1-30. 7月……がんばろ?(2/4)
簡単な人物紹介
金澤 仁志:本作主人公。高身長、顔は普通よりちょい下。
能々市 美海:ヒロインその1。低身長の小動物系女子。栗色の長髪持ち。
津旗 聖納:ヒロインその2。胸部爆盛。黒髪で完全目隠れ、眼鏡あり。せーちゃん。
松藤:仁志の友だち。バスケ部。美海と小学校からの知り合い。
鶴城:仁志の友だち。バスケ部。美海と小学校からの知り合い。
美河:仁志の友だち。バスケ部。美海と小学校からの知り合い。
俺たちの高校には運動会というものが存在しない。その代わり、なぜか球技大会が1学期と3学期に計2回あって、クラスマッチという名前で学年ごとにクラス別対抗戦をする。しかも、1学期は学期末に実施でなんとこれの翌日が終業式という驚きだ。
クラスマッチは男子と女子に分かれて、若干男女で種目が異なるが、バレーボール、バドミントン、テニス、卓球みたいな時間無制限の点数勝負系はトーナメント戦、ミニサッカーやバスケなどの時間制限があって早回しできるものはリーグ戦となっている。
なお、自分の部活の種目には参加できないようになっているのだが、まあ、俺、文化系の部だから関係ないっちゃない。
そのクラスマッチ当日。真夏の体育館は窓を開けても暑く、既に汗が滲み始めて、体操服を引っ張って服の内側に風を送り込む仕草をする奴が大半だ。
「ウチもせーちゃんもバレーにできたから、一緒の体育館やね! クラスマッチ、お互いにがんばろ?」
美海と聖納が俺に近づいて来て、声を掛けられる。美海は栗色の長髪をポニーテイルにしていた。明るく元気で活発な感じがしてとてもよい。
はい、満点かわいい。
ちなみに、美海が言う「バレーにできた」は、俺が美海にクラスマッチのことを聞かれた時に参加する種目を答えたら合わせると言ってくれたからだ。
でも、美海。美海の身長だと、バレーはつらくないか? リベロ的な? あれ? リベロってバレーで合ってたっけ?
「仁志くん、美海ちゃん、がんばってください! 私は応援がんばります!」
「いや、聖納もだろ?」
俺が何となしにそうツッコミを入れると、聖納はもじもじと少しバツ悪そうな仕草をし始める。
「私は運動が得意ではないので、最初の1試合だけでして」
クラスマッチは種目ごとに補欠メンバーもいるため、全員最低1回の試合をすればOKとなっている。1回も出ていない生徒がいると判明したら、反則負けで優勝しても無効になる。
といっても、成績にほぼ反映されない以上、クラスが優勝に向けて盛り上がっているようでなければ、何の意味もない制約ではあるが……。
「運動、苦手なの?」
「はい。ちょっと身体の事情で……」
そう聞いて、聖納は喘息か何かの持病持ちなのかと心配になったが、すぐに聖納が恥ずかしそうに自分の胸をツンツンと指差し始めたので、なるほど、さすがバレーボールが分身の術を使っているといわれる胸か、と納得した。
そういや、初めて聖納の体操服姿を見たけど……このド迫力は完全にアウトだろ。完全に目がそっちに向かうというか、周りの男子もチラ見どころかガン見してる奴いるし。
ふはは、この胸は俺がいずれ……いや、いずれって何だ。何故、俺は変な優越感に浸っているんだろうか。そもそも、聖納に失礼だな。
しかし、この暑すぎる中でも、体操服の上に冬用長袖ジャージまで着込んで、見ているだけでこっちも暑くなりそうだ。
つうか、バレーボールよりも大きくないか?
……大きくないか!?
「ねえ? ひーくん? ……せーちゃんの胸、見すぎじゃない?」
余計なことを考えている間も、つまり、聖納の胸を意識していない間も視線はばっちり聖納の胸にロックオンしていたので、いい加減にしろと言わんばかりに美海が低い声でそう言ってきた。
ちょっと無理している感じの低音がかわいい。
「いや、その、決してやましい気持ちで見たわけじゃなく……人体の神秘をだな」
「仁志くんならいいですよ。ちょっと、今日のはかわいくないですけど」
俺がジト目の膨れ面で抗議してくる美海にあやふやな物言いをしていたら、聖納がジャージのチャックを半分ほど下げて体操服の上が露わになったかと思えば、さらにその体操服の首元に手を掛けて、せいいっぱいに伸ばした。
そこには聖納が普段誰にも見せることのないむちっとした谷間と、その大きな胸を支える黒い飾り気のない多分スポブラがあった。
やはり暑かったのか、ちょっと汗ばんでいるのがより叡智である。
「わぁ……わぁ……っ」
思わず口を半開きにして白のゆるキャラっぽい声をあげてしまった。
「もうっ!」
「いでっ!」
直後にジト目で不機嫌そうな美海に脇腹をバシッと叩かれる。けっこう、痛い。
「もう、せーちゃんも! ひーくんをウチの前で誘惑しないで!」
「美海ちゃんがいなければいいんですか? 2人きりのときとか?」
聖納がきょとんとした顔で美海にそう訊ねる。
聖納、それは違う。そうじゃない。
相変わらず無敵か。つうか、そんなこと言われると、今後2人きりのときに警戒しないといけなくなるんだが。
2人きりの時も穏やかに楽しく過ごそうぜ。
「それはっ! ううっ……違う……もっと嫌だ……」
ですよね。よかった。たまに美海が分からなくなるけど、今回は俺の予想したとおりだ。
「ふふふ。美海ちゃんもかわいい」
美海の顔色はすっかりと落ち込むと言うか嫌がっていると言うか、少なくとも面白くなさそうな悲哀の色味もあるものになってしまう。
すると、聖納が美海を抱きしめ始めた。
……かわいい女の子どうしが密着してイチャイチャしている感じっていいよな。どちらも俺の彼女のはずだが、百合じゃないはずだが、その間に入ることは許されない気がする。
あ、美海の顔がとろけ始めた。
「はうっ……これはすごい……」
思わず、ゴクリと喉が鳴った。
「すごいのか……」
もっと感想がほしいと思って、とろけた美海と柔らかそうな聖納の胸を見ていると、不意に後ろから肩を叩かれる。
同じクラスの男子だ。
「おい、金澤。イチャついてないで早く来てくれよ!」
「あ、すまん! それじゃあ行ってくる」
第2体育館はバレーボールのコート3面分ギリギリ程度で、奥の1面が女子、手前の2面が男子という割り振りだった。使えるコート数は限られていて、全学年が利用するので体育館は入れ代わり立ち代わりとなる。
「がんばって!」
「がんばってください!」
美海と聖納に見送られて、コートに入った瞬間、否応なしに殺気を感じた。
「試合で彼女の前で無様な姿を晒させてやんげん……」
「あいつ、なにしとんがん」
「ぶちのめす……」
「ぶっとばす……」
「スパイク顔面に当てたろか」
「イチャイチャしやって……」
「ラフプレーしたろか、こん野郎……」
「後ろからサーブ当てんぞ……」
うん、なんで、味方からも殺気を感じるんだろうなあ。
おかしいなあ。
「おーい、金澤。お互いにがんばろうなあ」
「あ、鶴城か。ってことは、2組?」
相手側にいた鶴城が軽くコケたふりをする。
「いや、1組。2組は美っちゃんや。覚えが雑やんなあ。いい加減にしまっしまあ」
「おぉ、すまん。どっちにしても、負けないからな」
「にしても、金澤、松っちゃんとは決勝まで当たらんって劇的やげん、がんばりいやあ、まあ、手は抜かんし」
そう、何の因果か、約束した松藤とは決勝まで勝ち進まないと当たらないトーナメント表になっていた。
「もちろん」
だが、残念がっている場合じゃない。何としても、がんばるぞ。
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