1-Ex8. 7月……2人きりですね?
オマケ回です!
今回は主人公金澤 仁志と津旗 聖納のコミカルでちょっとドキッとする2人きりのシーンです!
美海と甘々な時間を過ごした翌日の昼休み。今日も暑いながら、日陰は若干涼しい。昨日の余韻を残している俺は今日、聖納と体育館裏でやっぱり「いちごなオ・レ」を2人して美味しそうに飲んでいた。
このわざとらしいイチゴ味が昨日の美海とのキスを思い出させ、しばらくはあの柔らかな唇の感触を忘れられそうにない。
「2人きりですね」
「あぁ、そうだな」
ところで、美海と聖納の話を聞く限り、美海が優先で、美海がいない時や美海が聖納と一緒でもいいときに聖納がいることになるらしくて、そこは2人で予めやり取りをしているから、俺が気に掛ける必要はないとのこと。
ちなみに、俺が昼休みに1人でいたいときとかは美海に連絡しておくと放っておいてくれるらしい。
で、それだと優先される美海の方が長い時間を一緒にいるかと言えば、そういうわけでもない。実際のところ、昼休みだと美海は乃美やほかの友だちと一緒にいることが多いため、昼休みは聖納と一緒にいることが多くなりそうだ。
聖納も女子の友だちはいるようだが、俺を最優先にすると宣言している。まあ、聖納が俺を慕ってくれている強いきっかけや、これからの距離感を知るにはちょうどいいか。
「…………」
「…………」
で、正直、聖納も俺も自分からあんまり話すタイプじゃない。だから、時間が穏やかに流れている気がする。これはこれでホッと安心できる時間だ。
俺がちらっと聖納を見ると、即座に俺の視線に気付いてニコッとしてくれる。
よかった。無理に話そうとする感じもなくて、この時間をどうやら楽しんでくれているようだ。
「…………」
「…………」
美海か俺かに気を遣っているのか、俺にべったりとくっつく感じではなく、ほんの少しだけ間を空けて座っている。正直、くっつくと聖納の胸が気になってしかたがなくなるので、こういう風に配慮してくれるのは非常にありがたい。
聖納は美海とも少し違った優しさと気遣いができるいい子なんだよなあ。
そんな感じで静かすぎる時間を過ごしていると、俺の腹の虫が鳴りだした。
そう、まだ昼飯を食べていない。
「ごめんなさい。気付かなくて……連絡したようにお弁当を作ったんですけど」
「あ、そうだよな。俺の腹の虫が聖納の弁当を期待していたみたいで欲しがってるな」
「ふふふ」
「あはは」
聖納はきっと俺と一緒に「いちごなオ・レ」を飲む時間を楽しんでくれていたのだろう。昨日、リンクで連絡くれていて「手作り弁当を持参してくる」とあったが、弁当をまだ取り出していなかった。
聖納が「いちごなオ・レ」を地面に置いて、持ってきていた運動部が使うようなサブバッグをごそごそとあさるようにして弁当を取り出し始める。
「仁志くんのお口に合うか分かりませんが……」
そこから取り出したるは……見事な黒色の漆塗りの1辺が20センチメートルほどの三、段、重!
……は? 三段重!? 2人分にしてもちょっと多くないか!?
「三段重!?」
正月か花見かにしか見ないような大きく立派な三段重に俺が驚いていると、聖納が目隠れだけれどきっと俺をじっと見つめていて不思議そうに首を傾げている。
そう言えば、聖納の顔をちゃんと見たいな。
「た、足りないですか?」
「いや?」
逆よ。どうしてそう思ったよ。俺はフードファイターか?
ホッとした聖納が慣れた手つきでパカパカパカと各段を横並びに置いていくと、冷めているはずなのに、ふわりと美味しそうな匂いが周りに広がっていく。
炊き込みご飯、卵焼き、から揚げ、ポテトフライ、ウインナーにミニハンバーグ、煮物から焼き魚などに加えて、俺が呼び名を分かりそうにもない料理まで、バラエティに富んだ弁当が俺の前に広がっている。
俺に合わせて、男が絶対に好きなメニューをこれでもかと勢ぞろいにして作ってきましたという雰囲気や意気込みがありありと表現されている。
もちろん、俺の腹の虫が早く寄越せと再び鳴いた。すると、聖納が嬉しそうにして声を出さずに笑う。
「あ、私ったら、慌てちゃって……ちゃんとお味噌汁もありますよ」
いや、汁物、別にあるんかい。聖納が水筒というかポットみたいなサイズの保温容器を取り出して、パカッと開けると味噌汁が2つ分現れる。
味噌汁特有の食欲をかきたてる香りが温かさをもってふわりふわりと漂ってくる。
「すごいな……全部手作り?」
「はい。私、お料理も趣味なので楽しくなっちゃって……いつもより種類多く作っちゃって」
「そうなのか。すごい豪華だからびっくりしたよ」
俺が分量はともかく、この豪華さに手放しで称賛すると、聖納はすごく嬉しそうに柔らかい笑みを浮かべている。
やっぱ、聖納もかわいいよな。正直、美海も聖納も俺にはもったいないくらいだ。
「うふふ……ありがとうございます。あの……仁志くん、あーん」
聖納がちょっと恥ずかしそうにしながらも、卵焼きを箸でつまんで俺の目の前にゆっくりと持ってくる。
まあ、そりゃ、あると思ったよ? 弁当作ってくれるって知った時点で、聖納なら「あーん」をしてくるだろうって思っていたよ?
でも、実際に、聖納が本当におずおずといった感じで、受け入れてほしいって感じで、少し震えながら差し出される卵焼きはなんだか俺まで恥ずかしくなってきた。
しかし、俺も男だ。恥ずかしさも全部一緒に食う!
「あ、ありがとう。あーん」
差し出された卵焼きをぱくっと口を開けて食べる。
聖納の笑みが最高潮に達しているように見えた。
「美味しいですか?」
聖納はドキドキしているようで、箸を持っていない方の手を胸に当てて俺にそう聞いてくる。
すげえ、美味い。え、すご、これ。俺の好みばっちりな甘さ。
「すごく美味い……びっくりするくらい。プロレベルじゃないか?」
「そんな、良い奥さんになりそう、だなんて!」
うん、言ってないよ? プロレベルって言ったよ? どう変換した? 英語の翻訳がエキサイトすぎんか?
ちなみに喜びのあまりに聖納が身体を左右に動かすので、立派なお胸もぶるんぶるんとして俺の視線を奪っていく。
この横揺れは反則だろ。もうそれ以外の言葉が見つからんよ。
「はい、仁志くん、あーん」
「あーん…………美味い」
次に出されたミニハンバーグを食べる。どれも美味い。冷めても美味い。
「あ、ごめんなさい、ソースが。失礼しますね」
聖納はそう言うと俺の口元についてしまったソースをペロッと舐めた。
「!?」
聖納の舌の柔らかな感触が口元だけではなく、俺の唇にも触れていった驚き、正直、美海のときよりもドキドキが抑えられない。
これ、反則すぎるだろ。下手すると、唇どうしのバードキスより叡智だぞ。
反則級の技が先ほどから連続で繰り出されている。
健全な男子高校生にこの技の数々は辛い。
「ちょっと憧れていて……ダメでした?」
「いや、嬉しいよ」
「よかった」
ん? 俺、なんで嬉しいって言っちゃった?
これ、嬉しいって言ったら、ダメじゃないか? いや、聖納も彼女とはいえ、俺は美海一筋のはずだろ?
なんで、俺、無意識にそう言った?
そう思い直して、話を即座に変えることにした。
「でも、聖納、あーんは嬉しいんだけど、これじゃ聖納が食べられないからさ、一緒に食べられる方が俺は嬉しいし楽しいと思うけど」
「そうですね! 一緒に食べましょう!」
ニコニコニコリとした満面の笑みの聖納がさらに取り出したるは、見事な朱色の漆塗りの1辺が20センチメートルほどの三、段、重!
え……三段重が……2つ……? 1つをシェアじゃないの!?
「三段重は一人分!?」
「これ……夫婦……の三段重なんです。たくさん食べてくださいね!」
夫婦って言葉を出したとき、聖納のなんて眩しい笑顔。頬を赤らめて、両手を頬に触れさせて恥ずかしそうに伝えてくれた。
でも、夫婦の三段重って何? 作った人は、夫婦してフードファイターな家族を想定されていますか?
だが、ここで残したら、せっかく作ってくれた聖納に申し訳ない。
「あ、あぁ……もちろん」
「では、私もいただきますね」
俺は確信した。
聖納のとった栄養は勉強のできる頭のほか、残りが胸や尻にいっているのだと。
聖納は終始綺麗な姿勢でゆっくりと礼儀正しく食べながら、一切ペースを落とすこともなく、何の問題もなさそうにしっかりペロリと完食をしていた。
一方、何とか食べきった俺は昼以降、腹が苦しくて授業どころではなかった。
ご覧くださりありがとうございました!




