表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/22

第十九章 あなたを守るための選択

shangri|Laのマネージャーの坂崎さんから電話で詰問されたのはこの翌日だっ

た。彼女は凪くんには黙ってこの電話を掛けていると私に伝えた。

『事務所に手紙が届いたの。真っ白い封筒で。あなたと凪がキスしてる写真だった。あなたたちが特別な関係なのは私にだって分かる……でも、マネージャーの立場として言わせてもらう』

これが世に出るのは困る。分かるでしょ。

彼女は単刀直入に言った。ううん、言ってくれた。同じ気持ちだと彼らのファンの私は内心安堵した。

少しだけ痛む胸のことなんてどうでもいい。


「安心してください。私と凪くんはただの推しとそのファンです。その写真はきっとコラー

ジュか何かです。よしんば付き合っていたとしても……ドッキリみたいなものでたった一日です。何もなかった。ただの夢です」

努めて明る<言った。坂崎さんは察してくれたのか、それ以上、何も言わなかった。

凪くんから何度もLIMEが入っていた。年末の歌番組見たか?とか、新年のバラエティ特番見たか?とか最初は他愛ない内容だった。顔を見れば泣いてしまうからもうずっとテレビは見ていなかった。


既読はつくのに返事をしない私を不審に思ったのか【なんかあったか】とそれはやがて心配に変わっていたようだった。毎日のように鳴るその通知に覚悟を決めて、一言だけ【すみませんが、あの日のことは忘れてください】と送った。それ以降しばらく返事がなかった。返ってきたのは五日後だ。


【どういう意味】

【凪くんとは付き合えない】

【何で】

【理由なんてない。あなたは私にとって推しだから。】

【意味分かんねーよその理由。推しとしてじゃなく普段の俺が好きだって言ったのそっちだ

ろ】

【勘違いだった。やっぱり推しとして好きなだけ。推しとしてしか見れないって分かったの。私は結局、疑似恋愛をしたかっただけ】


布団の中で嘘だけを並べて打った文字。自分で見るのも辛いくらいだった。

これでもかと言う程、言葉で彼を傷つけてしまっている。

でもこれで彼の未来まで奪うことにはけっしてならない。これが、最善の方法なのだ。いや、彼を守れる方法はこれしかない。返事を待たずにLIMEアプリを閉じる。しばらくしてロック画面に通知が届いていた。

彼の名前と【何かあったんだろ。俺には言えねーことなのか】という一文。

私はそれを既読にはせずに、スマホの電源を落とした。


何てことはない。ただ、夢から覚めただけ。また普通の日常に戻るだけ、そう思えば生きていける。

眠ろうとすればするほど、出逢った時からこれまでの彼と、そしてじいちゃんとの日々が蘇える。


ごめん、じいちゃん。私は彼の希望にはなれなかったみたい。

でも、彼のことはちゃんと守るからね。それだけはどうか、どうか。


安心してください。





もう感情なんて捨てよう。そう思ったのに、その夜は枯れたはずの涙が勝手に溢れ出てきた。けれど、ここで泣いたら今も私を見張っているあの男の思う壺だ。彼を想って流す涙は、今日が最後。

絶対にあんなゲス野郎に声なんて聞かせてやるものか。


その夜は蒲団を被ったまま震える肩はそのままに、ただじっと声を殺し続けた。それが私の一途な想いの証明になるから。


◇◇◇


何日か経って諦めがついた私は言う通りにしたと細川くん――その悪人に伝えた。

無表情で言って踵を返し、仕事に向かおうとした私に相手は職場まで送る、と笑っていた。

何をされるか分からないから否定も肯定もせずに駅まで歩いた。そうして電車に乗り込んで、いつかの盗撮事件のことを思い返していた。

「今になってあれも偶然じゃないって思ってる?正解。さすがは俺の恋人」

聞いてもいないことを相手はペラペラと語りだした。

「あのリーマンは俺の仲間。そうしていないと生きていけない奴。ビョーキって可哀想だよねえ。あいつも俺には言われたくないだろうけど」

その仲間を誘導したのは自分だと、真実を愉快そうに語られて吐き気がした。

もう逃げ出すつもりもないから、電車の窓に映る青白い顔の自分を他人事のように眺めていた。

吊革の傍の広告には、見知った二人組の綺麗な顔があって。それだけでも救われた気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ