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今日も2人だけで話そ? ~彼女2人が公認の二股恋愛!?~  作者: 茉莉多 真遊人
1年生 2学期

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3-14. 10月……そんな言い方なくない?(1/2)

簡単な人物紹介

金澤(かなざわ) 仁志(ひとし):本作主人公。高身長、顔は普通よりちょい下。

能々市(ののいち) 美海(みなみ):ヒロインその1。低身長の小動物系女子。栗色の長髪持ち。

津旗(つばた) 聖納(せいな):ヒロインその2。胸部爆盛。黒髪で完全目隠れ、眼鏡あり。せーちゃん。

松藤(まっとう):仁志の友だち。バスケ部。美海のことが昔から好きで告白する。

 10月末。気温は日中で20度前後と、春ごろと同じになってくる。春と言えば、美海が先輩に告白して玉砕し、それから俺が何故か告白されていったん拒否して友だちになって、と過去を回想してもよく分からない話が思い出される。


 あれがもう半年……いや、まだ半年前か。


 俺はあの時もここに座っていたな、と思いながら、体育館裏であの時と同じように「イチゴなオ・レ」を飲みながらボーっとしていた。


「ひーくん、待たせちゃった?」


 美海がひょっこりと顔を出す。寒いからかしっかりと冬服のブラウスとブレザーだけでなくしっかりとカーディガンまで着込んでいる。しかしながら、下は膝上までしっかりと丈を上げているスカートに白いソックスで足が出ている。


 絶対に寒いと思う。女子はオシャレに命がけらしいが、身体を冷やすのは良くない気がする。と思いつつ、肌寒い日に体育館裏に呼び出している俺のセリフじゃないなとも思う。


「全然。美海、ごめんな、呼び出して」


 俺は今日、美海と悩みについて話せればと思って昨夜リンクで誘ってみた。体育館裏は教室からだと遠いので、美海や聖納から来てくれることはあっても、あまり俺から誘うことはしない。


 だから、美海には何かあると思われていると思う。だからこそ、背水の陣とまではいかないが、俺ももう言わざるを得ないという気になってくる。


「ううん。嬉しい。でも、ちょっと肌寒くなってきたよね」


「そうだな。これから本格的に寒くなるし、11月中旬くらいからは体育館裏もそろそろ一旦やめるかな」


「そしたら、図書室に行こ? ストーブ出るらしいよ」


「ストーブか。まあ、体育館裏じゃないときはそうだしな。そうするか」


 昼休みに図書室に入り浸っていると、司書が絡んで来るんだよなあ……。


 司書が綺麗なお姉さんというのは否定しないが、どうも話がシモに行くので苦手というか恥ずかしいというか、せめて、美海や聖納のいないところで話してほしいと思うばかりだ。


「んしょっと……んひゅっ! ちょっと冷たい」


 美海が俺の横にちょこんと座ると、コンクリートがひんやりとしていたからか、ちょっと面白い声で鳴いた後に寒そうにし始めた。


 ここで俺は、中学生のときに『彼女がいたらしてみたかったこと TOP10』にランクインしている『寒い日に彼女がちょっと寒そうにしているから温まるためにぎゅっとくっついてイチャイチャする』を実行しようと思い始める。


 いや、まあ、正直、この後、イチャイチャになるかは分からないんだけど……。


「美海、よかったら俺の上に乗るか?」


 俺が自分の胡坐の方を指差して、美海にそう告げると、美海が少し恥ずかしげな感じで俺を見つめてくる。


「いいの?」


 かわいい。上目遣いがとてもかわいい。ちょっと嬉しそうなのもかわいい。


 もちろん、俺はいつでもウェルカム状態だ。


「俺は全然。美海が嫌じゃなければ」


「ちょっと恥ずかしいけど……っしょっと……あったかい」


 俺が再びポンポンと自分の脚を叩いて誘ってみると、美海がおずおずといった様子で俺の胡坐の上にちょこんと座ってきた。美海は恥ずかしかったのか、対面ではなく背中がこちらに向けられた。


 身長差もあって、美海の頭が俺の顎よりも下にあるので収まりもいい感じだ。しかし1つだけ予想外に困ったのは、美海がスカートを間に挟んでくれなかったので、思ったより美海の感触がダイレクトアタックしてくることだ。


 俺のズボン、つまり布1枚を挟んでいるだけなので温かさも柔らかさも結構すごい。


 その上で、俺はもう一段階上に行くことにした。


「よいしょっと」


 俺は両手で美海を軽く抱きしめて、美海の頭に頬を寄せるようにする。美海の髪の毛から漂うシャンプーの匂いとか美海だけの匂いとかが、実に青少年の健全な精神によろしくない。


 ……固くなってもバレませんように。


「ふええっ!? ひーくん、どしたん?」


 当たり前だが、美海は驚いている。だけど、ちゃんと俺の両手を掴んでくれているあたり、嫌がっている素振りはないだろう。


「この方があったかいかなって」


 自分からすることの少なかった俺が、普段と違うことをしているから俺自身でもドキドキする。


「ウチのため? ふーん、今日のひーくん、もしかして、甘えん坊さんなんかな?」


「そうかも。寒くなると人肌恋しくなるって言うしな」


「んふふ、甘えん坊さんのひーくんもかわいいね」


 美海を温めてあげたいって気持ちも、美海に少し甘えたいって気持ちも本心だが、何かを抱いていると段々と落ち着いてくるってのも本当だな。先ほどまでは抱きついたことへの美海の反応がどうなるかとドキドキしていたが、それも落ち着いてきて元々のいつ話を切り出そうかというドキドキも心なしか落ち着いてきた。


 切り出すなら、今だ。


「なあ、美海」


「ん?」


 美海の顔が見えていないのも助かる。


 美海がこちらを向いていたら、もしかしたら言い出せなかったかもしれない。


 今、ここで、言うことが運命なんだと信じる。


「美海、なんか悩んでるんじゃないか?」


「え? ええっ? 急にどしたん?」


 美海は俺の方に顔を向けることなく、俺に抱きしめられたままの体勢で返事をした。


 美海の顔が見えない不安と、俺の表情が見えない安心。今、この両天秤で俺は揺れている。


「この前の中間テストくらいから、なんか美海の浮かない顔がちょこちょこ見えてるから」


「……そうなん?」


 美海の声が若干低い。


 怖い。


 聞くのが怖い。


 はぐらかされるのが怖い。


 美海が俺から離れていくのが怖い。


「……そ、そう思っているけど、俺に言えないことならいいよ」


 って、おい、何を言っているんだ、俺!


 思わず日和ってしまった。悩んでいることを聞くんじゃなかったのかよ。


 それで美海が悩みを共有してくれたら俺も悩んでいることを話すんじゃなかったのかよ。


「あ、えっと、うーんと……」


「ごめん、ごめん、言いにくいなら本当にいいからさ」


 俺えええええっ!


 落ち着いて、美海を呼んだ目的を思い出せえええええっ!


 ここで流れを変えるためだろうがっ!


 なんで……なんで、俺はここまできて日和ってるんだよ!


「……あのね」


「うん」


 美海が意を決してくれたおかげで、首の皮が一枚繋がる。


 俺はもう日和らないと決めた。絶対に今日こそ決めると決めた。もう俺は逃げない。


「友だちの話なんやけど」


 だけど、美海の悩みは司書の時と同じ、友だちという設定で始まる。


 ここから、俺の聞きたいところまで繋げられるだろうか。


「友だちの?」


「うん。友だちね、彼氏がいるんやけど、他の男友だちから告白されたんよ」


 ……まずは様子見だ。


 まだ慌てるような時間じゃない。


 いや、逆に好都合かもしれない。友だちの話ってことのまま、流れを作れるかもしれないからな。友だちの話ってことで美海の本心を聞けるかもしれない。


「え、そうなの?」


「そうなんよ。それで相談されていて」


「相談?」


 ここまでは司書から聞いたのと同じか。


 友だちからの相談。きっとここで俺の知っている乃美とかを出すと話が脱線する。俺はあくまで知らない友だちの話を聞く体裁でいくしかない。


「うん、友だちの彼氏ね、モテるから彼氏のこと好きな女の子がほかにもいて、彼氏もその子と仲良い感じなんよね」


 モテません。ええ、俺はモテません。


 すっごい局所的に、ほんとすっごい局所的に美海と聖納に好きになってもらえているだけで、残念ながらモテ力は5のゴミです。


 しかし、そこでツッコミを入れるわけにもいかない。だって、俺のことを言っているわけじゃないのだから。


「え? 彼女がいるのに?」


 自分のことながら、この返しは胸が痛すぎる。


 というか、美海のこの話って隠す気あるのかどうか疑わしいほどに美海の周りのことを言っているんだよな。そりゃ司書も丸わかりだろうな。


「あー、まあ、うーん、そうなんやけど……とにかく、友だちがね、悩んでて相談してるの」


「どんな相談なの?」


 その質問をした瞬間、ゴクリと喉が鳴る。


 美海の顔が見えないこの瞬間がどれだけ長く感じただろうか。


「……彼氏と別れるかどうか」


 俺はどこか期待していた。


 せめて「男友だちの告白を断るかどうか」と言ってくれることに。


 でも、違ったんだ。


「っ……その子は彼氏と別れたいの?」


 まるで目隠しで平均台を渡っているような感覚だ。下手な質問で少しでも踏み外せば、俺は落ちてケガをしてしまう。


 でも、もう進むしかない。進むしかないんだ。


「ううん。そんなことないみたいやよ」


 俺は内心で安堵のため息を吐いた。


 完全に松藤に流れているわけではない。


 それだけで今日は十分な収穫かもしれない。


「じゃあ、なんで悩むんだ?」


「それは、男友だちも大切やから」


 ズキリ。


 美海の「大切」の意味を図りかねて、俺は表面に出さないようにしながらも落ち着けられずに焦っている。さっきから、美海に振り回されっぱなしだ。


「友だちは、男友だちのことも……好きなのか?」


「好きかどうか分からないよ。だって、今まで友だちとしか思ってなかったから……って言ってた」


 どんどん美海の言い方が友だちからの伝聞っぽくなくなってくる。


 美海もきっと余裕がなくなってきているんだ。


 俺に話すつもりなんてなかっただろうから。


 裏を返せば……俺に何も言わずに決めるつもりだったんだろうな。


「それじゃあ、さっきの彼氏を好きな女の子はどう関係してくるんだ?」


「それは……友だちが彼氏と別れたら、その子が彼氏ときちんとくっつけるから」


 やっぱり……なんか聖納のことを意識しているんだな。


 表情は見えなくとも、美海の身体が少し震えているから普通ではないことだって分かる。寒いわけじゃないだろうし、俺が抱きしめたところで震えが止まらないってことでもある。


 俺は美海を困らせたかったのか?


「そうか」


 美海のためか、俺のためか、俺は美海を先ほどよりも強く抱きしめていた。


 顔を見合わせることはなく、ただ一緒にいる。


「ひーくんだったらどうする?」


「え、俺?」


 突如やってきたキラーパスに俺は驚くしかなかった。


「うん。だって、悩みを聞いてくれるんでしょ?」


「そ、そうだな……俺だったら」


 俺は……どう答えればいい?


「ひーくんの気持ちが聞きたい」


 俺の……気持ち……。


「俺は男だから視点が変わっちゃうけど、俺が彼氏ならそんな理由で別れたくないな。それに、なんか、その友だちの自己犠牲っぽく見えるし、やめてほしいかな。友だちの気持ちが彼氏から変わってないなら、男友だちのことをきっぱりと……あと、その自己犠牲って、なんか彼氏にも男友だちにも、彼氏のことが好きな女の子にもごまかしてる気がする……んだよな……」


 俺の気持ちは伝えた。ちょっとだけ濁した。


 これでハッピーエンドになるのだろうか。


「ねえ、ひーくん、ちょっと……そんな言い方なくない?」


 しかし残念ながら、どうやら俺は余計なことまで言ってしまったようだ。


 こんなに近くにいる美海の声が少し遠くからに聞こえた。

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