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【完結】今日も2人だけで話そ? ~彼女2人が公認の二股恋愛!?~  作者: 茉莉多 真遊人
1年生 1学期

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1-15. 5月……勝負しよ?(3/4)

簡単な人物紹介

金澤(かなざわ) 仁志(ひとし):本作主人公。高身長、顔は普通よりちょい下。

能々市(ののいち) 美海(みなみ):ヒロインその1。低身長の小動物系女子。栗色の長髪持ち。

 世界ッ!! ルビは振らない! 好きに読め!


 クラス内に緊張が走り、時が止まる。時を止める効果は先ほどの「何でもする」なんて比較対象にすらできない。


 抱いてほしい。


 美海、そう言ったよな?


 え? すると、美海が勝ったら、俺、美海を抱くの? 俺にとってもご褒美じゃね?


 え? それで、俺が勝ったら、俺、美海に抱かれるの? それ、ただ攻守逆転するだけじゃね? この場合、俺が受けか?


 って、そんな妄想で逡巡している場合じゃねえええええっ! 一瞬で周りを見渡すと、赤面する奴、顔面蒼白な奴、無表情な奴、衝撃で表情がぐにゃりと歪んでいる奴、と表情は十人十色だけど、俺と美海に注目している点で全員共通していた。


 美海、公衆の面前でとんでもないことを言っちゃってるよ!?


 ガツガツが苦手って言っている割に、美海こそガツガツ感ないですかあああああっ!?


「え? は? え?」


 ここで軽やかで爽やかに「何言うてんの?」くらいのツッコミの1つでも入れられればいいのだろうけど、何か言葉を見つけようにも、俺の思考が何もできずに停止していた。


 すると、美海が恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながら、口をもごもごさせる。


 かわいいより叡智(えいち)だわ。さっきの発言のせいで、恥ずかしそうな赤面が叡智に見えるわ。


「あのね、甘やかしてほしいの」


「あ、そう……なんだ」


 とりあえず、返事した。返事できただけ俺偉い。


 でも、そっか、甘々な感じで抱いてほしいのか。テスト終わったら、保健体育(ほたい)の勉強をしないとな。これで期末テストの予習はバッチリだな。むしろ、人生の予習もルート確保もでき始めてるわ。


「頭も撫でてほしい」


「あ、そうなんだ」


 頭撫でながら……かあ……一度にいろいろなことができるかなあ。


 そもそも、俺、さくらんぼだからさ。


 美海もきっと……はじめてなんだろ?


 隣どうし、俺と美海、さくらんぼ、だろ?


 で、お互い初めてだとさあ。最初は上手くいかないんじゃないかなあ。


 てか、俺たち、付き合ってないはずだよな。でも、あれか。美海的には友だちから始めているだけで恋人みたいな感覚なのかな。


 いや、それ、本当か?


「膝の上に乗りたい」


「あ、そうなんだ」


 おっと、これはさらに想定外だな。体位(フォーム)まで指定があるとは。


 膝の上に乗せながらか。


 これは美海の協力が不可欠だな。


 一緒にがんばろうってことか!


「5分はしてほしい」


「あ、そうなんだ」


 おっと……よもやよもや、時間も……? え、時間? これ、長い方がいい、ってコト? え、俺、短いって思われ……いや、まあ、初めては短くなりやすいらしいが……。


 しかし、ここまで言われたら、俺も男だ。


 そのときを最高の時間にするしかないだろう。


「そうしながら、ぎゅっと抱きしめてほしいなあって」


「あ、そうなんだ……え?」


 抱きしめてほしい?


「だからあ、ウチが勝ったら、仁志くんの膝の上に乗って、頭をなでなでしながら、ぎゅっと抱きしめてほしいの」


 美海がものすっごい恥ずかしそうにしている。


 だが、俺や周りは気付いた。俺や周りの方が数十倍高みの恥ずかしさを覚えていたことに。


 ま、ままま、ままままま、紛らわしいわあああああいっ!


「紛らわしい!」


 やべ、思ったより短く語気が強めになってしまった。


 美海はちょっとびっくりして、目が真ん丸になって俺をぱちくりぱちくりと見ている。


「ええっ!? 急に、何?」


 待て、待て、分かってないのか?


 美海は「抱いて」と「抱きしめて」の違いが分かっていない……のか。


「さすがに、ちょっと……さっきのはまずいって……」


「え? え?」


 あ。これ、分かってない。本当に分かってないわ。


 え、これ、俺、説明するの?


 俺はきょとんとしている美海を前にして、深呼吸を5回ほどしてから、ゆっくりと美海を見据えて「抱いて」と「抱きしめて」の違いを説明しようと口を開く。


「抱きしめてほしいなら、抱きしめてほしいって言わないと……勘違いしちゃうというか……勘違いってのは……その、あれだ。つまり、抱いてほしいってのは、意味が抱きしめるってことじゃなくなって、その、あれだよ…………ごめん、ちょっと口で言えないから、後でスマホで調べてくれるか?」


 もごもご、ごにょごにょしすぎて、美海に届いているかどうかも怪しいくらいの声量だ。


 でも、なんとか俺も恥ずかしながらなんだから許して。


 そのあとしばらく、美海は不思議そうな顔で俺の方を見つめていた。


 うん、かわいい。わかった、俺、喜んで抱くわ。


 あ、美海、なんかに気付いたぞ。


 やがて、美海は俺の言いたいことがスマホなしでも理解できてきたようで、先ほどの恥ずかしそうな赤面と別の雰囲気で顔を真っ赤にして、なんならゆでだこもびっくりするくらいに真っ赤になって口をパクパクさせている。


「……あ! ああっ! あああああっ! ひゃあああああっ!」


 美海がかわいらしい声をあげて脱兎のごとく走り去っていく。


 脱兎かあ。ウサギかあ。うさみみバンドも似合いそうだな。


 って、呆けている場合じゃない!


「み、美海!」


 俺は聞こえているわけもない言葉を放った後に、帰り支度の済んでいるカバンを持ち上げて席を立つ。


 周りもなんかバツ悪い感じなのか、協力する気のようで俺に声を掛けてくる。


「さすがに、追いかけるよね?」

「あれじゃ、能々市さん、かわいそうだから、しっかりとね」

「金澤、男だろ? がんばれよ」

「おい、悔しいけど、お前しか能々市さんを救えないんだぞ」

「能々市さんなら階段で下に行ったよ」


 なんだかんだでクラスの一体感が高まっている気がする。


 ただし、藁人形の首をもぎ取っている奴とは仲良くなれそうにないんだが、どうしたらいい? あ、きちんと目が合ったら、藁人形の首を付け直し始めた。


 いや、まずそれを隠せよ。


「みんな、ありがとう。みんな、すまねえ」


 俺はそのまま階段を駆け下りて、図書室へと向かう。


 美海は帰っていない。多分、図書室にいる。


 なんでか分からないけど、そう思った。


 で、実際、いた。


 カウンターに突っ伏している女の子。


 顔は見えないけれど、小さくて、長い髪のポニーテイルが印象的で、だから、どう見ても美海だ。


 俺は図書室のガラス扉を開けようとする。


 司書がこちらを見てから、一旦手のひらをこちらに向けて「待て」のポーズをして、次に人差し指を口元に当てたあとに、人差し指と中指を揃えた手でくいくいと手招きをするような動きを見せて「静かに、入れ」というポーズをする。


 俺は肯いて、静かにガラス扉を開ける。


「ううっ……恥ずかしい……」


「そっか、がんばったね。まあ、周りに人がいたのは恥ずかしかっただろうけど、美海ちゃんはよくがんばったよ。臆病な少年にはそれくらいしないと……おや、少年じゃないか」


 司書がタイミングを見計らって、今しがた俺に気付いたように声を掛けてくれる。


 美海はビクンと一回大きく跳ねてから、両手で頭を抱えて自分を隠しているかのような感じで縮こまっている。


 うん、かわいい。


「美海」


 俺は司書の無言の指示を受けて、丸椅子を持ってきて、美海の横に座る。


 しばらく、何も言わずにただ美海の隣で座っていると、美海が今にも泣きそうな感じで俺の方を見る。


「仁志くん、ごめんね」


「なんで俺に謝るんだよ……」


「恥ずかしい感じにしちゃって」


「いや、俺は別に……」


「さっき、怒ってたじゃん」


「あれは怒ったわけじゃなくて、つい、ツッコミに勢いがついたというか……ごめん、怒っていると思わせたなら、俺が悪いな」


「ううん、ウチこそごめん。あのね、そういうこと言いたいんじゃなくて」


「まあまあ、で、2人とも勝負はどうするんだ?」


 俺と美海のやり取りを見て、司書が割って入る。このお構いなしな感じが、今はすごくありがたい。


 でも、なんで勝負することも知っているんだ?


「……もちろん、しますよ。抱きしめるって、ご褒美付きで」


「えっ?」


 俺が司書にそう答えると、美海が驚いた顔のままこちらにバッと振り向く。


「おぉ……そりゃまた真面目な少年が心変わりか?」


 司書は美海の頭を優しく撫でながら、俺をからかっているからかニヤニヤとしてそう呟く。


 俺も美海をなでなでしたいわ。


「いやいや、心変わりって……いくら真面目に見えたって、俺にとって美味しい話をそう取り下げさせませんよ。俺は美海が望んだお願いを俺が勝ってもお願いするってことになるから、勝っても美海に抱きしめてもらえるし、負けても美海を抱きしめられるし」


 この段階で引いたら、美海だけが一人で暴走したみたいになる。


 俺ももちろん望んでいるから言ってくれた。そんな感じになるように、俺はガツガツし過ぎずにガツガツするという難しい感じのバランスでいくしかないと思った。


「実にいいじゃないか。健全な男子高校生らしくていいじゃないか」


「いいの?」


 俺は美海の問いに首を縦に振る。


「美海、なんか勘違いしているけど、俺は美海のこと好き……になってきているんだぞ」


「微妙に歯切れが悪いな」


 司書は今の俺たちの関係、友だち以上恋人未満みたいな関係を知っている。それを聞いたとき、司書が「なんで?」と聞いてきたときには答えに詰まった。


「やっぱり、仁志くんはガツガツしていないね」


「あぁ、微妙な感じなのはこれか……真面目だねえ……」


 司書はいろいろと理解したように、なぜか苦笑いを浮かべていた、そんな気がする。


 こうして無事に? 俺と美海はテストの点数勝負を取り付けることができた。

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