2-8. 2週目……行きましょう!(1/3)
簡単な人物紹介
金澤 仁志:本作主人公。高身長、顔は普通よりちょい下。
能々市 美海:ヒロインその1。低身長の小動物系女子。栗色の長髪持ち。
津旗 聖納:ヒロインその2。胸部爆盛。黒髪で完全目隠れ、眼鏡あり。せーちゃん。
この地方には珍しく、晴れが続いている夏休みの第2週。でも、今日は昼ぐらいに降るって予報だったな。まあ、夕方には止むみたいだから問題ないか。
つまり、今日は雨になる日特有の湿度の高い夏日。
「暑い……っていうか、ベタついて気持ち悪い……」
俺は薄青系無地の襟付き半袖シャツを軽くパタパタ引っ張りながら服の中に風を入れようとしている。
さて、一昨日は美海と1日楽しく過ごせた。
今日は聖納だ。もちろん、聖納にも今日のお家デートを楽しんで帰ってもらいたいけど、美海と最後までできていないから、そこは死守しないと。
あ、やばい。朝、賢者になってないな……。
「だーれでしょう?」
急に目を塞がれてしまい、視界が一気に暗くなる。それと同時に聞こえてくる落ち着きと茶目っ気のある声。
聖納に違いないというか、聖納しかなくないか。
「うわっ!」
俺は小さな悲鳴を上げるが、それは単に視界が真っ暗になったからだけではなく、身長差からか俺の背中にぴったりと温かくて柔らかいものがむにゅっという擬音を出して当たっていそうな感触も覚えたからだ。
どうして、聖納の場合は柔らかさがダイレクトにくる感じがするんだろう。
気になるけど聞けないよな。いや、彼女なら教えてくれるものなのか? 迂闊なことができない俺には許可されても一生聞けそうにないと思った。
「あれ? 仁志くん、聞こえていますか? 私は誰でしょう? ヒントは、えいえいっ」
しびれを切らした聖納がヒントと言って、胸をさらに押しつけてくる。
「ご、ごめん……せ、聖納! ってか、聖納しかなくないか!?」
俺が慌ててそう答えると聖納は満足したようで、そっと俺の目から手を離した。
で、俺が振り返った瞬間に思いきり抱きしめられた。先ほど背中で感じていた温かくて柔らかな感触が今度はお腹あたりに移ったようなものだ。
俺は情けないことに抱きしめ返すこともできず固まってしまっていた。
「ふふふ……正解です」
俺が離れるようなアクションをしなかったために続行して良しと判断したのか、なんと聖納は大胆にも俺の身体に頬刷りまでしてくる。
人の往来がないにしても、道路を過ぎ去っていく車からは丸見えだ。
嬉しい以上に恥ずかしさが勝つ。
「おっと……聖納……目隠しもそうだが、急に抱きつかれるのもびっくりするからやめてほしいんだが……さすがに人前じゃ恥ずかしいし……」
俺はようやく自分の気持ちを聖納に伝えられたのだが、聖納が気にした様子もなく頬ずりを続けている。
「温かい……。仁志くん、私、気付いてしまったんです」
「えっと、何に?」
俺の問いに、聖納は自分の胸をさらに俺に押しつけて回答しているようにも見える。
「私の武器の使い方に、です」
聖納はほんの少し顔を離して上げてから、自身の胸の方を指差してそう答えた。
聖納の口元が妖艶な笑みを浮かべていて、俺はそれにドキッとする。
しかし、使い方を覚えたのはまずいな。
俺の身体と聖納の身体に挟まれるようにして潰れて形が変わっている聖納の大きい胸は思春期の男子にとっては即死級の究極武器だ。
美海と二人きりになってイチャイチャしてもなお昂る本能を抑え込んでいた俺の理性でも、聖納の武器が持つ魅力には抗えないかもしれない。服越しでこれなのだから、生で触ろうものなら多分アウトだ。いや、まあ、待て待て、美海も服越しだからなんとかなった感もあるので、聖納の魅力が特別優位ってことはない。
美海も十分に魅力的だ!
……うん、俺は何の弁明をし始めているんだ?
「武器って……超強力なのは認めるけど……」
「んふふ……えいえいっ」
やめて、そんなに柔らかいものをむにゅむにゅと押しつけないで。
俺のそんな思いを知ってか知らずか、聖納は得意げに笑っている。
「てか、服装もかわいいけど、ニットって暑くないか?」
俺は聖納の胸に全集中するわけにもいかないので、服装という当たり障りのない話題に持っていく。
すると、聖納は俺からようやく身体ごと離れて、それから、一生懸命に考えてきたとばかりに服装をアピールしてくる。
白いニットのカーディガン、それから透けて見えるのは紐も袖もない黒い服で、なんだっけ、ベアトップだっけ? チューブトップだっけ? とにかく、ちょっと大人っぽい感じで、肩も胸元も透けて地肌が見える上に聖納の胸の大きさも相まって透け感が逆に主張を強くしすぎている。
下は膝上くらいまでの丈の紺色のフレアスカートがひらひらとしていて、自転車に乗るからか黒のスニーカーでカーディガン以外は全体的に黒っぽい。
……透け感がやっぱり、普通に叡智だなあ。
「ありがとうございます。お気遣いも嬉しいです。でも、これはサマーニットというもので夏でも涼しく着られますよ」
聖納が俺にさらに服を見せつけるようにその場でくるりくるりと左右に反回転くらいする。フレアスカートの端がひらりひらりと舞っていて、俺は思わず目でそれを追ってしまう。
「あ、そうなんだ?」
白のカーディガンは少し透けて見えるからたしかに薄手で夏向きなのだろう。
サマーニットというらしい。覚えたぞ。
「ええ、でも、暑そうに見えるなら脱ぎますよ?」
聖納がカーディガンの前のボタンに手を掛けて、プチプチっと2つほどボタンを外して胸の谷間を見せつけるようにしてくる。
凝視してしまった。いや、仕方ないよね、だって、男だもの。
「いやいやいや! 大丈夫!」
俺は我に返って慌てて首を横に振った。
すると、くすくすと聖納の小さな笑い声が聞こえてくる。
「ふふふ……やっぱり、仁志くんは中学のあのときから変わらず紳士的で素敵ですね」
「そ、そうかな?」
「ええ、こんな私にも寄り添ってくれる感じで、それに、いっぱい誘惑してみたのに安易に手を出そうとしない。私も2番目だけど彼女なのに、ね。本当に、私も美海ちゃんも大事にしてくれている感じがします」
どうやら試されていたようで、合格ももらえたようだ。
美海が小悪魔感を出すときもあるが、聖納も聖納で俺をからかって弄ぶくらいの小悪魔感を持っているようだ。
彼女2人からからかわれるのは親近感があって嬉しいけど、身体と理性が持たない。
「これ以上はからかわないでくれ。俺の心臓持たないから……」
「ふふっ……ところで、服の流れで、ですけど、仁志くんは中学の頃から私服が変わりました? 夏期講習のとき、制服のときもありましたが、私服が四字熟語で印象的でした」
あ、そうか。聖納とは私服で会ったことあるな。まあ、夏期講習だし、聖納どころか女子を意識してなかったから、四字熟語の白Tシャツを着ていた気がする。
あれ? あの時の聖納の服装ってたしか……なんだっけ……。
「俺だって少しは人目を気にしないと、俺の横にいる美海や聖納がかわいそうだろ」
今週の月曜、美海と会う前からファッション誌も眺めるようになった。それもメンズとレディースの両方に目を通している。
中学生の時の俺が見たら、きっとあり得ないと笑っているだろう。なんなら、今の俺でも自分のことが笑える。俺は身長が高いくらいしかない平凡さだから、少しでも身なりを整えないといけないと思った。
いや、正確には、母さんと彩の入れ知恵なのだが……きっかけはともあれ、少しは美海や聖納の隣にいてもおかしくなくて笑われないような格好をしないといけないと思った。まあ、と言っても、金があるわけじゃないので、上はともかく、下はジーンズが数本しかないけど。
「そこまで考えてくれているなんて嬉しいです」
聖納が両手を胸元あたりで合わせていて、感激しているようなポーズを取っている。
あぁ、そのまま聖納の胸に視線が行く。落ち着け、俺。
「さて、じゃあ、行くか」
「行きましょう!」
「……あれ?」
「どうしました?」
「いや、雲行きがな」
見上げてみると、先ほどまで灰色ぐらいの曇りだったが、よりどんよりとした黒みを帯びた雲へと変化していた。
「仁志くんの家に急ぎましょうか」
「そうだな」
俺が自転車にまたがったとき、ポツリと俺の鼻の頭に冷たいものが当たった。急に辺りが暗くなり、俺は再び見上げると雲は濃いめの黒に変色していた。
「あ……雨ですね……」
まずい。自転車だから傘がない。昼からと思って、レインコートもない。
それは聖納も同じだったようで、自転車のカゴにある大きなリュックサックから何かを取り出す気配がない。
……いまさらだが、リュックサックでかくないか? と、そんなことを気にしている場合じゃなかった。
ポツリ、ポツリと振り始める雨が徐々に日に焼けて白けていたコンクリートを黒っぽく染めていく。雨の一粒がデカいから、ひどくなりそうだ。
「やべ、大粒になってきた! 急ごう!」
「は、はい」
俺は聖納に声を掛けつつ俺の家へと先導していく。
どうも雨脚が強まっていて、びしょ濡れ確定の勢いだ。
「はあっ……はあっ……大丈夫か?」
「ふうっ……はい……えっと、でも、服がだいぶ濡れてしまいました……」
急ぎで俺の家に着いた頃には、俺も聖納も濡れネズミ状態で着替えるしかなかった。
聖納の肌に張りついた白いカーディガンが雨のせいでより透けていて、直視するのも躊躇われる感じだ。まあ、ブラが見えないから大丈夫なんだろうけど。いや、待て。肩ひもないけど、ブラってどうつけているんだ?
分からんけど、これも聞くのはやはり憚られるなあ。自分で調べるか。
「そうだな。母さんに言っておくから、服を乾かしていきなよ。代わりの服は母さんに聞いてみるから」
俺は玄関前で聖納にそう伝えてから玄関のドアノブに手を掛けた。
「だったら、仁志くんのシャツが着たいです。彼シャツって憧れていたんです」
俺の手が止まる。
これに答えてから開けないといけないな。母さんや彩の前で彼シャツをねだられたら恥ずかしいし。
しかし、聖納が彼シャツに憧れているなんて知らなかった。
聖納の彼シャツ状態は、胸のせいで大きめのシャツでもパツンパツンなんだろうなあとか妄想する。
「……ほかになければ、そうしてもらうか」
「はい!」
良い返事だな。
いつもこうだといいんだけどなあ。
今回はまあ、聖納の意見に合わせたからいい返事なんだけどな。
そんなことを考えながら俺はガチャリという音を鳴らして玄関の扉を開けた。
「ただいま! 聖納を連れてきたんだけど、雨に降られた! おーい、彩いないか?」
俺はできる限り声を張り上げて妹の彩を呼ぶ。このまま靴を脱いで入るわけにもいかないからタオルを持ってきてほしいんだよな。
「お邪魔します」
聖納は美海と違って、かなり落ち着いた様子で静かに言葉を口に出している。
こういうときの度胸はやはり聖納の方が上なのだろうか。
そんなことを想いながら、横にいる聖納を見つめていると、奥の方からドタドタドタと遠慮のない足音が聞こえてくる。
こんな足音を立てるのは彩だ。
「あ、おかえり、お兄ちゃん。と、いらっしゃい、みな……みちゃん?」
彩が美海という言葉を口にしてから完全に固まっている……?
なんだ? あれ? と俺は若干の冷や汗とともに首を傾げそうになる。
俺さっき聖納って言ったよな?
改めて彩のびっくり仰天の顔を見たこの時、俺はようやく「あ、そういや、彼女が火曜木曜に来るとは言ったけど、母さんや彩に彼女が2人いるとか言ってないじゃん!」などと心の中で叫んでいた。
つまり、母さんも彩も、今日も美海が来ると思っていたってことか。まあ、彼女が2人いるなんて普段の会話で言えるわけもないんだけどな!
しかし、自業自得なんだけど、俺、なんて言えばいいんだ!?
ご覧くださりありがとうございました!




