1-22. 6月……今さら?(2/4)
簡単な人物紹介
金澤 仁志:本作主人公。高身長、顔は普通よりちょい下。
能々市 美海:ヒロインその1。低身長の小動物系女子。栗色の長髪持ち。
津旗 聖納:ヒロインその2。胸部爆盛。黒髪で完全目隠れ、眼鏡あり。せーちゃん。
乃美 梓真:美海の友だち。あーちゃん。
1学期の期末テストの最終日。
「終わった……いろんな意味で……」
俺が終わって思ったことは、この1年生の1学期の期末テストは最初の鬼門だ。
1学期の中間は正直イージーモードだった。高校生活に入ってすぐってこともあり、大した勉強もしていないから中学受験の劣化版というか簡単版に落ち着く。
おかげで俺は苦手な英語でも受験勉強をがんばった名残で点数が取れたと言える。
しかし、期末は急に難易度が上がったのだ。俺はしっかりと勉強した方だからまだマシだと思いたいが、「中間でそんなに悪くなかったし、俺できるんじゃね?」と思って余裕ぶっこいてノー勉かました奴らはまさしく阿鼻叫喚といったところだった。
俺にとって、テスト勝負の要になる数学Ⅰも数学Aが特にひどく、「問題集の応用や発展の数字を変えた難しいやつばっかじゃん! 全然解けなかったんだけど!」という声が周りから聞こえてきたように、俺も含めた生徒たちの点数をがさっとかっさらっていく。
俺のクラスで数学両方を兼任している教科担任がテスト監視員になった際、「あー、数学の話やけどな。数学Ⅰも数学Aも応用問題と発展問題については、完全に解けたのはこのクラスだと湖松だけだったな」と邪悪な笑みで言われたときには絶望しかなかった。
いや、まあ、邪悪な笑みってのは俺の主観だけど。つうか、テスト期間中に悪そうな採点結果を言うなよ! メンタルにやばいだろうが! まあ、残りのテストは実技4教科と言われる技術家庭、美術、音楽、保健体育だけだったから、まあ、そこまで問題はなかったけど。
ちなみに、数学Ⅰも数学Aも、応用問題や発展問題はどちらも3つずつ入っていて、さらにいずれの問題も15点問題だから……そうなると、数学2種類は一応途中点のMAX10点があったとしても、こまっちゃん以外は最高でも80前半以下ってことになるんだが!?
で、文系科目は良心的かと思いきや、英語の長文問題、数学でいうところの応用問題がオリジナル問題で、完全に初見殺しというか、英語苦手殺しだった。
うん、さすがに赤点は回避したと思うけど、及第点以下だろうなあという感じで夏休みの補修が決定したんじゃないかな。
まあ、どっちにしろ、秋に行う文化祭の準備でも夏休みに登校するし、夏休み明けの実力テストのことを考えると、夏休みも学校にお世話になる日は多い気がする。
あーあ、中学1年や2年の時のだらっと、かつ、ゆるっとした夏休みが懐かしいなあ。もうあの頃に戻れないのか。
で、技術家庭、美術、音楽、保健体育の4科目は、授業での評価の方が配分も高く、正直教師側もテスト自体は緩いので無難に平均点以上はたたき出せるだろう。
美術も知識だけならそこまで美海に差がつくこともないと願っている。
……はい、ここまでが現実逃避。
そう、今日はというか、もう俺にとって、期末テストどころではなかった。
つうか、なんだったら、俺と美海と先輩の話が持ちきりで、1年の噂好きの奴らにとって、テストどころの感じではなかっただろうなって思う。
先日、美海が先輩の告白に対して「考えさせてほしい」と言って、それで先輩の設けた返事の期限が今日なのだ。
つまり、俺の運命が決まる日でもある。
そもそも、先輩と美海が付き合ったら……テスト勝負なんかなくなるだろうな。
美海は、どう答えるのだろうか。
先輩に告白されたときの……俺を避けるような美海の態度。
もう決まったも同然か。
明日には美海と先輩が付き合っているのかもしれない。
今はまだ大丈夫だけど、やり取りしていたリンクはブロックされるかもな。
だけど。
「俺は……」
先輩が言っていた「あの場所」。それは体育館横のことだと思う。
俺が体育館裏でのんびりとしていたところで、美海の告白シーンにサウンドオンリーで居合わせていたからだ。
ただ、体育館横は駐輪場から見えてしまうため、帰りの時間になる放課後では目立つ。おそらく、体育館裏、テニスコート寄りの方にちょっと移動するんじゃないかとは思っている。
それだと、先輩と美海の「あの場所」じゃなくて、美海と俺の「あの場所」になるわけだが……。
「俺は……」
これでいいのか?
告白もせずに終わらせていいのか?
テスト明けに告白って決めていただろ?
後になって、実は俺も好きになってたんだ、なんて言っても言わなくても、そんなん、ガツガツとかどうとかじゃなくて、単純にカッコ悪いだろうが。
俺がどんなにヘタレだろうが、なんだろうが、顔だけじゃなくて、中身までカッコ悪くなっちゃ終わりだろうが!
「なに固まってんだ、行けよ」
俺はその声でハッと気付き、横を見ると乃美が立っていた。
「乃美……」
周りは遠巻きに見ていて、俺たちに近付いていない。
それもあってか、乃美は俺に聞こえる程度の声で話しかけてくれていた。
「今、みーちゃんは行ったぞ。野次馬は私が片付けたけどな」
「でも、俺に行けって……」
「金澤まで野次馬だとは言ってないだろ? 金澤のことだから、野次馬じゃなくて、みーちゃんからガツガツされるの嫌いって言われていて、それで臆病で自分の言いたいことも言えなくて、またみーちゃんから告白してくれないかなあってただ口を開けて待っているだけの卑怯なクソザコカスチキン野郎になっているかもしれないけどよ」
「…………」
うん、言い過ぎだろ。クソザコカスチキン野郎とか、女子というか、人に初めて言われたんだけど。
もう少しこう何というか、手心というか、くらいあってもいいだろ。
俺、自分の不甲斐なさじゃなくて、酷評で泣きそうなんだけど。
「でもな、あの先輩の告白で私がイラっとしたとき、金澤も同じような顔をしていてさ。金澤が自分のことじゃなくて、ちゃんとみーちゃんのことを考えているって思ったんだよ。それこそ、ガツガツ嫌いって言われて、みーちゃんにそういう態度取らない……まあ、良く言えば、紳士的な金澤だからさ。だから、あぁ、金澤ならやっぱみーちゃんと一緒でもいいかもな、って思ったんだよ」
「乃美……」
落とされてから急に持ち上げられたんだが。
もしかして、乃美なりの応援なのか?
ちょっと応援が下手なのかもしれん。そう思うと、先ほどの罵倒もちょっとかわいく見える不思議。
「あぁ、もう! はっきり言ってやる! みーちゃんはだいぶ揺れていると思う。みーちゃんの気持ちを本当に分かっているわけじゃないけど、直接聞いたわけじゃないけど、でも、先輩にはまだ完全に傾いているわけじゃない。だから、金澤、お前の一言で変わるかもしれないんだ。だから、いってこい!」
それから、なぜだか分からんけど急に笑顔になった乃美に思いきり背中を叩かれた。
共通の敵ができて、仲間になった感じの雰囲気、少年漫画の展開だな、これ。
あぁ、乃美にここまで言わせたんだ。
今度こそ、俺がしっかりしなくちゃな。
「あ、ありがとう」
「で、私の読みが外れて、ダメだったら、玉砕しろ!」
おおおおおいっ! ここで落とすなよ!
「ここで落とすなよ! 二の足を踏むだろうが!」
「ははっ。元気出ただろ? ほら、早くしないと全部終わるぞ?」
上げられたり落とされたり、まったく、応援が雑過ぎるだろ……。
まあ、これくらいの方がちょうどいいかもしれん。
「じゃあ、玉砕したら、読みを外した乃美が俺を慰めてくれよな?」
「……それどういう意味で言っているんだ?」
え? 何?
なんで顔を真っ赤にするの?
「ん? 乃美が友だちっぽくというか、なんか仲間っぽく言ってくれるから、俺もそんな感じで言っただけなんだが……」
え? 何? 俺、変なこと言ったか?
「……いいから早く行け!」
「いてえっ!」
若干、難しい顔をした乃美に尻を蹴られてから、教室を出て、俺は体育館裏の方へと向かうために一旦玄関へと向かう。
あとは玄関から外へ出て、ぐるっと駐輪場を超えて、体育館の方へ行けば、いるはず。
「あ、金澤くん」
ただ、その途中で、俺を待っていたかのように、玄関で待ち構えていた津旗と出会って呼び止められた。
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