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【完結】今日も2人だけで話そ? ~彼女2人が公認の二股恋愛!?~  作者: 茉莉多 真遊人
1年生 夏休み

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2-24. 6週目……もうやめて!(2/2)

簡単な人物紹介

金澤(かなざわ) 仁志(ひとし):本作主人公。高身長、顔は普通よりちょい下。

能々市(ののいち) 美海(みなみ):ヒロインその1。低身長の小動物系女子。栗色の長髪持ち。

津旗(つばた) 聖納(せいな):ヒロインその2。胸部爆盛。黒髪で完全目隠れ、眼鏡あり。せーちゃん。

湖松(こまつ):仁志の友だち。こまっちゃん。

 聖納がすっかりと縮こまっていて、俺の後ろに隠れるようにして震えていた。


 俺は聖納を片手で優しく押さえつつ、視線を男子2人の方へと向かわせる。


 制服を見る限り、まず同じ高校(うち)じゃない。他校の生徒が文化祭で遊びに来たのか。まあ、来るかもと言われていたけど、うちの高校は残念ながら他の高校と離れすぎているので、わざわざ来るような感じじゃないと来るわけがない。


 実際、今日1日で他校の生徒なんて指折り数えられるくらいしか見ていないからな。


「聖納、この男子たちは?」


「中学の時のクラスメイトです。1人は前に話した人です。もう見たくもないです」


 つまり、聖納の傷の元凶……は言い過ぎか。とりあえず、遠因がどっちかなわけか。


 まあ、どっちでもいい。聖納が震えるほどに怖がっていて、動けなくなるほどに困っている以上、誰であろうと俺はこの2人を追い払うしかない。


「そっか、ありがとう、分かった。で、2人は聖納に何か用か?」


 俺がその言葉を2人に投げかけると、1人が大きく反応した。


 中肉中背で、顔は……すごく悲しいけれど俺よりもずっと良好。つうか、俺、普通かそれよりちょい下くらいだと思うんだけど、なんでこう俺よりも普通にかっこいい奴がぽんぽん現れるわけ? 俺の自尊心がさ、だだ下がりなんだけど。


「は? 聖納? 誰お前?」


「誰って……聖納の彼氏だけど?」


 若干突っかかってきた男子が俺の彼氏発言で目を白黒させていた。


 確定。こっちが聖納のこと好きだったやつだな。


 名前が分からないから男子Aとでもしておくか。


「は? 彼氏? へ、へえ、津旗って彼氏ができたんだ?」


「まあ、高校生だし、彼氏くらいできんじゃね? まあ、これか、とは思うけど」


 露骨に動揺する男子Aの横で、若干興味があるくらいの男子B。男子Bはそこまで聖納に興味があるわけじゃなさそうだけど、どっちかって言うと、俺のことを見て見下している感じが半端ない。


 結局、同じような奴らがつるんでいるってことだ。


「もういいだろ? 聖納に用事あるわけじゃないし」


 俺はやんわりと男子2人が帰るように言ってみた。


 そう、文化祭に遊びに来ただけなら、聖納がいることを本当に知らずに来ただけなら、ここでさっさと退散してくれるはずだ。


 だが、2人は、いや、特に男子Aは俺の言葉に帰る素振りもなく、肩を竦ませて大きな溜め息を吐いた。


 一応、周りに目を配ってみるが、まだ大ごとになっているわけでもないのでこちらに注目する人が少ない。


「あーあ、津旗、ちょっといいと思ってたんだけどな」


「だよなあ」


 ちょっといい? そんな言い方できないだろ? お前、何度も告白したんだろ? 悔しいのは分かるけど、なんでここで突っかかってくるんだよ。


 ……もしかして、こいつ、聖納目当てで文化祭に来たのか?


「なんだよ、急に。もう2人には聖納のこと関係ないだろ」


「っ……お前、津旗の顔をちゃんと見たことある?」


 引き下がろうとしない男子Aはあろうことか、自分が遠因になっているその聖納の話を持ち出してきた。


「っ!」


 聖納の身体がビクンと揺れた。聖納は思い出したくもない記憶を呼び起こされて、ガタガタと先ほどよりもひどく震えているようだ。


 こいつらが引き下がらない以上、俺は聖納を安心させる方向で話をしていくしかない。


「今、聖納の顔は関係ないだろ?」


 俺が頭を撫でながらそう呟くと、心なしか聖納の震えが少し収まったような気がした。


 よかった。俺でもできることはまだある。


「あぁ、その感じ、知ってんだな? 津旗、かわいいもんな、あんな傷があってもさ。まあ、あんな傷をずっと見ていたらアレも萎えるだろうけど」


「……ううっ……ぐずっ……うううううっ……やっぱり……やっぱり……」


 聖納が泣き始めた。小さな嗚咽が聞こえてくる。


 こいつ、本気で聖納のこと好きだって言えるのか? 聖納のことを傷つけて、何様のつもりだよ。それでよく、この場に顔を出せたな。


「おい、なんか勘違いしているようだけど、傷のありなしで聖納の魅力は変わらない」


「……ぐずっ……仁志くん……すんっ……ぐすっ……」


 聖納が俺に身体を預けてくれて、俺の背中が少し聖納の涙で濡れてきていた。俺を頼ってくれている感じがする。


「へ、へぇ……魅力? あぁ、そうか! まあ、傷があっても、その身体は関係ないもんな! すげえエロい身体してるし」


 ……こいつ、マジかよ。


 まさかそんなことを口にするとは思わなかった。


 状況分かってないのか? いや、わざと変な解釈をして、俺を下げるような発言をして、俺が身体目的みたいに言って、それで聖納と俺の関係を壊そうとしているのか?


 いや、さすがにあり得ないだろ。どんだけ自分に都合のいい解釈で話しているんだ? そもそも、お前の話し方で上手くいくわけないだろ。


「なに、この人、最低……」


 だんまりを決め込んでいた美海もさすがに気持ち悪さを感じたのか、2人に聞こえない程度の声で嫌悪感を露わにしていた。


 ちょっとずつ周りに人が集まってくる。


 中途半端な騒ぎにしたくない。


 聖納がひた隠しにしているものが明るみになる。


「あのさ、お前らさ、さすがに言っていいことと悪いことがあるだろうが。そんなことも分からないのか」


 俺が語気を強めにすると、まるで仕掛けに魚が引っ掛かったと言わんばかりに男子2人が嬉々とした表情を見せて、お互いの顔を見合わせてから俺を見下すような目で見てくる。


「そうやってすぐにキレんなよ。あーあ、津旗もあの傷じゃ、こんなやつしか捕まえられないか」


 いや、キレてないが……。なんだったら、早く追い返したくていつもより冷静な感じさえもある。俺はこんなやつ扱いでいいから、どうにかこうにか聖納のことをさっさと諦めて返ってもらえないだろうか。


 そもそも、諦めきれないなら、どうしてその時に聖納を救ってやれないんだよ。どうして今さらアホ面下げてノコノコとやって来たんだよ。もっとこれまでにやれたことあるだろうが。


 なんか、そう思うと、徐々に腹が立ってきた。男子Aが言う通り、キレそうだ。なんで俺、こんなやつらの相手をしなきゃいけないんだよ。早く帰れよ。


「いや、どうせ、こいつがちょっと優しくしたらホイホイつられたんじゃないの?」


「そうかもな。あーあ、俺もあの時に優しくしてたら、ヤレてたかもな」


 俺の中で超えてはならない一線を男子Aが容易く超えやがった。


「お前! 本気でいい加減にしろよ!」


 俺は頭に血が上って、その勢いのままに男子Aに掴みかかろうと動き出す。


 身長は俺の方が高い。だから胸ぐらを掴めば、若干吊るすような感じにもできる。


「ひーくん!」

「仁志くん!」


 美海の言葉と聖納の必死なしがみつきでハッとして、頭に昇っていた血が下りていく。


「へえ? なんだ? 近寄って殴るのか? 俺らは口しか出してないぜ? 悔しかったら言い返してみろよ」


「くっ……」


 聖納をバカにされて、俺はこんなことしかできないのか?


「やっぱお前、どうせ津旗の身体目的だろ? チョロかっただろ? ちょっと優しくしたら懐いたんだろう? お前レベルの顔でホイホイつられるような女だもんな? どうせ甘い言葉を囁いたら、すぐに股も開いたんだろ?」


 俺への煽りならいくらでも我慢できる。それで気が済むなら、どうぞいつまでも言っていてくださいって感じだ。


 だけど、聖納のことをそんなふうに言われて、これ以上我慢できるわけないだろ!


「もう我慢ならねえ!」


「ひーくん、ダメ!」


 俺はそのしたり顔の男子Aに向かって、聖納を振り払う勢いで動こうとする。だが、そんな俺を止めようとして、さらに美海が俺にひしっと抱きついてきた。


 ……あれ? 俺、ビクともしなくなった。俺、女の子2人を振り払えないのか?


「もうやめて! これ以上、仁志くんを悪く言わないで!」


 俺の動きが止まった直後、恐怖で震えて縮こまっていたはずの聖納が大声を出した。


「せーちゃん?」

「聖納?」


 急なことに俺も美海も男子2人も次の言葉が続かなかった。


 聖納が俺から身を離して俺と男子Aの間に震えた両足でしっかりと立つ。


「私のことを見て見ぬふりしていたどころか、顔に傷が付いた私を見て嘲り笑っていじめていたあなたたちに仁志くんの何が分かるのよ! 優しくしていれば私とヤレてた? あなたがよくもそんなことを軽々しく言えるわね!? あなたのせいでこうなったって言うのに!」


 聖納の強烈な言葉で男子2人が面食らったような感じで固まる。


 それから、男子Aがいち早く固まっていた状態から解けて卑屈な感じの笑いを浮かべる。


「ははっ……何をムキになってるんだよ?」


 いや、返しがダサすぎるだろ。お前から煽ったんだろうが。


「ムキ? ムキになってるのはそっちでしょ? 私のこと好きだったものね。顔が傷付くまで何度も告白してきたくせに! それで今度はなに? あわよくば一発くらいヤレるかもと思って近付いたら彼氏がいて悔しかった? 今の私でさえ自分のものにならなくて悔しいんでしょ?」


「な!? そんなわけ——」


 男子Aの言葉を遮って、聖納が再び喋り出す。


「あるわよ! 今もどうせ仁志くんのこと、自分よりもイケてないって勘違いしているんでしょう? そんな人に私を取られたみたいに思ったから、相変わらずのちっぽけな自尊心を守るためにバカにしてきているのよね? バカみたい。私からすれば、あなたなんかいなけりゃよかった……あなたがいなければ私はこんな傷を負うこともなかった……。あんたなんか……あんたなんかいなければ! あんたなんかいっそ死——むぐっ!?」


 聖納が男子Aに向かって、怒声にも似た叫びを浴びせていた。俺はその中で聖納が言い切る前に聖納を抱きしめつつ口を塞いだ。


「聖納、それ以上はダメだ。その言葉を口にしたら、その言葉を出したらダメなんだ」


 誰に向かってであろうと、たとえそれが目の前のクズ野郎相手であっても、聖納の口から「死ね」の一言を言わせたくなかった。


 これは単なる俺のワガママなのかもしれない。だけど、そのワガママを珍しく聞き届けてくれたのか、聖納が俺に口をふさがれたままコクコクと首を縦に振ってくれた。


「ははっ……津旗! ちょっとかわいかったからって思い上がるなよ!」


 どうやら男子Aの煽り耐性は存外低かったようで、男子Aが聖納に向かって拳を振り上げる。


「危ない!」


 俺は咄嗟に聖納を後ろに動かしつつ自分が前に出たことで、そのまま聖納を庇うようにして振りかぶっていた男子Aの拳をモロに顔に食らった。


「仁志くん!」

「ひーくん!」


「……大丈夫だ」


 なんとか聖納のことを守れたけど、これ以上顔が悪くなったらどうしてくれるんだよ。つうか、今、こいつ、聖納の顔面を殴ろうとしなかったか? どんだけクズなんだよ……。


「……おいおい、俺を小ばかにしていたお前が殴るのか? 聖納は口しか出してないぜ? それとも、俺に殴られるのが怖くて騒いで、女の子しか殴れないような卑怯者か?」


「は? ふざけんなよ!」


 男子Aの拳の向け先が完全に俺に変わった。なんだったら、男子Bも俺に向かってきた。俺は逃げるわけにもいかない。少し後ろに聖納もいるし、美海だってまだ俺に抱きついているから、俺が動けば2人に危害が加わる可能性もある。


 まあ、しばらくしたら、騒ぎを聞いて先生たちが来るだろう。そうすれば、注意は受けるだろうが、殴ってない俺たちは軽く済むはずだ。とはいえ、喧嘩をし始めた時点でめちゃくちゃ怒られるだろうから、注意くらいで済むかもってのはあくまで希望的観測ってやつだけどな。


「ぐっ……がっ……ぐうううううっ……」


 男子2人から2,3発もらったところで俺は足がふらついてしまう。


 しかし、顔や腹とか、こいつら容赦ねえな。このままじゃ先生が来る前に俺が倒れるかもしれない。


 ……耐えられるか?


「ふざけているのはお前たちだろ?」


 ここで先生よりも早く、強力な助っ人がやってきた。


「……こまっ……ちゃん?」


 こまっちゃんは俺を見てから、男子2人に視線を移しながらも手元の手帳をペラペラとめくり始める。


「右の奴、お前はたしか……ふむふむ……これはこれは。それと、左の奴、お前の方は……ほう、これは情けないものだな」


 ……え? こんな名前も分からない男子2人の情報も入っているの? 中学校も違うし、高校も違うんだぞ? こまっちゃんの手帳、どうなっているんだ? ここら辺の奴らの情報なら何でもあるのだろうか?


「……げっ!? その手帳と顔、もしかして、湖松か!?」


「なんで、お前がここに!?」


 いや、こまっちゃん、そんなに顔バレするくらいに有名人なの? 地獄耳の湖松って言われていたけど、その地獄耳の範囲、恐ろしく広くないか?


「おやおや、俺のいる高校だと知らなかったか? どうやらお前たちの情報収集力が圧倒的に不足しているようだな。さて、津旗さんやその彼氏に二度と近寄るな。さもなくば、分かるな?」


 こまっちゃんがそう言うと男子2人が青ざめた表情をしながらさっと廊下の方へと歩き出していく。


 こいつらどんな弱みを握られているんだろうか。


「ちっ! 言われなくても二度と近付くかよ!」


「くそがっ!」


 2人が捨てゼリフを吐いた後、一瞬だけしんと静まり返ってから、俺は脱力してしまって、美海や聖納がケガをしないようになんとか前のめりに倒れ込んだ。


「ひーくん!」

「仁志くん!」


 美海と聖納は座り込んで、聖納が俺の頭に膝枕をしてくれて、美海が俺の手をぎゅっと握ってくれた。


「ははは……結局追い払えずじまいで情けないな。こまっちゃんに助けてもらったし」


 こまっちゃん、かっこいいな。


 それに比べて、俺は何もできなかった。


 大切なはずの彼女をなんとか殴られることから守ったけど、その後は自分に矛先を向けるくらいしかできなくて、殴り返すこともできなくて、どう見てもすごくかっこわるい。


 そう言えば、美海のときの、先輩の告白のときも俺は結局何もできなかった。


「そんなことない!」

「そんなことないです!」


「美海……聖納……」


「かっこよかったよ」

「かっこよかったです」


 美海と聖納にそう言われて、そんなわけないだろと思いつつ、どこか救われるような気がして、情けなさで出てきそうになっていた涙が静かに引っ込んでいった。


「そんなわけないけど……ありがと、ちょっとだけ自尊心が復活した」


 俺がそう言うと、聖納が俺の顔を覆うように膝枕をしながら抱きついてきた。


 ちょっとだけ呼吸しづらいなあ。


「仁志くん、私、やっぱり、あなたのことが好きです。大好きです。きっと、美海ちゃんよりもこの気持ちは大きいです」


 ……え? 今、なんて言った?


「……せーちゃん?」


 美海も俺と同じようで、聖納の言葉の意味を理解できずに思わず聖納の名前を口にしていた。


 そんな美海に対して、聖納は俺の顔をぎゅっと抱きしめて離さない。


 だから、俺は聖納の表情も美海の表情も全然見えなかった。


「美海ちゃん、ごめんね。私、仁志くんのこと、もっと好きになっちゃいました」


「え? ええ? ううん、待って、ウチの方がひーくんのこと好きやもん。せーちゃんに負けてないよ?」


 美海は何が何やら分からないと言った状態だが、少なくとも気持ちの大きさで負けてはいないと言い返していた。


「前までは私もそう思っていました。私もあの男子が言っていたように優しくしてくれる誰かなら仁志くんじゃなくても誰でもよかったのかもしれません。今までは」


「……今までは?」


 美海が聞き返すと聖納が力強く肯いた。


「でも今は仁志くんじゃないとダメで、だから私、2番目じゃ物足りないかもしれないです」


「う……そ……」


 こうして、俺たちの夏休みは最後の最後に波乱の文化祭デートで幕を閉じようとしていた。


 ただし、その波乱はそのまま終わることなく、聖納の心変わりのきっかけと今後の大波乱の予感を俺と美海、そして、聖納自身にも与えてしまった。

ご覧くださりありがとうございました!

この話で第2章【1年生夏休み】は終了です。


次から第3章【1年生の2学期】が始まります。

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