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今日も2人だけで話そ? ~彼女2人が公認の二股恋愛!?~  作者: 茉莉多 真遊人
1年生 1学期

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1-Ex7. 7月……2人きりやね?

オマケ回です!

今回は主人公金澤と美海の甘々2人きりシーンです!

 今、俺と美海は昼休みに日陰のある若干ひんやりとした体育館裏で「いちごなオ・レ」を2人して美味しそうに飲みながら他愛もない会話をしている。


 セミたちが自己主張を激しくしている7月の暑さの中、美海は長い髪を手で掻き上げたり、パタパタと手で仰いだり、スカートを中が見えないようにバサバサしたりして熱を逃がそうとしている。その一方で、俺とはぴったりとくっついて頭を俺の肩に預けるように傾けていた。


 首をひねって美海の横顔を見ると、暑さか恥ずかしさか、少しだけ頬を赤らめながら、でも、とても幸せそうに口の端が若干上がっている。


 あー、もう。かわいいな。正直、場所が何をしても誰にも見えない場所なら、俺も男だし、夏休みを待たずして美海と……していたかもしれない。


 まあ、でも、さすがに今はそういう場所でもムードでもないし、今はとにかく2人で他愛のない会話を楽しむ感じだ。


「なんか久々な感じ。しかも……やっと2人きりやね?」


 美海が頬を俺の肩にこすりつけるようにして上目遣いになって、俺は美海の意味深な言葉にドキっとする。俺と美海が数秒、いや、数十秒、無言で見つめ合ってから、耐えきれなくなって2人して前に向き直ってしまった。


 金網越しに見える小さな小道には人も車も往来がない。


 この体育館裏は北側に面しており、体育館がつくる日陰が夏場だとちょうどよく涼しく、ちょっと暗い感じもあって静かで落ち着いた良い雰囲気になる。


 こうして、俺が中学生のとき、『彼女がいたらしてみたかったこと TOP10』にランクインしている『学校で彼女と「いちごなオ・レ」を飲みながら、できればなんだかんだでちょっとくらいイチャイチャしたい』が達成されようとしていた。


「……2人きりだな。でも、リンクでも話をしているし」


「むぅ……テスト勉強週間とテスト期間、それからはせーちゃんも結構一緒だったから、3週間くらいひーくんとこうやって2人で話せなかったんだよ? ウチ、こうやって話したくてウズウズしてたんだから。それくらい分かってほしいなあ」


 俺の言葉に不満げな美海がぷくっと頬を膨らませて少しばかりの非難めいた言葉を口にする。


 かわいい。ほっぺたをつつきたい。それで、つついたらもっと膨らむに違いない。


「そっか、そうだよな。俺も美海と話すの楽しみにしていたから嬉しいよ」


「ほんと?」


 美海が再びこちらを見つめに顔の向きを変えると、美海の瞳が日陰にも関わらずハイライトがあるようにきらきらと輝いていて眩しささえ感じる。


「ほんとだよ。嘘なんて言わないよ」


「ひーくん……大好き」


「俺もだよ」


 美海は先ほどよりも俺に身体を預けるようにもっと寄りかかってくる。中間テストのときに抱きしめたのとは違うドキドキ感とふわっと香ってくる優しく甘い匂いが俺の鼓動を速く大きくしていた。


 それと、美海の愛情表現が前よりもパワーアップしている気がする。恋人になって遠慮がなくなったのか、聖納という強力なライバルが頭にちらつくのか、それともその両方、はたまた別の要因か。


「そういえばね、ゴールデンウィークくらいから、実は料理を始めたんだけど」


「え、そうなの?」


 美海が楽しそうに突然始める料理の話に、俺は別のことも考えながら相槌を打つ。


 何にせよ、美海がこの状況で無理をしていないかだけが心配だ。


 美海が考え直してくれるなら、俺は聖納との二股状態を全力で解消する。ただ、美海には何度聞いても「ううん、せーちゃんも大事にしてあげないと」と言うだけだ。


 美海の過去に何かあったのか? きっと何かあったんだろう。ただ、俺から見て、聖納に負い目があるようには見えないから、それはたぶん聖納とは直接関係ない。


 だから、美海だけの何か。中学校の時か、それとも、小学校の時か?


 2人きりなんだから聞きたい。美海のことをもっと知りたい。


 でも、美海が知られたくない何かなら? 俺は美海からそれを聞きだしてどうしたい? 美海の中にあるわだかまりを解決できるのか? いや、きっと、できずに聞いただけで終わる気がする。


 おそらく、小学校、中学校が美海と一緒な松藤あたりなら知っているかもしれない。それとなく聞いてみるか。それとも、それさえも美海を傷つける可能性があるのだろうか。


 聞きたい、傷つけたくない、この2つがはたして両立できるのか。


 俺の中でそれが今は答えの出ることがない葛藤になる。


「ひーくん?」


「ん……んんっ!?」


 ふと名前を呼ばれて美海の方を向くと、美海が飲んでいた「いちごなオ・レ」のストローが俺の口に突っ込まれた。


 おやおやおや、ひょっとしなくとも、これは間接キスじゃないか。


 なんて、ちょっと嬉しくなっていたけど、美海のさっきよりもぷくーっと膨れた頬を見て、今度ばかりはちょっと怒っていると気付いて違う意味でドキドキし始める。


「ひーくん、話、聞いてないでしょ?」


「いや、聞いてたよ。料理でしょ?」


「ふーん……料理の練習したから、夏休みにどこかの公園でデートしない? って聞いたんだけどなあ? どっから聞いてなかったのかなあ?」


 あ、やべ、話がけっこう進んでいた。100%、聞いてなかったって確信されている。


「……ごめん。考え事してた」


 言い訳せずに素直に謝ると、美海の頬が半分くらいまでしぼんだ。でも、まだちょっと怒っているようで、眉間にシワを寄せて目を細めている。


 いや、でも、この顔もかわいいな。


 写真撮影OKだろうか、なんて、また考えが逸れてしまう。


「むぅ。ひーくん、2人きりのときはウチを見てほしい」


「ご、ごめん」


「じゃないと、ウチ、不安になる。ウチはひーくんの好きをもっと感じたい」


 美海の「不安」という言葉にハッとする。俺は美海が無理しないように、不安にならないようにと考えていたはずなのに、自分の行動で美海を不安にさせてしまった。


 これは猛省だ。目の前にいる美海に向き合わないと。


「美海……ほんとごめん。美海のこと、好きだよ。でも、考え事も美海のことを考えていたんだ」


「え?」


 ちょっとだけ不安を消せるようにからかおう。


「いや、部屋を片付けないと呼べないなって」


 美海は最初、頭の上に「?」を3つくらい載せているような不思議そうな表情を浮かべるが、徐々に意味を理解したようで、顔がどんどん赤みを帯びてくる。


 さすがにこれは夏の暑さのせいではない。


 やがて、美海は俯き加減になって顔が見えなくなって、ポコポコと右手で軽く俺のことを叩いてきた。


「あ、うぅ……もう、そんなこと考えてたん? ひーくんの叡智」


 いや、その言い方……。


「なんで、エッチじゃなくて、司書さんみたいに叡智って言うんだ?」


「んえ? こっちの方が恥ずかしくないって司書さんに言われて、なるほど! って思ったの」


「なんだかなあ……」


 もろ影響を受けているな。司書も理解ある大人というポジションに収まっているし、この状況を若干楽しんでいる節もある。


 まあ、聖納の暴走を目の当たりにして、司書もちょっとやりすぎたかと反省しているようにも見えるが。


「ひーくん」


 ふふふ。そう何度も同じ手は食わんと思いつつ、次はストローを避けて見せようとしたところ、目の前に迫ってきていたのは美海の顔だった。


「んんっ!?」


 美海が目を瞑っていたからか少し強めに押しつけられたぎこちない柔らかさと、ふんわりと香るいちごの香りで、俺は何もできずに固まってしまう。


 あぁ、美海の唇が柔らかくて、まつ毛が長くて、少し汗ばんだ肌が艶っとしていて……。


 俺のファーストキスは間違いなく「いちごなオ・レ」味だった。


「んぅっ……んっ……」


 美海のつい出てしまっているような甘い声が俺を理性から本能への線引きまで引きずっていく。


 俺の手が所在を求めて美海の肩に置かれると、美海はびくっと動いた。


 何秒経っただろうか。いや、数十秒はこのままだったかもしれない。


 しばらくして、美海は顔を離すととろんとした表情で俺を上目遣いに見つめてくる。


 見た目は年下に見えるくらいなのに、その表情はどこか大人びていたというか妖艶で目を離すことができなかった。


「……美海」


 俺が美海の名前を口にすると、美海は我に返ったかのように両手で顔を隠しながら、全身を俺に預けてきた。


「あぅ……うぅ……何も言わないで。恥ずかしかったけど、せーちゃんに先を越されたくないって思って」


 ここで聖納の名前が出て、俺は何とも言えない気持ちになって、肩に置いていた手を次は美海の頭を上にぽんと置いて撫でていた。


 ふと、周りを見渡す。うん、大丈夫。誰もいない。今のキスは見られてないな。


「気持ちは分かるけど、無理はしないでほしいな」


「無理じゃないよ。せーちゃんがいるとね、背中を押されている感じがする」


 その背中を押す力が強くなりすぎないことを願うばかりだ。


 で、この雰囲気なら、もう少し踏み込めるかもしれない。


「……そっか。なあ、美海、なんで美海は今の状況を認めているんだ? 聖納が……津旗がいなければ――」


「ひーくん、大好きだよ。だから、せーちゃんのこと、そんなふうに言わないで?」


 俺は露骨にはぐらかされて遮られてしまい、それ以上、何も言うことができなかった。


 今はまだか。


 そう悟った俺は予鈴が鳴って慌てふためくまで寄り添うように座っていた。

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