3-Ex6. 11月……動かないと変わらないんだよ?(2/2)
簡単な人物紹介
金澤 仁志:本作主人公。高身長、顔は普通よりちょい下。
能々市 美海:ヒロインその1。低身長の小動物系女子。栗色の長髪持ち。
津旗 聖納:ヒロインその2。胸部爆盛。黒髪で完全目隠れ、眼鏡あり。せーちゃん。
松藤:仁志の友だち。バスケ部。美海のことが昔から好きで告白する。
彩:仁志の妹。小学6年生。かわいいけど、イタズラ好きで抜け目がない。
俺は正直狼狽えていた。彩の言っていることをどこかなあなあで聞いていたところで、本気の一喝が飛んできたからだ。
どうも彩も何かとお節介焼きのようだ、かつての俺がそうだったように強引さまで同じくらい。俺はいつの間にかその強引さを失ってしまったけれど、彩にはいつまでもその良さを持っていてほしい。
「あ、あぁ……彩の言うとおりだな。動かないと変わらない」
俺は参りましたとばかりに起き上がって両手を軽く挙げる。
彩も若干溜飲が下がってきたようで、唇に指を当てながら訝しげな目で俺の方を見てくる。
「うーん、本当に、分かってる?」
「分かってる。今日中に美海に連絡する」
俺はロック画面のスマホを彩に見せながらそう宣言する。
まだ彩の疑わしいと言っている目を変えられない。
「ちゃんとした言葉にできなくても?」
「あぁ、なんとか伝えたいことだけでも伝える。明日には延ばさない」
彩もようやく俺のことを信じたのか、小さく微笑んで、大きな伸びをする。
「……ん-、そっか。いいんじゃない?」
彩が納得した。
「なら、もういいか?」
ってことで、俺は今から文面を考えて、今日中に送らないといけない。
しかし、彩がなぜか首を横に振り始める。
まだ何かあるのか? 文面を考えたいんだが。
「では、妹からご褒美を与えてしんぜよう」
「ご褒美? いや、帰ってくれるのが一番なんだが」
「まあまあ、そう言わずに。ほらほら、寝転んでうつ伏せになって」
何やら彩がご褒美をくれるらしいが、正直、帰ってほしい。
俺には時間がない。1分1秒でも惜しいんだが、彩は気にした様子もなく、早く寝転がれとばかりに手をくるくる回転させて指示してくる。ここで押し問答をするのも時間の無駄かと思う一方で、押し切られるから兄の威厳がないのだろうかとも思う。一長一短、どうにもならない感じがしている。
「言ったら本当に聞かないよな」
俺が仕方なく寝転んでうつ伏せになると、彩が俺の背中に手をついているようだった。
「はーい、では、マッサージします」
「へ? マッサージ? いらんけど?」
彩がマッサージ? 今までされたこともないし、父さんの肩たたきでさえ面倒そうな顔になる彩がどういう風の吹き回しだろうか。
っていうか、マッサージしてもらうほど、身体の調子が悪いわけでもない。
「はい、問答無用で失礼しまーす」
「ちょっと待て。いらん、本当にいらん」
俺の制止を振り切って、彩が俺の背中についた手に体重をかけ始める。
「よいしょっと」
腰の辺りと背中の真ん中あたりに温かさを感じる。彩が腰の辺りに座って、背中に手をついている状態だろう。
美海と同じくらいか? だけど、肉付きがまだあまり良くないからか、尻の骨が刺さって腰が痛いし、体重がそこにばかりかかるから圧が掛かって重く感じる。
「ぐっ……お——」
俺が何かを言いかけた瞬間に、背中から非常に冷たい視線が飛んできて言葉が詰まる。
「それ以上言ったら……ね?」
「……はい」
俺はそれ以上のことを言えなくなる。言ったらどうなるか想像もつかない。
「まあ、いつも美海ちゃんや聖納さんとの話を聞かせてもらってるからね」
「それとこれは関係ないんじゃ?」
彩のぐにぐにと背中を押す動作は意外に上手だが、やっぱり、身体が凝っているわけでもないからそこまで気持ちいいわけでもない。
「ドキドキ 義妹のきわどいマッサージ!? そこから先は……だっけ?」
……おい! それ! 俺の隠し財宝のやつ!? 中まで読んだのかよおおおおおっ!?
小学生がそれを読んでいいわけないだろうが! 俺もまだ読んでいいわけじゃないってのは分かってるけど、それはひとまず棚に上げさせろ!
「マジでやめろおおおおおっ! それの行き着く先はアウトだからあああああっ!」
さすがに部屋の外まで聞こえるような大音量ではないが、そこそこの声量で彩に訴えかける。すると、背中にぐぐいっと、ちょっと強めの押圧が返ってくる。
「うるさい。しないよ、さすがにそこまで。何を本気にしちゃってるの」
「ぐぬぬ……そっか、よかった……じゃないんだよ! やめろ、俺のプライバシーの侵害だぞ!」
ちょっとだけ本気にしてしまって恥ずかしい。その恥ずかしさを隠す意味でも少し強めの語気で彩に注意する。
「それよりも捨てた方がいいと思うよ? 特に家族系」
「それよりもって……まあ、彩の教育上良くないからそうするわ」
「決断早いね」
「まあ、買った時点で作家様へのお布施は終わったし、俺にあらぬ疑いがかかるのも困るからな」
うん、捨てよう。ほら、紙はどうしても部屋の中に置いておかないといけないからな。彩が探ってしまったら、どんなに隠そうとも見つかってしまうだろう。なんなら学習机のカギくらいならどうやってか開けるしな、彩。
その後、俺はしばらく無言のまま、彩のドキドキマッサージとやらを受けていた。別の意味でドキドキするんだが。隠し場所は4つ。どこまで突破されているのか。今の感じだと1か所から2か所くらいはバレていそうだ。
「……はい、マッサージ終了!」
「至って普通で助かった」
俺がホッと胸を撫で下ろしていると、彩が俺の上から降りてベッドからも離れる。
ようやく帰ってくれるのだろう。
「普通に決まってるでしょ。あと、何かあったら、お兄ちゃんにきわどいマッサージさせられたって言うから」
待てい。なんで俺が悪者にならなきゃならないんだよ。
「……待てい。勝手にやったんだろうが。それにきわどくなかっただろ」
「ふふん。お兄ちゃんと私、どっちの方が信用されるかな?」
くっ……これは圧倒的に不利。日頃の行いはどちらも同じくらいだろう。しかし、だからこそ、妹である彩の方が有利である。
彩は社会的に俺を抹殺するつもりか?
そんな脅しには屈しないぞ! 俺は断固として立ち向かう! 俺は清廉潔白だ!
「……卑怯だぞ……何が望みだ……金はないぞ?」
「すぐに買収しようとしてくるあたり、お兄ちゃんも大概だよね」
「いいから望みを言え」
「うーん、また美海ちゃんや聖納さんとの恋愛話やデートの話を教えてくれればいいよ」
……それだけ? 本当か?
俺は彩を見てみるが、特に何か企んでいる様子もなく、先ほどの言葉がすべてと思わせる雰囲気を纏っている。
それくらいなら了承せざるを得ないな。今までとあんまり変わらないし。
「……分かったよ」
「じゃあ、おやすみ」
「おやすみ」
「がんばってね」
彩が消えると急に静かになる。
あれはあれで、なんだかんだで俺のこと兄として好きなんだな、と思うことにした。まあ、昔から世話してやっているから、多少の兄妹愛があってもおかしくはない。
「よし、今日中に送るぞ」
俺はスマホの画面ロックを外して、再び、美海の個別リンクを開く。
考えて、考えて、考えぬいた結果、彩に言われたように言葉を飾らずに直球勝負でいこうと決意した。
『仁志:美海、言われていたのに連絡してごめん。だけど、会って話したいことがあるんだ。美海の都合が分からないから、明日から次の日曜まで、毎日16時半から17時半に想い出の公園で待ってる。美海とちゃんと話したい』
この内容で送信した。まだ既読はつかない。もしかしたら明日になっても、いや、最後の日まで未読のままかもしれない。
それならそれで、美海の答えなのだろう。だけど、最後まで諦めないぞ。ちゃんと毎日あの公園の土管の中で待機だ。
「それでも来なかったら、そのときはやるだけやったんだ。しっかりと諦めよう」
俺はスマホを横に置いて、さっさと電気を消した。
明日からは美海が来るかどうか不安になりながらの持久戦だ。
寝不足は不安を増長するから、もう寝ることにした。
ご覧くださりありがとうございました!




