表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一途すぎる女の異世界転移  作者: 油穴
プロローグ
1/3

プロローグ

コツコツコツ――

夕暮れの鮮やかなオレンジの光が差し込むオフィスの廊下に、控えめで軽やかなヒールの音が響く。


キリリと涼やかな目を考えがちに伏せ、しなやかな長い脚で廊下を進んでいく。


親の勧めで起業してから3年。後30分は早く終わらせたかったが、大事な経営会議が長引いてしまったのだ。上場はしていないが30人ほどの社員を抱えられる程度には会社が安定してきており、これからの経営方針をどうするかで紛糾してしまった。というのもこの会社には一つ大きな欠点があるからだ。


それは、代表者の私が23歳の小娘である、ということだ。


父親はそこそこに全国展開しているショップ会社の社長で、小さい時から経営について学んではいた。高校に入ってからも、高校生活の傍らで社会経験だと下積みをさせてもらっていた。大学に入ってから将来を見据えて売れるものを考え、相談したうえで起業したのだ。そして考えが当たり、そこそこ安定させることはできるようになってきている。


だが、やはり私はまだ若い。ただの小娘だ。


私のこと(若い女性起業家)を全面的に売り出せば話題性は取れるので、SNSなどでのマーケティングはやりやすい。現にインフルエンサー的なマーケティングを行い、前面に私を出して会社を成長させてきた。

だが、交渉では舐められやすくなり食い物として見られてしまう。

この点で方針をどうするかに迷いが生じてしまうのだ。最初は良かったが、これからの動きはある程度慎重にするのが良いかもしれない。これが今回の経営会議での中心だった。結果として慎重になりつつも引き続き私を前面に出す方針を継続する形になった。


コツコツ――、フワッ――

ヒールの音に合わせ、鎖骨上で整えた緩いウェーブの黒髪が軽く揺れる。


オレンジ色の廊下を進みながら会議を振り返り、そしてこれからの予定を考える。

会社のこと、商品のこと、SNS更新のこと、それから―――プライベートのこと。


ギィッ


会社の規模に見合わない少し重めの社長室のドアを開いて中に滑り込み、そっと息を吐きだす。机の上にタブレットを置いて、見た目だけは立派な椅子に座りPCを開く。先ほどの会議で思考として浮かんだものを今の内にメモにしておくのだ。


だが、その前にスマホの連絡だけ確認する。


今日は19時から予定があるのだ。何よりも何よりも大事な予定が。中高一貫の学校で出会いそこからずっと一緒にいる大事で大切で、そんな陳腐な言葉では表せられないほどの方との予定が。あるのだ。もし何か。遅くなるとか、このままの時間でいけそうとか。そういった連絡が来ていないかを確認する。


『SNS見たよ。お仕事頑張ってるね、偉い!』

『19時にいつもの場所でよろしくね!』


心臓が跳ね上がった。ドクドクと、全身に血が巡る。手が、顔が、頭が熱を持ち茹で上がる。


(褒められた誉められたホメられた!!!!!嬉しい嬉しい!!!あぁ!!!とっても!!!!!嬉しい!!!!!!)


敬愛してやまない、大好きで大切で私の全てといっても過言ではないどころか全然足りないどころではないあの方から褒められるのは、杏奈にとって至上の喜びなのだ。杏奈だけの宝物なのだ。


―――あぁ、幸せ。


しばらくスマホを抱えて喜びに浸ったのち、大きく満足気な息を吐きだして返事をする。


『ありがとうございます!杏奈は幸せです!』


既読が付く前に。後ろ髪を引かれながらもスマホを机に置いてPCに向き合う。

既読がついたのを見てしまえば、返信が来るまで永遠と画面を見続けてしまう自信があるのだ。やるべきことは先に終わらせてしまうに限る。さっさと終わらせてしまおう。



###############



18時12分。

カタカタとPCに必要なことを打ち込み、保存をしてシャットダウンする。今日の業務は終わりだ。

机の上に置いたスマホを持って立ち上がる。約束の、いつもの場所へ向かう準備をするのだ。

普段よりもはるかに軽い足取りで荷物の元へ向かう。


コンコンッ―――


ドアをノックする音で唐突に気持ちを引き戻される。約束の時間まではもう少し時間はある。しっかり対応しよう。


「はい、どうぞ。入って。」

「失礼します。」


親の過保護でついた室内監視カメラを目の端で捉えつつ、入ってくる人物に注目する。この会社を、足りない社長である私を支えてくれている福田さんだろう。

父からの支援として送られてきた信頼できる人だ。だが、この時間に来ることは珍しい。


出迎えるために荷物から手を放し、スマホを持ったまま扉に向かって一歩踏み出した瞬間、足元から目がくらむほどの光があふれた。


(何!?これ!?)


とっさに目をつぶり腕で顔をかばう。反動でスマホが床に落ちる。何この光は!?何が起きてるの!?混乱している私を他所に、福田さんの声が遠くから聞こえる。


「うわっ!!しゃ、社長!?!?!?な、なにが…」


その場に残されたのは、空っぽの社長室と入口に佇む福田さん。そして、空しく落とされ画面がひび割れたスマートフォンだった。

シゴデキウーマンなのに変態なんだよな・・・

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ