2-11. 3週目……3人で映画見ましょう!(1/3)
簡単な人物紹介
金澤 仁志:本作主人公。高身長、顔は普通よりちょい下。
能々市 美海:ヒロインその1。低身長の小動物系女子。栗色の長髪持ち。
津旗 聖納:ヒロインその2。胸部爆盛。黒髪で完全目隠れ、眼鏡あり。せーちゃん。
先週のお家デートは良くも悪くも何も大きなこともなく終わり、夏休みも中盤のお盆休み前。
俺は駅前にあるビルに入っている映画館の前に立っている。
映画館の前ということもあって、海外のド派手極まるアクション映画の予告映像を流しっぱなしにしているディスプレイだったり、うるさくならない程度に賑やかな有名な監督が手掛けたアニメ映画の涙を誘うような静かなBGMが流れていたり、さらにポップコーンやチュロスの美味しそうな匂いがここまで漂って食欲を刺激したりしている。
そんな場所で俺は黒の襟付きシャツに濃いめの色のジーンズ、灰色の小さなボディバッグとかなりシンプルにまとめた姿で立っている。もちろんデートのためだ。
きっかけは俺と美海と聖納のグループリンクで聖納が『3人で遊びに行きませんか?』とメッセージを送ってきたことだ。
盆明けにクラスの文化祭準備が始まるため、盆前が美術部の文化祭看板づくりの割とラストスパートに近いとのことで、今週は水曜しか休みがないらしい。まあ、さすがに週4以上は強制じゃなくて任意らしいが、2人ともはじめての文化祭ということで意気込みがすごかった。
で、話を戻すと、美海も3人で遊ぶことに合意して、どこで遊ぶかって話になった。正直に言うと、俺は真っ先に海やプールを選びたい気持ち……しか芽生えなかったが、俺以外の男どもに美海や聖納の水着姿を見せるのも嫌だったり、露骨にがっついているように見えてしまうこと恐れてしまったりしたため、喉から出る言葉を押し込めるようにして意見を言わなかった。
その結果、聖納が提案した『3人で映画を見ましょう! 映画館で2本くらい映画を見て、それからカフェで映画の感想を話してから帰りましょう』ってことで決定した。
ちなみに、映画の決定権は美海と聖納が1本ずつということで……あれ? 俺の決定権ないね、という思いが俺の頭を過ぎったが、2人に喜んでもらえるのが一番だよな、と思い直して一言も言わなかった。
「さすがに40分前は早かったか」
何人もの人、何組ものカップルが俺の横を通って映画館へと消えていく。
集合時間ちょうどくらいのバスもあったのだが、ちょっと早めに着いておきたかったので数本早めのバスを利用した。土日じゃないから朝早めでしかも駅前降車ならルートさえ気にしなければ本数もそこそこある。
しかし、逸った気持ちに駆られて早めに出てしまった感がある。それに俺が中学生のとき、『彼女がいたらしてみたかったこと TOP10』にランクインしている『デートで彼女との待ち合わせに彼女より早く来て、「待たせたちゃった?」と言われて「いや、全然? 今来たとこ」と言う』が達成できそうだ。
もちろん、先日のお家デートでの待ち合わせでもできたようなものだが、こう、なんというか、映画館という特別な場所での待ち合わせの方が俺の中ではそれっぽかったのだ。
ただの俺のワガママだけど。
「ひーくん!」
「仁志くん!」
少し遠くの方から俺を呼ぶ声がしてそちらの方を向くと、エスカレーターに乗ってきた美海と聖納が俺に向かって手を振っている。
「美海、聖納」
俺が2人を呼びながら手を振り返すと美海と聖納の嬉しそうな顔が見える。聖納の場合は口元だけではあるけど。
「お待たせ」
美海は先日のお家デートでのボーイッシュな雰囲気から一転して、薄青色で首元に白くてかわいらしいフリルがあしらわれているワンピースに黒い靴下、茶色のパンプス、白のフリル付きトートバッグ、麦わらのボーターハットでガーリッシュな感じがする。
かわいい。めっちゃかわいい。
「お待たせしました」
聖納も聖納で先日のお家デートとはちょっと違う雰囲気だ。襟に大きなフリル付きの白色のブラウス、肩ひも付きのカーキ色のハイウエストロングスカート、所々の穴から素足が見えるこげ茶色のブーツサンダル、カーキ色のマリンキャップに黒のミニボストンバッグという姿で、若干ゴシックっぽい感じだ。
しかし、肩ひも付きのハイウエストロングスカートって、わざとかなって思うくらいに目の前にドドンとその大きな胸が強調されて、嫌でも周りの目というか、男どもの視線を引きまくっているんだが……。
肩掛けのショルダーバッグでパイスラッシュくらいは拝めるかと思ったが、そんなレベルじゃなかった。ってか、段違いに破壊力がすごい。その豊かな膨らみを余すことなく表現する服装に、って、俺は何を考えて評価しているのだろうか。
変態か。ああ、変態さ。
……あまり見すぎていると、美海にとてもとても叱られそうなのでもうやめておく。
「2人とも一緒だったのか」
「はい、たまたま一緒のバスでした」
まあ、同じ方角から駅に向かうわけだし、だいたいの時間が合えば、そういうこともあるよな。
俺の質問に聖納が答えてくれた後、ふと、後ろにいる見知らぬ男2人が俺を睨みつけていることに気付く。
「そうか。ところで……そちらは?」
見るからに茶髪で金属のネックレスジャラジャラのチャラい感じで年上っぽいので、大学生くらいのナンパ野郎ってやつだろうなとは思う。
「ちっ! 本当に男かよ」
「女子2人だから嘘だと思ったのに……あーあ、損した、次行こうぜ」
そうか。美海や聖納がナンパをあしらうために彼氏がいるって適当に言ったと思ってついてきたわけか。
それで美海たちはわざわざエレベーターでじゃなくてエスカレーターで来たのか。エレベーターだと人の目も少なくなるしな。美海や聖納と男2人の4人で乗ることになったら面倒そうだしな。聖納は特に男嫌いというか男が苦手らしいしな。
なんて思っていると、後ろにいた男2人が吐き捨てるような表情で踵を返してエレベーターの方へと向かう。
「そうだな。ったく、あんな顔で彼女作りやがって」
……言っておくが、いや、思っておくが、俺はたしかに普通か普通よりちょい下だと思うけれど、ナンパ野郎の2人だって普通くらいだからな!? 俺の友だちの方がずっとイケメンだぞ? って……友だちの顔面で勝負しても仕方ないけど。
ただ、すぐに帰ってもらってよかった。
おそらく、ナンパ野郎は俺以外にもう一人男が来ると思ったに違いない。いわゆるWデートのうちの一人だと思っただろう。
まさか、俺が2人の彼氏だとは思うまい。もしそれが分かったら、どっちかを口説こうと面倒な感じになると思う。
彼女公認の二股なんて普通ないしな。それにこの顔だしな! ははっ……ははは……自分で思って虚しくなってきた。
「仁志くんの悪口……」
聖納がボソッと呟き、あと、妙な威圧感を出していた。
目隠れ系って、呪いとかに精通してそうとかは失礼すぎるだろうけど、なんかそれくらいの威圧感を聖納が出していたのは間違いなかった。
聖納、ありがとうな。
「あ、あんね、ナンパされたんやけど、彼氏が待ってるって言ったら、なんかついてきてん。やから、ウチら別に全然、何も思ってないから、ひーくんは気にしんといてね」
だよね、分かります。俺もそこまでは想像できる。美海が必死に俺に弁解してくれているのが、どこかナンパ慣れしている感じじゃなくて初々しさも感じられた。
「私は怖くて話せなかったんですけど、美海ちゃんが毅然とした態度で対応していて、すごかったです」
だよね、それも分かります。聖納1人だったらどうなっていただろうか。逃げきれたか、それとももしかしたら……。そう思うとあまり一人で出かけさせられないなとは思う。
「そうか……やっぱり2人はかわいいからモテるよな。今日の服装もバッチリ決まっていて、俺がこんな格好で恥ずかしくなるくらいだよ」
俺のモテないアピールをどこまですればいいのだろうかと思いつつ、モテるって女の子にとって大事かなとも思って言ってみた。
すると、美海が「全然分かってないな」という顔で俺を見てくるので失敗したと思った。
「ひーくんにかわいいって言われるのは嬉しいんやけど、好きじゃない人にモテてもなあ……。ひーくんはそれよりもひーくんもバスが一緒かなって思ったけど、一緒じゃなかったね? もしかして、自転車で来た?」
「いや、俺もバスだけど、早めに着いておきたかったから」
そう、すべては俺が中学生のとき、『彼女がいたらしてみたかったこと TOP10』にランクインしている『デートで彼女との待ち合わせに彼女より早く来て、「待たせたちゃった?」と言われて「いや、全然? 今来たとこ」と言う』を達成するためだけの行動だ。
いや、おかげで汗も引いてるし、時間に余裕がある感じも出せて、ちょっと大人っぽいって思った。
「そっか、ごめん、待たせちゃった?」
「いや、全然? 今来たとこ」
これ、これを言いたかった。
「さっき早めに着いたって言ってなかった!?」
意外と美海から鋭いツッコミをもらってしまう。出会った頃は俺の方がツッコミ役だと思ったけど、テンパってない時の美海って案外ボケよりもツッコミなんだよな。
……あれ? ってことは、あの時もまだ俺との会話で緊張してたのか、もしかして。
「そこはほら、お決まりのセリフで、こういう所でちゃんと一度言ってみたかったんだよ」
とりあえず、美海にそう切り返す。
そこで埒が明かないと思ったのか、すかさず聖納がパンと音を鳴らすように手を小さく叩いて話を無理くりに中断させた。
「そうなんですね。じゃあ、さっそく、映画のチケットを買いませんか?」
聖納が飛びつくように俺の左腕を絡めとって腕組みをする。
俺は体勢を崩しそうになるも何とかこらえる。
「おっと、聖納、急にはびっくりするだろ?」
「ふふふ」
俺のちょっとした文句にも聖納は気にした様子もなく、腕組みの後に俺の腕に頬を寄せるように顔を俺の身体に預けてくる。
胸と頬の柔らかい感触が俺の左半身の全神経を奪い去っていく。
「むぅ……ウチも!」
ライバル心か、自分が1番目の彼女という自負からか、美海は美海で俺の右腕を絡めとって腕組みをする。
説明しよう。ここで大事なのは身長差だ。
俺と聖納だと聖納の胸が俺の上腕二頭筋くらいでまあちょうどいい感じなんだけど、俺と美海だと美海の胸が俺の掌とまでは言わないけれど、その近くに来るので美海が屈んだり俺がちょっと腕を上げたりすると……意外とある胸を揉める感じになる。
いや、しないよ? しないけどさ、ほら、事故は起きうるじゃない? と俺は俺の中で必死に弁明する。
「おっと、美海も、だから、急にはびっくりするって」
「んふふ」
そんな俺の気持ちを知る由もなく、美海も嬉しそうに俺に身体を預けてくる。
歩きづらい。
正直、歩きづらいけど、嫌じゃない。
「2人とも聞いちゃいないな? まったく……じゃあ、チケットを買いに行こうか」
「ふふふ」
「んふふ」
俺はちょっと歩きづらそうにしつつ、2人と腕組みをしたまま、チケット販売機の方へと歩いていく。
まあ、美海と聖納が嬉しいようで何よりだ。
ご覧くださりありがとうございました!




