2-3. 1週目……触らないで!(1/2)
簡単な人物紹介
金澤 仁志:本作主人公。高身長、顔は普通よりちょい下。
能々市 美海:ヒロインその1。低身長の小動物系女子。栗色の長髪持ち。
津旗 聖納:ヒロインその2。胸部爆盛。黒髪で完全目隠れ、眼鏡あり。せーちゃん。
夏休み1週目の金曜日。夏休みの前期補習も今日で終わり、最後に補習の到達度テストがあったけど、今回は美海や聖納と勝負しないということで落ち着いた。
まあ、1学期の期末テストの結果から考えれば、確実に聖納に勝たれてしまうからな……。まったく勝負にならないというのが実際のところだ。それと前回の雰囲気だと負けたら何をお願いされるか……まあ、悲しき男の性としては、ちょっと期待してしまうこともあるけどな。
でも、美海が「今回はなし」と言ったので、聖納も「そうですか、分かりました……」とちょっと残念そうな雰囲気を見せつつも意見を1つも言うことなく静かに従っていた。
よくよく考えると、聖納って俺相手だと暴走しがちであんまり俺の言うことを聞かない気がするけど、美海の言うことはほぼほぼきちんと何も言わずに従うんだよなあ。
うーん……なんでだ? 俺には何を言っても何をしても大丈夫だと甘えているのか、それとも、美海の言うことを聞くしかないような何かあるのか。でも、美海に何かあるなら「2番目の彼女になる」と言って、こんな強引な二股恋愛なんてしないよなあ。
分からん、まったく分からん。今度、2人きりになった時に聞いてみるか。
「ひーくん、お疲れ! 補習終わったね!」
そんなこんなで補習が終わって、人もさっさと帰って教室がまばらになっていく中、美海が隣のクラスから楽しそうな笑顔とともにやってくる。
朝はまだ長髪を下ろしたままだったが、今見てみるともう髪の毛はお団子になっていて準備万端という感じだ。いや、今日のお団子は左右2つに分かれていて、しかも、シュシュじゃなくてシニョンだ。チャイナドレスが似合いそうな、つまり、中華っぽい。
「…………」
美海がチャイナドレスを着ていたら、かわいいだろうなあ。暖色系が似合う美海だが、赤よりもオレンジやピンクの方が似合いそうだな。
だが、しかし、彼氏としてスリットを入れすぎるのは良くないと思う。膝上くらいまでのスリットがいいと思う。いや、そうだろう。それがいい。叡智な感じよりもかわいらしい感じを前面に押し出したチャイナドレスがいい。
でもまあ、俺の前でだけなら、もちろん、それ以上があっても万事OKだ。彼氏特権だろ。
「ひーくん? ひー……くん? おーい」
はっ! 美海を放っておいて……何をボーっと考えているんだろうか、俺は。
「あぁ、美海、お疲れさま。ごめん、ちょっと真剣な考えごとをしていた」
嘘は言っていない。真剣に考えていたからな。ただし、俺の真剣な考えごとが美海のチャイナドレス姿の妄想だと思いも寄らないだろう。
美海は俺の言葉を聞いてから、ちょっと不思議そうな顔をしつつ口元に指を当ててかわいらしい仕草をしながら俺の顔をまじまじと見てくる。
かわいいけど、なんでそんな顔するんだ? なんか俺の顔についているのだろうか。
「そうなん? 真剣? ちょっとイヤらしいこと考えてなかった?」
ちょっとバレとるやないか。俺の表情筋、変に仕事しすぎだろ。いや、むしろ、真面目な顔をする仕事をしてくれ。
「ぜ、全然?」
「ふぅん……へぇ……そうなん?」
ちょっとキョドった。そのせいで美海が少しニヤリとしている。具体的な内容はともかく、これは完全に叡智なことを考えていたのがバレてしまったなと観念する。
だが、このまま下手に追撃されて、美海の叡智なチャイナドレス姿を想像していたとは悟られたくない!
話題を変えよう! そう、話題だ! 目の前にいいものがあるじゃないか!
「それはそうと髪型変えた?」
そう、髪型。女の子との話題の鉄板ネタが目の前にあった。というか、妄想の原因もそれだしな。
俺が人差し指でちょいちょいと美海の頭に乗っているシニョンを指し示す。
「あ、うん、そう、今日、お団子を変えてみたんだけど、えっと、どうかな?」
もじもじとして俯き加減で俺の反応を気にしている美海をかわいいと思いつつ、俺はまっすぐ美海を見つめてはっきりと答える。
「すごくかわいい。満点かわいい。美海は天使だな。お団子1つもよかったけど、2つもいいな」
3つもいいかも、まで言うとギャグになって怒られそうなので言わなかった。
「そこまで褒めなくても……ちょっと……恥ずいよ……でも、えへへ……えへへへへ……すっごく嬉しい!」
美海が一旦さらに俯いた後にバッと顔を上げて、太陽のような眩しくもデレデレっとしたはにかみな笑顔を俺に向けてくる。
俺の先ほどまでの叡智な妄想が溶けて消えるくらいに、俺の中の何かを浄化してくれている。
そんな気がする。やっぱり、天使だな。
「素直な感想だからなあ。ところで、今日もお団子ってことは、この後、美術部か?」
「うん、そう。それに、来週も月水金と丸一日ある感じかなあ……」
「そうか、大変だな」
来週は3年生がマーク模試や夏期学習のため、部活がなければいよいよ本格的な夏休みって感じだ。で、美術部は文化祭の準備が夏休みに重なって割と活動中とのことだ。
夏休みを使ってでも部活をするなんてすごいなあ。
俺は真剣に取り組んでいる美海と聖納を尊敬する。
「ひーくんと遊びたかったんだけどなあ」
美海からそんな言葉が漏れ出て、なんかかわいいなと思って、俺は我慢できずに小さく笑ってしまう。
そりゃそうか。美海だって、部活だけじゃなく遊びたいよな。
「俺も美海と遊びたいからさ、土日や火木で遊ぼうよ? どう?」
俺が美海の部活のない日に遊べないかと聞いてみると、美海がスマホを取り出す。その後、美海は起動音を鳴らしたスマホの画面とにらめっこし始めて、どうやらスケジュールを確認しているようだ。
「うーん。今週の土日は家族でお出かけなんよ。お父さんとお母さんがどうしてもって」
ふと、美海って、「お父さん」、「お母さん」呼びなんだなと気付く。
「そうか。じゃあ、来週の火木はどうだ?」
美海は再びスマホとにらめっこをして、うんうんと嬉しそうな顔をして頷き始めた。
「うん、火曜なら朝から夕方まで大丈夫!」
よし! 付き合い始めてから、初めてのデートだ! なんだかんだ私服で一緒に出掛けたことないしな! しかも、朝から夕方までOKなら、けっこう遊べそうだな。
映画やカフェ、ランチはファミレスあたりでどうにか、あとは美術館とかかな。俺だと一日中本屋とかCDショップとかになるからなあ。
せっかくの初デートだし、なるべく美海に楽しんでもらいたい。
「よし、じゃあ、どこがいいかな? 美術部だから美術館とか? それは安直かな? それとも映画とか観に行く? 映画、気になっている作品なかった?」
俺がいろいろと言ってみるも、美海はどこかピンときていない様子だ。
もしかして、俺が思いつかない場所なのか? と、しばらく待ってみると、美海がもごもごとして恐る恐るといった感じで口を開く。
「えっと……わがまま言ってもいい?」
ここは俺の男としての器の見せどきか? 高校になってから小遣いを貯めるようにして美海にしょんぼりされないように構えていた。数万円は無理だが、1万円以内なら……どうにかしよう! いや、毎回は無理だけど。
「あぁ、いいよ。あんまりお金がかかると難しいかもだけど、まずは教えてほしいな」
「お金はかからないと思うんやけど……えっと……ひーくんのお家に行きたいんやけど……」
え……家? 俺の家? 初デートはお家デート? 学生らしくていいけど、財布事情的にももちろん助かるけど、待て待て、日中は母さんや妹がいるから、リビングでゆっくりとサブスクの映画とか観られないんだよなあ。
「え……家?」
「ダメかな?」
ダメじゃない。全然、ダメじゃない。
「ダメじゃないけど、俺ん家は一日居てもそんなに面白いかどうか。母さんや妹もいるだろうし、そうするとリビングで映画とか観られないんだよなあ」
俺が家の状況を説明すると、美海は数回深呼吸してからゆっくりと声を出す。
「あ、妹さんもいるの? でも、あの、ひーくんって、自分の部屋、あるよね? ほら、お願い事のやつ……」
俺の部屋? おれのへや? O,RE,NO,HE,YA?
あ……あああああっ! 俺が期末テストで勝ったときのお願い事で言った「俺の部屋に連れ込む」ってやつか!?
え、来週!? 初デートでするの!? もっと段階踏まないの!?
待て待て、待ってくれ。えっと、えっと……いや、考え込む前に返事!
「あ、あるな……前にそう言った覚えがあるし……」
「やよね……ウチ……ひーくんと2人きりで一緒に過ごしたいな……って」
こんなにがんばって言ってくれた美海の提案を断れることがあろうか、いや、ない。
これはあれか……確実に、あれか。美海が聖納に宣言した俺とのセッ……えっと、まあ、そういう行為を夏休みにするって言ったからか?
え……ってことは、本当に来週? 俺の部屋で? 俺の親や妹がいる家で? 誰もいない隙を見計らおうと思ったけど、マジで? できるのか? するのか? マジで?
「……わかった」
薬局で買わなきゃ……。一箱? いや、二箱くらい買っておくか? そもそも、何個入りだ? 何個入りなんだ!? 俺は何回するんだ? 何回できるんだ!?
「わ、わーい……やったあ……ひーくんの部屋で……わーい」
美海はかわいらしくしてどうにか誤魔化そうとしているが、俺に意図が伝わっていると確信しているのだろう。恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら、直接的な表現を避けているように見えた。
俺だって直接的な表現は避けたい。だって、周りにまだ人いるしな。
でも、周りよ……まばらながらも教室にいる周りの者たちよ……察するのはいいけど、素知らぬ顔で聞き耳を立てているの分かっているからな? 顔を真っ赤にしながら素知らぬ顔は聞き耳を隠すの下手過ぎるだろ……。
「あ、えっと、その、あー。俺の家に直接は緊張するだろ? どこかでまずは落ち合おうか」
美海の緊張が俺にもしっかりと伝わってしまい、俺も同じように緊張してしまう。
むしろ俺が美海の緊張を和らげてあげないといけないのに。
「そうやね……じゃあ、いつもの集合場所なんてどう?」
「わかった。じゃあ、朝からいいなら10時にいつもの集合場所ってことでいいか?」
美海がこくこくと頷く。
その後、美海からリンクに連絡があり、『次の火曜10時にいつもの集合場所』というメッセージとそのメッセージをアナウンス状態にしてくれる。
確実にこのお家デートを成功させるという意気込みが感じられる。
「よろしくね」
「よろしくな」
そうお互いに言って、まだ何も始まっていないのに、なんだか緊張の糸が途切れてしまって、2人で顔を見合わせてクスッと笑い始める。
笑っているけど、いや、俺、部屋、土日に片付けないとまずいな。
特に美海に見せられないものを封印しないと。巨乳モノとか見られたら絶対に気まずい雰囲気になるからな……。いや、どんなジャンルでも見られたらアウトだけどさ。
「だーれでしょう?」
そんな声が聞こえると同時に、俺は急に目を塞がれてしまい、ビクッと身体を震わせる。
この落ち着きのある感じだけど茶目っ気もある声は間違いなく聖納のものだった。
ご覧くださりありがとうございました!




