2-Ex6. 5週目……青春だねえ!
オマケ回です!
主人公、金澤 仁志が図書室に来て起こったことの小話です。
テンポよく読めると思いますので、楽しんでもらえますと幸いです!
今日は天気も良くて美海や聖納と一緒に自転車で帰ることになったから、少しばかり早く準備が終わった俺は集合場所の図書室へと足を運ぶ。
図書室。図書室も文化祭のときは少しばかり雰囲気が変わる。
と言っても、例年、昨年度の貸出ランキングや1学期の貸出ランキング、新着図書の紹介に加えて、司書オススメの書籍やら図書委員オススメの書籍やらが図書室の机にずらりと並べられていたり、図書室内でクイズラリーが行われていて、その並べられた図書からクイズの答えを導き出すというものだ。
クイズラリーの正解者は2学期の間だけ図書室前の掲示板に貼り出されるらしい。で、俺は当日、美海と一緒にクイズラリーをすることになっている。どうも美海は正解者として俺と美海で一緒に名前を載せたいらしい。
想い出作りに健気な感じがしてかわいい。
「おや、少年。久しいな」
俺が図書室の扉を開けるとすぐに気付いた司書が声を掛けてくれた。
思えば、夏休みの間は図書室が開いていても初週しか行かなかったな。ほとんど3年で埋め尽くされているし、筆記のカリカリカリという音だけが響く図書室に居心地の悪さを感じたってのもある。
2年後には俺もこういう感じで勉強三昧なのだろうか。
そのとき、俺の隣には誰がいるのだろうか。
「司書さんもお元気そうで何よりです」
俺は頭の中で隣にいる女子が美海か聖納かを想像しつつ、司書に軽く頭を下げて挨拶をする。司書を改めて見てみると、夏にも関わらず一切日焼けのない肌なので、まるで深窓の令嬢か文学少女のようだ。
ここで引きこもりだと思えないのは、司書の整った容姿のせいかもしれない。
そんな俺の視線に気付いて、司書が小さな笑みをこぼした。
「……ふっ、少年よ、大人になったか? いや、まさしく、青春だねえ!」
「え?」
不意に問われた内容に俺はその意図を汲めずに素っ頓狂な声を返してしまう。
すると、司書がやれやれと言わんばかりに肩を竦ませてから真剣な眼差しで俺を見つめる。
「いや、だから、これ」
司書が左手に輪っかを作って、右手の人差し指を……って! 何やってんだあああああっ!?
深窓の令嬢とか、文学少女とか、前言撤回レベルだよ!
なんで挨拶の後の話題が叡智なことなんだよ!?
つうか、紙をめくる用の指サックが逆にリアル過ぎるだろうが! イメージ膨らませるために用意したとしか思えないんだが!? 違うんだろうけど!? 違うんだろうけどさ!?
「挨拶の次に聞くことがそれ!? 夏休みにどこか行ったのかとか、そういうことを普通聞きませんか!?」
俺の言葉に、司書が眉間にシワを寄せて考え込み始めた。
しばらくの沈黙。
やがて、司書は俺に言う言葉を見つけたようで口をゆっくりと開いていく。
「いや、無難すぎる」
……熟考の上でそれかよおおおおおっ!?
「無難でいいでしょうが!?」
俺が間髪入れずにツッコミを入れると、司書が先ほどよりも大きめに笑った。
「ははっ、まあ、私が聞いたのは悩んでいるみたいだから」
あれ? もしかして、俺が悩んでいそうだから、わざと俺がツッコミを入れるようなことを言ったのか? 俺、そんなに分かりやすい?
「え? そんなに顔に出ています?」
「簡単に言うと、悩みが服着て歩いている感じだな」
いや、それ、完全に顔に出ちゃっているってことじゃん。俺、ポーカーフェイスって言われたこともあったんだけど、もしかして、その時の俺って何も考えていなかっただけかとか考えてしまう。
「バレバレどころの騒ぎじゃないってことですね」
「そうだな。まあ、苦しんでいることを分かってもらえる方が気楽だぞ」
いや、まあ、分かってもらえるのは嬉しいけど、わざわざそんな雰囲気を出して周りに気を遣わせるのって結構迷惑じゃないか。
「天然のかまってちゃんみたいに聞こえますけど」
俺の言葉を聞いて、司書がニヤリとしながら首を数回縦に振った。
「いいじゃないか、かまってちゃんで。自分一人で抱え込んで自暴自棄になって壊れたり周りを傷付けて壊したりするよりマシだろう?」
「そりゃそうでしょうけど、女の子ならまだしも男でそれは——」
「こらこら、男女平等の世の中だぞ! そう肩肘張りすぎるもんじゃないさ。少なくとも気にかけてくれている周りがいるって気付けるんだからいいじゃないか」
不思議な状況だ。
俺は俺をダメ出ししていて、司書は俺を擁護している。
それこそ、俺が司書に気を遣わせているってことなんじゃないだろうかとふと気付いた。
「……まあ、そうですね」
それに気付いてしまうと、俺は話を延ばすこともできなくなって、もうこの返ししかできなかった。
「で、だ」
「で?」
司書の真剣な眼差しに俺は次の言葉を待ち構える。
「やったのか? これだよ、これ」
司書が左手に輪っかを作って、右手の人差し指を……って! 何やってんだあああああっ!? 2回目だよ! このやり取り2回目だから!
てっきり、もっと、こう、シリアスな話をするかと思って聞き入っちゃっただろうが!
「落差がヒドい! 見直したと思ったらすぐにこれだよ!」
「少年に見直されようと見直されなかろうと私は私だ!」
「意志が固すぎる!」
ダメな意志が固すぎる! なんで大人が高校生にそんなことを真面目に聞いてくるんだよ!? 本当に大人か!?
「なあ、ほら、教えてくれよ。やったんだろ? ついやっちゃたんだろ? 2人ともやったのか? まさか3人でやったのか?」
司書が隣り合うくらいに近付いてきた。司書はやっぱり容姿が整っているから、綺麗なお姉さんって感じで、だから近いとちょっとだけドキドキする。
「ちょ、やめてくださいよ」
俺が離れようとすると、肩をしっかりと掴まれた。
「ほらほら、意地悪しないで教えてくれ。お姉さんは気になって夜しか眠れない!」
いや、聞かなくてもしっかり眠れているじゃないか、それ!
「それなら大丈夫でしょうが! あ、ちょ……もう! いい加減にしないと反撃しますよ!」
俺が司書の肩を掴み返して、傍目に取っ組み合いでも始めるような体勢になる。
司書は大人といえ女性だ。高校生で長身の俺が肩を掴めば、身長差もあって俺の方が断然有利だし、あっと言う間に形勢逆転した。
「くっ……やるな、少年」
そんな感じで司書を押さえ込もうとしていたら、急に俺の周りの空気が冷えるようなゾクッとした感覚が襲ってきた。
「ひーくん、何をしてるんかな?」
「仁志くん、何をされているのでしょうか?」
2つの声が同時に聞こえる。
俺が司書の肩を掴んだままでゆっくりと首だけをその声の方へとできるかぎり動かしてみると、いつの間にか美海と聖納が図書室の入り口の前に立っていた。
2人とも、仁王立ちだ。
美海は笑っているけど完ぺきに怒っている時に作り笑いだ。
聖納は目が見えないけど、口がへの字になっていて、これもまた怒っているようにしか見えない。
「え?」
いや、なんでそんなに怒っているの? 司書と肩を掴み合っているだけなんだけど。
「……助けてくれ。少年が若い猛りで私のことを」
そ、そういうこと!? え、まさか、本当は司書から始めた取っ組み合いのようなポーズなのに、まるで俺が襲い掛かったのを司書が必死でガードしているように見えるってこと?
ちょ、ちょっと、待てい!
「は!? 違うでしょう!? 美海、聖納! 司書さんの言っていることはいつもの冗談だ!」
完全に冤罪だぞ!?
こんなことで美海と聖納に浮気みたいなことを疑われるなんて冗談じゃない!
「そうやよね。そんなことないよね?」
「そうですよね、そんなことないですよね?」
司書が冗談好きだと知っているからか、はたまた、俺の必死の説明が通じたのか、美海も聖納も表情がかなり柔らかくなっていった。
「もちろん! さすがに信じてくれるよな?」
良かった。美海も聖納も仁王立ちのポーズを解いて、俺の方に近付いて来てくれている。
「うんうん、あっちの隅っこでゆっくり話そ?」
「そうですね、あちらでじっくりお話をしましょう?」
……嘘だろ? あれ? 俺、図書室の隅に追いやられたらどうなるの?
「うん、信じてないね? 尋問かな?」
「人聞き悪いよ?」
「そんなことないですよ?」
先ほどから異口同音というか、同音じゃないけど美海と聖納の息がピタリと合って、それはそれで喜ばしいことなんだけど、俺の何かが危険な気がしている。
「俺、何されるの?」
「ほら、司書さんが隅ならバレにくいって言ってたから」
「他の女性に手を出さないでも、私たちがいますからね?」
2人が俺の手を手に取って自分の身体に触れさせようとする。
それはそれで問題だから! 学校でそういうのダメだから! なんで2人してそっちの方向で暴走するんだ!? 女の子ってむしろそういうの嫌がるんじゃないの!?
ガツガツが苦手って言っていた時代の美海、戻ってきて!
「学校じゃ、ダメ、絶対!」
その後、司書が「ごめん、ごめん、からかっただけだから」と言うまで俺は美海と聖納の猛烈なアタックをどうにか抑えていた。
……なんで俺が抵抗する方なのだろうか。
ご覧くださりありがとうございました!




