1-5. 4月……交換しよ?(1/4)
前話のあらすじ!
俺、金澤 仁志はなんだかんだで小動物系のかわいい女の子、能々市 美海の告白を一時の迷い、というか、まだ好きじゃないみたいな意味わからん理由で断ってしまった。
……というわけで、一言言わせてほしい。
俺のバカ野郎おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!
はぁ……はぁ……で、その後、このまま疎遠になるのも嫌だと、不誠実ながらも思い直しつつ、やはりまだ好きになれていないからという自身の誠実さと、断ってすぐに告白するのもなんだかという変なプライドと、そのほか諸々含めて格闘した結果、なんとか軌道修正して美海と友達から始めることにした。
自分で言っていて、マジで意味分からん。俺、自己保身のただの嫌なやつじゃん。
あと、あらすじが長い。
4月最終週というか、ゴールデンウィーク前の最終週というか。
先週からの数日、能々市……いや、美海と友だちとして時間があれば話すようになっていた。
「仁志くん、おはよー」
噂をすれば影が差す。
1年生の教室がある5階までゆっくりと昇っていると、たまたま後ろから声が掛かって振り向くと、数段下ににこにこっとした顔で右手をふりふりとしてくる美海がいる。
止まらずに上がろうとすると、気付いてほしいと言わんばかりに手の振りが次第にふりふりからぶんぶんに変わって、茶色の長い髪も一緒にあっちこっちと揺られている。
かわいすぎんか?
隣には美海の友達で、やっぱり俺たちと同じ中学だった女子の乃美がこちらをぶすっとした面構えの上に無言で見ている。挨拶をする気がないようだし、正直、好かれていないようだから挨拶するのもちょっと気まずいので、いつも美海にだけ挨拶をしてしまう。
ちなみに、乃美はかわいい系じゃなくて、ショートカットのきれい系で……待て、待て、自分。美海以外の女の子を詳細に描写する自分がなんか嫌だな。
「美海、おはよ」
「ねえ、仁志くんは昨日のドラマ見た?」
俺がようやく立ち止まると、美海が嬉しそうに隣まで階段をぴょんぴょんと跳ねあがってきた。俺と美海の後ろに乃美がぴたりとついてくる。3人で並ぶのはマナー違反ということなのだろう。
その笑顔のまま、美海が最近流行りのドラマの話を振ってこようとする。しかし、残念なことに俺はそのドラマ、というか、ドラマというジャンル自体に興味が持てずに見ていなかった。
どっちかと言うと、俺は漫画やアニメでオタク寄りなんだよなあ。
「あー……ごめん、ドラマは見ないから分からないな」
「あ、そうやったね! こっちこそ、ごめんね」
そう言えば、美海って、ちょいちょい、「だ」が「や」になって、「だ」と「や」が混ざるんだよな。
まだ「だ」と「や」の使い分けの法則が分からないけど、ちょっとかわいい。
「いや、話を合わせられなくて悪い」
しまった。うっかりやってしまう「自分の方が悪かった」という綱引きを続けてしまった。これを続けていると、お互いに引き時を見失うんだよな……。
それもあって、さらに申し訳なさそうな顔を美海に向けると、美海がにへらと何やら嬉しそうに笑ってくれた。
「ううん、大丈夫やよ! 共通の話題探しも楽しいから」
……美海って普通に天使だよな。見た目もちっこいからか、よけいに天使っぽい。可愛いし、性格も良いし、そりゃ人気もあるし、男どもも彼女にしたくてがっつくわな。
美海の「ガツガツが苦手」という言葉が俺の頭の中をぐるぐると回転してアピールしている。それもあって、俺もなんだか踏み込めない感じがしている。
だけど、それじゃダメなんだろうな。
「ありがとな。いっぱいあるといいな」
いや、俺もっと全身全霊を込めてお礼言えよ! なにちょっとかっこつけちゃってんの。確実に、ガツガツしているように思われないようにってヒヨってるんだよな、俺。
「うん! 5か所くらいあるといいな」
間違い探しかよ。
「間違い探しかよ」
「違うよ! 一緒な方だよ!」
そうじゃねえよ!?
「ツッコミがズレてるんだが!? 天然か!? って、なんで俺がツッコミ追加してんの……」
「あ、でもさ」
「え?」
「間違い探しやったら、違っている方が少ないってことやよね? それって、ウチらにとって、すごくいいことなのかも!」
ポジティブすぎんか? いいこすぎんか?
でも、話の方向がだいぶズレすぎてないか? 共通の話題探しの話じゃなかったか?
って、女子のトークの流れを分析している場合じゃない。話を切り出さないと。
「あ、そうだ、美海、あのさ」
キーンコーンカーンコーン。
俺は会話を切り出そうとしたが、ちょうど同じタイミングで階段を昇りきったのと、予鈴が鳴ったことで完全に話の出番がなくなった。
なんでこんなタイミング良いんだよ……。漫画かよ。
「あ、チャイム! また後でね」
「あ、あぁ……」
美海がにこにこっとしたまま、早歩きであっという間に離れていくため、俺は手を振って精一杯の笑顔を返すくらいしかできなかった。その精一杯の笑顔でさえ、決して見映えの良いものじゃないという自覚がある。
実は美海のクラスが俺の隣だと知ったのは告白された後、教室に戻った時だった。
それからというもの、俺が休憩時間中に廊下かベランダかでボーっとしていたり、昼休みにふらっと体育館裏にいったりすると、いつの間にか美海がいて、美海から話しかけてくれる。俺が机に突っ伏して寝ていたり、数少ない友だち話していたりすれば、そのまま関わらないでおいてくれる優しさもある。
で、正直、話しかけられるとめっちゃ嬉しいし、話していて意外と楽しい。やっぱ、さっきみたいに漫才っぽくなることはあるけど、それはそれで楽しい。
しかし、情けないことに俺から話しかけに行けない。単純に恥ずかしいし、俺はまあ、友だちと一緒の時もあれば、一人の時もある。
一方、能々市は俺の見る限りだけど、乃美を含む友だち数人といつも一緒だ。友だちと楽しく話しているところに割って入るなんて、俺にはどう足搔いても不可能だった。
美海や乃美も含めて、このグループのレベル、高めなんだよなあ……。かわいい、きれいの女子グループに話しかけるなんてのは俺にとって、話しかけるハードルがハードルどころか棒高跳びのバーくらいのクラスなんだよ。
でも、美海は友だちと楽しく話していたとしても、俺を見かけるとちょっとしてから来てくれるんだよなあ。だから、美海の友だちからすれば、俺を見てぶすっとしたくなるのも分かる気がする。
美海が俺に構うことで友だちからハブられるようにならなきゃいいけど……。
「今日こそは……」
俺は一人でそう呟いた。さっきの切り出そうとした話は今日こそと思っていたものだったからだ。そう、俺は告白を受けた翌日から試みようとしていることがあった。
連絡先、メッセージをやり取りするスマホアプリ、リンクのID交換だ。
ご覧くださりありがとうございました!