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【完結】今日も2人だけで話そ? ~彼女2人が公認の二股恋愛!?~  作者: 茉莉多 真遊人
1年生 2学期

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3-20. 11月……君は誰なん?(2/2)

簡単な人物紹介

金澤(かなざわ) 仁志(ひとし):本作主人公。高身長、顔は普通よりちょい下。

能々市(ののいち) 美海(みなみ):ヒロインその1。低身長の小動物系女子。栗色の長髪持ち。

津旗(つばた) 聖納(せいな):ヒロインその2。胸部爆盛。黒髪で完全目隠れ、眼鏡あり。せーちゃん。

松藤(まっとう):仁志の友だち。バスケ部。美海のことが昔から好きで告白する。

(あや):仁志の妹。小学6年生。かわいいけど、イタズラ好きで抜け目がない。

 雨が強くなってきた。ザーザー降りの雨の中、俺はアイスがなるべく溶けないように祈りながらも公園で雨宿りをしている。11月の雨は身体が冷えるくらいに冷たいから雨宿りが正解だ。


 目の前には雨に濡れるブランコが見え、徐々にあの時の記憶が蘇ってきた。


 小学6年生の夏休み。あの日の俺はカンカン照りの日差しの中を図書館まで本を借りに行って、その帰りに今日みたいに雨に降られたんだ。


 それで、その時の俺もこの公園の土管トンネル付きの滑り台で雨宿りしようと駆け込んだんだよな。すると、雨に濡れながらブランコに乗っている女の子がいた。


『なあ、なんで雨宿りしないんだ?』


 当時の俺はお節介焼きにもほどがある。妹の彩の世話をよくしていたこともあって、小さい子が困っていそうだと声を掛けることがよくあった。そう、目の前にいる栗毛色のショートカットを濡らしていた女の子もやっぱり小さかった。


『…………』


 女の子は少しだけピクリと動いたけど、顔を上げようともせずに無言でブランコに乗り続けていた。


『なあ、ここじゃ濡れるっていうか、すごい濡れてるじゃん』


『君は誰なん? 君に関係ないやん。ウチのことはほっといて』


 俺が再び女の子に声を掛けると、女の子は面倒そうな声色を隠そうともせずに俺のことを鬱陶しそうなセリフで追い返そうとする。


 このとき、俺は女の子が拗ねていると思ったんだ。


『俺だって、お前のことは知らないけど、だからって、ほっとけるわけないだろ』


『…………』


 2度目の無視に俺は腹を立てて、ブランコのチェーンを握っている女の子の腕を掴んだ。


『あぁ、もう! このままじゃ風邪引くぞ! ほら、あの土管で雨宿り!』


『ちょっ、引っ張らんといてよ、い、痛い!』


 今思うと強引すぎる。小学生どうしだからまだなんとか許されるようなものだけど、もう少し歳が離れていたら確実に事案だぞ、これ。


 ……と、過去の俺にツッコミを入れても仕方ないか。


 とりあえず、俺はこのままじゃ女の子が風邪を引いてしまうとどうにか雨宿りをさせようと強硬策に出た。


『いいから、雨宿り! するまで離さない!』


『わかったから! 行くから、引っ張らんといて!』


 俺の強い意志に根負けした女の子が顔を俯かせたまま、俺と一緒に滑り台にある土管の中へ入り込む。


 俺が真ん中まで入り込み、その横に女の子が座るような感じでついてきた。土管の丸穴の底は雨が流れてきているので、それだけ気を付けて座っている。


 その後、俺は母さんにタオルを持たせてもらっていたことを思い出して、後ろのリュックサックからタオルを取り出した。それで自分の身体を服越しに拭いた後、女の子にも手渡す。


『これ、タオル。俺が使った後で悪いけど、少しでも身体拭きなよ』


『……ありがと』


 女の子はずっと俺に顔を見せないようにしながらタオルを受け取って、俺と同じように服越しにタオルで水分を拭きとっていた。もちろん、完全に拭きとれるわけでもないのでずっと着ていたら風邪を引くわけだが、夏だし、まだ暑いからそこまでは思うに至らなかったはず。


『なんでずっと顔を下に向けてるんだ?』


『見せたくないから』


『あっそ。まあ、見せたくないならいいけど』


 女の子が相変わらずつっけんどんな感じで答えてくるので、俺はちょっと面倒くさいなとか思いながらも嫌なものは嫌とはっきり言ってくれる女の子を嫌いにはなっていなかった。


『タオル、ありがと』


『おう。なあ、なんで、雨宿りしなかったんだ? 雨に濡れて涼しくなりたかったのか?』


 どういう経緯でこの質問に至ったのか。今ではまるで分からないけど、少なくとも考えて出した言葉じゃない気がする。


『違う』


『じゃあ、なんで?』


『言いたくない』


『あっそ。じゃあ、もう聞かない』


 会話にならない。


 この時の俺はそう思っていた。


 だから、雨が止んだらさっさとバイバイして終わりだなって考えていた。さすがに濡れたから家にはすぐに帰るだろうし、って。


『…………』

『…………』


 無言。雨の音がまだ止む気配をさせていない。なんだったら、雷まで鳴っている。


 女の子が雷に時折びっくりしていたので、俺は少しでも安心するようにと女の子の背中を優しくポンポンと撫でた。


『ねえ』


『ん?』


 女の子から話しかけてきた。先ほどよりも刺々しさはなかった。


『どうしてウチのこと、そんなに構うん?』


『なんか落ち込んでる感じだったし、ほっとけなかっただけ』


 女の子の問いに、俺はただただそう答える。


 そういや、そっか、女の子が落ち込んでいると思ったのもあって、声を掛けたんだっけか。


『ウチのことを構っても何もないよ』


『別に何かが欲しいから構ったわけじゃないしなあ』


 俺と女の子がズレていると感じた。


 見返りを求めて何かをしたつもりはない。見返りを求めるくらいならもっと打算的に行動するだろう。そもそも小さい女の子に見返りを求める気持ちなど一切なかった。


『ウチと付き合いたいとかじゃないん?』


『え? 付き合う? そういうのはもっと大人になってからじゃないの?』


 今思うと、この女の子、自分に自信があるよな。近寄ってくる男の子は全員付き合う狙いだと思っているんだから。


『子どもなんやね』


『俺もお前も子どもじゃん』


『……そうやね』


 徐々に軟化していく女の子の態度に、ちょっとだけ俺も緩んだ。


『なんだよ、そんなに誰かと付き合いたいなら俺が付き合ってやるよ』


 ……こんなこと言ったな。全然モテないのに、よく上から目線っぽい感じで言えたよな、俺。今じゃ絶対に考えられないけど、まあ、子どもだったしな。


 で、俺がそう言うと、女の子が笑ったんだっけな。


『ふふっ、なにそれ。ウチ、モテるんやよ? この前、フラれたけど』


『いや、フラれてんじゃん。あぁ、だから、落ち込んで雨に濡れてたんだな。少女漫画みたいなことしてたのか』


『むっ! でも、まだまだいっぱい彼氏候補いるもん!』


 強気だなと思いつつ、なんだか傷付いて落ち込んで悲しんでいるだろう女の子を相手になんとか元気になってもらいたいってなったんだ。


『でも、またフラれるかもしれないだろ?』


『うっ……ううっ……うううううっ……』


『あ、えっと、いや、その、しょうがないな! 最後の最後には俺がお前の王子様になってやるよ! いつでも来いよ。俺はモテないから絶対にいつでも大丈夫!』


 どういう理屈だよ。


 王子様は、少女漫画なら王子様が出るよな、ってくらいの認識で出た言葉だったと思う。


 ってか、モテるって豪語している女の子に、モテないって思っている本当にモテない自分が付き合えるわけないんじゃないかって微塵にも思わない所が、恋愛感情のなさと経験値のなさを物語っているようなもんだ。


 だけど、女の子はさらに笑った。すっかり元気な感じだ。


『あはは、なにそれ! でも、そっか、ちょっと元気出たかも。だから、約束だよ? ウチが君のこと好きになって、付き合ってって言ったら、付き合ってね?』


 このとき、土管の暗がりの中で女の子が顔をようやく上げた。


 薄暗がりの上に逆光だったから、はっきりとは顔を見えなかったが、整った可愛らしい女の子の顔に、俺はドキッとしておそらく一目惚れしてしまったんだと思う。


 今になって考えると、それが同年代くらいの女の子に初めて恋をした瞬間だ。


 だけど、自分よりも小さい女の子だったので、それが恋だとは思えなかったのかもしれない。


『……あぁ、約束な!』


 その後、雨が止むまで他愛もない会話をしたと思うが、ここで俺はふっと現実に引き戻される。現実の方で雨が止んだからだ。時間はまだそんなに経っていないが、アイスが溶けていないかが気になって急いで自転車のところまで駆けて帰路へと漕ぎだした。


 ……子どものときの約束って怖いな。一目惚れだと思うし、そこそこ大事な発言だと思うんだけど、どうにもこうにもすごい適当で、次の日くらいには忘れてたな、それ。


 でも、思い出した……ってか、あれ、美海だったのか……。たしかに栗毛だけど、髪が短くて、って、ミニバスしてたからか。そもそも、あんな約束をしておきながら、なんでお互いに名前を聞かなかったんだろうか。


 中学の時も全然気付かなかったけど、松藤や乃美が言っていたことから考えると、美海は俺に気付いていたってこと? って、そうか、俺から見て逆光だから美海の顔がよく分からなかったけど、美海はばっちり俺の顔が分かったってことか……。


 俺は過去の回想にすべてを納得した。


「おかえり。雨に降られて大変だったね。あ、アイス、ありがと! はい、タオル!」


 家に着くと、待ち構えていた彩が俺の手にあるシャトオグラスの箱をひったくりながら、俺を心配するようなことも言ってきたついでにタオルも投げ渡してきた。投げ渡されたことはともかく、手にあったものをひったくられなければ、優しい妹だとも思えたが、残念ながら優先順位がアイスの時点でそれほど優しくはない。


「ただいま。そうだよ、大変な目に遭ったよ」


「って、アイスがちょっと溶けてる……」


 やっぱり、雨宿りの分だけアイスが耐えきれなかったか。


「すまん。ちょっとな」


 俺が謝ると、彩は溶けたアイスを見て悲しみを滲ませていた顔からニヤニヤとした笑顔に変わっていった。


「……へえ、思い出したんだ?」


「……え、分かるのか?」


「もちろん。お兄ちゃん、いつになくいい顔してるよ」


 彩にそう言われて、俺はちょっとだけ気持ちが晴れやかになった。


「そうか。しかし、寒いな。シャワーでも浴びるか」


「美海ちゃんと仲直りできるといいね」


 俺は彩の言葉に手をぷらぷらと振って、雨に濡れた身体を温めるために風呂場の方へと向かっていった。

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