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2-19. 5週目……文化祭準備!(2/3)

ちょっとしたあらすじ。

 夏休みも終盤。俺、金澤(かなざわ) 仁志(ひとし)は、聖納の過去を知って二股解消が暗礁に乗り上がったと感じて悩み始めていた。

 その中で夏休み最終週にある文化祭の準備をしていて、親友のこまっちゃんの勧めでほかのクラスの状況把握ということで美海や聖納と会うことになった。

 俺はせっかくもらった時間で美海(みなみ)聖納(せいな)に会おうとする。で、どちらを先にするかと言えば、やはり、美海だろう。クラスも隣だし、順番的にも美海の方がいい。


 ということで美海のクラスの前に来てみたが、美海が忙しくしているところを見てしまう。かなり頼られているようでパーティションの位置決めをしたり、展示内容のレイアウトか何かを相談されたりと教室内を所狭しと駆け巡っている。


 そんな美海を見た俺は声を掛けられずに扉の前で目立たないように突っ立っていた。


「こんなところで何してんだ?」


 後ろから突然声を掛けられて俺は驚きつつも後ろを振り返った。


 そこには美海の親友である乃美(のみ) 梓真(あずま)が不思議そうなというか怪訝そうな顔で俺を見ていた。


 乃美はきれいな顔立ちをしている女の子だ。


 ただし、少しガラ悪めのぶっきらぼうな物言いをしている上に、身長が170台と男性の平均身長くらいで女子としては大柄なことに加えて、真っ黒なショートカットで短く切り揃えているため、どこか男性的な部分や中性的な部分もある感じ。


「おおっと!? なんだ、乃美か。急に話しかけるなよ」


 俺の言葉に、乃美はさらに複雑な表情をし始めた。


「急に話しかけるなよ、じゃないだろ? ここは私のクラスの前、金澤は隣のクラス、さて不審者はどっちだろうな? そんな顔で」


 そんな顔!? 人を見た目で判断しちゃいけないって言われなかったか!? それはともかく、不審者って……まあ、俺か乃美かで比べれば考えるまでもない。


「状況的に俺だな」


 乃美は俺の回答に満足げな表情を浮かべて、腕組みをしながらうんうんと首を縦に振った。


「よろしい。で、みーちゃんに用事?」


 みーちゃんとはもちろん、美海のことだ。乃美と美海はお互いに愛称で呼び合っている。


 ちなみに、美海は乃美のことを梓真だから「あーちゃん」と呼ぶ。


「まあ、そんなとこ。ほかのクラスの様子も見てみたくなってな」


「敵情視察か」


 乃美がその言葉を言い放ってから構え始めた。


 乃美は中学の時から空手かなんだか格闘技をしていて、大会にも出ていた覚えがある。腕っぷしの強さなら確実に俺が負ける自信しかない。


 どれだけ情けなかろうと現実は俺に厳しいってことだ。


「俺もその言葉が頭を過ぎったけど、お互いに競う内容でもないだろ? 単なる興味だよ」


「まあ、それもそうか。おーい、みーちゃん」


 乃美が構えを解いてから美海を呼ぶ。美海はその声に気付いて、こちらを振り返る。


「ん? あーちゃん、どうしたの? って、あれ? ひーくん?」


 美海が乃美の次に俺に気付いたので、俺は少し申し訳なさそうに手を小さく振った。


「愛しの彼氏がお呼びみたいだよ」


「ひゃう!? あーちゃん! もう! そうだけど! 恥ずかしい!」


 乃美のからかい気味の言葉に、美海は身体が飛び跳ねるくらいに目を真ん丸にして驚いていた。


 乃美の「愛しの彼氏」という言葉を否定せずに受け止める美海を見て、俺は恥ずかしくも嬉しくなる。


 周りも微笑ましい様子で美海を見ているし、隣はいいクラスだなと思う。


 ははは……それに比べて、うちのクラスなんてひどいもんだ。俺なんか藁人形だぞ、藁人形。しかも、どうしてか七不思議になるくらいの怨念だぞ。


「あはは、じゃ、交代。私が代わりをするから、みーちゃんは休んでよ」


 乃美と美海が入れ替わるようにして、美海が俺の方に近付いて嬉しそうやら恥ずかしそうやら楽しそうやらコロコロ変わる笑顔を向けてくる。


「あーちゃん、ありがと! ひーくん、大丈夫?」


 美海は乃美に見た目のことを指摘されてしょげている俺を気遣ってくれたようだ。


「あぁ、大丈夫だよ」


「……そっか、それならよかった! えっと、この前はえっと、ありがとう……ね?」


 本当に美海はかわいいな。どんなことがあっても、頑張り屋の美海の笑顔を見ているとなんだか乗り越えられそうな気分になってくる。


「あ、あぁ……こちらこそ、すごくよかった……」


 それに、これは俺だけかもしれないけれど、美海と肌を重ねた後から美海のことをもっと感じられるというか、今まで以上に美海を身近に感じられてより深く俺の中に美海がいる気がする。


 美海もそう感じてくれていると嬉しい。


「でも、せーちゃんとは10時じゃなかったんだよね? ズルくない? ウチ、ひーくんが強く言うから時間守ったのに……」


 うーん、さっきの笑顔と落差がヒドい。無表情で若干光を失った虚ろな目をして、俺をまじまじと見てくる。


 美海が言っているのは時間のことだけだ。それも隠し事にしたくないから、聖納の許可も得て、美海にきちんとその日に詫びた。もちろん、メッセージできっちり怒られた。


 だけど、俺には、美海と聖納の間をゆらゆら揺れている優柔不断さを指摘されているような気分になる。


「うっ……それは……」


 落ち着かない。その目で見られるとまったく落ち着かない。


 たぶん、俺の返している笑顔はぎこちないだろう。


 それが分かったからか、美海の表情がふと先ほどの屈託のない笑顔に戻る。


「ふふふ、冗談だよ? せーちゃんが早く来ちゃったから、ひーくんは仕方ないよね。ひーくんは優しいから」


 ちくりと、その美海の言葉がちょっとだけ嫌みに聞こえた。


 多分、俺の誤解だと思う、思いたい。


 美海に翻弄されている? でも嫌な気持ちにはちっともならなくて、心が痛くなるのは美海のことが好きで嫌いになれないから?


「……ビビらせないでくれよ。美海がまだ怒っているのかと思って、思いきりビビったよ……」


「へへん、たまにはひーくんも驚かせないとね!」


 はにかむ美海は天使か小悪魔か。


「勘弁してくれ。心臓が何個あっても足りないからさ。ところで、美海、そっちは順調?」


「うん! 順調! ウチらの『映えスポットwithカメラマン』はすごいんやから!」


 美海のクラスの出し物は映えスポットに写真を撮ってくれるカメラマン付きらしい。自撮りももちろんOKで自撮り棒も貸してくれるし、近くにいるスタッフに撮影をお願いできるサービスもあるみたいだ。


 映えスポットも教室をパーティションでいくつか区切っていて、風船やら羽やらキラキラビーズの散りばめられた背景やらをいくつか提供するらしい。その中に教室の風景ってのもあって、あの頃に戻りたい大人向けだって聞いて少しだけ笑った。


「美海は午後にカメラマンなんだっけ」


「うん、そうなんよ。あ、そうだ、文化祭初日だけどさ、午前中がウチで、午後からせーちゃんじゃない?」


「そうだな」


 そう、俺たちの文化祭は1日しかない。正確には、1日目がいわゆる文化祭で校内を楽しむイベントで、2日目が外部のホールで観劇をするイベントになるらしい。


 だから、俺は午前に美海と回り、昼どきにクラスの出し物の当番をこなし、午後に聖納と回るというハードスケジュールだ。


「せーちゃんとほとんど被らないように回る場所決めたんだけど、ひーくんは大丈夫?」


 大丈夫も何もいつも通り、俺の入り込む余地なかった気が……。


 やめよう、考えても虚しくなるだけだから。


「まあ、俺の負担が減っているくらいだからいいんだけど。気になったのは、俺のクラスに2回も行くことになるくらいかな」


 なんで、俺、自分の当番の時間以外に自分のクラスの出し物を見なきゃならんのだ。


「だって、プラネタリウムって素敵なんやもん」


 ということで、美海も聖納もプラネタリウムに夢を見てしまった結果、俺は誰よりもクラスの出し物を愛する男になった。


「文化祭のレベルだけどな」


「そういうのは雰囲気なの! ロマンチックなの!」


 たしかに美海や聖納とゆっくりとできるのはいいかもしれない。それに説明要員として一応星座とかも覚えたしな。覚えている今ならドヤ顔で説明できるぞ。


「まあ、ロマンチックになるようにはがんばって作ったつもりではあるが……。あとは、たまにはエスコートくらいさせてくれって思うくらいだな」


 俺がそう言うと、美海が俺の服の裾を掴んで引っ張ってくる。その後に上目遣いで俺のことをじっと見てくる。


 かわいい。このまま持ち帰りたい。


「だったら、当日のエスコートを期待しているね」


「……任せてくれ」


 これは全身全霊、全力を尽くすほかない。


「ひーくん」


「ん? 美海、どうした?」


 俺が意気込んでいたら、再び美海が服の裾をくいくいっと引っ張ってくる。


「また……しようね? ウチ、ひーくんとするの好きだから。今度はもっと……ウチもしてあげたい」


 もじもじとした美海の破壊力が凄まじかった。


 ……俺は母さんを数時間ほど追い出す計画を立てなければいけないかもしれない。


「あ、あぁ、俺も」


「おーい、みーちゃん、そろそろ甘イチャタイムは終わって手伝いに戻って」


「にゃっ!? はーい! じゃ、ひーくん、また帰りにね」


「またな」


 俺は大きく手を振る美海に手を振り返して、次に聖納のクラスへと向かった。

ご覧くださりありがとうございました!

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