表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/2

第一章

皆様へ

ご覧いただきありがとうございます。

三章で終了予定です。

よろしくお願いいたします。

「貴様は、何者だ!

人間ごときが、それほどの力をどうやって手に入れた!」

拳を精一杯握りしめ、僕はその問いに答える。

「愛の力に決まってんだろうが!!」

渾身の力を込めた一撃は怒り狂う女神の腹部を貫いた。

ドガーン!!

爆発した女神の背後に巨大なハート型の煙が浮かび上がる。

僕の愛は地球を救った。


「暑すぎる…」

僕は項垂れる様な暑さに愚痴をこぼしながら、我らが学舎へと続く道を歩いていた。

そんな僕の背中に、突然何かが飛びついてくる。

「おはよ!優吾!」

背中から僕にそう声をかけてくる女子生徒。

その声に反応し、僕の口角は自然と上がる。

「おはよう、彩花。」

そう言いながら背中に目を向けると、女子生徒が僕に向かって飛び切りの笑顔を向けていた。

彼女の名前は百瀬彩花。

僕と同じ愛条高校に通う生徒で、僕の可愛い彼女でもある。

先程まで憂鬱だと愚痴をこぼしていた僕の身体は、彼女のおかげで調子を取り戻す。

(可愛すぎる。朝からこの笑顔を見れるなんて、僕は世界一の幸せ者だ。)

「今日も可愛いね。」

つい漏れ出してしまった言葉。

「えー、ありがとっ!」

その言葉に彼女は照れながらも、笑顔でそう返してくれる。

その笑顔に僕の頭は再び幸せに支配された。

彼女の笑顔は僕を幸せにしてくれる魔法の笑顔だ。

「彩花の笑顔は魔法だね。」

またまた心が漏れ出してしまった。

どうやら、彼女の前では僕の心と口が直結してしまうらしい。

「何それっ?」

意味が分からないと言った様子で僕を見つめるその目に吸い込まれそうになるのを踏み止まりながら、彼女に言葉を返す。

「僕を幸せにしてくれる。」

「もう、優吾ったら!」

その言葉に再び照れた様子を見せながら、軽く僕の肩を叩く。

そんなやり取りを行いながら、できるだけゆっくりと高校は向かう。

学校へと近付き、あたりに生徒が増え始めた頃、仲良く歩く僕達に後ろから挨拶が飛んでくる。

「おはよう!」

「おはよー。今日も仲良しだね!」

「毎朝見せつけてくれるなよ。」

爽やかな挨拶の主は愛条高校の生徒会長である水篠優樹。

僕達をからかってきたのは、優樹の幼馴染である石川ちひろと石川海斗だ。

石川さん達は双子で、優樹と同じく2人とも生徒会のメンバーである。

ちなみに、彩花も生徒会のメンバーだ。

「おはよ!三人こそ、今日も仲良しだね!」

「おはよう。」

合流して共に登校する僕達の様子を見て、周りの生徒がヒソヒソと噂する。

「今日も先輩達かっこいいね!」

「石川姉、美しすぎる」

「百瀬さん可愛い!」

この学校の生徒会は神聖視されており、絶大な人気を誇っている。

そして、その中心にいるのが、僕を除いた四人だ。

特に優樹の人気は凄まじく、この学園に存在する組織「優樹くん保護団体」は女子生徒の約半数が加入している。

僕からしたら、登校するだけでこれほどに熱い視線を贈られるのは大変ではと思うが、四人はいつものことだと気にすることなく歩いていく。

「はい、あの四人でいいと思います。」

そんな中、いつもの憧れとは違う、不審な言葉と雰囲気を感じた僕は周囲を警戒する。

彩花を守るために研ぎ澄まされた僕の五感はどんな些細なことも逃さない。

僕はその発言者の姿を捉えたが、生徒には見覚えがなかった。

(あれは誰だ?)

「どうしたの?」

そんな僕の様子に、彩花が声をかけてくる。

「何でもないよ。」

僕は彩花を心配させないよう、笑顔で返事を返した。

彼はこちらを振り返ることなく、そのまま校舎へと消えていった。


教室へ入ると、明日から夏休みということもあり、あちこちから予定を立てる声が聞こえてくる。

「明日から夏休みだね!」

彩花の言葉に皆が頷く。

「せっかくだし、どこか出掛けようか。

みんなで過ごせる最後の夏休みだしな!」

優樹の提案を受け、僕達が行き先を検討していると担任の水野先生が教室へと入ってきた。

「席につけ。ホームルーム始めるぞ。」

その一言でそれぞれ自席へと戻る生徒達。

僕も先生に従い、教室の左端に座る。

僕以外の四人は教室前方に固まって座っている。

彩花の隣に座る海斗が羨ましい限りだ。

「明日から夏休みだが、浮かれるなよ。」

先生の声が教室に響く中、突然教室に眩い光が差し込んだ。

そして、その光は彩花達四人を包み込んだ。

「何だよこれ!」

「え、何!?」

教室にいる生徒達が混乱する中、僕は彩花の元へと全力で駆け出した。

「彩花!」

僕は精一杯彩花へと手を伸ばす。

「優吾!」

彩花も光に包まれながら、僕に向かって手を伸ばす。

そして、互いの手が触れる寸前、彼女達は光の中に消え去った。


「何だよ今の!」

「え、みんな消えちゃったんだけど。」

「やばくない?」

喧騒が収まらない教室で僕は立ち尽くしていた。

「あれ、異世界転移だよね?」

そんな僕に、誰かのそんな言葉が届いた。

異世界転移。

近年、この国の人間が消える事件が発生していた。

突然光に包まれ、そのまま跡形もなく消える。

当初は原因が分からず、様々な憶測が飛び交っていた。

しかし、ある日突然、光に包まれ消えたはずの男性が帰宅したというニュースが流れた。

そして、その男性の口から語られたのが異世界転移。

こことは違う世界に連れ去られ、強大な敵との戦いを強いられたらしい。

その男性は何とか戻れたものの、共に転移した人達は全員亡くなっていた。

「ふざけるなよ。」

僕は許せなかった。

大好きな彼女を異世界へと連れ去った者達を。

可愛い彼女が連れ去られる原因を使った者達を。

そして、助けることができなかった僕自身を。

「絶対に助けに行くから。」

僕は彩花を助け出し、連れ去った者達へ復讐することを誓った。


異世界転移について、現在分かっている情報は2つ。

①転移に選ばれる人間は高校生であること。

②飛ばされる異世界は一つではないこと。

たったこれだけの情報では、彩花を助け出すことはできない。

(父さんに聞けば何か分かるかもしれない!)

僕の父は警察官であり、異世界転移の被害者達の行方を追うために作られた異世界対策室の室長を務めている。

恐らく、この国で最も転移に関しての情報は持ち合わせている人物だ。

僕はすぐに教室を飛び出し、自宅にいる父の元へと向かった。

(僕と彩花の青春の邪魔は許さない!)

増幅する怒りを堪えつつ、全力で駆ける。

「父さん!お願いだ!異世界転生の情報をくれ!」

自宅に着いた僕は、リビングにいる父に勢いそのままに頼む。

「どうした急に。お前、学校はどうしたんだ?」

突然の帰宅と依頼に驚く父。そんな父の疑問を無視し、僕は怒りのままに伝える。

「僕の可愛い可愛い彩花を異世界のクソ野郎どもが連れ去ったんだよ!」

「彩花ちゃんが!?」

僕と彩花の関係は互いの両親も知っている。

うちの両親は実の子である僕より彩花のことを愛している程だ。

「一旦落ち着け。何が起きた?」

僕は父に学校で起きたことを説明する。

「なるほど。これまでの転移被害者と同じだな。

他に何かないか?」

そう聞かれ、僕はふと今朝の男子生徒を思い出す。

「そういえば、今朝変なこと言ってる奴がいて、気になったんだけど…」

「そいつの顔、覚えてるか!?」

僕の言葉に食い気味に聞いてくる父に驚きつつ頷くと、父がスマホを取り出し、一枚の写真を見せてきた。

そこに写っていたのは、今朝の男子生徒と全く同じ顔の人物であった。

「これ、朝のやつと同じ顔だ。」

「やっぱりそうか。」

「この男、何者?」

やはりと言う父に僕はこの男の正体を聞く。

「すまんが詳しくは言えないんだ。

だが、異世界転移にはこいつが関連しているはずだ。」

父の立場上、話せないことも多いのだろう。

しかし、この男が関与していることが分かれば十分だ。

「分かった。ありがとう!」

僕はお礼を言いながら踵を返し、再び学校へと向かった。


学校へ戻ると、皆が下校し始めていた。

どうやら、先程起きた転移の影響で生徒達は帰宅することになったらしい。

「お前、勝手にどこに行ってたんだ!?」

校門で生徒達を見送っていた水野先生に見つかり、何処へ行っていたのかと問い詰められる。

「すみません。早く父に報告しなければと思って。」

僕の父が警察官であることを知っている先生は、僕の言葉に渋々納得した。

「まぁ、それは必要かもしれないが、せめて一言ぐらい言って行くべきだろ。」

「すみません。」

僕は素直に謝り、先生に質問をする。

「あの、水野先生。この生徒のこと知ってますか?」

そう言って先生へと写真を見せたが、見たことないとの回答だった。

(やっぱり、生徒じゃないのか。)

恐らく、転移のためにこの学校に潜入していたのだろう。

であれば、この男は既に学校を離れていると考えていい。

(でも、探そうにも手掛かりがない。)

探そうにも何処を探せばいいのか、何も情報がない。

(迷惑はかけたくなかったけど、仕方ない。)

僕は先生へ挨拶し、再び駆け出した。


「師匠!いるんでしょ!開けてください!」

一見、空き家かと思うほどに暗く古い家。

僕はその家の扉を叩き続けていた。

「師匠!開けてください!助けて欲しいんです!」

しかし、中から返事はない。

そろそろ扉を強行突破し、突入しようかと考えている時、後ろから声がかけられた。

「何やってんだ?」

後ろを振り向くと、金髪で端正な顔立ちをした男性が立っていた。

着用しているスーツも相まって、まるで何処かの社長のような出立ちだ。

「師匠!何処行ってたんですか!」

僕がそう怒鳴ると、ムッとした表情で言葉を返してくる。

「何処に行ったって俺の勝手だろ!お前こそ、こんなとこで何してんの?」

「師匠、彩花が異世界に連れて行かれました。」

先程までの雰囲気は消え去り、あたりに冷たい空気が流れる。

「そうか。彩花ちゃんが。

で、お前は何しに来たんだ?」

一瞬驚いた表情を見せた師匠だが、すぐに厳しい表情へと変わった。

「師匠に異世界へと行く方法を教えてもらいに来ました。」

「知らん。」

たったそれだけ。

協力するつもりはないと言わんばかりに、僕の頼みに淡々と返事を返す。

「では、異世界について何でも構わないので情報をください。」

僕の言葉に周囲の温度は更に下がった。

「それを聞かれて、俺が答えると思ってるのか?」

僕の師匠である、宮下護は数年前に異世界へと転移し、こちらの世界へと帰ってきた唯一の人間だ。

帰還後は正体を隠しながら生活していたらしい。

僕は師匠と偶然出会い、彩花を守るために修行をつけてもらっていた。

そして、僕が修行中に唯一禁止されていたこと、それが異世界に関しての質問だった。

「いいえ。ですが、教えてもらえるまで僕は帰りません。」

「そうか。なら、どうするつもりだ?」

口角をあげ、僕を挑発するようにそう言う師匠。

「力尽くで聞き出します。」

「はっ!やれるもんならやってみろ!」

互いに構え、集中力を高めていく。

「行きます!」

「来いっ!」

僕と師匠の拳が激しくぶつかった。


「お前さ、手加減ってのを知らないわけ?」

そう言って僕を非難する師匠。

その姿は地べたに這いつくばり、何とも情けないものだった。

「それなら最初から話してくれれば良かったじゃないですか。」

「うるせぇ!こっちにもプライドがあるんだよ!」

勝負は一瞬だった。

僕と師匠の拳がぶつかり、激しい衝撃が生まれた。

そして、それに怯んだ師匠の後ろに回り込み、蹴りを二発。

吹き飛ぶ師匠を追って、更に腹部に拳を三発叩き込んだ。

「お前さ、何でそんなに強くなってんの?

こっちは魔王倒して世界救った勇者なんですけど!

異世界だと世界最強の英雄なんですけど!?」

僕が修行をつけ始めてもらった当時は、毎日ボコボコにされていた。

師匠が本気で動けば、その影を捉えることすらできず、いいように弄ばれていた。

「愛の力ですかね。」

もし師匠が彩花を襲ったら、今の僕では守ることができない。

そう思った僕は死ぬ気で頑張った。

師匠に殴られ、何度死にかけても立ち向かった。

師匠に言われたことは血反吐を吐いて倒れるまでやった。

そして、師匠に修行をつけてもらって五年、僕は遂に師匠を変えたのだ。

「くそっ!ふざけたこと言いやがって!」

僕は全くふざけていないのに、そんなことを言われるのは心外だ。

僕に文句を言いながら、立ち上がる師匠に僕は頭を下げた。

「師匠、お願いします。

僕は彩花を守りたい。もう師匠しか頼れる人がいないんです。」

その様子を見て、師匠も真剣な眼差しで僕を見つめる。

そして、しばらく考えたのち、頭を掻いて僕に文句を言った。

「急にそんなのやめろ!俺が悪者みたいになんじゃねーか!」

そう言いながら、僕に近付いて来る師匠。

「頭上げろ。可愛い弟子の頼みだ。手伝ってやる。」

渋々といった表情でそう言う師匠に僕は感謝の言葉を伝えた。

「ちなみにさ、俺が本当に協力しないって言ったら、どうするつもりだった?」

「腕を折ろうと思ってました。」

ふとそんなことを聞いてくる師匠に僕は笑顔で答える。

「お前さ、目が本気だから怖いんだけど。」

若干引き気味の師匠とともに、家の中へと上がる。

「始めに言っておくが、俺は異世界へと行く方法は知らん。」

僕は黙ってその言葉を聞き入れる。

「だが、異世界と繋がりのあるやつなら知ってる。

そいつに聞けば、異世界へと転移できる可能性はゼロじゃない。」

その言葉を聞き、僕はスマホに保存している写真を師匠へ見せた。

「それって、この男ですか?」

僕の見せた写真に驚きの表情を浮かべる師匠。

「お前、何でこいつを知ってる?」

僕は今朝の話と父からの情報だと伝える。

「なるほど。日本の警察も優秀だな。

お前も察している通り、こいつが異世界に転移させる人間を選定している。」

やはり、こいつが彩花達を連れ去った張本人らしい。

「師匠はこいつの居場所、分かりますか?」

「いや、知らん。」

その言葉に落胆している僕に師匠は言葉を続ける。

「だが、こいつがいる場所を特定する方法がある。」

「何ですか!?」

僕が食い気味に聞くと、師匠はお茶を啜りながら一息つく。

「異世界には魔力というのが存在するんだ。

漫画とかで良くあるし、お前も知ってるだろ?」

その質問に頷く僕。

それに頷きを返し、師匠は話を続けた。

「で、さっきの男は異世界の人間だ。

だから、そいつの身体にも魔力が流れてる。

その魔力を感知できれば、多分見つかるはずだ。」

なるほど。

魔力を感知できれば、彩花のいる世界と繋がりを持つ人物を探すことができるということだ。

「それって師匠はできるんですか?」

「当たり前だ!俺は勇者だからな!」

鼻高らかにそう宣言する師匠。

そして、何故か僕を見ながらため息をついた。

「これは黙っておこうと思ったんだけどな。

実はお前の中にも何故か魔力がある。」

全く身に覚えのない事実。

困惑する僕に師匠が説明を続ける。

「魔力がない人間が俺に勝てるわけないんだよ。

多分、俺が無意識に使っていた身体強化の魔力の影響だ。

だから、お前も魔力を感知することぐらい簡単にできる。」

「なら、早く教えてください。」

先程までの困惑など吹き飛び、彩花を見つける可能性が広がったことに歓喜する。

「はぁ、お前彩花ちゃんが絡むと本当に面倒だな。」

そう言いつつ、早速僕に魔力の使い方を教えてくれる師匠。

「いいか。まずはお前の中にある魔力を感じろ。

胸の真ん中に集中したら光みたいなのが感じられるはずだ。」

僕は目を閉じて集中する。

すると、胸の中心から発せられる光を感じた。

「それを広く遠くまで飛ばすんだ。イメージは何でもいい。とにかく、広く遠くまで飛ばすことを意識しろ。」

その言葉に従い、僕は波をイメージする。

僕を中心として、円形状に広がって行く魔力。

その一部が一つの光にぶつかり止まるのを感じた。

「見つけた!」

「おい、ちょっと待て!」

師匠の静止を無視して、僕は足に力を込め、全力で駆け出した。


「見つけたぞ!」

僕の目の前には、今朝の男子生徒がいた。

「お前、何者だ!?」

僕を見て、驚きを隠せないといった様子の男をよそに、僕は少しずつ近付く。

「もしお前が逃げようとしても、絶対に捕まえる。

そして、もう逃げられないように両足の骨を折る。」

怒り以外の感情を削ぎ落として発したその言葉に、男は震えて腰を落とす。

「おい、落ち着け。」

そのまま男に向かって伸ばしていた手が後ろから掴まれる。

振り向くと息を切らした師匠が立っていた。

男は師匠を見て、更に顔色が悪くなる。

「よう、久しぶり!」

そんな男の様子など気に求めずに軽い挨拶を送る師匠。

「あのさ、こいつをあのクソ女神のとこに送ってやってくれるか?」

笑いながらそう言った師匠の目は、これまで見た中で最も冷たいものだった。


「女神様、今よろしいでしょうか?」

それは地球にいる部下からの連絡だった。

今朝、無事に異世界へと人間を送り出し、何も問題なかったと報告を受けたばかりだったため、突然の連絡に疑問を覚えつつ、私は部下に応答する。

「お疲れ様です。どうしましたか?」

「少し、トラブルが発生しまして、一度そちらは伺ってもよろしいでしょうか?」

少し震えた声でそう言う彼。

ただことではない様子だ。

「もちろんです。」

そう許可を出し、彼の帰りを待つ。

するとすぐに、彼の姿が現れる。

「よう、クソ女神様。久しぶりだな。」

彼の後ろには懐かしい顔と見覚えのない顔が並んでいた。

「あなたは、確か、」

以前、私が異世界へと送った宮下という名前の人間だ。

「お、覚えててくれたのか?

女神様に覚えてもらえているとは、嬉しいね。」

喜びを口にする彼だが、その目は酷く冷え切っていった。

「何故ここに…」

そう聞く私に笑顔を浮かべる宮下。

「はっ!そうビビるなよ!

別にあんたに仕返ししようって訳じゃねーんだ。

俺の可愛い弟子が困ってるから、助けてくれって頼みに来たんだよ。」

そう言って、隣の人間と肩を組む宮下。

弟子と呼ばれる人間はその腕を素早く払いのけ、心底嫌そうな顔を浮かべていた。

「あなたは何者ですか?」

私の記憶には無い人間。

しかし、その力は明らかに人間を超越していた。

(何故これほどの力を持つ人間が存在している!?)

私は驚きを何とか隠しながら、そう問いかけた。

「僕を彩花の元に送れ。

そうすれば、お前に危害は加えない。」

女神である私に臆することなく、そう言い放つ人間。

彩花、その名前には聞き覚えがあった。

(確か、今朝異世界へと送った人間の中にいた…)

そんなことを考えつつ、私はその人間に言葉を返す。

「申し訳ありませんが、それはできません。」

「何故?」

「同じ世界へと人間を送るには、少なくとも半年以上の期間を空ける必要があるんです。」

これは紛れもない事実。

私の力を持ってしても、どうしようもない。

「何か方法を考えろ。」

「ですから、それはできないと…」

私がそう言い切る前に、彼は私に殴りかかってくる。

「女神様!」

部下の叫び声を聞きつつ、私はその攻撃を止める。

確かにこの人間は途轍もない力を持っている。

しかし、それはあくまでも人間と比較した場合の話。

女神である私に敵うものではない。

「諦めなさい。人間では私に傷はつけれない。」

私の言葉に聞く耳を持たず、ひたすら攻撃を加えてくる人間。

「いいでしょう。そこまでして異世界へと行きたいのであれば!」

私は攻撃をいなしつつ、手に持つ杖に魔力を込めた。

「この世界は私でも手を焼く程の魔物達が蔓延っています。無事に生き残れることを祈ってますよ!」

杖に込めた魔力が爆ぜ、宮下と人間を光が包む。

二人とも必死に抵抗するが、その光から抜け出すことはできない。

そして、そのまま別の世界へと旅立っていった。

(しかし、あの人間はどうやってあれ程の力を…)

その疑問に答える者はいなかった。


最後までお読みいただきありがとうございます。

よろしければ評価、コメント、リアクションをお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ