第十七章 そして、這い寄る闇
「これに写ってるの、何か分かります? あ、動画もありますけど、確認します?」
彼と初めてキスをしたその場所で、私は窮地に追い込まれていた。
あの日からまだ八日しか経っていない。
「出遅れちゃったなぁ~まさかもうここまでの仲だったとは。オタクだって言うから、そっちの好みにも必死に合わせたのにさあ? 俺のことだっていいなって思ってたでしょ? すごく優しくしてくれたじゃん。もうちょっとでオトせると思ってたんだけどな~ハア~すげえショックだわ~。慰めてほしいくらい」
目の前でヘラヘラと下品に笑っている男は、私の知っている細川くんではなかった。いや、別人だと信じたかった。
けれど、そんな私を嘲笑うように彼は言った。
「どうしたんですか? そんな怯えた顔して。大丈夫。高梨さんが俺の、あ~間違えた……僕の言うこと聞いてくれたら、この写真も動画もぜーんぶデータ消しますから。週刊誌に売られたら困っちゃいますもんね? あなたの好きなアイドル、Shangri-Laの三上凪……いけね、ま~た言い方間違えたなあ。《《細川くん》》はこういう言い方しませんもんね? ダメだなあ僕。……あなたの大好きな、大家のじいさんの孫が」
ケラケラと喉で笑う不快な声。
それを聞きながら、足が震えだしそうなのを必死で堪えていた。背中にはさっきからずっと嫌な汗をかいている。
「……どうして」
――どうして、こんなものがあるの……?
吐き出した息に音が乗って声になる。吐き出されたそれは脚とは違い、すっかり震えてしまっていた。
足元から這い上がってくるのは、言い知れぬ不安と、確かな恐怖。
男が摘まんでいたその写真には、恋人達にとっては、ごくありふれたスキンシップが写っている。それは、私と彼の思い出の日。
幸せそうに微笑み合い、口づけを交わす私達の姿だった。




