1-23. 6月……今さら?(3/4)
簡単な人物紹介
金澤 仁志:本作主人公。高身長、顔は普通よりちょい下。
能々市 美海:ヒロインその1。低身長の小動物系女子。栗色の長髪持ち。
津旗 聖納:ヒロインその2。胸部爆盛。黒髪で完全目隠れ、眼鏡あり。せーちゃん。
生徒玄関で心配そうな表情をして俺を見る津旗と出会う。
これは、先日のことを知っているな。だったら、津旗には悪いけど、俺が急いでいる理由も分かるだろう。
「津旗、ごめん、俺急いでいるから」
俺は津旗の横をすり抜けようとする。
しかし、意外にも津旗が俺のポロシャツの裾をぐいっと掴んできた。
一瞬、「離してくれ」という言葉を語気強めに出しそうになって、ぐっと息と一緒に飲み込む。男子が苦手な津旗に怒鳴るのはマズいと思ったからだ。
それに津旗の表情が真剣な雰囲気で、きっと目が見えたら真剣な眼差しなんだなって思う雰囲気で、俺が少し気圧されたってのもある。
「待ってください。さっき美海ちゃんに会って話したんです」
「え?」
美海は体育館裏へと向かうために玄関を通っていっただろうから、津旗と少し会話になってもおかしい話ではない。
津旗は美海と何を話したんだ?
「美海ちゃんに、金澤くんのこと、これからもよろしくって言われました」
ガツンと殴られたような衝撃が全身に走る。
「え……」
美海が津旗に俺のことを頼んだ?
これは……そうかあ……まあ、完全に終わったな。
だけど、こんな終わり方はないだろう?
美海の口から、きちんと聞かないと。津旗の口からだけ言わせるなんて、美海らしくないだろ。
それが俺のワガママだと言われようと、聞きに行かなければならない。
でも、もちろん、その上で避けられたら、諦めよう。しつこく聞くほど理解のない頭はしていない。
ただ、このままじゃ終われない!
俺が進もうとすると、まだ津旗は言いたいことがあるようで離してくれない。
「あの、その、私、美海ちゃんが先輩に告白されて、今日そのお返事するってことを知っています」
「あぁ……だから、俺はその場所に行って……」
「わざわざフラれに行くんですか?」
「ぐふっ!」
「本当に、わざわざ、フラれに、行くんですか?」
剛速球のド直球! なんで2回言った?
さっき奮起していた気持ちも粉々に打ち砕かんばかりの一言、しかも、二回攻撃だよ!
分かるけど! 分かるんだけどさ! 俺も逆の立場だったらもしかしたら言っちゃうかもしれないけどさ! もっとオブラートに包んでほしい。どうして、津旗も乃美も手心がないんだ。
俺が傷つかないとでも思っているのか? むしろ、俺、丁寧に優しくしてほしいですけど。
「うぐっ……で、でも……」
「私、金澤くんが傷つくところを見たくないですし、傷ついてもほしくありません……」
いや、既に津旗の指摘でだいぶ傷ついているんですけど。
ただ、津旗の声が涙ぐみ始めていたことに気付き、その考えが引っ込む。
「津旗……」
津旗は相変わらず目隠れだから、涙が溜まってきているのかは分からない。
ただ、俺を心配してくれていることは十分に分かる。
津旗がこんな会って間もない俺みたいなやつでも心配してくれるような、友だち思いって分かって俺はちょっと嬉しくなった。だからこそ、美海も津旗に俺のことをよろしくって言ってくれたんだろう。
でも、美海、それはちょっと片付けが雑過ぎるだろ。
「金澤くん、私、金澤くんのこと好きです」
……え?
「……え? はい? ええ? 好き?」
あれ? 好き?
ん? 好き?
あるぇるぇ? どゆこと?
ごめん、ちょっと美海のことで頭いっぱいだったから、全然理解が追いついてないんだけど。
「私、その、男の子が苦手で……小学校でも中学校でも……今でも、その、身体のことで嫌な思いをすることが多くて……」
唐突に自分語りを始めたんだが……。
これ、俺、聞かなきゃいけないやつだよな?
さすがに、女の子に面と向かって真剣な感じで「好き」って言われて、「あっ、そう、ありがとね、じゃあ」とはならんだろう。
急いでいたって、そこまで俺はひどくないぞ。
でも、ちょっと察してほしいなあ。俺、急いでいるんだけど。
津旗はやっぱり無敵だなあ。
「あ、あぁ……そうなんだ……まあ、何となく分かるけど……」
「でも、金澤くんは出会ったとき、全然、そういう感じがなくて、私に話を合わせてくれたり、お話も楽しかったりして、なんだかホッとしたんです。連絡先を無理に聞き出そうとしてこなかったし、夏期講習の後、全然会うこともなくて、逆に私から連絡先を聞いておけばよかったと後悔したくらいでした」
「そ、そうなんだ?」
いや、まあ、初対面で女の子に苦手だと思われるほど、俺がぐいぐいといけないってだけなんだが。
「それに、このストラップ、覚えていますか?」
「あ、あぁ、有名なアニメだし。夏期講習のときに話になったよね」
「そうなんです! 私、これがとても好きなんです。でも、ほかのみんなからは、そういうのつけるのやめなよ、みたいなことを言われたこともあって……自分がしたいことに自信がなくなっていたんです……。でも、金澤くんは『好きなものは好きなんだから周りを気にせず付ければいいじゃん』って言ってくれました。それが私にとって、どれだけ心強かったか」
そう、話を聞いていたのも、趣味のアニメや漫画の話だったからで、俺もそのアニメやそのキャラが好きだったからで、もしもあんまり知らない女の子から急にファッションの話なんてされたら、多分、話を聞いてられなかっただろうな。
でもまあ、好意的に見てくれているってことだよな。好意的……で片付けていいかは分からなくなっているけど……。
ってか、周りの男子、俺がそんな良く見えるくらいにガツガツしてたの? 津旗に興味のなさそうな男子もさすがにいただろう? あ、津旗に興味ないから、わざわざ接することもないってことだろうか?
俺って、タイミングかバランスかがいいのかなあ?
「そうなんだ? そんなに思ってくれて、好きになってくれて、ありがとう」
「それで高校生になって、偶然会えて、なんだか運命を感じたんです!」
「う、運命!?」
話が壮大というか劇的になってきたぞ。
というか、これの行き着く先ってまさか……。
「はい! 私、運命の人だったら、何をされてもいいって思っています!」
待てい!
心の壁1枚乗り越えたらオールOKなのか!? 何をされてもって男子に言ってるけど、本当に分かって言ってんのか!?
津旗が嫌がっていた身体のこと、絶対に起きるから! いや、俺は違うぞ? 違うけど、普通の男なら! いや、俺も普通だけど、あああああっ!
じゃなくて、もっと段階踏もうよ! 壁も3重くらいにしようよ!
1枚だと壁がマリアだけだから、すぐに突破されるぞ!?
「えっと……ちょっと飛びすぎ……て分からない部分もあるけど、すごく俺に好意的な感じで嬉しいな」
嘘だろ?
まさか、美海のところへ行こうって言っている俺に、まさか、言うんじゃないだろうな。
「だから、私と付き合ってくれませんか?」
きちゃったよおおおおおおおおおおっ! 津旗、なんでこのタイミングで告白してくるんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!
「つ、付き合う!? いや、それは無理だよ……はっきり言うけど、俺は美海のことが――」
俺は断るしかない。
だって、まだ美海のことが好きだから。
だって、まだ津旗のことを友だちとしか思っていないから。
最悪、ここで断って、美海は先輩と付き合うし、津旗とは疎遠になるかもしれない。だから、何もかもを失うかもしれない。
逆に、ここで受けたら、津旗とは付き合えるかもしれない。
だけど、こんな中途半端な状態で、美海に未練を残したままで、津旗の俺を好きになってくれた気持ちには応えられない。
「私、2番目でもいいんです」
はいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!?
2番目ってなんですかああああああああああっ!
斜め上の切り返しがきたんですけどおおおおおっ!?
この子、無敵すぎませんかねええええええええええっ!?
「は、はあ? え? ええっ? に、2番目?」
「はい、私にとっては金澤くんが1番目の、運命の人ですけど、金澤くんにとって私が1番目とは限らないじゃないですか」
うん、ごめん、分からん。
「うん、ごめん、分からん……え、運命の人ってお互いに1番じゃないの?」
「ほら、石油王って何人も奥さんいるじゃないですか」
たとえ話に石油王が登場しちゃったんですけど!?
たしかに、あっちは一夫多妻制なんだろうだけどね!? そもそも、運命の人って、結婚前提!?
で、ここ日本だけどね!?
「ここ日本だけど!?」
「でも、ほら、正室とか側室とかあるじゃないですか」
次に、たとえ話でやんごとなき感じか戦国武将みたいな感じの話が出てきたぞ!?
せめて、現代日本の話で、一般人のたとえ話をくれ!
「ある、じゃなくて、あった、じゃないか!? 昔の話だし、そもそも俺みたいな超平民クラスに正室とか側室とかないよな!?」
「えっと、世の中には2人以上をきちんと愛せる方がいると……」
二股あああああっ! それ、二股だからあああああっ!
なんで、俺、女の子から二股、オススメされてるんだ!?
「二股になるよな、それ!」
「た、たとえ話なので、その、あの、ううっ……」
あ、強く言い過ぎたか? 俺、ちょっと言い過ぎたかな。なんか別の意味で涙ぐんでいそうだ。
「あ、ごめん、そうだよな。たとえ話だよな」
「はい。で、あの、どうですか?」
立ち直りが早い! びっくりするわ!
「ごめん。嬉しいけど、でも、津旗が2番目ってのは、俺が津旗のことを大事にできていない気がするんだ」
「私のことをそこまで……」
なんだこれ、すべて好意的に受け止めてくれているぞ?
もしかして、ひどい言い方しないとダメなのか?
いや、俺にはそんなことできんのだが。
「あ、いや、そうじゃなくて。そもそも、俺、2人も同時に好きになれないし」
早く行きたい……。
「……分かりました。では、今は、私は金澤くんが美海ちゃんと別れたと決まったときにすぐ彼女になれるように、彼女候補、予備彼女になります!」
……なに? 初めて聞いたよ、予備彼女って。
キープってこと?
それ傍目には、俺、ただただ最悪なやつじゃね?
結局、二股じゃね?
止まらぬ俺への風評被害!
「うん、分かってないね? 予備彼女って何? 津旗はもっと自分のこと大事にして!」
「はい! もっと自分のこと大事にします。ありがとうございます。やっぱり、金澤くんのことが好きです! では、行ってください。結果が出たら教えてくださいね」
無敵だなあ。
「すんごいマイペースだね……逆にここまで突き抜けていると好きかも」
「え? 好き? 金澤くん、私のこと知って、好きになってくれたんですか?」
「あ、ごめん、俺、行ってくるわ!」
俺はさすがにもう行かねばと思い、早々に切り上げる。
津旗は俺から好きという言葉が聞けて多分嬉しかったのだろう。なんか手を振ってくれている。
おかしいな……フッたはずなんだけどなあ……。
うん、もう津旗に勘違いさせるような余計なことは言うまいと心に誓った俺だった。
ご覧くださりありがとうございました!




