈夫そうな枝を見つけ、鉄の破片で先を削って尖らせた。重さはそこそこだが、振り回せば武器になりそうだ。
魚罠の餌にはミミズや虫を探してみよう。
湖の銀色の魚は泳いでいるが、罠を作るのは時間がかかる。
黄緑色の果実を食べて、暖炉用の枝も集め小屋に運び込む。
白い生物への警告を思い出し、空を見上げたが、今日はその姿はない。
湖の反対側を歩いていると、突然、視界の端に動く影が映った。湖畔の白い小石の向こう、草地の端に人影が立っている。
「人!?」
この世界に来て初めての人間に、健一の心臓が激しく高鳴った。
危険かもしれない。だが、孤独に耐えてきた健一の体は、考えるより先に動いていた。草を踏みしめ、走って近づいた。
近づくにつれ、人影の姿がはっきりした。背は低め、だが筋肉が固まりのような体型。白い髭が長く伸び、老人に見える。
だが、どこか現実離れした雰囲気がある。服は粗末な布で、風に揺れる髭と鋭い目が、まるでこの世界の一部のような不思議な存在感を放っていた。
健一は息を切らし、立ち止まった。老人は静かにこちらを見ている。
初めての対面。言葉が出ないまま、健一は老人と向き合った。
最後まで読んでくれて感謝します!




