2-15. 4週目……趣味は絵を描くことです!(2/2)
簡単な人物紹介
金澤 仁志:本作主人公。高身長、顔は普通よりちょい下。
能々市 美海:ヒロインその1。低身長の小動物系女子。栗色の長髪持ち。
津旗 聖納:ヒロインその2。胸部爆盛。黒髪で完全目隠れ、眼鏡あり。せーちゃん。
「ん……何時だ?」
身体に気だるさを感じ、汗をかいた後の独特な湿り気も感じ、そこそこの眠気と瞼の重さや肌着さえ付けていない解放感も覚える。
カーテンの隙間から差し込む光の色で俺はまだ今が夕方前だと知って、具体的な時間を知るためにさっとスマホの時刻表示を覗き込む。
16時過ぎ、8月だからまだまだ明るい。今からならお互いにシャワーを軽く浴びても、美海が帰る時間までお釣りが来るくらいの余裕がある。
しかし、初めての夜は初夜と言うけれど、初めての昼は何と言うのだろうか。初昼? なんだか暑中見舞いの暑中のようだなと、くだらないことを考えるくらいには頭も働いているようだ。とにかく、初めての昼を俺は経験した。
本当に、まあ、童貞ながらよくやったもんだ。
なんだかんだで、昼に美海の作ってくれた弁当を食べた以外はベッドで叡智なことをし続けた。さすがに弁当を食べるときだけはお互いに下着をつけていたが、それ以外は一糸まとわぬ状態で深く深く絡み合っていたな。
サルだと言われても全然否定できないくらいに美海との行為に耽っていた。俺の用意していたゴムはもちろん、美海が持ってきたゴムまで使った結果、もう出せないんじゃないかって思うくらいに出し尽くした。
で、俺も美海も寝てしまったらしい。乱れたベッドのシーツとぐしゃぐしゃになった掛布団の中、俺の隣で寝息を立てて嬉しそうな表情を見せる美海がいて、俺はきっと美海に満足感を与えられただろうと自信を持てた。
お互い初めてにしてはかなり上手くできたんじゃないか。やっぱり、事前調査って大事だな。調べる前の知識だけで臨んでいたら、美海を気持ち良くさせることもできなかったかもしれない。
いろいろと試してみてよかった。
「んぅ……」
服を着ていない美海が俺に抱きつくように身を捩ると、美海の柔らかな身体の感触が俺の身体にダイレクトに伝わってくる。
俺の本能がもう1回戦だと訴えかけているが、賢者タイムという完全復活しきった理性は美海の寝込みを襲うような真似などさせるわけがなかった。まあ、賢者タイムになるまで長すぎるんだが……サルだから賢者に至るまで長い道のりになるのは仕方ない。
だって、サルだもの。
「かわいいな、美海」
俺は美海の顔に掛かってうっとうしそうな長い髪を耳に掛けてあげて、かわいらしいおでこに軽く口づけをした。
「んっ……んんぅ……ひーくん?」
どうやら起こしてしまったようだ。
美海は寝起きの寝ぼけ眼状態でぼーっと俺の方を見つめてくる。行為中もそうだが、ちょっと涎が口からはみ出ていることに何とも言えないかわいさを感じてしまう。
うん、マズい。賢者から秀才くらいまで堕ちてきたぞ。
「おはよう、美海」
「……ふぇ? え!? 朝!?」
美海はすっかり熟睡した気でいるのだろうか。まだ夕方も西日というほど赤くもないため、どうも一夜を寝て過ごしてしまったと思い込んだようだ。
「いや、夕方だよ。そんなにすぐには時間経たないから」
それだけ疲れ果てたのだろう。途中、俺のせいで美海がよがり過ぎて泣いてたしな。
と、今さらながら、泣かせてしまったことへの罪悪感が俺を責めていた。
「もー、びっくりさせんといてよ! はあ、よかった。まだ時間あるね」
美海も自分のスマホで時間を確認して安堵の声を漏らした。
美海は安心したら恋しくなってきたのか、俺の身体に擦り寄るように抱きついてくる。
早くも秀才から凡人くらいまで堕ちてきた感あるな。もう時間ないからサルに変身するわけにはいかないんだが。
「ごめんな。寝て起きたから言っただけで、驚かすつもりはなかったんだけど」
「そっか、寝ちゃったもんね。疲れちゃった。でも、嬉しいし、まだドキドキしてるし、初めてだったけど、初めては痛いって聞いていたけど、全然痛くなくて、ウチ、いろんなところがめっちゃ気持ち良かった」
美海の顔がうっとりし始めて、先ほどの叡智の余韻を噛みしめているようだった。
うん、俺の理性に関わるから、俺の身体をその柔らかな指で艶めかしくなぞるのやめてもらえるかな? 俺、もうとっくに凡人くらいまで堕ちているから、これ以上はダメだって。
「それはよかった」
「ひーくん、本当に初めてなん?」
美海が上目遣い……って、寝ているから上目というのか分からないが、ともかく上目遣いで俺の方をうるっとしたくりくりの瞳で見つめてくる。
「初めてだって! ったく、信用ないな。ほんと、序盤はどうなるかと思ったけど」
そう、序盤にひと悶着あったのだ。
完全に美海の勘違いで。
「あれは! あれは……だって、ひーくんの出した箱が開いてたから! もう誰かに使ったんやと思って!」
美海は俺の持ってきたゴムの箱が開いていることに気付き、さらに1個なくなっていたことも知って、これからしようって時に「一体、誰としたの!?」と詰め寄ってきたのだ。
お互いに裸であることも忘れるくらいにものすごい形相で美海が睨んでくるものだから、速攻で萎えたのは言うまでもない。
「それにしたって、さすがに彩の名前が出た時は俺も内心怒ったぞ? そんなわけあるかってな」
さすがに小学生の妹の名前が美海の口から出た時は、俺も厳しく険しい表情になったようで美海が次の言葉を出せずに詰まったくらいだ。
いや、当たり前だろ。さすがにこれはキレてもいいと思う。
「だって、せーちゃんとしてないって言うから……」
「最初に、美海とする時に失敗しないように試しで付けてみたって言ったのにな」
俺が不満そうに美海のいない方へとそっぽを向くと美海が俺の背中に抱きついてきた。
美海の胸の膨らみが背中に直接当たる。
「ごめん! ひーくん、疑って、本当にごめんなさい!」
イジワルしすぎか。
俺は再び美海の方を向いて、すぐさま再び抱きついてくる美海の頭を数回撫でる。
「まあ、誤解が解けたならいいんだけどな」
美海は感情が豊かな分、嫉妬も激しめのようで、頭に血が上ると中々に手の付けられない状態になる。
それがかわいいと思える時もあるんだが、うーん、度を超すと俺も耐えられないかもしれないと薄々思い始めている。
「えへへ……ありがと」
「そろそろ、シャワーを浴びて帰るか? 家まで送るよ」
話し込んで、いつの間にか16時半を回っている。美海はここを17時半までに出ないといけないから、そろそろ身支度を始めた方がよい。
だけど、美海はぎゅっと俺に抱きついたままだった。
「……ねえ、明後日にはせーちゃんとするんだよね?」
美海の言葉に、俺は胸が押し潰されそうだった。
「……そうだな」
美海との楽しい時間がそろそろ終わりを告げると、次に待ち構えている時間は明後日の聖納との今日みたいな時間だ。
聖納との楽しい時間。
そう表現するのは美海がいるこの時にできるはずもない。
美海は黙ったかと思えば、急に嗚咽混じりに涙をこぼし始めた。
「うっ……ううっ……ぐすっ……嫌だよ……ひーくんが他の女の子とするの嫌だよお……ぐすっ……」
美海が吐き出してくれた感情に、俺も涙が出そうになる。
前々から美海は俺と聖納が近くにいるだけで表情を沈ませることがあった。
嫌に決まっている。分かりきっていた。
でも、今までの美海はそんな感情と裏腹の言葉を俺に投げかけるだけだった。
だから、今日、きちんと、美海の本心を聞けた気がする。
俺は決心する。
「そうだよな。なあ、やっぱ、俺、聖納と別れ——」
「ダメ! 約束だから……約束を守ってあげなきゃ……せーちゃんも守ってあげなきゃ……せーちゃんが壊れちゃう……」
えっと、俺の決心がすぐに壊された。
約束を守るという言葉も俺の決心を揺らがせたのは事実だが、それよりも聖納が壊れるとはどういうことだろうか。
「聖納が壊れる? いつもの暴走みたいなものか?」
俺がそう訊ねると、美海は違うと言わんばかりに首を振った。
「ううん。深く傷付いちゃうって意味」
「そんなこと言ったら、美海だって、俺と聖納がしたら深く傷付くんじゃないか?」
美海がビクンと跳ねる。
きっと俺と聖納の行為を想像したのだろう。
自分が傷付いても聖納を気遣う理由なんてあるのだろうか。
聖納はたしかにいい子だけど、それが二股を許せる理由にならないはずだ。
「そうやけど……でも、せーちゃんの気持ちも分かるから……ひーくんに気持ちを救われたことも……」
気持ちが救われた? 俺が? 何かそんな大それたことをしたか?
というか、美海と聖納は何を共有しているんだ?
俺の知らない何かが2人の間にある?
「俺が気持ちを救った? 美海の? 聖納の? いつ?」
「あのね、ひーくんはいつだって優しくて、自分でも知らない内に誰かを助けているんやよ」
いや、分からない。知らない内に助けているなんて思いもよらない。
俺が美海を救ったとしたら、4月の告白失敗のときか? いや、言い方からして違うだろな。しかし、俺の中でそれ以外に該当する思い出が見当たらない。
それと、俺が聖納を救ったとしたら、中3の夏期講習のときか? 俺、あのとき何かしたか? 話をしたり話を聞いたりしたが……なんか重要な話なんかしたか?
「俺が何かしてやれたのか?」
「ウチは前にも言った二股でフラれた後にひーくんに救ってもらったんよ」
二股でフラれた後? ってことは、小学生? もしくは中学生に上がった直後くらいか?
美海とそんな接点あったか? 中学は同じだったけど、喋ったことすらない気が……。もしかして、俺が美海だと認識してなかっただけで話したことあるのか?
「え? そんなことあったか?」
「んふー、内緒で秘密。でも、ひーくんが少しでも思い出したら、ウチのその時のポカポカした気持ちを教えてあげる」
ポカポカした気持ち。俺にはまだ分からないけど、俺が傷付いていた美海をそんな気持ちにしてあげられていたのなら、俺はそのときの自分を誇りに思う。
「なんか変な宿題をもらったな」
夏休みの課題よりも難しい宿題になりそうだ。
「本で調べたら何か分かるんじゃない?」
「本?」
何かのヒントだろうか。
それともただの比喩?
「ひーくん、本好きみたいだから」
いや、本は昔から読んでたけど……。
やはり、比喩か? しかし、手がかりに違いはない。
「思い出せない思い出も本に書いてあったらいいのにな」
「そうやね……それやったら、思い出したくない想い出は破り捨てられるのにね」
美海の沈んでいく表情に耐えきれなくなって、俺は美海を抱きしめ返した。
「好きだよ、美海」
「うん! ウチも好き、ひーくんのこと、大好き!」
「俺の方が美海のこと好きだから。俺が7で美海が3くらい」
「そんなことないし! ウチの方がひーくんのこと大好きやし! ウチが100でひーくんが0くらい違うし!」
0!? なくなってる!?
なんとなく言わんとしたいことは分かるが、俺の気持ちを0で表現するなよ!
「0じゃダメだろ!? 俺の気持ちがなくなってんじゃん!」
「ふえええええっ!? ないの!?」
「それはこっちのセリフだが!?」
こうして甘々なピロートークを終えた俺たちはシャワーを軽く浴びてから、家を出て美海の家へと向かった。
その帰り、俺は聖納との行為について、美海の想いや言葉を図りかねて悩みつつも約束を果たすしかないと覚悟を決めたのだった。
ご覧くださりありがとうございました!




