表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今日も2人だけで話そ? ~彼女2人が公認の二股恋愛!?~  作者: 茉莉多 真遊人
1年生 2学期

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

83/137

3-11. 10月……ほら、言ったでしょう?(1/2)

簡単な人物紹介

金澤(かなざわ) 仁志(ひとし):本作主人公。高身長、顔は普通よりちょい下。

能々市(ののいち) 美海(みなみ):ヒロインその1。低身長の小動物系女子。栗色の長髪持ち。

津旗(つばた) 聖納(せいな):ヒロインその2。胸部爆盛。黒髪で完全目隠れ、眼鏡あり。せーちゃん。

松藤(まっとう):仁志の友だち。バスケ部。美海のことが昔から好きで告白する。

 秋晴れの今日、俺は聖納と美術館デートだ。


 先日、美海と俺の2人きりのデートになったので、今日は聖納と俺が2人きりのデートをすることになった。美海も聖納も俺でさえも律儀にデートの回数をなるべく同じにしようというのだから、2人公認の二股関係というものもよく分からない。


 まるでスポーツのように公平さで、違和感すらある。


「はあ、はあ……仁志くん、はあ……はあ……おはようございます。ごめんなさい、待たせちゃって……はあ……はあ……」


 聖納はバス停から走ってきたのか、息も絶え絶えという状態で首元や顔の汗をハンカチで拭きながら俺の前に現れた。


 走るには向かないだろう紺色の襟付きロングワンピースに胸元の焦げ茶の細いリボンタイを付けて、ちらりと見える白地の靴下と茶色のパンプスを履いているような落ち着いた感じの服装だ。黒の小さなショルダーバッグも女の子らしい感じがする。


「聖納、おはよう。いや、コンビニ寄ったりしたし、そんなに待ってないよ」


 ちなみに、俺は聖納にお願いされて、中3の夏期講習でも着ていた四字熟語Tシャツを着てきた。さすがにそれだけだと恥ずかしいので上から青い襟付きシャツをいつでも隠せるように羽織っている。


 なお、今日の四字熟語は「雲外蒼天」だ。


「はあ……はあ……ごめんなさい……」


「大丈夫だから、気にしないでいい。それよりも息まで切らして大丈夫か? お茶飲むか? 俺の飲みかけで悪いけど……」


 晴れだから自転車でも良かったけど、美術館の後にショッピングにも行きたいということだったからバスにした。それで、美術館へ行くバスなら同じバスに乗れれば良かったわけだが、聖納が運悪く乗り損ねたらしく、俺の方が先に着いたのだ。


 バス停にもよるが、バスの間隔的に20分から60分ほどの差になるので1時間待ちもありえたが、なんとか30分差くらいで押さえられたようだ。まあ、乗り遅れたなら自転車でバババッと来るのもありだけどな。


「ありがとうございます……んくっ……んくっ……」


「喉渇いていたんだな……って、飲み干しているし……」


 半分以上残っていたはずの麦茶のペットボトルがあっという間に空になる。聖納に間接キスさせたなとか、その後に俺が飲んだら聖納と間接キスになるよなとか思っていたわけだが、俺の妄想のうち前者だけで終わってしまった。


 さすがに空のペットボトルにわざわざ口を付けるのは露骨過ぎてやりたくない。というか、ゴミになるペットボトルを聖納が飲み干した責任感からか、ショルダーバッグにしまい込んでしまったのでやりたくてもできないわけだが。


「はふぅ……生き返りました……えっと……仁志くんのお茶を飲み干しちゃったので、後で買い直しますね」


「飲みかけだったし、買い直さなくてもいいよ」


 聖納はピンク色のハンカチを広げて、パタパタと自分の顔に向けて扇いでいる。


 目元より上はいつもどおり前髪で分からないが、身体の熱さで上気したように赤らめた頬と息を整えるために頻りに動く口元があまりにも扇情的で思わず顔を少し別の方に向けてしまう。


「それと、今日は私のワガママで場所を決めちゃってごめんなさい」


「デートコースもいいんだよ。見たかったんだろ?」


 今日のデートも聖納の行きたい場所を中心に決めた。


 もうデートコースやプランをこちらで決めてリードしようという感じはない。俺が一生懸命にデートプランを考えるよりも、美海や聖納に合わせた方が満足するって分かっているからだ。もちろん、いざという時に考えてはくるけど、何もなければそれを伝えることもない。


「はい。現代美術にも触れておきたくて。でも、興味がないと、つまらないですよね?」


 ただ、美海にしても聖納にしても、決まってからこう聞いてくるのは何でだろうか。


「うーん。絶対に面白そうとまでは思わないけど、こういうのもあるのか、くらいには楽しめるのかなって思っているくらいかな」


「そう思ってもらえると嬉しいです」


 ようやく聖納の息も整ったところで、俺たちはデートらしく腕組をして美術館の中へと入った。


 現代美術の美術館ということで、芸術的なセンスのない俺にはよく分からないこともあるが、よく分からないなりにこういう感じかなとか考えつつ楽しんでいる。


 聖納は作者の意図に想いを馳せているのか、時折、立ち止まっては「ん-……」と小さな唸り声を出していた。


「聖納って美術部だし、こういう美術館にも来るし、本当に好きなんだな」


 俺がふと次の作品への移動中にそう小声で話しかけてみると、聖納の口元が緩んで嬉しそうな表情を向けてくる。


「ふふっ……はい。芸術に触れているととても落ち着きます」


「芸術に触れていると落ち着く?」


「ええ。昔はそういうこともなかったのですが、中学での一件があってからは自分と向き合うための……いえ、自分のつくった殻へ入り込むための方法として使っていたんです」


「聖納……」


 何気なく聞いた話だったが、返ってきた言葉はやけに重かった。


「あ、もう大丈夫ですよ? 美術部での先輩やお友だち、美海ちゃん、それに何より、仁志くんもいますから。だから、今はちゃんと楽しんでいますよ」


「……前から言っているけど、俺はそんなにしてやれたことなんてないと思うけど」


 いつもそうだ。聖納はことあるごとに俺に救われた感を出すが、俺はそんな気が全くしない。俺からすれば、聖納の状況や気持ちなど1つも知らずに、ちょっと世間話程度に話しただけでしかない。


「……もう、二言目にはそれですね?」


 聖納から呆れ混じりの溜め息を吐かれた。


「いや、まあ、だってなあ……」


「仁志くんは自分への過小評価が強すぎます。仁志くんにとって、私にしたことは誰にでもするような大したことないことだったのかもしれません。だけど、私にとっては仁志くんのしてくれたことが何より大切で今でも忘れられないほどなんです」


 それでも、聖納は俺のことを心底好きになってくれているようだ。


 移動した先の作品の前でも俺たちは会話を続けた。


「そう、かなあ?」


「仁志くんといると不思議と安心できるんです。落ち着いている感じがしていますし、優しいですし、私のことをなんだかんだ言いながらも大切にしてくれますから」


「それは……」


「いいんです。今は同情が大きくても愛情も感じられますから。今は美海ちゃんに負けていても」


 聖納が少し俯き加減で声のトーンを幾分か落とした雰囲気でそのことを告げてきた。


 しかし、勝ち負けとかじゃない気がする。


「そんな勝つとか負けるとか、んっ!?」


 俺が話し始めると、すかさず聖納の人差し指がにゅっと出てきて俺の口元で止まる。


 身長差や場所もあって、さすがにキスで口を塞がれることもなかったが、これはこれでドキドキするな。


「言わせません。恋は勝ち負けだってあるんです。美海ちゃんに勝ちたいです。仁志くんの1番になりたいです。最後は同情も全部、愛情に変えてみせたいです」


「……だったら、もう少し俺の言っていることも聞いてほしいんだけどなあ」


「たしかにそうですね。仁志くんの言っていることも聞かないと……でも、激しすぎるのや恥ずかしすぎるのはちょっと……」


 うん、そんな話はしてませんが?


 だいたい、叡智が激しかったのは聖納の方……って、俺もつられて何を考えているんだか……。


「一体、真昼間から何の話をしているんだろうな?」


「うふふ……ご想像にお任せします」


 ご想像も何もあったもんじゃない。


「ったく……人の目もあるところではもうちょっと抑えてくれると嬉しいんだけどな」


「気を付けますね」


「それは切に願うよ」


 たまたま周りに人がいなかったからいいけど、ちょうど今、人が来始めているからヒヤヒヤするぞ。


 その後しばらく無言で何作品か見終わったタイミングで、ちょっとした休憩スペースに腰を掛けた。飲食はできないが、動きっぱなしの足には休息も必要だろう。それに聖納は走ってきたから疲れているだろうし。


 そんなこんなで休んでいると、聖納がこちらの方を向いた。


「ところで仁志くん、美海ちゃんと何かありましたか?」


「……藪から棒だな。美海とは何もないよ」


 あまりの唐突で直球な質問にむせそうになったが、何とか堪えて回答する。聖納が松藤の告白や美海の返答保留を知っているわけもない。


 またやっぱり顔に出ているのかな。


「そうですか。では、美海ちゃんではない人と、別のことがあったんですね?」


「っ……それは言葉の綾というか、別に何かが——」


「ほら、言ったでしょう? 美海ちゃんはモテるって」


 俺はゾクリと背筋が凍る。


 知らないはずの聖納にまるで何でも見透かされているようで少しだけ怖さも覚えてしまった。

ご覧くださりありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ