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【完結】今日も2人だけで話そ? ~彼女2人が公認の二股恋愛!?~  作者: 茉莉多 真遊人
1年生 夏休み

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2-23. 6週目……もうやめて!(1/2)

簡単な人物紹介

金澤(かなざわ) 仁志(ひとし):本作主人公。高身長、顔は普通よりちょい下。

能々市(ののいち) 美海(みなみ):ヒロインその1。低身長の小動物系女子。栗色の長髪持ち。

津旗(つばた) 聖納(せいな):ヒロインその2。胸部爆盛。黒髪で完全目隠れ、眼鏡あり。せーちゃん。

 昼過ぎも終わり、夕方までの最終時間。つまり、俺の担当時間が終わった直後。


 俺はすぐさま聖納にがっしりと掴まれ、べったりとした腕組で少しもたれかかられていた。差し入れとばかりに俺の大好きな「いちごなオ・レ」も持参で準備がしっかりしすぎている。


「なあ、聖納、ちょっとズルくないか?」


「え? どうしてですか?」


 俺の溜め息混じりのちょっとした小言に、聖納は何一つ悪気のない様子でこちらに微笑みかけている。危うく何もせずに許してしまいそうになった。


「いや、だって、俺の仕事中、俺のクラスにほぼずっといたし」


 3人のクラスが同じように当番を3分割するってなって、だから俺たち3人は調整して、聖納が午前に担当しているときに俺と美海がデートをして、逆に夕方に美海が担当しているときに俺と聖納がデートをすることになっていた。


 つまり、俺が持ち場にいる昼から昼過ぎの時間はフリーだったんだ。美海は乃美やほかの友だちと回るって話をしていて、たしかに、聖納は何も言っていなかったわけだが、まさかほぼずっと俺のクラスで俺のことを見ているとは思わなかった。


 抜けたのは多分トイレとちょっと前に「いちごなオ・レ」を買いに行ったときくらいじゃないか。


「一緒にいたかった……じゃダメですか?」


 聖納がこちらを見上げるようにして、目が見えていれば上目遣いになっているだろう雰囲気でもじもじと身体を少し揺らしながらそう言ってくる。


 そう言われて、ちょっと嬉しい気持ちはあって、それで強く言い返せない俺にも問題あるんだよな。


 モテるわけのない俺が俺に好意を寄せてくれるかわいい女の子の気持ちを無下にするなんて不可能なんだよ、と自分への言い訳を自分に言い聞かせている。


「……まったく、まあ、たしかにみんなの自由時間だからそれ以上は言わないけど」


 まあ、話したりくっついていたりしたわけじゃないし……って、俺も甘いよな。


 ほんのちょっとだけ美海の沈んだ顔を想像してチクリと胸が痛む。


「んふ、ありがとうございます。さあ、楽しみましょう!」


 聖納は俺が怒っていないと感じ取ったようで、さらにべったりとくっつき足取りを軽やかに俺を引っ張っていこうとする。


「ちょ、ちょっと、早いって。で、えっと、たしか、先にご飯食べるんだっけか?」


「そうですね。仁志くんもお腹ペコペコだと思いますし」


 正直ありがたい。今日の昼あたりに食べたのは美海と食べたおこのみクレープだけだしな。


「たしかにそうだけど、いいのか?」


「ええ。私もお腹ペコペコですから。なので、下に行きましょう」


 そうなのか。って、もしかして、聖納、自分の当番が終わってから、そのまま何も食べずに俺のところに来たのか。


 あぁ、知れば知るほど、聖納の行動を怒りきれなくなるな。なんというか、この暴走具合を憎めないんだよな。完全に聖納の自分本位ではあるんだけど、俺が自分で言うのもなんだけど俺への愛情というか、俺と一緒にいたい一心だと思うと何も言えなくなる。


 こうしてすっかり聖納への毒気が抜けてしまった俺は、聖納と3年生の屋台たちの前まで辿り着いた。


「さて、と、何を食べる?」


 俺が聖納に訊ねる。


 おこのみクレープ、たこ焼き、たい焼き、わたあめ、などと8クラス分の屋台はそれぞれガッツリ系が多いものの甘い系もいくつかある。


「え?」


 聖納は俺の言葉の意味が分からないとばかりに不思議そうな様子で上ずった声色でこちらに聞き返してきた。


「え?」


 俺は俺で聖納がどうして「え?」と聞き直したのか分からずに咄嗟に「え?」と同じ言葉で聞き返してしまう。


「えっと、8つの屋台がありますし、8つ制覇しましょう!」


 ……フードファイター、再、臨っ!


 いやいやいやいや、8つも屋台を回ったらけっこうあるぞ? いや、でもまあ、聖納もお腹空いているだろうしなあ……いきなり止めるのも野暮か?


「お、おう、どの屋台も楽しみだな」


「そうですよね! まずは目の前にあるタコ焼きですね! 何パック食べますか?」


 ……ん? 何……パック? パック!? え、タコ焼きだけじゃなくて、他の屋台も制覇するんだよな? それで初手タコ焼き数パック!?


 まずい、まずいぞ。さすがにそんなに食べられるわけないだろう。


 俺は全力で回避するべく、一生懸命、何か聖納が納得する理由を探した。


「なあ、聖納、1パックをシェアしないか? ほら、お小遣い的にも抑えておきたいし、それに、美海ともあーんをしたんだけど、聖納ともあーんがしたいなって」


 ……こんな理由であーんをしようなんてちょっと心が痛むけど、腹が痛むことを考えたら背に腹は代えられない。


「…………」

「…………」


 しばし沈黙。前髪で目が見えないから、今一つ表情が読み取れない。口元を見ると、ちょっとだけ開いていて、何か言いかけそうな気もする。


 しかし、沈黙が長い。ダ、ダメか?


 そう思っていたら、聖納の口元がニマっと口角を上げた笑みに変わる。


「素敵ですね! たしかにお小遣いも抑えたいですし、晩御飯もきちんと食べないとお母さんに申し訳ないですし、それに、仁志くんから、あーん、なんて! そんな提案をしてくれるなんて嬉しすぎます!」


 説得成功。俺の提案はだいたいが通らないけれど、通らないからこそ、こういうときに通るとなんかすごく嬉しくなる。


「ははっ、それはよかった」


 俺は少し乾いた笑いをした後に聖納と早速タコ焼きを1パック買った。


 2人で割り勘、2人で半分こ。


 2人で手を合わせてから、1つしかない爪楊枝を聖納が先に取って、ふぅふぅと息を吹きかけてから俺の口元へと近付けてくる。


「仁志くん、あーん」


「あ、あーん」


 まあ、恥ずかしい。美海の時よりも周りに人がいるのもそうだが、聖納がふぅふぅしてくれたタコ焼きを一口で頬張るし、爪楊枝もお互いに使うからこのあと何度か間接キスになるんだよなあって思うとよけいに恥ずかしい。


「美味しいですか?」


 聖納が聞いてくる。正直、恥ずかしさで味が今一つ分からないけれど、マズくないから美味しいんじゃないかな。


「あ、あぁ、聖納もあーん」


「熱いかもしれないので、ふぅふぅしてくれますか?」


「あ、そうだよな。ふぅふぅ……じゃあ、改めて、あーん」


「ん……あーん」


 聖納がこちらを向いて口を開けると、口の中が全部見えて、たこ焼きを待ち構えている舌の動きに思わず息を呑んでしまった。


 聖納がパクっとタコ焼きを咥えてその後、爪楊枝にタコ焼きがへばりつくのを許さないかのようにもにゅもにゅと唇を妖しく動かす。


 うん、実に叡智だ。間違いなく。


「美味しい?」


「はふ……美味しいです! タコ焼きを食べ終えたら、次はたい焼きにしましょう! たい焼きも半分こしますか?」


「そうだな」


 そんな感じで本当にあーんを繰り返しながら8つの屋台を制覇してしまった。


 俺は全部半分にしてもちょっと辛かったけど、聖納はピンピンしているどころか、俺と自分のために「いちごなオ・レ」をまた買ってきてくれた。もちろん、俺の分のお金は返したので、お互いに奢ったり奢られたりは一切していない。


 しかし……もしかして、聖納、俺に「いちごなオ・レ」を渡しておけば万事解決くらいに思っているんじゃないだろうか。


「んふふ……美味しかったです」


 満足げな聖納が俺にしなだれかかってくる。


 そのまま聖納の手が俺の膝に置かれて、俺はビクンと一度大きく跳ねた。


「そ、そうだな」


 どうした、俺。大好きなはずの「いちごなオ・レ」が喉を通っていかないぞ……。


「仁志くんは優しいですね」


 急に優しいと言われてよく分からんが、満足げな聖納に水を差す真似を俺がするわけもない。


「でも、もう少しゆっくりと休憩できるところがいいな。ここは食べてないとどかないといけないし」


「そうしたら、美海ちゃんのところで写真を撮りつつゆっくりしませんか?」


「あー、えー、まあ、そうだな」


 正直、午前中も思ったけど、デート中にもう一人の女の子に会うのって激しく緊張する。なんか浮気現場を見られている感じだ。いや、浮気なんかしたことないし、だいたい、今の状況は公認というか彼女指示の二股なわけで、後ろめたいことなんて1つもないわけだが。


 ……だけど、なんか後ろめたい。


 しかしそれを言い出せずに俺は聖納とともに美海のクラスへ向かった。


「あ、ひーくんとせーちゃん。ウチのとこにも遊びに来てくれたん?」


 美海がちょうど前の客を撮り終えて、こちらに気付いてパタパタと急いで近寄ってきてくれた。


「はい。仁志くんと写真が撮りたくて」


「……ウチが撮ろうか?」


 え。俺と聖納の写真を美海が撮るの? 嘘でしょ? 美海はどういう気持ちで提案してきた?


「ありがとうございます。お願いできますか?」


 いや、聖納も遠慮しようよ……。俺、2人の気持ちを考えるだけで別の意味で胃もたれしそうなんだけど。


「どこのブースがいいとかあるん?」


 ……美海、もしかして、俺と聖納のやり取りを見たくてカメラマンを買って出たのか。


「どのブースも魅力的だよな。聖納はどこがいいとかあるか?」


 俺は美海と撮った風船コーナーを選ぶ気まずさを感じたものの、露骨な誘導は美海や聖納に気取られると思って、無難な感じで聖納に回答権を回した。


 すると、聖納がぐるっと歩き回って戻ってくる。


「風船のコーナーが素敵ですね」


 なんで、そこを選ぶんですかねえ。もしかして、逆に2人して俺を玩具にして遊んでいるのかなとか邪推までするほど俺の意志と反した方向へ向かうよな。


「はーい。じゃあ、ポーズ」


 美海が聖納からスマホを預かってこちらに向け始める。


「仁志くん、ぎゅーっ」


「あぁ、ぎゅっ」


 美海の前で聖納と思いきり抱きしめ合う感じのポーズ。


「……撮るよ」


 パシャリと撮るスマホの奥、美海のじめっとした視線が痛くて、俺の胃がなんか痛いなあ。


「次、仁志くん、失礼しますね」


「ええっ!? ちょっと」


 聖納が抱きしめ合う感じから、俺の足の間に自分の足を滑り込ませて俺に擦り寄るようなポーズに変えた。


「…………撮るよ」


 美海の沈黙時間が若干長い気がするな。きっとピントが合わなくて待っていたに違いない。


 頼む、そう思わせてくれ。俺の胃が……さっきよりも痛んでいるぞ。


「あと、仁志くん、ちょっと」


「んっ!?」


 俺は聖納に突如胸ぐらを掴まれた驚きで身を強張らせたまま、なすすべもなくそのまま引き寄せられて聖納とキスをしてしまっていた。


「ちょっと! ……なんで、キスしてんの!?」


 さすがに学校でキスという単語を大声で叫べなかったようで、美海の非難めいた言葉はこの3人以外に聞こえている様子もなかった。


「んふっ……んんっ……ふっ……」

「んぐっ……ん……ふっ……ふっ……」


 聖納は美海の非難などお構いなしにキスを続けている。


 豪胆すぎるだろ。


 俺の胃はもうライフゼロどころかマイナスなんだけど。


「い、いつまで……もー! 撮ればいいんでしょ!」


 美海が半べそをかいているような声色で写真を撮った。


 美海が泣きそうになっていて、俺の胃どころか心まで痛くなってきた。


 もうどうにもならないくらいに辛い。


「聖納……」


「我慢できなくなっちゃいました」


 俺はさすがに聖納を叱ろうと思ったのだけど、嬉しそうに舌なめずりをする聖納にそれ以上の言葉が続かなかった。


 俺、本当に甘いというか……優柔不断。


「ひーくん、ウチも!」


 美海は俺の方に近寄ってくる。


 よかった、嫌われていないようだ。


 むしろ、こんな俺でもキスをせがんできてくれている。


「美海ちゃん、今は私の時間ですよ?」


 そりゃないよ、聖納。と喉元まで出掛かったが、午前中に美海が自分の時間を主張していた手前、聖納にだけそれを咎めることもできなかった。


 完全に俺や美海が聖納の手のひらの上で転がされているような気がする。


「ううっ……後で……」


「それならいいと思います」


 なんかこの状況、マズいよな。


 美海が1番で、聖納が2番。


 この序列があるからこそ、この序列が守られるからこそ、俺たちの二股恋愛という関係性は成り立っているはずだ。


 だけど、最近の聖納の行動はどう考えても……。


「あれ? 津旗じゃね?」


「ん? 津旗、この高校だったんだ?」


 気付くとそこには見覚えのない男子2人がいて、俺たちを面白そうに見ていた。


 呼ばれた聖納は先ほどの強気なやり取りをしたと思えないくらいに急に静かになって俺の後ろに隠れて、ただただその震える指先で俺のポロシャツの裾をぎゅっと握っていた。


 俺は一瞬でただならぬ状況になったと理解した。

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