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知らない天井

―――ある日目が覚めたら美少女になっていた。

現状の、事実である。


 自分のものとは思えない細い指にサラサラの黒髪ロングが絡まる。慌てて鏡を覗くとぱっちり二重に高い鼻と白い肌に―――とにかく想像しうる美少女を詰め込んだ顔だ。カーテンはピンクでベッドには姫みたいな蚊帳付き。クローゼットには進学校の女子制服がかかっているしピンク色の化粧棚?まである。整然とした部屋に、持ち主はしっかりした人なのだろうと推測できた。

 もちろん自慢したいわけではない。俺は自身は多く見積もってもフツメンの男である。ここは俺の部屋でもないし、彼女とか友人とかそんなのでもない。というか、俺は今混乱しているのだ。


 前述した通り、俺はフツメンであり、こんな美少女と接点なんてないし、しかし今俺は美少女である。


 何を言ってるかなんて俺もわからない。


 カレンダーやらニュースやらを見た結果、記憶に齟齬はなかった。つまりここは昨日まで生きていた俺の世界と全く変わりなく続いた日本である。夢の世界でもましてやパラレルワールドでもない。GPSをみると東京であることも分かった。しがない滋賀県民からしたら目が眩むほどの都会である。


「これは、強くてニューゲームってことか‥‥‥? 」


 初めて発した声も鈴のような美しい声だった。現状の元の体がどうなってるか、なんてどうだっていい。もしかしたらこの体の持ち主が使っているのかもしれないな。とにかくこちらの体の方がアタリなのだ!向こうから頼まれでもしない限り俺は生涯この体で良いとさえ思っている。


 ピピピピッとアラームが鳴る。ラベルには「登校時間」の文字。やはり相当丁寧な人らしい。

「まだ着替えも済んでねぇや。急がないとな」

 初めて触る女子制服にも関わらずなんとなく着方が分かる。体が覚えてるのか?スッと擦れるシャツが心地いい。良い学校ってのは制服まで質がいいらしい。

「さーてと、化粧もした方がいいのか?」

 せっかく女になったんだ、楽しんだ方が得だよな?ガラッと引き出しを開けるとキラキラした化粧品がみっちりと詰め込まれていた。

「肌色のやつがファンデーションか?」

 何が何だかさっぱりなので一個ずつ商品名を確認していく。

「ん?下地‥‥‥?下に塗るってことか‥‥‥うわっなんだこれ!緑じゃん。こんなん塗っていいのか!?」

 緑を塗ったら肌が緑になるんじゃないのか?!

 よく分からんから分かるのだけしよう。うん、初日に無理をするのはよくない。というかなんでこれは体が覚えてないんだ?うーん、あまり化粧をしない子だったのかもしれないな。にしては持ってる化粧品の数は多すぎるが‥‥‥。

 えーと気を取り直して‥‥‥口紅といえば赤だよな?アイなんとか‥‥‥目の上に塗るやつはキラキラしてる方が可愛いんだっけ?

 あとは‥‥‥なんだ?

 用途の想像すらできないやつらを確認すると、アイライン、眉マスカラ、チーク、ノーズシャドウ、と呪文が並ぶ。

「お?パッケージに説明書いてあるじゃん」

 なんで書いてるのと書いてないのがあるんだ!なんだよ、この説明があれば余裕じゃん!


 何で言った自分を殺したい。数十分格闘して完成した化粧は、まあ何とも無惨な‥‥‥控え目に言っても、そう、バケモノだ。化粧する前の方が確実に可愛かった。

 顔を洗ってこよう‥‥‥。

「って、落ちねえんだけど!?」

 むしろ滲んでもっと酷く‥‥‥ああクソ!化粧なんかしなきゃよかった!

 俺が顔を歪めると鏡の中の美少女もひどい顔をした。美少女にこんな顔をさせているのが申し訳なくて、にっこりと微笑んでみる。バケモノ化粧をしていてもその顔は俺をときめかせるのに十分だった。なるほど、世の女がニコニコしているのはその方が可愛いことを自覚しているからか。

「このままでもスマホが顔認証で開いてよかったぜ」

 ええと?化粧落とし?クレンジング?が必要なのか。流石にこの家のどこかにあるよな?

 それから俺は洗面台に並ぶ膨大なケア用品の数に、がっくりと肩を落としながらちまちまと探すことになる。女ってのも楽じゃないらしい。

「そういえばこの家、俺以外に誰もいないみたいだが、やっぱり親は仕事かぁ?」

 洗面台を探した時に二階建てのそこそこ広い家だと分かった。都内に立派な一軒家、相当の金持ちだろう。忙しいのも無理はない。社長令嬢だったりしてなー。

「ってか全然見つかんねー。もう学校サボろうかな」

 さすがにこんな酷い顔で行くわけにはいかないし、というか学校の場所も知らないから今から言って間に合うのかもわからん。学校に連絡‥‥‥。は‥‥‥まあ、しなくいていいか!体調が悪くて寝込んでいたから連絡できなかったことにしよう。

 そうと決まると軽い足取りで2階にある部屋に戻り、俺は今まで感じたことのないくらいふかふかのベッドで深く眠りについた。

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