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1-7. 4月……交換しよ?(3/4)

 ちょっとしたあらすじ。

 朝に美海と会って、連絡先、リンクの交換を提案しようとして、予鈴に阻まれて失敗。その後休憩中に意志を固めていると、悪友と会話の後絶叫。

 まだ諦めていないぞ! 連絡先を交換だ!

 待ちに待った昼休み。


「あ……」


 ところが、俺はとんでもない勘違いをしていた。

よくよく考えたら、美海って、昼ご飯はだいたいいつも友だちと楽しく会話しながら食べているじゃん、ってことだ。


 あの昼休みは告白をするためにわざわざ抜け出した予定外のイベントだっただけと後から聞いた。しかも、その日以降の昼休みで俺が独りでいても、美海がこちらに来たことなかったな。


「そうか……」


 朝は美海の友だち事情が心配になりもしたが、そう考えると、美海なりにバランスを取っているのか、よく分からないけど、友だちも大事にしていて偉いな、と思う。


 だが、今回はそれだとちょっと辛いぞ。


 昼休みはダメか……?


 いや、望みを捨てるな。


「いや、望みを捨てるな」


 俺が……俺が美海の方に行って、少しだけ時間もらって、連絡先を交換すればいいだけじゃないか。ちょっとくらいなら、美海だって俺の相手をしてくれるだろう。


 いや、それよりも、俺のIDを書いた紙を美海に渡せばいいだけだ。これなら、時間も取らないし、美海のタイミングで俺のID登録をしてもらって何かメッセージを打ってもらえばいいだけだ。


 女子は手紙のやり取りをよくやっているじゃないか。


 俺は自分の機転の良さに感心しながら、ノートの端を破り、切れ端に自分のリンクIDを間違いないように、間違われないように、丁寧に書いた。今までで一番丁寧にアルファベットを書いたかもしれないと思えるくらいに書いた。


「よし」


 よし、これを後は美海に渡すだけだ。


 気が気じゃなくて味のしない昼食を急いでも仕方ないのに速攻で腹に詰め込んだ。そのあとに、美海が食べ終わるだろうなって時間を見計らうために10分ほど「いちごなオ・レ」を買いに行ったり時計を気にしたりとそわそわしながら待って、ようやく自分の決めた時間になる。


 重い腰を上げた。


 ベランダ側にひょいと出て、右手で二つ折りの紙を握りしめて、左手にお守り代わりに「いちごなオ・レ」を持って、隣のクラスを覗き込んで美海の姿を探す。


 いた。


 だが、話に夢中になっているからか、昼食も途中のようだ。そんなに話が盛り上がっているところで邪魔するのも悪いよな。


 結局、もう10分待とうと思い、美海からは見えない所まで自分のクラスの方へと引っ込んで、ベランダの壁を背にして座り込み、「いちごなオ・レ」にストローを差して飲む。


 落ち着かねえ。まったく落ち着かねえ。


「うっ……」


 周りにもちらちらと見られている気がする。視線が気になり始めるとダメだな。何の気なしに見ているだろう視線さえも自分を好奇の目で見ているように錯覚してしまう。


 深呼吸を1つ。


 結局、10分ももたなくて、「いちごなオ・レ」を飲み干したタイミングで再び立ち上が……ろうとしたけど、立つと目立つから膝立ちでそっと美海のクラスの方へと近付いて、そっと見る。


「あ……」


 そんな間の抜けた吐息混じりの声が小さく出てしまった。


 ちょうど俺がひょこっと顔を出したタイミングで、食べ終わって弁当箱を片付けている美海と目がバッチリ合ってしまったからだ。


 美海のくりくりっとした大きな目が少し驚いた感じで俺を見ている。驚き以外の感情が読めなくて、戸惑ってしまう。


 普通に立っていれば良かったかもしれない、と今さらながらに思った。今の俺はどう見たってこそこそっと隠れて覗き込んでいる不審者にしか思えないからな。


 なんだかバツが悪くなって、俺はふいとそっぽを向いて、身体もゆっくりと自分のクラスの方へと戻していく。


 俺なら後から「ん?」って気付いた感じで見つめ返すけどな、なんて先ほど思っていた奴のすることじゃない。


「言ってることとやってることが(ちげ)ぇなあ、自分」


 そう自嘲したくなるくらいに、言っていたこととしていることが全然違う。


 それに、俺は紙を渡したかったはずだ。なのに、渡しに立ち上がって近付こうとするどころか、立ち上がることもなく、ただただ後ろに下がって元の位置に戻って座るだけだった。


 我ながら情けない。溜め息すら出ない。明日の俺は今日を盛大にバカにしつつも、自分もできるかどうか不安になるだろうな。


 俺って、こんなに情けなかったっけ? もっとソツなくこなせるもんだと思っていたのに。


 新しい発見は良いことばかりじゃないな。


「わっ!」


 おうあっ!


「おうあっ!」


 心臓が跳ねあがって口から飛び出るかと思った。思わず叫びそうになるのを必死にこらえたつもりが小さいながらも驚きの声が漏れている。


 それから、うな垂れていた顔をぐぐぐっと重たそうに上げると、嬉しそうに笑ってくれている美海がいた。


「あははっ! ごめんね? そんなに驚いた?」


「そりゃな。全然気付かなかったから、正直、めっちゃ驚いた」


「だったら、びっくり作戦、成功やね! ねえ、隣いい?」


 周りの視線をこれっぽっちも気にした様子もなく、パっと俺の方にまで来てくれて、その上でこの屈託のない笑顔は眩しすぎる。


「あぁ」


 あぁ、じゃねえよ! 美海から来てくれたんだから礼くらい言えよ! と自分に心の中で盛大にツッコんだ。


 俺の言葉で美海が座ろうとし、体育座り、あれ? 三角座りだっけ? をしようとしたが、スカートの中が見えそうになる座り方だからかやめて、スカートを手で直しながら正座をし始めた。


 俺も正解だと思うぞ、美海。周りの男子が美海をちらちらと見ているわけだからな。


「ありがと」


 ……なんか礼を言われて、心苦しくなるってなかなかない経験だよな。


「いや、こっちこそ、ありがと。ごめんな、友だちと話をしていただろうに」


「ううん。仁志くん、来てくれようとしたんでしょ? 今までウチからばっかり行ってたから嬉しかったよ。仁志くんの休憩の邪魔をしているんじゃないかなって」


「邪魔なんて、そんなことないぞ。……俺も美海と話すのは楽しいからさ」


 もっと言いたい感じもあったが、やっぱり、「ガツガツしていない」という言葉が俺にきっとここまでって線引きのもっと後ろに立たせてしまっている。


 だからって、美海が悪いわけじゃない。俺がただただ臆病なだけだ。失うことを恐れて、得ることさえも戸惑っているだけ。


 いつかそのせいで失うことになっても、そうだとしても動けないかもしれない。


「ほんと? よかったあ」


 美海がホッとした感じで一息つくので、俺もつられてホッとした感じになる。もちろん、きっと美海以上にホッとしたと思う。


「……だけど、いつも友だちと一緒だから割って入るのもなんだか悪いかなって……さっきはご飯食べていたり、友だちと話していたりしていたからやっぱり悪いかなって」


 我ながら言い訳だけはポンポン出てくるなあと感心する。


 どうせなら、美海の頭をポンポンと撫でたい。


 おっと、変な欲望がはみ出たな。


「えへへ……いろいろと考えてくれて嬉しいな。だけど、そんなこと気にしなくてもいいよ?」


 それを美海は見透かしているかのように、うんうんと肯いてから、こっちの方を楽しそうな表情で見ながら話しかけてくれる。

ご覧くださりありがとうございました!

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