1-8. 4月……交換しよ?(4/4)
ちょっとしたあらすじ。
朝に美海と会って、連絡先、リンクのID交換を提案しようとして、予鈴に阻まれて失敗。その後、休憩中に意志を固めていると悪友との会話で絶叫する。
昼休みに入って連絡先を渡そうとしたものの、思いきり日和った俺に、天使……みたいな美海が声を掛けてくれて展開はいよいよクライマックスへ。
まだ諦めていないぞ! 連絡先を交換だ!
結局、俺と美海はベランダで座り込んで話し始めた。
驚くほど他愛もない話が続く。これ多分、男どうしだとラリー続かないぞって思える内容もなんだかんだで続いていく。
「でね、821円になったから、嬉しくなって店員さんに声を掛けようと思ったんだけど、チキン見て、ここノーソンじゃんって」
「エイワンじゃなかったのか。それはギリギリ踏みとどまったな。俺は1回やったけどな」
ノーソンもエイワンこと8to1もいわゆるコンビニだ。
ノーソンはその語呂のとおり、野菜や乳製品生鮮食品をウリにしたコンビニだ。キャラクター戦略もあって、個人的には好きな部類。
エイワンはエイトとも呼ばれる最大手のコンビニだ。昔、朝8時から深夜1時までやっていたためにその名前らしく、ネットで821や801で略されることもある。なので、エイワンで821円や801円が出るとちょっと嬉しくなるのと、たまにその金額のレシートが期間限定クーポンになることもあって、ちょっとした遊び心があるコンビニでもある。
誰に解説してんだろ、俺……自分の知識の確認か?
「ぷぷっ……仁志くん、間違えちゃったの? ダサっ」
美海も間違えそうになったんじゃろうがい。
一緒だね、ってならないの!? 女子って一緒が好きなんじゃないの!? あ、美海は間違えていないから、まだ一緒じゃないのか。
「いや、そこ、間違えそうになった美海が笑うとこじゃないだろ! こうなったら、美海にいつか間違える呪いをかけておくからな」
昼休みも徐々に終わりに近付いている。だけど、まだ、連絡先の紙を渡せていない。
こんな他愛もない話を続けるよりも、そっちの方が大事なはずなのに、ついつい楽しくて本題を忘れてしまうほどに会話にのめり込んでいる気がする。
「やめて! 明日にでも失敗しそうやから!」
美海が頬を膨らませながら、両手を身体の前でぶんぶんと前後に振って文句を言っていた。うん、仕草が小動物感あるのは間違いないな。
これ、狙ってしているよな? よな?
素でしているとしたら、「美海、恐ろしい子」と言わざるを得ない。
かわいい。
「やめません、きっちりと呪っておきます」
「そんなあ」
「俺のミスを笑った罰だからな」
「えー。もー、いじわるだなあ。あ、でも、それならお揃いになるよね? だったら、それもいいかな」
美海の膨らんだほっぺたをつつきたい衝動を抑えながらも話を聞いていると、ここでようやく一緒感を出す感じの話になった。
でもね、後からそういうかわいいこと言うのやめてくれませんか。俺の心臓の耐久試験でもしているのか、ってくらいに衝撃でかいんだわ。
って、これじゃ昼休みが終わってしまう。
「あ、美海、あのさ」
「あ、そうだ、仁志くん」
被った。
美海も話を変えたかったようだ。
「ん? どうぞ」
「んえ? なに?」
また被った。
仲良しかよ。
「あ、俺のはすぐ終わるから、美海からでいいよ」
「あ、ほんと? ありがと。あのね、良かったら連絡先の交換しよ? 仁志くん、リンクとかしてる?」
「……へ?」
「……ダメ……かな?」
美海に話題を先に譲ったら、言おうとしていたことが先を越されてしまった。いや、先に譲ったから、先を越されるのは当たり前なんだが、いや、何を言っているんだ、俺。
まさか、一緒の話題をほぼ同時に繰り出すとは思わなかった。
くりくりっとした大きいな目を少し潤ませて、こっちに顔を向けてまじまじと見ながら、美海がちょっと物欲しそうな顔をしている。
恥ずかしがっているのか、ちょっとだけ頬が赤くなっているのもポイント高い。
なんか変な勘違いしそうになるわ。
って、変なことを考えていないで、返事しなきゃダメだろ、俺。
「あ、ダメじゃない。ありがとう。むしろ、俺から聞こうと思っていたんだ」
「そうなの? えー、2人のタイミングばっちりじゃん!」
俺がリンクのIDを書いた紙を渡すと、美海が中身を見た後に制服のポケットにしまいこんでくれて、ホッとした様子で屈託のない笑顔を俺に向けてくる。
そうだよな。提案する方は不安になるよな。俺もさっきまでいろいろと不安だらけで怖気づいていたんだから、その気持ち、分かる。
やっぱり、行動力のある美海って……すげぇな。
「そうだな。ばっちりだな」
「ええっ? ふふっ……なんだあ、まだ友だちだって言う割に、ウチのこと、気になってきているじゃん?」
美海が嬉しそうにしていると、こっちも嬉しくなってくる。
心が温かくなる感じ。
これが好きってことなんだろうか。そうなんだろうか。
だとしたら、俺は……。
「まあ、そう……だな……」
「ほえ?」
美海が俺の言葉に驚いたようで素っ頓狂な声を出した。
「いや、今言われたとおり、美海のこと、ちゃんと気になってきているぞ」
いや、なんでこんな言い方しかできないの、俺。
ガツガツしているように思われないように、クール系に振って、日和り過ぎだろ。
「……やっぱり、仁志くん、ガツガツしていない感じだね」
「そ、そうか」
俺はそう言われて安心したが、美海の方を見てみるとちょっとだけ頬が膨らんでそっぽを向いている。
なんで?
「でも、もうちょっと……ごにょごにょ……」
美海がそっぽを向いたまま喋るから、あまり聞き取れなかった。
「ん? ごめん、聞こえなかった。でも、もうちょっと?」
「え、えっと……でも、もうちょっと……えっと、ウチのこと好きにさせちゃうからって言ったの!」
え? もうちょっとだけなの? というか、なんでちょっと不満そうに声が荒いの? え、これってもしかして、もっとガツガツした方がいいのか? い、いいのか? 大丈夫か?
でも、待て。これはもしかしたら、俺を試しているのかもしれないな。やっぱ、男なんてガツガツしているんだ、って思われてしまって幻滅されるかもしれない。
落ち着け、俺、まだ慌てるような時間じゃない。
「期待している」
待て、待て、待て、待てえっ! ……期待している、じゃねえええええっ! 言葉選び、返しがおかしくないか!? クール系主人公のゲームのやりすぎかよ! 俺、何様よ!? えぇ、そりゃ、オレ様……じゃねえんだわ!
「ありがとね、夜までに絶対に連絡するから」
「楽しみに待ってる」
キーンコーンカーンコーン。
「あ、予鈴だ。またね。ありがとね、楽しかった」
「ありがと、俺も楽しかった」
こうして俺は明日の俺にバカにされずに済んだし、帰って夕食を食べるより前に無事に美海からのメッセージが飛んできて安心した。
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