3-9. 10月……ほんとに楽しんでるん?(1/2)
簡単な人物紹介
金澤 仁志:本作主人公。高身長、顔は普通よりちょい下。
能々市 美海:ヒロインその1。低身長の小動物系女子。栗色の長髪持ち。
津旗 聖納:ヒロインその2。胸部爆盛。黒髪で完全目隠れ、眼鏡あり。せーちゃん。
松藤:仁志の友だち。バスケ部。美海のことが昔から好きで告白する。
10月になるとさすがに暑さも若干は落ち着いてくるが、まだ夏服でも十分に過ごせる季節でもある。親の頃はこの時期だとすっかり秋で肌寒さすらあったようだけど、秋はかなり短くなっていると思う。
「んふふ♪」
「美海、かなりご機嫌だな」
2学期の中間テストが無事に終わり、その週末の土曜日に俺と美海はいろんな遊びができる施設ロータリーワンに来ていた。
俺は運動する前提で白地のTシャツに薄青の襟付きシャツを上から羽織って、下に何の変哲もないジーンズという普段着という感じだ。
美海もスポーツをするためだろうけど、髪をまとめた上で黒いキャップ帽を被り、黒いキャミソールの上に黒いシアーカーディガン……いや、フードがあるからシアーパーカーか? とにかく綺麗な肌が見えるほどの透け透けな上着を羽織っている。下は下でデニムのショートパンツと黒いニーソックスを組み合わせていて、靴が白のスニーカーだ。
透けて見える肩や鎖骨辺りもそうだし、ニーソックスとショートパンツに挟まれている太ももが見えていて、目のやり場に困ると言うか、他の男の目線が気になると言うか、とても叡智な感じだ。
「だってテストも終わって、久々のお休みデートやし! しかも、今日は2人きりやもん!」
かわいい。美海が腕を組むようにぎゅっとくっついてきて、屈託のない笑みで俺を見上げているから、上目遣いにも見える感じでたまらなくかわいい。言ってくれている言葉も嬉しいし、満点かわいい。
そう、いつも通りの3人かと思っていたが、聖納が家の用事で行けないということで、文化祭デート以来の2人きりデートになった。
もちろん、聖納とも別の日に埋め合わせをする感じの2人きりデートをすることになったわけだが、それを勧めたのが美海だ。不安になっているはずなのに、どうしてそういうことを提案できるのか不思議でならないが、美海と松藤との会話にあった聖納への負い目とやらがそうさせているのだろうなと思うほかない。
それとも、まさか、徐々に俺から距離を取るために、松藤の方に乗り換えるために?
……そんな邪推はやめよう。こうやって2人でデートしているんだから、さすがに美海に失礼すぎる推測だ。
「あはは、たしかに。3人でデートすることが多いもんな」
「うん、3人ももちろん楽しいんやけど、やっぱり、2人デートもしたいなって」
美海が俺により身体を預けるかのようにぎゅっとしてもたれかかる感じになる。
「そうだな。それに、こういうとこは聖納が苦手そうだもんな」
聖納は運動が苦手らしい。実際に見てみるとたしかに動きがぎこちないし遅い感じがする。まあ、あれだけの胸をしていれば、動くのも一苦労な気もする。
「そう! やから、今日はひーくんとめっちゃ身体動かして遊ぶ!」
ウキウキし始めた美海が俺から離れて、早く早くと言わんばかりに俺の前で動き回る。その様子を見ると小中学生に見えなくもないと思うのは口が裂けても美海に言えない。
その代わりの言葉を俺はすぐに見つける。
「せいいっぱい楽しもうな!」
「うん!」
こうして意気揚々と2人でまず向かったのは、バスケのフリースローができるコーナーだ。低めの位置で動き回るゴールを目掛けてボールを投げるわけだが、低いながらも意外とリングに弾かれて難しかった。
俺が終わると美海は所定の位置に立って、真剣な眼差しで狙い澄ましている。
「おぉ、美海、フリースロー上手いな」
パスッ、パスッとゴールに綺麗にボールが吸い込まれているのを見ていると、ゴールの位置が低いとはいえ、身長による優位性はないように思えてくる。
「ふふん。ほんのちょっとやけど、ミニバス経験者やもん」
「あぁ、松藤たちから聞いた気がするな」
うっかり。
松藤の名前を出してしまった俺に、美海はものすごい勢いと表情でこちらを見てくる。
まるで松藤の名前が禁句かのようだ。
「ええっ!? 松ちゃん、何を言ったん!?」
明らかに慌て始める美海を見て、松藤の告白を隠す気があるのかないのか分からなくなってくる。いっそのこと聞いてみたら答えてくれるのだろうか。
松藤への回答はどうするんだ、と。
だが、それは俺があの場に居たとバレるか、もしくは松藤が告白のことを言いふらしているという印象を与えかねない。
松藤の「正々堂々」というセリフが頭を過ぎった。
「え? ミニバスとか、ののちゃんとか? 小学校のときの話を前にちらっと聞いた」
俺はとぼけて嘘までいかないけれども、はぐらかすような回答を返してみる。
「あ。昔の話?」
美海の表情が露骨に安堵した雰囲気へと変わる。
「何だと思ったんだ?」
「……ううん。何でもない」
「……そうか」
まあ、隠すよな。告白を保留しているなんて、目の前にいる恋人に言うわけもない。分かりきっているはずのことをどこか淡い期待でごまかしていたのに、ごまかしたものがすんなりと取り払われて、俺に寂しい現実を見せつけてくる。
「ていうか、ひーくん! 恥ずかしいから、松ちゃんとかに昔のことを聞かんといてよ」
「美海のこと、もっと知りたくて」
「ウチのことならウチに聞けばいいじゃん!」
美海の頬がぷくっと膨らみ始めた。かわいい。
「美海から聞くのもいいけど、やっぱり、知り合いから見た美海も知りたいからさ」
「……むー! もう、フリースローはおしまい! 次、何する? 3on3のコート行ってみる?」
美海は恥ずかしそうに帽子を一旦目深に被ってから、少ししてから戻して俺を見つめてくる。話をガサッと変えたいようで別のものをしようと提案してきた。
しかし、フリースローの次は3on3って、どんだけバスケがしたいんだろうか。あと、さすがに普通の高さなら身長差的に俺の方が有利じゃないだろうか。
とりあえず、別のものを提案してみるか。
「うーん、バスケ尽くしもいいけど、テニス、バッティング、ビリヤードやダーツとか?」
「え、ひーくん、ビリヤードとかダーツとかできるん?」
「できないけど? ルールも知らないけど、でも、美海となら楽しめるかなって」
美海は俺の言葉を聞いて嬉しかったのか、少しだけ身体をくねらせながら考え込むポーズをとる。
「えー、ウチもできんし、うーん、今度にしよ? それでひーくんから教えてほしいかも、手取り足取り」
「お、おう……ルール調べておくよ」
……手取り足取り。
どうしてだろうか。叡智な響きにしか聞こえない。というか、それを意識して俺に言っているよな? 多分。
「あ、そうや。トランポリンせん?」
美海が急に今までなかった選択肢を口にした。
トランポリン?
「トランポリン? いいけど」
「トランポリンで跳んで、立っているひーくんを見下ろしてみたい!」
あ、そういうこと? それだと結構跳ぶ気でいるみたいだな。トランポリンもコツがいるって聞いた気がするけど、ただ高くジャンプするだけならできるのか?
「見下ろすなら階段でできないか?」
「階段やと結構離れなきゃ見下ろせんもん。ひーくんを間近で見下ろしたい!」
至近距離で跳ぶのは危険じゃないだろうか。しかし、どうにか美海の気持ちにも応えてあげたい。
ふと、俺は名案を思いついた。
「だったら、美海、万歳」
「へ? ば、万歳? んひゃっ!?」
すかさず俺は美海の脇をがっしりと掴む。
そして、変な声を出している美海を高々と持ち上げた。
「たかいたかーい!」
俺が持ち上げているのだから、美海は俺を見下ろせているだろう。
満足だろうかと美海の顔をきちんと見てみる。
「……………」
無言。
無表情がちょっと怖い。
おそらく、「たかいたかい」と言ったことでちょっと子どもっぽさが出てしまったので、美海の身長に対するコンプレックスというか、小学生に見えるコンプレックスを下手に刺激してしまった感じがする。
「……すみませんでした」
俺は美海をゆっくりと下ろし、そのまま、頭を深々と下げた。
しばらく何の反応もなかったが、ここで頭を勝手に上げるのも誠意がないと思い、返事があるまで下げていようと心に誓う。
すると、もう少し経過してからようやく、溜め息混じりといった様子の反応が返ってきた。
「……もう、早めに謝ったから許す」
「ありがとうございます」
俺がほんの少し目線を上げるために顔を上げると、しょうがない感を出している美海の顔が目の前にあった。
「じゃあ、トランポリンいこ?」
「そうだな」
こうして俺と美海は、フリースローの次にトランポリンを楽しんだ。
ただ天井がそこまで高いわけでもないので、ぶつかる恐怖もあると中々勢いよく跳べなかった。その結果、美海が俺を見下ろすようなことも起きなかった。
「ふぅ……意外と跳べないんやね」
「まあ、タイミングが重要っぽいから。でも、美海、すごかったよ。跳んでいる高さなら俺より確実に跳べていたし、もう少しで跳んでいる俺を超えそうだったし」
美海はご機嫌だ。
「そう? えへへ……あ、お昼前やし、混む前に早めにご飯にする?」
「そうだな」
「じゃあ、フードコートへ行こ!」
昼だと確実に混むだろうから、11時過ぎくらいであることを確認した俺たちは一足早い昼食を取ることにした。
そこそこに高いので悩むも、俺はドリンクバーとホクホクしていそうなフライドポテトを注文して先に座っていた美海の方へと向かう。
「美海、お待たせ」
「混む前で席取れてよかった」
美海はほっと一息ついていて、美海の手がフランクフルトを持ってフリフリと軽く振っている。
「そうだな。じゃあ、食べようか」
「うん、いただきます!」
「いただきます」
美海がフランクフルトを頬張るけれど、ちょっと噛みきれないのか、口をもごもご動かしている。
口の動きがちょっと……よくない。
棒状のものをはむはむしているのは非常によくない。
「ん? ひーくん、何?」
「いや、美味しそうに食べるなあって思って」
違うけど、さすがに「食べ方がちょっと叡智」とか言えるわけがない。
「ふーん……ねえ、ひーくん?」
その話が終わったと思ったら美海の話は続きがあるようで、美海がフランクフルトを一旦口から離して真面目な表情で俺に話しかけてくる。
「え? 何?」
「もし違ったならごめんやけど、今日、ほんとに楽しんでるん? 何か気になることあるん?」
その美海の問いに、俺は息苦しささえ感じた。
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