1-召喚の間
目を閉じても分かるような猛烈な光の中、遠くに福田さんの声が聞こえた。心なしか声が遠ざかっていた気がする。初老の福田さんにしてはあまりにいたずらとして度が過ぎている。
光が収まったのを感じ、恐る恐る目を開けてみる。
が、見えたのは私の執務室ではなく、複雑な文様が描かれた石造りの床とローブを着たたくさんの人、そして私と同じように光から身を守ったような姿勢をしていた男女3人だった。
(何が、起きたの…?)
混乱する思考とは別に、冷静な部分が「これは異常事態だ」と伝えてくる。だって明らかにおかしい。時間としては1分も無かったはずだ。なのにオフィスでも無い場所見知らぬ所に、知らない人が少なくとも20人はいる。私自身を移動させるとしても誰も私に触れてない。そんなの父が許すわけがないと、従業員が誰よりも知っているのだ。つまり、今のこれは明らかにおかしい状況なのだ。
「これは一体。どういう事なのか説明してもらえる?」
会社で何か問題が発生した時と同じ。まずは状況確認だ。全体を見渡しながら状況説明を求める。
だが、思ったよりも硬い険の有る声が出た。そりゃそうだ。このあまりに異常な状態で警戒するなと言う方が無理がある。
「そ、そうだ!状況を説明しろ!なんだこれは!」
右斜め前に立つチャラそうなくすみ系金髪の男性が言う。背丈は私より少し大きいくらい?ヒールを履いている分私の方が高くなってるかしら?焦っている男性の声で少しだけ周囲の様子を見れるくらいには落ち着けた。
右に立っている短髪の男性は、金髪男性の腰あたりを真剣に見ている。何かしらスポーツをやっているのだろうか、非常にバランスの取れた筋肉がついているだろう体格をしている。片手にはタブレットを持っていた。口に片手を当てているから何か考え事をしているのかしら?
右斜め後ろに立っている女の子は高校生らしい制服を着ていて、スクールバックに有名キャラク〇ミちゃんのぬいぐるみを付けている。高校生には珍しくインナーカラーにピンクが入っている。校則は大丈夫なのかしら?
女の子はおろおろしながら金髪男性に目線をやっていたが、私がふり向いたのを見て目が合った。けれど怖いのかすぐに視線をおろしてしまった。
おそらく私と同じだろう状況の男女三人を軽く確認したあと、周囲のローブたちの様子を探る方向に切り替える。
周囲のローブの人たちからは異様な熱気を帯びた視線を感じる。不躾な感じではなく、なんとなく芸能人を前にした人達の視線に似ている気がする。SNSに露出しているとはいえ、ここまで熱狂的なファン男性がいるわけではないし、視線を向けられているのは私だけではない。とても不気味だ。
と、ここまで観察した所で、一番刺繍が多いローブを着た白いヒゲをたっぷり伸ばした人物が進み出ておずおずと告げる。
「ようこそいらっしゃいました勇者様方。説明させていただきますので付いてきていただきますようお願いいたします」
へりくだった丁寧な言葉遣いではあるが、有無を言わせない空気で告げてきた。いや、困る。非常に困る。今時間を取られるのは本当に困るのよ。精一杯の冷静さを保った状態で白髭ローブに言う。
「ちょっと待ってちょうだい。まずここは何処で、説明や用事にどれくらい時間を取るのかしら。それを先に告げるのが社会人の基本でしょう。私はこの後とても大事な予定があるのよ。時間がかかるのは困るわ」
「そ、そうだ!先に言え!俺もこの後用事があんだよ!」
そう、だって大事な大事な何よりも大事な予定があるのだ。大切で敬愛してやまないご主人様とのデートがあるのだ。時間がかかるのは困る。足元に落としたスマホも見当たらないし、本当にそれはどうしても困るのだ。先に言ってもらわないと困る。ご主人様を悲しませてしまう。困るのだ。金髪の用事は全く知らないけど。
「はて・・・。それもそうですな。」
白髭ローブはおずおずとした態度を崩し、指先でヒゲを撫でながら回答する。心なしか視線の温度が下がった気がする。
「ここは偉大なるリューテリア王国の心臓とも言える王城の塔。勇者様がたへの説明は数刻、願い事は年単位でかかるかの。勇者様がたのこの後の予定とやらは諦めてもらうしかないのう。」
ちょっとずつご主人様との約束を守れない可能性に焦りを増していくペットちゃんカワイイね




