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【完結】今日も2人だけで話そ? ~彼女2人が公認の二股恋愛!?~  作者: 茉莉多 真遊人
1年生 夏休み

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2-13. 3週目……3人で映画見ましょう!(3/3)

簡単な人物紹介

金澤(かなざわ) 仁志(ひとし):本作主人公。高身長、顔は普通よりちょい下。

能々市(ののいち) 美海(みなみ):ヒロインその1。低身長の小動物系女子。栗色の長髪持ち。

津旗(つばた) 聖納(せいな):ヒロインその2。胸部爆盛。黒髪で完全目隠れ、眼鏡あり。せーちゃん。

 昔、ゴールデンハムスターを飼っていたことがあった。


 名前はハムス太郎だ。いや、まったく他意はない。ハムスターのオスだったから、ハムス太郎だ。本当に、他意はない。


 で、俺も彩も我が家で初めてのペットについつい興味津々になって、2人とも母さんの言いつけを守らずにヒマワリの種をハムス太郎に無尽蔵にあげていた。


 すると、ハムス太郎の頬袋がパンパンになって、顔が2倍くらいに膨れて、俺と彩が「本当にこんなに入るのか!」と爆笑した懐かしい思い出が蘇る。まあ、その後、しっかりと母さんに2人で叱られたわけだが。


 ……なんで、懐かしい記憶が蘇ったかって?


「むーぅ」


 まず漂ってくるコーヒーの落ち着く良い香り、会話を邪魔しない程度の静かなジャズ音楽によるBGM、硬過ぎず柔らかすぎずのソファ、スタイリッシュの一言に尽きる木目の美しいテーブル、そんなゆったりとした空間を提供しているカフェのソファ席。


 そんな快適極まる場所にいて、俺の隣でハムス太郎を思い出させるほどに頬を膨らませた美海が不愉快極まっていそうなジト目で俺の方を見ているからだ。


 カフェ・イシュメイル。全世界に……って、もうカフェの話はどうでもいいな。


 で、美海が観たがっていた恋愛映画の最中に起きた聖納とのキス。まるで観ていた恋愛映画と同じように、メインヒロインではなくサブヒロインが仕掛けた主人公を奪い去らんばかりの衝撃的なキス。


 美海も俺とキスをしたがっていたように見えたが、聖納が先んじてキスをしてしまったことで、良い雰囲気も何もかもぶち壊された美海は完全にご立腹だった。


 その後はもう針の(むしろ)というか、地獄の剣山にザクザクと刺されているような生きた心地のしないものだった。


 美海が人前で頬を膨らませ続けることはさすがになかったが、怒りを湛えたジト目がいつまでも俺につきまとって話しかけてもぷいっとそっぽを向くのに、まるで聖納のこれ以上の暴走を許さないかのようにピタリと俺とくっついて離れない。怒りつつも美海がカフェでも俺を隣に座わらせたのもそういうことだろう。ベルトまでしっかりと掴まれているしな。


 そんな美海の態度に、俺はなすすべもなくて美海に翻弄されるがままにただただ付き従う以上のことができなかった。だが、美海に嫉妬されていて、美海が俺と別れる気もないと思えて、むしろ、美海の独占欲を刺激した感じになっていると信じている。うん、信じたい。


 そう思えてくると、美海の膨れ面のジト目もかわいいと思うのは不謹慎だろうか。


 ……調子に乗っていると愛想を尽かされそうだから、気を引き締めていこう。


「…………」

「…………」


 さて、俺は無言で俺と美海の相向かいに座っている聖納の前髪に隠れている目を、見えないながらも思いを込めて見つめてみる。


 どうするんだ、この空気、と。もちろん、俺はこの場を好転させるような何かを思いついていない。だからこそ、聖納に助けを求めている面もあった。


 で、美海を怒らせた共犯というか主犯の聖納は俺を見ているのか、美海を見ているのか、はたまた、気まずくて別の方向を見ているのかさえ分からないが、無言でいるからに思ったよりもマズい状況を作ったと察しているようだ。


「…………」

「…………」

「…………」


 3人の無言の時間が続く。それぞれが手元にあるコーヒーやフラペチーノ、柑橘系のソーダを飲むくらいのアクションはあるものの、予定していたフードを結局誰も頼んでいなかった。


 そう言えば、先ほどもやらかした。なんだか居たたまれなくなって、カフェで飲み物を奢ろうと思って提案したら「やから、そういうの嫌って言ってるでしょ」と冷たく返された。いや、まあ、映画の前に言われていたのにまた提案した俺が悪いのだが、こう取り付く島もない感じは正直辛い。


 辛いと言えば、恋愛映画を観た後、聖納の観たかった映画をキャンセルして別のことを提案しようかと思ったが、「次はせーちゃんのね」とスケジュールの変更も許さない美海の一言でデートは予定通りに続行した。2つ目の映画の最中にちらちらと美海を見てみるも、薄暗がりの中では美海の細かな表情は読み取れなかった。つまらなそうなのか、怒っているのか、悲しんでいるのか、少なくとも楽しそうな顔ではなかった。


「なあ、美海」


「……何?」


 息の詰まりそうな雰囲気を変えようと明るい感じで美海に話しかけてみたが、つっけんどんな感じで返されてしまう。


「いや、なんでもない……」


「何でもないのに呼んだん?」


「えっと、そういうわけじゃないけど」


「じゃあ、何なん?」


「ごめん……本当はただ呼んだだけ……」


 俺は情けなく思いつつも言葉を引っ込めた。


 下手なことを言えば悪化する感じがする。


 不満そうな美海の相手をする俺ももちろん辛いのだが、美海も目の前で彼氏が自分以外とキスをするシーンを見せつけられたのだから辛いのだと想像できる。


 八つ当たりされているわけではないので、俺も美海を怒るに怒れないというか不満を告げることが憚られた。まあ、俺も自分の意思でそうしたわけじゃないので、情状酌量の余地くらいはほしいが、聖納のキスを最後まで拒否せずに受け止めてしまったからなあ。


 聖納とのキス……正直興奮したしな。


「……むぅ」


 少しだけ、美海の頬の膨れ具合が小さくなった。


 そう、時間が解決することだってある。


 怒りがそう続くことなんてない。


 それに美海だって、こんな時間を過ごしたいと思っているわけじゃないだろう。


 どこか、きっかけがなくて、怒っている自分を頑なに表現しているだけだと思いたい。一度振り上げた拳をそのまま何事もなかったように下げるのは中々難しいしな。


「美海、ごめんな?」


「別に……」


「美海ちゃん、ごめんね?」


「……別に」


 俺と聖納が申し訳なさそうに謝ったからか、美海が先ほどよりも軟化している気がした。


 もう一押し入れたい。


「なんか俺にできることないか?」


「……どうやろね? ひーくんに何ができるん?」


「うっ……」


 ミスったみたいだ。


 ジト目で口を尖らせた美海が俺を試すようなことを言ってきた。試されるのは好きじゃない、なんて言ってられない。


 どうする? どうするよ、俺。


 奢る系は完全にアウトだし、勉強系も得意科目が違ってもおそらく論外、またデートしようってのは今すぐ解決できる感じじゃないしそもそも怒っているのにOK出るのか、かと言って、抱きしめたりキスしたりを俺から提案すると俺がしたいだけ感も出るからちょっとなあ。


 いろいろな考えが出ては引っ込んで出ては引っ込んでを繰り返していて、ちらりと美海を見ると、美海が少しだけジト目から普通に戻ってきている気もする。


 それに、ちょっと困り顔っぽい感じもする?


「では、ここで、仁志くんと美海ちゃんがキスとかどうですか?」


 俺が逡巡に逡巡を重ねているとき、不意に聖納が俺じゃ提案しづらいことを難なく提案してみせた。


 そこに痺れる、憧れる! とまではいかないが、すげぇな、とは思う。


「なっ!?」

「にゃっ!?」


 当たり前だが、予想外だった俺と美海は2人して驚きの声を上げる。


 美海との仲直りのキス、か。


 だけど、聖納は俺と美海がキスしても平気なんだろうか。まあ、平気なんだろうな……じゃなけりゃ、そんな提案しないだろうし。


 ……今、なんで、俺、残念に思ったんだろう。聖納が2番目から手を引いてくれる方がありがたいはずなのに。


「今なら誰も見ていませんよ? 私が見張ってあげられます」


 聖納のもう一押しが効いた。


「…………」

「…………」


 俺と美海が無言になって、お互いに横目で見つめ合う形になる。


 恥ずかしいし、外で、人前で、彼女とキスなんて、周りから色ボケのサルだと思われるかもしれない。


 しかし、この一押しに乗るしかない!


「えっと、美海がいいなら、俺はキスしたい」


 言った。美海と聖納くらいにしか聞こえないだろう小さな声で、店内の静かなBGMにさえかき消されそうな小さな声で、だけど、はっきりと俺は美海にそう言ってみせた。


 その証拠に、美海は頬を赤らめて俯き加減になりつつ、何かを言いたげにもごもごと口を動かし始める。


「う……うぅっ……うん……」


 美海の返事を聞いて、俺はゆっくりと美海の方へと身体ごと向き直して、美海の肩に手を乗せた。


「美海……」


「ひーくん……んっ」


 いつ人が周りに来るか分からないという焦りもあって、美海に名前を呼ばれた直後に俺の口は美海の口を塞いでいた。


 ここで初めて、美海の口の中に舌を入れてみた。コーヒーとキャラメルとクリームの香りと味がする。美海の方は俺のコーヒーの味を感じているのだろうか。


 そんなことを考えながら、10秒か20秒かくらいで唇どうしを離した。


 ドキドキする。顔を真っ赤にした美海がとろんとした目で俺をぼーっと見つめてくる。ここが外で良かったかもしれない。家の中でこんな表情をされた日には、我慢などできるわけもないだろう。


「んふふ」


 誰よりも先に聖納の笑い声が聞こえてくる。


「……どう?」


 自分で言っておいてなんだが、「どう」ってどう返すんだよ。お粗末さまでした、とか言うのか?


 だけど、それ以外の言葉が俺には見つからなかった。


「嬉しい……ドキドキした……よかった……」


「そ、そっか……俺もドキドキした」


 俺と美海がすごく良い雰囲気で包まれていると、別の方向から温かくて柔らかな感触が俺の身体に当たっていた。


 聖納である。4人掛けのボックスソファ席、つまり、2人掛けのソファ席に美海、俺、聖納という3人がぎゅぎゅっと詰まっている。


 俺が聖納の方を向くと、俺の唇に聖納の人差し指が触れる。


 午前中の映画のときから、俺はまるで成長していない。そんな俺の気持ちを見透かすように聖納の人差し指が次いで聖納の唇に触れていた。


「じゃあ、次は私、ですよね?」


「せーちゃんはもうしたじゃん!」


 聖納のおねだりは耳を甘く溶かしてくる。


 思わず了承しかけたが、俺が何かを言うよりも早く美海が俺の頭をぎゅっと抱きしめた。


「え? ダメですか?」


「もう今日はひーくんのキスは終わり!」


 静かな店内に響き渡る美海のキスダメ宣言。客が少なかったとはいえ、テーブルを拭いていた女性店員の目がまっすぐこっちを見ている。


「み、美海……声が……」


 俺は何とか口元をフリーにして美海にそう話しかける。


 すると、美海はハッとした様子で机に突っ伏してうずくまり始めた。


「あ、あぁ……あうううううっ……」


 こうして美海のご機嫌もすっかり戻って、ニヤニヤニヤとしている店員さんからのお咎めもなく、残りの時間を楽しく過ごすことができた。


 美海もなんだかんだで聖納の観たがっていた映画をきちんと見ていて、話が3人できちんと盛り上がったのも良かった。


 帰りのバスは、一番後ろの座席に仲良く3人で座ることができると、それぞれが降りるバス停まで俺の両肩が2人の枕代わりになっていた。


 なんだか幸せを感じる重みだ。


 ちなみにだが、最初に観た恋愛映画はなんと前後編もので、後編は鋭意製作中とのことだ。主人公が誰と結ばれるのか、俺はまるで自分の行く末を占うかのようなこの映画の結末を知りたいと思うばかりだ。

ご覧くださりありがとうございました!

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