終章エピローグ 愛しのRoom203
私たちは今も、順調に秘密の交際を続けている。
電車を降り、駅から待ち合わせ場所に歩いて向かう。イヤホンから流れているニューアルバムは収録曲、全13曲。その中に、知る人ぞ知る隠しトラックがある。
タイトルは、101。
それはかつて、じいちゃんが住んでいた部屋番号。大切な人への感謝を綴った歌詞が印象的で二人の優しい歌声にいつも自然と涙が出そうになる。
「おい、いつまでシカトすんだよ」
「わっ!ごめん、気付かなかった」
「何回も呼んだんだけど?」
「だからごめんってば」
私のイヤホンを片方抜いて彼はそれを耳に入れると、途端に浮かぶ渋い顔。
「また聴いてんのかよ。飽きないなぁ」
「好きなんだもん」
「へえ。好き、ね?」
「ええ、好きですよ? 推しだし。それにこの曲が一番好き」
「……」
「凪くん?」
急に黙ってしまった彼に私は首を傾げる。
「多分もうすぐ二番に降格すると思うけどな、その曲」
「何で?」
「ヒミッ」
「はあ?何それ。言ってよ、気になる」
「じゃあ結婚しろよ、俺と」
「だから……それ今月、何回目?」
「知らね。言われてるあんたが数えろよ」
「凪くんはまだ若いし、売れっ子のアイドルが結婚はさすがに……それにファンと結婚って
絶対荒れるよ……」
どうでもいい、と彼は相変わらず冷めている。私はこのたびもNOをしっかりお返しした。
「またかよ」
「またです」
お腹空いた~! と彼を置いて先を行く。
久しぶりのデートだ。さて、何を食べようか。
「おい、希美」
振り返ると彼が被っていたキャップを上からぐっと被せられ、僅かに狭くなる視界。
「わっんっ……凪くん!」
「くん、いらない」
「な、凪! 外で不意打ちはっ」
「そのうち意地でも頷かせてやるから」
自信満々の笑顔と、宣戦布告。もう負けそうだ。
事実、この数時間後、私は負けた。
帰宅した部屋でアルバムの隠しトラックと対となる、
永遠にリリースされることのない幻のデモテープが贈られた。
――愛しのRoom203
そのタイトルの意味は、私たちだけのヒミツだ。
【完結】




