3-Ex5. 11月……動かないと変わらないんだよ?(1/2)
簡単な人物紹介
金澤 仁志:本作主人公。高身長、顔は普通よりちょい下。
能々市 美海:ヒロインその1。低身長の小動物系女子。栗色の長髪持ち。
津旗 聖納:ヒロインその2。胸部爆盛。黒髪で完全目隠れ、眼鏡あり。せーちゃん。
松藤:仁志の友だち。バスケ部。美海のことが昔から好きで告白する。
彩:仁志の妹。小学6年生。かわいいけど、イタズラ好きで抜け目がない。
想い出の言葉を思い出したその日の夜。
俺は自室のベッドで横たわりながら、スマホの画面を見つめて指をフリックさせている。
「あー、どうしようか」
もちろん、画面は美海との個別リンクだ。あの日の前夜に俺が呼び出したときのままで更新されていなくて、最後のメッセージは美海からの「うん、明日、体育館裏に行くね! 誘ってくれてありがと!」だった。
久々に個別リンクを開いたからか、過去のメッセージも振り返ってじっくりと眺めてしまう。だから、時間ばかりが過ぎ去っていった。でも、まだ肝心の本題が終わっていない。
俺はメッセージを打ってみる。
『美海、話したいことがある』
俺は美海と話がしたい。あのときのこと、想い出の言葉のこと、思い出して思ったこと、これからのこと、美海が俺の初恋だってこと。
「だけど、これだけじゃ、最悪の場合、次の話を入れるまでにブロックされるか?」
もう松藤に傾いているかもしれない。でも、たとえ俺のワガママだとしても、けじめをつける必要があると思う。それが聖納に言われた「玉砕」という形になっても。
『美海、話したいことがあるんだけど、ブロックせずに聞いてくれるか?』
「いや、そっちの方向で予防線張ってどうするよ、俺。思いきって変えてみるか」
しかしながら、いざメッセージを書こうとすると納得できる文章が思いつかない。
まるで春にリンクのやり取りを始めた頃と変わらないおぼつかなさで焦る。俺はどうやって、美海と何の気なしにメッセージのやり取りができるようになったんだっけ? そう思い始めると、また過去の内容を読み耽ってしまう。
……ええい、これじゃ、いつまでも終わらん!
『美海、俺、思い出したんだ』
「何の報告だよ……忘れていたことが分かるだけだな。下手するとよけいに怒られるぞ」
難しすぎる。バッチリの文面が思いつかない。
『美海、ごめん、俺、思い出したんだ』
「いや、変わらん、変わらん。謝ったところで変わらん。なんなら許してほしい感が出て、余計に怒られるんじゃないか、これ」
まずは謝っておこうみたいな感じはやめておこう。
なんか不誠実な感じがする。もっとちゃんとした感じにしたい。
『美海、公園のこと覚えているか?』
「待て待て、覚えているから俺と付き合っているんじゃないか!? 忘れていた俺が言えるセリフじゃないだろ!?」
そうしたら、こうしてみるか。
『美海、小学6年生の夏、あの雨の日に公園であったできごとを——』
「小説の冒頭かよっ!?」
俺はどこを目指しているというのだろうか。
もっとシンプルに短く端的に。
『美海、俺たち小学生の頃に会っていたんだな』
「……分かりやすいけど、これ、話を展開するの難しいな」
それにこれもブロックされたら終わりだな。
ってことはもっと長めに? うーん。
『美海、〇〇〇〇』
「これだと」
『美海、□□□□』
「これも」
『美海、△△△△』
「あー……これじゃあ……あー……」
『美海、くぁwせdrftgyふじこlp;@:「』
「うー……こんがらがってきた……自分の文章力のなさを恨みたい……うー……」
書いては消し、書いては消しを繰り返して、時間だけがどんどん過ぎていく。
あー、今日はもうダメか? 明日、明日になったら、なんか良い文章が降りてくるんじゃないか。
……かなり早いけど、もう、寝るか。
「ねえ、何をさっきから言っているの?」
俺がスマホの画面とにらめっこしていたら、急に横から彩の声が聞こえてきた。
俺は思わず、ベッドを転がって壁際まで身体を寄せた。
「うわっ!? 彩!? いつから!?」
彩はついに忍者のように気配まで消せるようになったのか?
それは困る。俺の大事な息子の処理、もとい、お手入れがしづらくなる。
「今さっき」
「って、急に入ってくるなよ」
俺がそう言うと、彩はヤレヤレと言った表情で肩を竦ませて首を横に振っている。
「はあ……ノックもしたし、声掛けもしたけど、あーだのうーだの言ってるから、何かあったかと思って入ったんだけど? 前にお兄ちゃんが腹痛で唸っていたのを助けたの覚えてないの?」
そういやそんなこともあったな……ってことは、俺が唸っているのを心配して来てくれたのか? 彩もツンデレか? 乃美と違ってデレの方が多い感じ? でも、彩にも恋愛感情がないから、あんまりツンデレにキュンとしないなあ。
これが美海だったらなあ。で、聖納はもう属性足しても薄まるだけのような気もする。
「そ、そっか。ありがとな、心配してくれて」
「どういたしまして。ところで、美海ちゃんに連絡しようとしているの?」
ズバリ大正解。さすが彩だな。
「うっ、まあ、そうだけど」
「で、メッセージを悩み過ぎて、ずっと送れてない?」
胸が痛い。そこまで当てる必要はないんだぞ。
もっとこう、手心をだな。
「うぐっ……その通り」
彩が溜め息を吐いて、ベッドに座った。
あ、これ、長話に突入するわ。
「やっぱりね。あのねえ、お兄ちゃんはね、ちょっと考えすぎかも」
「考えすぎ?」
考えすぎって……そりゃ久々のメッセージだし、何よりメッセージを送ってくるなって言っている美海に無理やり送りつけるようなものだ。どうしたって考えなきゃいけなくなるだろうよ。
「あーあ、また考えてる。えっとね、美海ちゃんに伝えたいことをそのまま伝えればいいと思う。なのに、かっこつけて、より良く見せようとして、いつまでも動けてない感じ」
グサグサグサ。
彩の言葉のナイフが思いきり刺さる。正確に貫いてくるあたり、さすがは俺のことをよく知る妹という感じだ。
「そりゃ、彼女にカッコつけたいだろう」
「お兄ちゃんはね、かっこつけるとイタい」
「イタい!?」
もうやめて! 彩! 俺のライフはもうゼロよ! オーバーキルよ!
ほんと辛い。イタいとか言われるの辛い。正確に抉り過ぎだろ……。
「じゃあ聞くけど、美海ちゃんが好きになったお兄ちゃんは、かっこつけているお兄ちゃんなの?」
彩がまじまじと俺を見つめてくる。
その真剣な眼差しはいつものイタズラっぽい感じを微塵も感じさせなくて、ただただ俺の本心を知りたいと考えているようだった。
なら、こっちもきちんと答えないとな。
「いや、そうじゃないだろうけど」
「でしょ? だったら、早くパパっと思っていることを送っちゃいなよ! ちょっと足りないくらいがお兄ちゃんっぽいから!」
ちょっと足りないって……そこまで言うこともないだろ……。
「だからこそ、ちょっと足りないから少しでも足そうと」
「だからあ、それが余計なの。蛇足って言葉知ってる? 蛇足! 蛇に足!」
「いや、蛇足くらいは分かるけど。彩、よくそんな言葉知ってるな。って、まあ、蛇足って言われてもなあ」
彩は業を煮やし始めたのか、美少女らしからぬ眉間にシワを寄せた状態で口をきゅっと真横に結んだ顰め面で俺を見てきた。
「あのねえ! 動かないと変わらないんだよ?」
俺は彩のトドメを刺すように言ってくる言葉に返す言葉もなかった。
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