1-27. 7月……すごくない?(3/4)
簡単な人物紹介
金澤 仁志:本作主人公。高身長、顔は普通よりちょい下。
能々市 美海:ヒロインその1。低身長の小動物系女子。栗色の長髪持ち。
津旗 聖納:ヒロインその2。胸部爆盛。黒髪で完全目隠れ、眼鏡あり。せーちゃん。
乃美 梓真:美海の友だち。あーちゃん。
湖松:仁志の友だち。こまっちゃん。
司書:図書室の受付お姉さん。仁志を「少年」呼びする。
俺が美海、そして、津旗と付き合っているという二股公認になって1週間。
「君って子は本当に……節度ってものを……性の乱れはね……そもそも……二股とか? そんなんじゃ立派な大人には……」
養護教諭の説教が断片的に聞こえてくる。いや、真剣に聞いているつもりだけれど、どこか他人事のように聞いていたのかもしれない。
結局、津旗の噂もバレて、保健室に呼び出される羽目になった。先日は美海の件だけだったらしい。
それで、性の乱れがどうとかつらつら言われるが、いや、まだ俺、Dなのよ。金澤・D・仁志なのよ。なんならまだ美海や津旗の水着姿くらいの露出だって見てないのよ。
いや、待て。美海はともかく、津旗まで想像したらダメだろ、俺。
脳裏に浮かぶ光景は、目が絶対に向いてしまうような津旗の水着姿だ。想像しただけで俺の心臓が跳ねる。いかん……いかんぞ! 俺は美海一筋なんだ!
とにもかくにも、うんざりするほどにたっぷりもらった説教の後、静かに一礼して大人しく粛々と保健室を後にする。
「……さて、行くか!」
気を取り直して俺は歩く。
この後、俺はメインイベントを控えているからだ。
そう、なくなるかと思っていた美海とのテスト勝負。俺は会場となる図書室へと足早に向かう。
今回は自信がある。数学が思ったよりも悪くなくて、でも、クラス平均がかなり低かった。美海と違うクラスとはいえ、クラス平均に大差などないだろうし、美海は数学が苦手だ。
英語はドツボにはまって59点以下だが、国語も社会もそんなに悪くなかったし、実技4教科もまずまずの点数だった。
さて、何をお願いしようかな。お願いしたいことがあるって前に言ったけど、実は決めてなかった。
いやはや、恋人どうしになったし、2週間後には夏休みも控えているし、これはもしかするともしかして、という展開もありうる。少なくとも、こう2人きりで良い雰囲気になって、キスくらいはぜひとも……。
ふふっ……ふふふふふ……ふふふふふ……。
「なにあれ……」
「ニヤニヤして気持ち悪い……」
「…………」
俺は美海との妄想に浸ってしまったばかりに、廊下という公衆の面前で「気持ち悪い」と呟かれてしまうような顔を晒してしまったようだ。
辛い。顔に自信は一切ないのだが、それでも「気持ち悪い」と言われるのは辛い。
俺はそのまま無表情で図書室へと向かい、いつものメンツが集まっているカウンターへと急ぐ。
「私もテスト勝負したいです! 私も金澤くんと勝負してお願い事をしたりされたりしたいです! 私、金澤くんになら、だいたいなんでもできます!」
「だそうだ、少年。受けるか?」
そこには当然のように津旗もいた。もちろん、テスト勝負が持ち掛けられる。司書に問われ、俺はいきなり悩むことになった。
うーん。ところで、津旗ってテストの点数どうなんだ?
ちらっとこまっちゃんに視線を送って可否の判断を仰ごうとするも、「フェアじゃない」と言わんばかりの顔で肩を竦ませていた。
「…………」
友人ではあるものの、ズルになるようなことには加担しないということだろう。
次に美海を見ると、じっと俺を見つめている。
うん、かわいい。でも、どっち? 受けた方がいいかな? 受けない方がいいかな?
「っ!」
なんて、俺は質問をテレパシーで送るつもりで見つめ返していると、美海が顔を真っ赤にしてそっぽを向く。
すごくかわいいけど、判断材料にならんな……。
「ん?」
では、乃美はと言うと、「男なんだから勝負しろよ」と言わんばかりの鬼気迫る表情が露骨に見えている。
まったく……格闘系はこれだから……。
「決まったか?」
で、司書は当然ニヤニヤニヤリとするばかりで、まあ、「受けた方が面白いだろ?」と言わんばかりの様子だ。
悩んだ末、俺は答えを口から出す。
「そうだよな。俺と美海がしているのに、津旗としないのはおかしいよな」
「やったあ! よろしくお願いします!」
受けることにした。
目隠れの津旗だが、その表情は豊かで手に取るように分かる。口元がすごく嬉しそうで、仕草も両手を小さくガッツポーズしている感じでウキウキしているし、津旗もなんだかんだでいろいろとかわいいんだよなあ。
「では、少年v.s.美海ちゃん、少年v.s.聖納ちゃん、と勝負相手が決まったところで、私から1つ提案だ」
司書がここにおいて、提案という言葉を使ってくる。
「なんですか?」
「?」
「?」
俺が少し嫌な予感もしつつ司書に訊ね、美海と津旗が首を傾げていた。
「最大3つのお願いにしてみないか? 基本6教科の合計、実技4教科の合計、総合10教科って感じでな。3つのお願いなんて、ランプの魔人みたいだろ?」
俺は思わず口元を手で隠す。
なるほど。上手くいけば、3つ。そうでなくとも1つは取れる可能性が出てくるということか。
美海との勝負。俺はぜひともその提案に乗りたい。お願い事は多い方がいいし、前回のお願い事から察するに、美海も俺との仲をより良くするようなお願い事にするに違いない。
つまり、俺に損はほとんどない……はず。まあ、高いものはお互いにねだらないという条件も残っているだろうし、美海の笑顔のためなら、ちょっとくらいなら散財も辞さない。
問題は、津旗との勝負だ。正直、お願い事で何を言われるか分からない。だけど、津旗のことだから、そんなに難しいことは頼まないか。いや、でも、予備彼女って言って、二股関係を押し切るくらいだからな。
ええい、考えても仕方ない! ここは安全を見て、残念だが総合だけで。
「賛成!」
「賛成です!」
「では、賛成2票の時点で可決ということで」
「……はい」
……うん。俺が言う前に決まっちゃったよ。
なんか、俺の意見、最近、通らなくない?
……いいもん。美海に勝って、たくさん願い事を聞いてもらうもん!
「では、1つずつ勝負!」
「仁志くん、今回はウチも自信あるからね!」
「俺は美海にも津旗にも負けるつもりはないぞ」
「自信たっぷりな金澤くん、かっこいい。私、自信なくて……」
こうして、俺と美海と津旗はテストの点数を見せあうことになった。今回、乃美とこまっちゃんは点数開示をパスした。
その後のやり取りがまあ、長くなってしまったので、結果だけ示すとこうなった。
現代国語、俺65点、美海78点、津旗92点。え?
歴史総合、俺72点、美海80点、津旗96点。は?
英語、俺54点、美海75点、津旗90点。はい?
数学Ⅰ、俺76点、美海50点、津旗90点。うえっ!?
数学A、俺74点、美海55点、津旗94点。げげげっ!?
理科化学、俺70点、美海62点、津旗94点。まじか!?
合計、俺411点、美海400点、津旗556点。
うげっ……。
基本6教科の結果、俺は美海にギリギリで勝って、津旗に大差で負けた。100点以上の差って、総合得点ももう危うい。
自信がないって誰が言ったっけ、ってくらいに目が覚めるような大敗だ。
「せーちゃん、すごい」
「津旗って勉強すごいできるんだな」
「いえ、金澤くんとテスト勝負すると思って、必死に頑張りました。なんとか勝てたみたいです」
なんとかって謙遜するレベル超えてるんだけど?
というか、先読みというか、もうその頃には俺と付き合う気満々だったんだなとか思った。下手すると、中間テスト終わりの頃からそんなことを頭の片隅に思っていて勉強してきたんじゃないかってくらいにこの点数差は歴然だった。
「いや、ほんと、津旗、すごいね」
「えへへ……」
俺が褒め言葉以外見つからずに素直にそう呟くと、津旗は嬉しそうに笑っていた。
まさか津旗がこまっちゃんクラスの勉強のできる子だったとは思いもよらなかった。ってか、数学も俺負けてるじゃん。
で、次は実技4教科。
技術家庭、俺80点、美海80点、津旗100点。
美術、俺86点、美海94点、津旗94点。
音楽、俺74点、美海80点、津旗96点。
保健体育、俺92点、美海82点、津旗92点。
合計、俺332点、美海336点、津旗382点。
あー……実技4教科の結果、俺は美海にも津旗にも負けた。
「やった! 仁志くんに勝った! お願い事がまず1つ。んふふ。って、せーちゃん、湖松くんくらい……すごくない?」
「津旗は圧倒的だな……」
いや、津旗、やべぇな!? 勝負にならないんだが!? え? 何これ、津旗、分かっていて「お願い事したりされたりしたい」とか言った? されたいって何? 微塵もないよね、負ける雰囲気。
おいおいおい……とんだ策士だぞ……。とんだ負け試合を受けちまったじゃないか。
ふと、こまっちゃんを見ると、先ほどと同様に肩を竦ませていた。
……あ、あれか? こまっちゃん、「フェアじゃない」って言いたいんじゃなくて、勝ち目がないって意味で肩を竦ませていたのか? 周りに分からないように? 露骨な表現を避けて? マジかよ、俺の勘違いか!?
「ということで、少年たちが総合でも勝負すると?」
「えーっと……」
俺が計算した結果、10教科の合計は、俺743点、美海736点、津旗938点だった。
ということで、俺は美海に2勝1敗、津旗に0勝3敗という結果に落ち着く。
「うーん……1勝か。でも、総合点勝負だけだったらお願い事なしだからよかったかも」
「わぁ……金澤くんにお願い事が3つもできるんですね!」
美海に勝ち越したのはいいけれど、津旗に全敗したのはちょっと怖い。
それで津旗が飛び跳ねるくらい喜んでいるけれど、美海や乃美は露骨に顔を引きつっているんだよなあ。
「さて、少年ことランプの魔人よ。何か言い残すことはあるか?」
いや、何、俺、死ぬの? むしろ、津旗の最後の願いで俺を友だちとして自由にしてくれないかな。
「えっと、津旗? お手柔らかにな? 俺、そんなに金とかないから」
「大丈夫です! 金澤くんはお金まったくかかりません!」
うん、それもそれで怖い。俺「は」金がかからない? え? 津旗がお金をかけて何かするの? いや、何をさせられるのよ、俺。
「えーっと……さて、誰から願い事を言うんだ? 美海ちゃんか? 聖納ちゃんか? それとも、少年か?」
司書がニヤニヤというよりは苦笑いを必死に隠しているように見えた。
「はい! 私からでもいいですか?」
津旗が嬉しそうに手を挙げている。
やはり、先陣を切るのは津旗だったか。
何を言うかは分からないけど、本当にとても嬉しそう。
「え、まあ、いいんじゃないか?」
司書もさすがにこの展開は読めなかったようで、どこか歯切れ悪く進行している。
「金澤くん、私も美海ちゃんのときと同じ感じで抱いてください!」
うん、1つ目の願いからして俺は何とも言えなくなった。
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