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第十一章 同じ時を刻めるように願いを込めて



「これは?」

「靴下か~じいちゃん冷え性だし、悪くはないと思うけど……うーん」

「じゃあ、これとか」

「入浴剤はなし。かゆくなっちゃう人もいると思うし」

「……じゃあ、これ」

「真面目に選んでる? 凪くん」


 呆れて私が言えば、凪くんは「何でだよ。ひとつもふざけてねーよ」と半ばキレ気味だ。


 翌日、仕事が終わって外へ出ると本当に凪くんが待っていた。秋物のキャメル色のトレンチコートが長身の彼によく似合う。

 コートのポケットに手を突っ込み、佇んでいる姿は黒いマスクをしていてもファッション雑誌の表紙を飾っているような美しさで、私はオタクらしく挙動不審になった。


「どこ見てんだ、おい」

「あ、す、すみません!本当に来たんだってびっくりしちゃって」

「来るだろ。誘ったのはこっちだし。行くぞ」

「行くってどこへ!」

「最近、〇〇駅の近くに出来ただろ。大型ショッピングモール。日用品とか服とか、あーあと、スマホとかも確か売ってたな」

「ああ。それなら、はい。家電とかも売ってましたね。でも20時には閉まっちゃうはずじゃ……」

「だから急いでんだ。早く行くぞ」

「は、はいっ! あ、待って!」


 慌てて彼の背中を追った。だって人気アイドルが交通手段に電車使うなんて思わないじゃない。

 本人は変装してるから大丈夫って言うけど、どう見てもオーラが一般人じゃないから全く大丈夫ではなかった。


 ホーム側のドア前に立つ凪くんが異常に目立つから、私のほうが動揺してしまっていて「余計目立つだろ」と凪くんに怒られた。


◇◇◇


 何とか誰にも声を掛けられずに、目的地に到着して、私達は衣料品売り場と、日用品売り場を回った。

 最初は靴下。その次は球体のボム型入浴剤、そしてその次は孫の手。あの背中を掻く道具だ。


 いくらじいちゃんが高齢だからとはいえ、誕生日に孫の手は無いと思う。

 それにこんな言い方をしては失礼だけど、凪くんほどの人気アイドルが誕生日に千円以下でも買える孫の手は如何なものだろう。

 後半の選び方はテキトー。……というより、私の反応を面白がって遊んでいるように見えた。


「本当は何を買おうと思ってるんですか? 凪くんは」

「え?」

「本当はじいちゃんにもう贈りたいもの、決まってるんじゃないかと思って」


 凪くんは私の問いかけにぽかん、と口を開けて驚いていた。


「二十時には閉まっちゃいますよ、お店。ほら。凪くんがじいちゃんの事を想って買ってくれたものなら、じいちゃんはどんなものでも嬉しいと思うし、心配しないで言ってみて」

「……あんた。さっき『凪くんほどの人気アイドルが誕生日に千円以下でも買える孫の手は如何なものか』って言わなかった?」

「それはそれ。だって、本当に贈りたい物はあれじゃなかったでしょ」


 罰が悪そうに頬を掻いた凪くんはようやく素直になった。

 私達は閉店間際までモール内の時計屋にいて、凪くんは、じいちゃんのために時計を買った。じいちゃんが昔、凪くんが二十歳になったお祝いに腕時計を贈ってくれたので、そのお返しに自分もいつか、じいちゃんがしてくれたように時計を贈りたかったのだと教えてくれた。凪くんとじいちゃんの二人が刻む時間はこれからも続いていく。その証。そう思うと、とても素敵だなと思った。


 私もじいちゃんにプレゼントを買い、アパートまで帰宅する。

 凪くんが私に渡しておいてくれと頼んできたので「プレゼントは凪くんが渡したほうがじいちゃん絶対喜ぶよ。私は明日も仕事早いから。じゃあね!」とあえて彼を置いて自分の部屋のドアを閉めた。


「おいテメーこら!おい!自分だけ……っ開けろ、こらおいっ」


 どんどん、とさながら借金取りのように文句がドアの向こうからたくさん飛んできたけど、私は「嫌です~」と笑いながら拒んで追い返した。

 しばらくすると階段を下りていく音がして、私は胸を撫で下ろした。


 お互いすれ違いもあるだろうけれど、凪くんにとってじいちゃんは誰よりも大切な家族で、じいちゃんにとっても最愛の孫。――いや、息子にも等しい存在だろう。


 二人にとって大切な時間がこんな風にもっともっと増えるといい。

 この夜も、私はあの家族の幸せを心から祈っていたのだった。


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