1-18. 6月……ふーん?(2/4)
簡単な人物紹介
金澤 仁志:本作主人公。高身長、顔は普通よりちょい下。
能々市 美海:ヒロインその1。低身長の小動物系女子。栗色の長髪持ち。
津旗 聖納:ヒロインその2。胸部爆盛。黒髪で完全目隠れ、眼鏡あり。
松藤:仁志の友だち。バスケ部。美海と小学校からの知り合い。
鶴城:仁志の友だち。バスケ部。美海と小学校からの知り合い。
美河:仁志の友だち。バスケ部。美海と小学校からの知り合い。
目の前にいるデカ盛り女子。
身長が普通くらいで、顔は半分以上が前髪のせいで見えなくてよく分からないが、縁が幅広の青色をした眼鏡をかけていることだけは分かるのと、鼻や口元は綺麗に整っている気がする。
後ろの髪はセミロングで肩と同じくらいに伸びていて、全体的にこれでもかと大人しい女子アピールをしている感じが否めない。
だけど、夏服のポロシャツで露骨に分かるくらいに、出るとこは出ていて、凹むところは凹んでいる感じがしていて、女性的な存在感は強すぎる。
これ、絶対に男からのアピールというか、告白とかもすんげえだろうな。
で、本題。
……誰だっけ。
「えっと……」
こんな印象的な女の子、忘れることないと思うんだけど、中々脳内検索にヒットしない。
「あ……ごめんなさい……覚えてなかったらいいんです」
あれ? よく聞くと、この声……。
待てよ。
「ごめん……あれ? え、もしかして? 津旗さん?」
「思い出してくれたんですね? そう、津旗 聖納です」
「そうそう、津旗さん、塾の夏期講習でずっと隣だったよな?」
「うん、そうです」
思い出した。津旗さん。そうか、津旗さん、聖納って名前だっけか。
津旗さんとは中学3年に同級生に誘われた塾の2週間の夏期講習、塾生じゃなくても費用を払えば夏期講習だけ参加できるみたいなイベントがあって、そこで会った別の中学の女の子だ。たまたま、席が隣になっただけなんだけど、漫画とかアニメとかで盛り上がった覚えがある。
あれ? でも? こんなに……大きかったっけ? あぁ、でも、お胸は覚えてないけど、たしかに目は見たことなくて、ただお尻が大きくてなんかの拍子にフリフリしていたのを目で追いかけてしまったことあったな。
……中高生の男子って、ほんと、どうしようもないのよね。
……誰に言ってんだろ、俺。
「津旗さん、同じ高校だったんだ? ごめん、気付かなくて」
俺は津旗さんに謝ると、津旗さんはふるふると頭を横に振っていた。
「さん付けしなくてもいいですよ。ううん、私もつい最近知りましたから」
さん付けしなくてもいいなんて、見た目が落ち着いて静かな感じなのに、ずいぶんと気さくだな。
ちょっと馴れ馴れしい感じになってしまいそうだけど、まあ、言われて断る理由もないか。
「んじゃ、津旗って呼ばせてもらうよ。で、つい最近?」
「うん。中間テストのとき、テストの勝負とかで7組の女子が8組の教室で8組の男子に大胆なことを言ったって」
あぁ……それは知れ渡るわな。正直、俺なんか、それでしばらくからかわれたもんなあ。
そう言えば、美海の方は本人が気にしてないのか、周りがいいのか、あるいは乃美が周りと黙らせたか、少なくとも美海からはそれほどからかわれたような話を聞いていない。
まあ、男の方がからかわれやすいし、女子をそういうのでからかうのはちょっとどころの勇気じゃ無理だろうしな。
もっと言うと、恥ずかしい感じが限界突破していたから、アンタッチャブルというか、タブーというか、誰も逆にいじれない感じか。
「あ、あぁ……それな……」
「うん、それで7組の女子が能々市さんで、8組の男子が金澤くんって聞いて。それで一緒の高校だって知ったの」
ですよね。
あれ? 津旗って、美海のことを知っているのか? それとも名前だけ聞いただけか?
どっちでも俺には関係ない……か?
「お、おぉ……そうかあ」
俺としてはからかわれていたこともあって気まずい内容ではあるんだよな。
あと、教科書の問題も解決してないし、これは諦めて怒られた上で隣のやつに見せてもらうしかないかな。
「えっと、そっか、ごめんなさい。気まずいですよね? そのお詫びじゃないですけど、ちょっと聞こえちゃったんですけど、現代国語の教科書を忘れたんですか?」
お、もしかして、この流れは貸してもらえる感じか。
しかし、何か分からないけど、ちょっと周りがこっちを見てざわついている?
何かしたか、俺? 津旗も俺も別に変なことを言ってないと思うけど。
「あ、そうそう。そうなんだよ、ちょっと困っているんだ」
「私で良ければ、貸しますよ?」
やったぜ。思わぬところで教科書を借りられた。
今度から津旗様だな。
「ほんと? ありがたい。俺を助けると思って貸してくれ。神様、仏様、津旗様!」
俺が拝んでいると、津旗の方から小さな笑い声が聞こえる。
「ふふっ。様付けはちょっと恥ずかしいです。ちょっと待ってくださいね」
あれ? やっぱり周りがざわついている?
同級生を様付けしたのがそんなにダメだったか?
まあ、そんなの関係ないよな。
「ありがとう」
俺が礼を言うと、津旗は手を口元に持っていきつつ、口の端を少しだけ上げて笑っているような仕草を取る。目までは見えないから全体的な表情は分からないけど、好意的な笑みを浮かべてくれていると思う。
そのあと、津旗が教科書を取りにこの場から離れると、座っていたはずの松藤たちが立ち上がっていて、俺と肩を組み始めていた。
松藤たちは面白いものを見たとばかりに、まるで耳打ちをするかのようなくらいの小さな声で会話を始める。
「ほんと、金澤は中学んときと違って、モテるやんねえ。津旗さん、あの身体だから狙っているスケベエどもは多いんよ。体育のときなんか、もうすげぇからね、おっぱい、ぶるんぶるんって。バレーボールのときなんか、あれよ? 津旗さんがボールを手に持ってると、おっぱいか、ボールか分からんくなるし、レシーブなんかたまに手で打てんくて胸でボール弾くことあるからねえ」
え、すご。
そんな揺れるの?
ボールが分身の術使ってるように見えるの?
ってか、松藤、どんだけ女子の体育をガン見してんの。
って言ってる俺もたしかに、体育の時間だと隣のクラスと合同だから、美海と体育の時間被るし、女子が近くで体育していると美海をついつい目で追っちゃうし、美海も俺と目が合うと手をいっぱい振ってくれるからな。
その後、先生に叱られていたけど。まあ、俺もついでに叱られるんだけど。
「ま、妄想見て告白した全員、お断りされているみたいやけど? だけど、さすが、モテ期の金澤くぅん、津旗さんも射止めちゃうんかいなあ」
美河がふざけてそんなことまでついに言う始末。
ははっ、俺、普通オブ普通よ? なんなら、お前ら3人の方が顔いいからな? つうか、お前ら、よくよく考えたら、中学時代に彼女いたじゃねえかよ!
いた、というか、今もか? 分からんけど、これが高みの見物ってやつか? まったく、言われる側の身にもなれよな……。
「待て待て、かわいい女の子とちょっと話すだけでモテているとか、射止めているとかって言われる俺の悲しみが分かるか?」
そう、よくよく考えてみると、かわいい女子と話すだけでモテ期って言われるの、普段、会話すらできてないってことだよな。
そこまで言われる筋合いないんじゃないか。
「だって、そら、そうなるな。だって、金澤、中学んとき、全然だったじゃん? というか、背が高いから少し存在感あったけど、それでもなんだったら石ころっていうか、電柱くらいしかなかったよな」
言い過ぎだろ!
「言い過ぎだろ!」
「まあ、鶴ちゃん、正直だからさ」
おい、俺へのフォローはどうしたよ!?
「それは俺へのフォローになってないんだが!?」
「別に俺は金澤をフォローする気、まっさらさらのさっらさら、全然ないからなあ」
おおおおおいっ! ちょっと待てえええええいっ!
「そっか、ってならんからな!? ひどすぎるだろ!」
「まあまあ、鶴ちゃんも美っちゃんも、金澤も落ち着いてな。んで、それはどうでもいいけど」
どうでもよくないわ!
「どうでもよくないわ!」
「まあまあ、お得意のツッコミモードやめて、聞けや。先に言っておくけど、ののちゃん、泣かすなよ?」
松藤のきつめの口調と言葉を前にして、俺のツッコミに急ブレーキがかかって、俺は思わず息を呑むことになった。
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