1-16. 5月……勝負しよ?(4/4)
簡単な人物紹介
金澤 仁志:本作主人公。高身長、顔は普通よりちょい下。
能々市 美海:ヒロインその1。低身長の小動物系女子。栗色の長髪持ち。
乃美:美海の友だち。あーちゃん。
湖松:仁志の友だち。こまっちゃん。
司書:図書室の受付お姉さん。仁志を「少年」呼びする。
ということで、テスト終了、そして、全部の返却が終わった5月末。
え? 早い? いや、テスト中の話をしても仕方ないだろう?
さて、美海とは2人とも全部返ってきてからという話になっていたので、お互いに全部返ってくるまではテストの点数は内緒ということになっていた。
そわそわしている美海、かわいかったなあ。
特に、美海の方が早く全部返ってきたからか、まだかまだかとそわそわして俺にちょいちょい聞いてくるのがかわいかったなあ。
まあ、俺に言っても、教科担任が採点して返してこないと、俺にはどうしようもないのだけど。
で、いよいよ、俺も全部が戻ってきたので、図書室で点数開示することになった。
立会人として、司書、美海の親友である乃美、俺の親友のこまっちゃんこと湖松の3人がいて、図書室のカウンターに俺と美海、立会人の3名の合計5名が居並ぶことになる。
仰々しくない? というか、立会人ってなんだ。
「ご褒美はみーちゃんから提案したから仕方ないが、ご褒美のときに金澤がみーちゃんを抱き締めたあとに暴走しないように見張る必要がある」
「そ、そうか……」
乃美がそう言う。
当たり前だろうけど、俺、信用されてない。
というか、学校でそれ以上のことしちゃアカンだろ。
俺だって場くらい弁えるわ。
いや、どんな場所でもそれ以上のことをしないからね!?
言われた範囲内で収めるから! そんなガツガツしないから!
「ご褒美のときに金澤が能々市さんを抱きしめてから何か面白いことが起きるだろうから見たい」
なんでだよ!
「なんでだよ!」
こまっちゃんの方が俺のこと信用してない感すらあるんだが!? なんでそれ以上がある前提で見に来ているんだよ!
というか、そんなつもりで来たなら帰ってもらいたいが!? ないから!
「はっはっは。少年の友だちも面白いな」
「光栄です」
どういうやり取りだよ……。
「さて、じゃあ、始めるか。まあ、ここはエンターテインメント性を考慮して、順番に出してもらうかな。まずは現代国語から、せ-の」
「はい!」
「はい!」
今回、現代国語の学年平均は74点って聞いている。それに対して、俺は83点だ。まずまずだと思っていたが、美海の点数は……。
88点。
「やった! ウチの勝ち!」
「マジかあ」
割と自信があったのだけれど、1問差で負けてしまう。選択形式で、〇〇「でない」ものを選択せよ、で見事に「でない」を見落としてしまったんだよなあ……。
ちなみに、乃美とこまっちゃんも何故か出すことにしたようで、2人の点数も出てくる。
乃美、88点。
こまっちゃん、100点。
うん、こまっちゃん、すごい。
「ほほう、みんなすごいけど、湖松くんは特にすごいな」
「ありがとうございます」
こまっちゃんは謙遜も自慢もなく、ただ恭しく褒められたことに礼を言う。
「次、じゃあ、理系科目で数学Ⅰで。せーの」
「はい!」
「はい!」
数学Ⅰは今回、簡単ということもあって、平均点でさえ、81点という高得点だ。ここで勝っても総合点数で引き離すのは難しいと思っていたとおりで、俺が92点に対し、美海もがんばったようで86点だった。
美海、偉い。
ちなみに、乃美65点、こまっちゃん100点。
こまっちゃん、また?
「負けたけど、点数は離されてないからまだ大丈夫!」
「うーん、これは厳しいな」
「もはや驚かないけど、湖松くんが100点か」
司書の感想が俺と美海の勝負そっちのけでこまっちゃんの点数に寄っていく。まあ、俺もそう思うから仕方ない。
その後も歴史総合、数学A、英語、理科化学の順で次々と勝負をしていく。
歴史総合、平均74点、俺74点、美海80点で美海の勝ち。乃美86点、こまっちゃん100点。
数学A、平均72点、俺80点、美海72点で俺の勝ち。乃美60点、こまっちゃん100点。
英語、平均74点、俺60点、美海88点で美海の勝ち。乃美90点、こまっちゃん100点。
理科化学、平均76点、俺85点、美海62点で俺の勝ち。乃美60点、こまっちゃん100点。
うん、こまっちゃん、全教科100点っておかしくない?
俺と美海の勝負が霞むんだけど。
あと、失礼なことを承知で思うと、意外と乃美も勉強できるんだな。格闘技に全力なのかと思っていたけど。
「湖松くんは、なんでこの高校に来たんだ?」
司書の当然の質問に俺も気になった。
「家に一番近かったので。勉強はどこでもできますからね」
あ、本当に自分で勉強できるやつの言葉だ、これ。
「そ、そうか……ところで、勝負の方だが、お互いに3勝ということで、総合点勝負だな」
そう、ふたを開けてみれば、教科ごとの勝負はちょうど3勝3敗。思ったとおり、文系は美海、理系は俺、という感じだ。
「えっと、俺は……」
「ウチは……」
というわけで総合点勝負になったわけだが……。
俺474点、美海は……476点。
僅差で美海が勝利となった。
「おぉ、じゃあ、美海ちゃんの勝利!」
「勝ったあ!」
「負けたな……いい勝負だった」
「またしようね!」
「そうだな」
俺と美海は立ち上がって、互いを讃えるように自然と握手をしていた。
いいよね、こういう正々堂々と勝負するの。
負けても勝っても清々しいというか。負けてもなんか悔しくない感じがいい。
「じゃ……その……」
美海は物欲しそうな目で俺を見つめてくる。
俺も男だ。応えねばなるまい。
俺は少しだけ移動して、図書室のしっかりとした椅子を見つけて座ろうとする。もちろん、俺はちょっといろいろと調整したのち、準備ができてバッと両手を広げる。
「……ど、どうぞ……」
「そ、それでは、お邪魔します」
美海にはほんのちょっとだけ高かったのだろう。
美海が俺の肩に手を掛けつつ、スカートがめくれないように気を付けながらよじ登る感じで俺の膝の上に乗ってきた。
膝の上、美海の柔らかい感触が俺を刺激してくる。
さらに、女の子特有なのか美海特有なのかは分からない甘い香りと清潔感のある洗濯した服の香りが合わさってふんわりと漂ってくる。
1つも嫌な臭いがしない。
……うん、ちゃんといろいろ調整して、ぶっちゃけ、挟んでおいてよかった。
「重たくない?」
「全然」
美海が俺に気を掛けてくれつつ、そのまま俺にその小さな身体を預けてくれる。
先ほどよりもすべてが強くなる。
ほどよい重さと柔らかさをより感じられ、それと俺にとって刺激が強すぎるほどの香りが俺を包み込んでいるようだった。
俺は美海がまるで壊れやすいガラス細工かのように、そっと両手を美海の背中に沿わせて後ろに反り返って倒れないように支える。
「ぎゅって……して?」
「あ、あぁ……」
たしかに、まだ抱きしめてはいなかった。
まだ美海が寄りかかっているだけのような感じ。
だから、美海が催促してくる。
あぁ、甘やかしてほしいんだったな。
俺はあのときの約束を思い出して、ぎゅっと先ほどよりも強めにしっかりと美海を抱きしめて、催促される前に頭を撫で始める。
今日は髪を下ろしている。俺が撫でやすいように、と思うのは俺の都合良すぎる妄想だろうか。
「んふ……ふぁ……気持ちいい……ふぁ……はふっ……声……出ちゃう……」
やめてください、そんな甘い声出すの。
俺の挟む力を超えたら、ひょっこりどころか、割と勢い強めに飛び出てくるんだよ。
俺は必死になって、全然関係ないことを頭の片隅で考えようとした。
いろいろ考えた結果、昨日イラっとしたおっさんの顔が過ぎったときに少しだけ萎えたので、おっさんが俺の頭の片隅に残るようにする。
「よかった」
「仁志くん、聞いてもいい?」
何だろう。
「あぁ、いいぞ」
「ドキドキしてる?」
してる。
「してる」
「ウチもね、すっごくドキドキしてる……」
「そうか」
俺は美海との会話のやり取りをしつつ、忘れずに頭を優しく撫で続ける。たまに、髪を梳くように撫でると背中に手が当たることもあって、その度にくすぐったいのか、甘い声を我慢できずに口から漏らしていた。
これ、俺にとってもご褒美だと思っていた。
けど、違った。
もう、これ、拷問だわ。
抱きしめるだけで終わらせるの辛いわ。
昨日のおっさん……昨日のおっさん……おっさんが一人、おっさんが二人……。
「仁志くん……」
美海が顔を上げてくる。
「美海……」
俺の目に映るのは、ほんのりと赤みを帯びた頬、とろんとした目つき、うるうるに潤んだ瞳、ほんの少しだけ乱れた息、艶のある唇、そんな美海だ。
マズい。理性を全開にしないと、その唇に自分の唇を押し付けそうで怖かった。
……おっさんが十八人……おっさんが十九人……おっさんが二十人……おっさんが二十一人……。
もっとおっさんがんばれよ! もう20人超えたんだぞ!
「…………」
「…………」
「…………」
俺の頭の中が美海とおっさんでいっぱいになっているときに、ふと周りに気付く。
ニヘラヘラと笑う司書、美海と同じくらい顔を真っ赤にしている乃美、ニヤリと面白そうに笑むこまっちゃんの3人が俺と美海を見守っている。
……ん? なんで本当に見守られているんだ?
「あの、恥ずかしいので見ないでもらえます?」
「見張りだねえ」
「み、見張らないと」
「気にするな、ただの見物だ」
見張らなくても何もしないから!
いや、ごめん! 嘘です! いてくれないと困るかもしれない! だから、見張りはOKです!
ただし、こまっちゃん! 見張るつもりすらないんかい!
「さて、5分だっけか? もうとっくに過ぎているけど、いつまでする気だい? 美海ちゃん、それくらいにしておかないと、健全な高校生である少年が狼になって、本当に抱かれちゃうよ? 書庫行くかい?」
やめい。
「あ、ありがとね……」
「いや、これくらい……」
その司書の言葉とともに美海が俺の膝の上から下りたため、美海の勝利のご褒美タイムは問題なく終了した。
なお、俺の高まった小宇宙は無事に自宅で処理して、このテストの点数勝負のすべてが無事に終わったのだった。
ご覧くださりありがとうございました!




