3-Ex3. 10月……悩むくらいなら打ち明けてみたらどうだ?(1/2)
簡単な人物紹介
金澤 仁志:本作主人公。高身長、顔は普通よりちょい下。
能々市 美海:ヒロインその1。低身長の小動物系女子。栗色の長髪持ち。
津旗 聖納:ヒロインその2。胸部爆盛。黒髪で完全目隠れ、眼鏡あり。せーちゃん。
松藤:仁志の友だち。バスケ部。美海のことが昔から好きで告白する。
司書:図書室の受付お姉さん。仁志を「少年」呼びする。
放課後。俺は図書室にいた。
今日も今日とて、部活終わりの美海と聖納と一緒に帰る予定だから、図書室で勉強しながら待っている。それももう終盤に近く、もうそろそろ美海と聖納が降りてくるんじゃないかというタイミングで司書が俺の目の前までやってきた。
「おや、今日も来ているのか。来ているなら声を掛けてくれてもいいじゃないか。それとも、もうお姉さんとお話をするのは飽きたかい?」
3年生もいてそこそこ埋まっている状況で、わざわざ俺のところまで来るなんて珍しいな。
しかも、何か話したがっている?
とりあえず、俺は何か返そうと思って、勉強を中断して身体ごと司書の方を向く。
「飽きたとか飽きないとかはないですけど、先ほど図書委員さんとお話をしていたようなので声を掛けるタイミングをなくしただけですよ」
「そかそか。少年、ちょっとカウンターの方へ来てくれないか」
「え、まあ、いいですけど……いい時間なんで荷物まとめたら行きますよ」
俺がそう言うと司書が先にカウンターの方へと踵を返して行ってしまう。俺は言った通り、広げていた勉強道具をカバンにしまい込んでカウンターの方へと急いだ。先ほどまでいたはずの図書委員はいなくて、司書が一人でカウンターの奥で座っている。
そのまま、カウンターの方へと近寄ると、司書が指をちょいちょいと動かして俺をカウンターの中へと誘ってくる。
まだ勉強している人もいるからか、それとも、あまり大きな声で言うことじゃないからか、いずれにしても小声でする話だろうということで素直にカウンターの中へと入って用意されたパイプ椅子に座った。
「少年、今は何に悩んでいるんだ?」
「いきなりですか……そんなに分かります?」
前に言われた「悩みが服を着て歩いているよう」という言葉から、司書もまた聖納同様に女の勘の鋭い方なのだろうかと思うに至る。
司書は小さく笑った。
「分かるか分からないかなら分かる。さて、じゃあ、もう一歩踏み込んで何に悩んでいるかを当ててしんぜよう」
「ははは……何に悩んでいるかまで顔に出ますか?」
そんなまさかと内心思いつつも、ジッと見つめてくる司書に心の内を読まれているような居心地の悪さを感じた。
やがて、司書が顎に手を添えて、ドラマに出てくる女刑事のような雰囲気で唸る。
「んー……これは……美海ちゃんと聖納ちゃんなら……美海ちゃんだな。間違いない」
嘘でしょ? え、自信たっぷりに言われたんだけど、俺、そんなに分かりやすいわけ?
今度からマスクして生活しようかな。って、そんな阿呆なことを思う前に返さないと。しかし、隠せるなら隠しておきたいな。
「……冗談でしょう?」
「やはり、当たったか」
はぐらかしても確信されるだけなんですけど。
どうしてだろうね。そんなに露骨か?
「明言は避けますけど、ちなみに、何でそう思ったんですか?」
「美海ちゃんを見ている時の顔で悩んでいるから」
「……ん? 俺、そんなに顔が変わります?」
「もちろん! 美海ちゃんを見ている時はあのかわいらしい顔を見てやらしい顔をしていて、聖納ちゃんを見ている時はあの存在感たっぷりの胸を見てやらしい顔をしている!」
ちょっと待てえええええいっ!
「悩んでいる顔の話じゃなかったんですかね!? だいたい、やらしい顔なんて……してないですよね、俺?」
改めて言われると、やらしい顔をしていない自信がない。
そんな顔に出てる? 俺って、そんなにやらしい顔で2人を見てるの?
「そもそも、目つきがやらしい」
それはもう、どうしようもないんじゃないですかね!?
え、今、俺、なんでそんなこと言われなきゃならないんだ!?
「そもそも!? 単なる悪口になっていませんか!?」
「はっはっは……まあ、というのは、冗談だ。さすがに顔つきや目つきは普通だぞ」
よかった。やらしい顔で2人を見ているわけではないようだ。
って、俺、なんで安心しているのだろうか。
早く本題に戻さないと。
「よかった。いや、良くないけど。それよりもどうして、美海のことだって分かったんですか?」
「そりゃ、美海ちゃんから相談を受けたからな」
……おい、今までの全部茶番じゃないか、それ。
俺の顔で悩みと悩みの向き先が分かるって話はどうなったんだよ。嘘ってことじゃん、それ。いや、でも、悩んでいるかどうかは分かるのか。いかん、いかん、どうも司書と話をしていると横道に逸れる。
「……それ、俺の顔で分かったわけじゃないんじゃないですか?」
「バレたか。いや、な。美海ちゃんから相談されたのさ。彼氏のいる友だちが昔から仲良くしていた男友だちに告白されたんだけど、断ろうかどうか悩んでいるって相談された、とな」
「……よくあるパターンですね」
十中八九、友だちって言っているそれ、自分のことじゃん。そりゃ、司書も勘付くわ。
司書は俺の返しで何かに気付いたようで、いつになく真剣な眼差しをこちらに向けてくる。
「いやいや、あくまで美海ちゃんの友だちだからな」
「はいはい、で、その友だちはどうするって感じなんですか?」
「驚かないんだな? てっきり美海ちゃんが悩んでいることが気掛かりなのだとばかり思っていたが……そういうことだったのか」
「え?」
……待てよ。
あ、そうか、しまった。
俺が美海の話だって分かっているのに、つまり、美海が告白されたってことなのに驚いていないから、俺がそれを知っていることがバレたのか。
やっちまったな……こういうところで思わぬ引っ掛けを喰らっていたか。
「そうか、まあいい。その友だちは迷っているらしくてな。『友だちの友だち』が『友だちの彼氏』のことを好きで、『友だちの彼氏』も『友だちの友だち』のことを気になっていて、だから友だちは自分が『男友だち』と一緒になれば、『友だちの友だち』が『友だちの彼氏』と一緒になれるし、誰も不幸にならないんじゃないかって」
うん、分からん。
いや、分かるけど、分かりづらい。どれだけ友だちって単語を使えば気が済むんだよ。
「友だちって単語が多くなってきて、分かりづらくなってきてますけど……」
「そうか。たしかにそうだな、例えるなら、美海ちゃんが男友だちに告白されて、美海ちゃんは自分がその男友だちと付き合えば、少年と聖納ちゃんが一緒になれるからいいんじゃないかって思っているってことだな」
おおおおおいっ!? それだと、たとえてないんだけど!?
「どんな例えかたよ! なんで美海が濁しているのに当て込んじゃうんですか!?」
ここでようやく真剣な眼差しだった司書が普段くらいのにへらっとした顔に戻る。
「少年は何を言っているんだろうな。これは例えばだから、気にするな」
それで通ると思うのか?
「もう……こんなバラシ方したら美海からの信頼がなくなりますよ?」
「その時は少年も一緒に信頼をなくそう!」
なんでじゃあああああいっ!
そんな眩しい笑顔で俺まで道連れにする気満々なの最悪過ぎませんか!?
サムズアップじゃないんですよ!
「嫌ですけど!?」
「少年は連れないな」
「そういう問題じゃないでしょう……しかし、美海がそんなことを考えていたなんて」
美海が松藤とくっつけば、俺も聖納とくっついて、綺麗に丸く収まる。
おそらく周りの奴らなら、それが一番だと思う道筋だ。
だけど、それは本人どうしで納得できるものじゃない。
それじゃまるで自己犠牲みたいじゃないか。
でも、好きだけど自身の1番という立ち位置が揺らぎかけている優柔不断な彼氏の俺か、揺らぐことなく1番になれるだろう昔からの仲の良い幼馴染の松藤か、その2択で考えれば、傷が浅いうちに諦めるという選択肢も十分にありうるのか。
未だに二股を解消できていない俺には、もし美海がそういう選択をした場合に引き留める資格なんてあるのだろうか。
「ま、というわけで、だ。少年もだけど、うだうだと悩むくらいなら打ち明けてみたらどうだ?」
俺が司書そっちのけでぐるぐると自分の中で思案を巡らせていたら、司書が先ほどとは別方向でそんな雑な結論を俺に放ってきた。
ご覧くださりありがとうございました!




