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今日も2人だけで話そ? ~彼女2人が公認の二股恋愛!?~  作者: 茉莉多 真遊人
1年生 2学期

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3-6. 9月……今、どういう心境なんや?(2/2)

簡単な人物紹介

金澤(かなざわ) 仁志(ひとし):本作主人公。高身長、顔は普通よりちょい下。

能々市(ののいち) 美海(みなみ):ヒロインその1。低身長の小動物系女子。栗色の長髪持ち。

津旗(つばた) 聖納(せいな):ヒロインその2。胸部爆盛。黒髪で完全目隠れ、眼鏡あり。せーちゃん。

松藤(まっとう):仁志の友だち。バスケ部。美海のことが昔から好き。

 突っ立っている俺と松藤しかいない教室。


 松藤から聞かれることや言われることにどんどん焦りや嫉妬を覚えて、俺は話を早めに切り上げたくてしかたないのだが、松藤が俺を引き留めてくるためにそうさせてくれない。


 きっと俺のかいている汗は暑さのせいだけじゃない。


 引き留められた俺は今、松藤の言い放った「心境」という言葉の意味を図りかねている。


「ど……どういう心境?」


 思わぬところで言葉がどもってしまう。


「そう、心境。今、別れてないんは分かったけど、ちゃんと津旗さんとさっさと別れて、ののちゃんを幸せにできるんかいな?」


 俺はまた強い言葉が返ってくるかと身構えていたが、このときの松藤は特にそういう様子を見せずに意外と淡々とした言葉で告げてくる。


 しかしだ。言葉の出方が淡々としているが、内容はやはりかなり重い。


 それに、津旗とすぐに別れられるかは分からない。いや、今に至っては聖納と別れるかすら分からない。


 そんな俺が「美海を幸せにできる」なんて、口にできるだろうか。


「そ、そのつもりだけど、聖納もいろいろあって傷付いているからすぐってわけには」


「なんや、それ。ののちゃんをいつまで待たせる気なん? そんなんじゃ、ののちゃん、離れてしまうんとちゃうか?」


 あぁ、これだ。


 見えてくる美海が俺から離れる可能性。


 俺はこれを松藤から突きつけられるのが嫌だったんだ。


「そんなこと言われても——」


「あんなあ! お前、本当にののちゃんのこと好きなんかいな?」


 松藤からその言葉を吐かれてしまったこのとき、今まで狼狽えていたはずの俺は怒りを覚えていた。


 美海のことが好きな気持ちを疑われておろおろやへらへらできるほど、俺はそこまで優柔不断なつもりなどない。


「……あのさ、なんで俺がそこまで松藤に言われなきゃならないんだ?」


「あ?」


「あ? じゃねえよ。俺と美海と聖納の話に、どうして、松藤がそこまで口出ししてくるんだよ。小学校からの知り合いの美海のことが心配ってのは分かるけど、今のお前、度が過ぎてないか?」


 さすがの松藤も俺の反撃に言葉を詰まらせた。


 しばらく、2人が沈黙する。


 教室の壁にかかっている時計の秒針の音がやけに大きく聞こえた。


 この場から離れたがっていたはずの俺はいつの間にか、松藤の次の言葉を待っている。


 分かったとか、悪かったとか、そういう言葉を求めていた気もする。


「……そんなん当たり前やろ」


 しかし、予想外の言葉が松藤の口からこぼれ落ちた。


 当たり前? 何が?


「何が当たり前なんだよ」


 俺の言葉の後、再び沈黙。


 チラリと見た時計の針からすると先ほどよりも長い時間の沈黙だったが、不思議とあっという間に過ぎ去っている。


 松藤が静かに動いた。


 それまでお互いに立っていたが、松藤は力を失ったように近くの椅子を引き出して座り込む。


「……俺が……俺が! ののちゃんのこと好きやからに決まってるやろ! ののちゃんがどうなっているのか気になるし、また傷つくことになるんやないかって心配になるのも当たり前やろうが!」


 松藤は吐き捨てた言葉と一緒に一度だけ拳を机に振り下ろした。


 ガンという音が教室に響き、俺はその音にビクリと身体が跳ねる。


「……やっぱ、美海のこと、好きなのか」


「そうやけど、悪いんか?」


「そんなこと言ってないだろ? 中学校の頃から薄々気付いていたし」


「ははは、なんやったら、小学校の頃から好きやったわ」


 今の松藤は、破れかぶれという言葉が似合っている。


 しかし、俺にはむしろその方が恐ろしい。


「小学校の頃から?」


「あぁ、お前も知ってのとおり、小学校の頃にののちゃんが付き合ってフラれてな。そんとき、告白する度胸もなくて意地汚いと思ったけど、傷心中のののちゃんに優しくしてたら振り向いてもらえるかと思ったらそんなことなくてな」


「意地汚いとか度胸がないとかは思わないけど」


「そんなフォロー要らんわ……ったく……それでもめげずに、しばらく沈んでいるののちゃんに優しくしとったら、6年の夏頃に知らん間に急に元気になってな」


 ん? 近くにいたはずの松藤も知らない内に、美海の心の傷が癒えた?


 なんだ、それ。美海が中学の時に色恋沙汰の話がなかったのって、その二股で受けた心の傷が癒えていなかったからじゃないのか? てっきり、そうだとばかり思っていた。


「知らない間に急に元気になった?」


「そうや。それから中学校の頃にもののちゃんに振り向いてもらえるように接していたけど、俺なんかののちゃんの眼中にすら入ってなかったわ」


 ……松藤って普通にかっこいい部類のはずなんだけど、それが眼中にないって、美海は完全に松藤のことを恋愛感情抜きで接しているっぽいな。


 幼馴染枠の弊害みたいなもんか?


 って、それよりも、元気になった理由の方が気になる。


「え、元気になった理由とか聞かなかったのか?」


 松藤はゆっくりと首を横に振った。


「聞けるわけないやろ……俺はこう見えて臆病者なんや……ののちゃんが話してくれたことを覚えとるだけで、自分から聞き出したことなんてないわ。だいたい、お前が関係あるんとちゃうんか? 中学校に入った頃から、ののちゃん、目でお前を追いかけてたで? だから、俺は中学んときにお前がどんな奴かと思って話しかけたんや。まあ、あんときから背も高い上に順調に背も伸びてて、バスケ向けってのもあったしな」


 えぇ……俺に熱心にバスケ勧誘してたのって、ただの隠れ蓑? 本当のところは、恋敵になるかもしれない奴の身辺調査をしたかっただけ? だから、バスケの勧誘断っても、そのまま、なんだか友だちっぽい感じになって、今もこうなったわけ?


 まさか松藤……この高校を選んだのも美海がいるから……じゃないよな?


 しかし、それだけでも衝撃の事実なのに、さらに、美海が中学のときから俺のことを見ていた? いや、全然感じなかったけど? クラスも一緒になったことないし、なんなら、一番縁遠いと思ったくらいだよ。


「え? 美海が? 中学校のときに? いや、小学生の頃に会った覚えはないけど……つうか、中学校のとき、全然話さないどころか、接点すらなかったけど……って、それは松藤もよく知っているだろ?」


「それもそうやな。じゃあ、それは違うんかもしれんけどな。とりあえず、俺はいつも、ののちゃんの気持ちの中に入り込む隙間がなかったんや。まあ、告白もできん臆病者にはお似合いやったんかもしれんわ」


「美海の気持ち……か……」


 俺もこのときようやく近くにあった椅子に腰かけて少し力が抜けてしまった。


 美海の気持ち、今はどうなんだろうか。


 そう言えば、中学の時の話なんて美海としたことがない。


 いつだったか、昔から好きみたいなことを言われた気もしたけど、ほかのことが気になり過ぎてすっかり忘れていた。


 4月の美海からの告白だって、普通に考えれば、ありえないよな。いくら同じ中学だったからって、ちょっと話しただけで惚れられて告白されるわけがない。そんなこと、どう考えたって、ご都合主義もいいところだ。


 ってことは、何がきっかけか分からないけど、あの日話す前に美海に気に掛けられていた?


 ……俺はどれだけ美海のことを知っているんだ?


 先ほど松藤に言われた「ようけ隠されてるやん」という言葉が今再び俺の心に突き刺さる。


「せやから、1度は諦めて彼女作ってみたけど、諦めたつもりになってただけで、どうしてもののちゃんのこと好きで、彼女に悪いから別れてしまったわ」


「そうか」


 俺は簡単な合いの手以外の言葉が見つからなかった。


 松藤はそこまで美海のことを想っている。


 俺は松藤ほど本当に美海のことを想って、愛しているとか好きだとか言えるだろうか。


「やから、もうののちゃんが傷付くところなんか見たくないんや」


「だからって……」


 だからって、俺と美海の話にそこまで介入していいわけじゃないだろう。


 俺がそれをどうにかやんわりと伝えようとして言いあぐねていると、それよりも先に松藤が再び立ち上がって口を開いた。


「……すまんが、金澤。俺、もう限界やわ」


「限界?」


 松藤の言葉に、ぞわっとした。


 不意に聖納の「美海ちゃんってモテますよね」という言葉が頭に過ぎった。聖納と松藤は同じクラスだし、同じ部活をしている聖納と美海が一緒にいることだってよくあるだろう。


「決めたわ。俺、ののちゃんに告るわ」


「……は?」


 俺は松藤の言葉に怒りを通り越して、カチリと見事にハマったピースに、その最後のピースを一押ししてしまったことに自身への落胆さえ覚えた。

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