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2-18. 5週目……文化祭準備!(1/3)

これまでのあらすじ。

 夏休み。俺、金澤(かなざわ) 仁志(ひとし)は、小動物を思わせる小柄なかわいい女子能々市(ののいち) 美海(みなみ)と目隠れ眼鏡の爆乳女子の津旗(つばた) 聖納(せいな)と2人公認の二股恋愛中である。

 先週は美海や聖納とついに叡智なことをした。できるだけがんばって、2人には気持ち良くなってもらえたと思う。

 それとは別に、俺は聖納の過去を知ったことで、この二股恋愛の意味と重さ、解消の難しさを突きつけられることになった。

 そう言えば、この高校に入って驚いたことが3つある。


 1つ目は運動会がないこと。その代わりに球技大会が2回もある。


 2つ目は敷地内にプールがなくて、授業に水泳がないこと。入学当初は残念に思った。


 で、最後の3つ目は文化祭が夏休み中にあることだ。文化祭って秋にあるもんじゃないの? と思ったが、ほかの高校でも6月にあったり、夏休みにあったりして案外そうでもないらしいということが分かった。


 というわけで、来週夏休みの最終週に文化祭があるので、今日はクラスの出し物の準備をしている。


「こまっちゃん、机はこんなもんでいいのか?」


 俺は親友のこまっちゃんこと、湖松、いや、湖松文化祭総指揮官の下、不要な椅子や机の搬出や、必要な机の再配置をほかのクラスメイト同様に手足の如く働いていた。


 文化祭は例年、学年ごとに出せる内容がなんとなく決まっていて、3年は玄関前で飲食店、2年はお化け屋敷や脱出ゲームなどの飲食以外のアトラクション系、で、1年は……射的や輪投げみたいなお祭り系か、お勉強的な静物展示、もしくは体育館でのステージ発表だ。


 うん、お祭り系やステージ発表はまだいいけど、静物展示って何が楽しいんだ? 地域の写真とか、この地にまつわる歴史的なお話をまとめたものとか、こまっちゃんが聞いた情報だと、ゆっくりできる休憩スペースに近い感じらしい。


 いや、文化祭って本来はそういう側面もあるかもしれないけどさ。つまらないだろ、それ。


 その中でも、こまっちゃんはお手製プラネタリウムを提案して通したようだ。たしかに休憩スペース感あるし、星座や昔の人が星とどのように接していたかみたいな勉強になるし、何よりステージ発表みたいな恥ずかしい感じもないしな。


「おぉ、それでいいな」


 俺は教室の中央に机を1つ配置して、その上に強めの光を出すLEDを置いて、星空を模した無数の穴が開いた照明カバーみたいなものを被せたら完成だ。照明カバーはバッテリーで動くモーターみたいなもので自動的に回るようにしてあるらしい。試運転してみると、ジジジとモーターがゆっくり動く音がする。


 電気のことを学ぶとこういうこともできるのか、とちょっとだけ興味を持った。


「おーい、金澤、背ぇ高いんだから、こっち手伝って」


 俺を呼ぶ声がしてそちらの方を振り向いてみると、別のクラスのやつが暗幕を持って手を振っていた。


 俺は手を振り返した。


「あいよ」


 普通のカーテンでは遮光性が悪いということで備品の暗幕を借りてきたようだ。なるべく白い部分を減らしたくて、四方の壁に暗幕を取り付けてみると中々に異様な空間へと変わる。天井にも暗幕を取りつけられればよかったが、落ちてきた場合の危険性を指摘されてそこは却下になった。


 暗幕を手に取ると、虫よけの独特な匂いが俺の嗅覚にじわじわと「長らくしまわれていたが、ようやく久しぶりの外だ」とばかりに訴えかけてきていた。


 その暗幕を取り付けてみると、まあ、雰囲気は十分にあった。


「こういうときだけは頼りになるよな」


 おおおおおいっ!?


 俺は手伝わされているんだぞ? その言い草はないだろ!?


「だけとはなんだ、だけとは! 失礼すぎるだろ! もっと、こう、あるだろ!?」


 暗幕を取り付け終わった俺は全身でクラスメイトの言葉を非難する。


 もっと、俺は頼れる部分があるはずだろ!?


「自分で言えない時点でないんだよ。だいたい、普段、能々市さんや津旗さんとのいろいろでこのクラスを騒がせていたくせに」


「もう何も返す言葉もございません」


 迷惑をかけている事実を指摘されて、あえなく撃沈した。


 もっとあるはずだが、それ以上に迷惑をかけているのだから仕方ない。


「おそらく金澤のせいでうちの教室が七不思議の1つになっているんだからな?」


「俺のせい? 七不思議? 意味が分からん」


 初耳だ。というか、なんで七不思議? 七不思議と言えば、鏡に関するものだったり、階段が増えたり減ったり、誰もいないはずの場所から声が聞こえたり、人体模型が動いたり、とかじゃないのか?


「夜な夜なこの教室に呪いの藁人形が掲示板に釘で刺された状態になっていて、当直の先生が何回か見たことあるらしいが、視線を外した途端に消えているらしい……」


 俺? それ、俺? いや、なんで俺イコール藁人形なの?


 つうか、藁人形を掲示板に五寸釘で刺すの? それなら掲示板に大きめの穴が開くんじゃないか? そんな穴開いていたか? 開いていて、日数が経過するごとに増えていたらたしかに怖いが……。


「それは俺のせいじゃないよな?」


「いや、なんか、ほら、あいつが持っていた藁人形がいつの間にか1体なくなっているらしくて、金澤の二股恋愛を羨ましがっている怨念の集合によって動き回って隠れているとかなんとか」


 俺!? それ、俺のせい!? 持ってきたやつのせいじゃないのか!?


「それは、俺のせいじゃあないよなあ!?」


「ほら、みんなの怨念を集める金澤が原因だろ?」


 なんか民主主義的に多数決で俺のせいになっているだけじゃないか!?


「呪われている俺が原因って理不尽極まりないよな?」


「まあ、そんだけ、羨ましい状況ってことだよ」


 クラスメイトに呪われている上に、その呪いの影響が俺のせいって、完璧で究極な理不尽だろ、それ。


「ったく、人の気も知らないで……」


 そう、俺は今、そのみんなが羨ましがっているという二股恋愛で悩みが尽きないんだって言うのに……。


 ぜいたくな悩みだと言ってきそうなクラスメイトもいそうだが、俺には荷が勝ち過ぎていて辛い部分がある。一歩一歩踏みしめながらも目的地がどこか分からずに彷徨(さまよ)っている。


 こんなことずっと考えていたら、胃に穴が開くんじゃないか。


「ところで、能々市さんや津旗さんと海とか行ったのか?」


 クラスメイトが下心丸出しの質問を投げかけてくる。


 まあ、俺も、夏休み最初にはちょっと期待していたからそう考えるのも無理はない。


 しかし、行っていないので、素直に答えるしかない。


「いや? 行ってないけど?」


「なんで!?」


 語気強めに返ってきたぞ。あと、周りのクラスメイトもさっきから聞き耳を立てているからか、準備がすごく静かで緩慢になっている。


「なんでって、俺からそんなの誘えるわけないだろ。下心見え見えだし」


 これも本当。美海や聖納にドン引きされるのが嫌で提案すらできなかったんだよな。


「下心丸見えでもいいだろうが! 能々市さんもヤバいだろうけど、津旗さんの水着姿とか絶対にすごくヤバいだろ!」


 俺は思わず美海と聖納の水着姿を想像する。


 美海はきっとかわいい系だろうな。ワンピースタイプで腰辺りにフリルスカートでもついているものを着ていそうだ。あとは大きめの麦わら帽子も被っていそう。ニコニコニコっと笑っていて、イタズラっぽく水を掛けてきそうで、絶対に満点かわいい姿だろうな。


 聖納は俺の前だと大胆なビキニとかになりそうだな。あのインパクトの強すぎる胸が揺れてすごいことになりそうだし、聖納から誘われて人気(ひとけ)のないところで叡智なことになりそうなイメージさえできてしまう。聖納は顔まで整っていて綺麗だしな。誘われたら断れる自信ないな。


 しかし、聖納は俺がいないと水着すら着ないかもしれない。いや、絶対に着ないだろうな。


「いや、恥ずかしがり屋だから、上着でも羽織るんじゃないか?」


 俺は聖納を恥ずかしがり屋と言ったが、実際は背中のアザの跡、若干色素沈着した肌を聖納が気にしてしまって、見せないように水着を着たとしてもその上にパーカーとかを羽織っていそうなイメージがある。


 俺は聖納の過去を知ってしまった以上、聖納を守らなきゃいけないだろうな。


「よく分かるな?」


「そりゃ、俺の彼女だしな」


 俺はここぞとばかりに聖納が俺の彼女だとアピールをする。


 聖納が俺の2番目彼女だと周りに知られている以上、俺が積極的に聖納の男避けの的になろうと思う。


「あーあ、羨ましいねえ」


「羨ましいだけだといいんだがな」


 何度も羨ましいと言われると、本当に恵まれた状況なのだとは思う。


 だが、その代償は大きすぎる。


 父さんには「色気付いた高校生(こども)がまるで永遠の愛を誓うかのように言うな」と言われてしまったが、聖納の俺への依存心から生まれた恋心はちょっとやそっとじゃ冷めないのではないかと感じる。


 もちろん、聖納にひどいことをすれば勝手に離れていくかもしれないが、その時に聖納は……もう救いを求めることさえ諦めてしまうかもしれない。その重さが俺にのしかかった。人ひとりの運命を(あずか)っているような感覚にさえ陥る。


「まあ、2人から選ぶ難しさはあるだろうな」


「うわっ、こまっちゃん!?」


 俺とクラスメイトの間に割り込むようにこまっちゃんが呆れたような表情で声を掛けてきた。


「いくらオレたち1年の出し物が力を入れづらいからってサボっていいわけじゃないぞ? 早めに終われば、早めに帰れるんだからキビキビ働け。ほかの静物展示と違って、展示用のパーティションを使わないだけ作業も少ないからな」


「分かったよ、早めに終わらすか」


「そうだな。悪かった」


 クラスメイトと俺がそれぞれそう答えて動き出そうとすると、こまっちゃんが俺の肩を掴んだ。


「とはいえ、もう金澤の出番はないから、別のクラスの出し物の雰囲気でも調査してくれないか? 別に競っているわけではないが、別のクラスがどういう具合かは知っておきたい」


 こまっちゃんがいつもよりも落ち着いた声で俺にそう言い渡した。


「ん? それはいいけど、別クラスの情報なんて、こまっちゃんならとっくに——」


 ふと、そこでこまっちゃんの意図に気付く。


 普段のこまっちゃんは俺が親友だからとひいき目に見ることをしないが、今回は特別なようだ。


「見る人間によって、感じ方は違うだろうしな。悩んでいる人間ほど、ほかの人間と見え方が違うものだ。ほら、能々市さんや津旗さんのところでも見てくるがいい」


 ああ、俺が悩んでいるって気付いているんだな。


 さすがはこまっちゃん。


「こまっちゃん、ありがとう」


 俺はこまっちゃんに感謝の言葉を述べてから、まず自分たちと同じ校舎側にある美海のクラスの出し物を見に向かった。

ご覧くださりありがとうございました!

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