1-4. 4月……付き合お?(4/4)
ちょっとしたあらすじ。
俺、金澤。高校1年生の春、同学年の女の子、能々市さんの告白&玉砕シーンに遭遇してしまう。その後、傷心中の彼女をしてみると会話が意外と面白いほどに弾みに弾んで、彼女の雰囲気が変わったことを感じた。
いや、この先どうなるんだよ、本当に。
そりゃ、イケメンじゃないさ。どう考えたってモブだよ、モブオブモブ、キングオブモブよ。でもな、イケメンじゃないとはっきりと言われると、そりゃ、イケメンじゃないと自覚していてもただただ辛い。
ってか、自分で思っていても、人に言われるとどうしても傷付くわ……。
「いい意味で、やよ?」
どんなフォロー?
ただし、イケメンに限る、なら星の数ほど聞いたことあるけど、ただし、イケメンじゃないに限る、なんて聞いたことないわ。
「いい意味で、やよ? じゃないんだよ……そもそも、イケメンじゃないにいい意味ってなんだよお……」
「え? 普通ってこと」
「なら、普通とか、せめて平凡とかモブとか言えよお……」
正直、それらすら人に言うのはまあまあ微妙なラインだが、まだマシだ。
「モブって悪口じゃん!?」
「おいおい……イケメンじゃない、は……そうか、悪口じゃなくて事実か……って、余計に傷付くわ!」
相手から悪口のつもりなく、ただただ事実を突きつけられる悲しみはかなり重たい。
「なんか、ごめん」
「このタイミングでマジな顔で謝るなよお」
能々市にしゅんとされて、なんだか俺の方が悪いんじゃないかって思えてくるけど、もう俺の心、既にボロボロサンドバッグなんだわ。
「ねえ……金澤……」
「え……何……?」
「…………」
「…………」
あー、なんか急にじっと見られ始めた。え、この流れから? そんなことある? 嫌な予感するなあ。
いや、俺の自意識過剰か。いや、この流れはもう確実だろ。
……確実だよな?
それでも、あとで、能々市に「そういうつもりで言ったんじゃないんですけどお」みたいなこと言われたら傷付くだろうなあ、俺。
「私と――」
「お断りします」
私、まではこらえて、と、まで出てきたので、もう自意識過剰と思われてもいいやと思い、早押しクイズ並みの早さで食い気味に回答した。
「えええええっ!? フラれたあああああっ!? なんでえ? かわいいって、話しやすいって言ってくれたじゃん!」
自意識過剰ではなかったようだけど、どうしたものか。本当は断る理由なんてないんだけど……いや、さっき思いきり傷付けられたよな。
まあ、それはよくて。
「いや……なんていうか」
「私のこと、いいなって思ってくれたと思ったのに」
「いや、正直、いいなって思うんだけどな」
「じゃあ、なんで?」
正直、なんか勢いよく近付かれるのが怖かった。距離感が急に掴めなくなって、急に目の前に現れてきたような感じ。
あぁ、これが能々市のいつも感じているものの一部なのだろうし、さっき先輩が感じただろう、日常に入ってきた異物感というか恐怖みたいなものなんだろうな、と経験して思った。
能々市のこと、かわいいって、付き合えたらって、そう直前まで思っていたはずなのに、とっさに出てきた言葉は「お断りします」だった。もっと言えば、やっぱ好きかどうかも分かっていない女の子に、かわいいからってOKするのは……なんかできなかった。
「いや、さ。能々市は俺のことどんだけ知ってるんだよ」
とりあえず、断った理由を取り繕わないといけないと思い、さっきと似たような質問をしてみる。
「同学年」
俺は身体を前のめりにして滑ってコケた表現をする。
「だ、か、ら、単語で返すな。一問一答じゃないんだよ」
「えっと、同学年で、身長が高くて、いちごなオ・レが好き」
「どう考えても、今の俺を見て言ってるだろ、それ」
能々市が分かりやすく目線をきょろきょろと動かしながら、言葉を続けているんだから、そう思うほかない。
「だって、ほとんど話したことなかったんやもん。でも、たしかに、話しやすかったし、怖くなかった」
なんとなく、能々市が言ってくる理由が小動物的な感じだ。「怖くなかった」と言われるのは良く言えば紳士的だということなのだろう。
ここで、ちょっとだけ、いや、かなり、断った後悔が押し寄せてきた。
でも、高校生男子のよく分からないプライドが「やっぱ、断ったのはナシ」とまでは言わせなかった。
というか、急に掌を返したことでガツガツしているって思われて幻滅されるのが嫌で臆病なだけとも言える。
なんとか、なんとか……これからに繋げないと。
あれ? 俺、先輩にキープしないが誠実とか評価していたのに、俺自身、不誠実……だよな、これ。でも、それでも、なんかワガママでも嫌なんだ。
「そうか、言ってくれて、ありがとう。とりあえず、もう授業も始まるから。また今度な」
「……え? また今度?」
俺は立ち上がって、「いちごなオ・レ」を勢いよく飲み干す。
能々市も俺につられて立ちあがって、俺と並んでみると、やっぱり、能々市の身長って小さいよなって思う。小学生に間違えられてもおかしくない気がするぞ。
なんか、こう、守ってあげたくなるような感じ、と言えばいいのか。
そう、庇護欲か。
「いや、さ。断ってから、こう言うのもズルい気もするけどさ。なんでもかんでもすぐに恋人として付き合う前に、お互いを知るために友達から始めればいいだろ? それでなんか違うなって思えば、それで……離れ……られるしな。まずはさ……その、なんだ……だから友達とか……もしくは……話し相手くらいからどうだ?」
「……それって! もう! さっきので、涙が出そうになったじゃん! そんな冷たくするなら、友達にもなってあげないよ?」
友達から始める、という単語をポジティブに受け止めたのだろう。
能々市の中で、「金澤にフラれた」から「金澤とお友だちから始める恋愛」に書き換わったのだと俺は感じた。
どちらかと言えばネガティブに受け止めやすい俺でさえも、そうポジティブに受け止められるくらいに、能々市のニコニコとした笑顔が眩しかったからだ。
やっぱり、能々市は泣き顔より笑顔の方が可愛いわ。
途端にイジワルしたくなった。
「じゃあ、もういいでーす! 次の方へどうぞー!」
「待って! 意地悪言わないで! 毎日話に行くから!」
「いや、彼女かよ」
「付き合ってほしいって、さっき言ってるんやけど!?」
「そうだったな」
いや、言うの防いだから言えてねえけどな。まあ、そんなことはどうでもいいからまともに返すこともせず、校舎の方へと俺と能々市は歩いていく。
「ねえねえ、友達でしょ? ウチのこと、美海って呼んでいいよ」
待ってくれよ。また距離感おかしくなりそう。女の子を名前で呼ぶなんて、非モテにそれは難易度高すぎるんだが。
ってか、ラフになると、一人称が「私」から「ウチ」になるのか。今は標準語に地方訛りが入っているけど、しばらくすると、語尾とか地方色出そうだな……。
「じゃあ、能々市さんで」
「じゃあ、じゃないじゃん! さん付けに戻ってるし! ちなみに、ウチは金澤のこと、仁志くんって呼んでいい?」
「いや、彼女かよ」
「それさっきやったじゃん! もう勝手に仁志くんって呼ぶ!」
……ここまできて、これからも考えて、俺だけ変わらないのもなんか違うよな。
「はいはい……美海のご自由に」
「あっ! えへへ」
内履き用スリッパ、学年カラーの派手な青色をした便所サンダルの音が俺と美海の2人分、歩幅や速さの違いからそれぞれの音を立てながら校舎へと向かっていった。
ご覧くださりありがとうございました!