1-13. 5月……勝負しよ?(1/4)
簡単な人物紹介
金澤 仁志:本作主人公。高身長、顔は普通よりちょい下。
能々市 美海:ヒロインその1。低身長の小動物系女子。栗色の長髪持ち。
図書室の一件があってから、俺は美海とラッキーなんちゃら的なことも……若干あった気もするけど、基本的にはとても健全な感じで放課後の勉強会を自習スペースや図書室で勉強を進めることができた。
時折、美海の視線がボーっとしていたり、話していると至近距離まで顔が近付いたり、かと思えば俺をじぃーっと見ていたりと勉強に集中できているか不安な感じもあった。まあ、俺も俺で美海を気付かれないようにじっと見ていることもあったので人のことは言えないと思う。
ちょっと難しい問題で「うーん」と小さな声で唸りながら口を尖らせていた美海とか、簡単な問題の答えを間違っているときに舌をチロッと出して恥ずかしさを紛らわそうとした美海とか、写真に撮りたかったくらいにかわいかったが、そんなことをすれば友だちだろうと明らかに不審者なのでやめておいた。
いつか恋人どうしになったらいっぱい撮ろうかな、と心に秘めておく。
「ねえ、仁志くん! 思ったんだけど、提案なんだけど2人でテストの点数勝負しよ?」
そんなこんなであっという間にテスト前日になったとき、隣のクラスから美海が終礼後にカバンを肩に掛けて、俺のクラスにまでやって来て急にそんなことを言い始めた。
俺は帰り支度を済ませたカバンを机に置いて自席に座りながら、誇張表現するならフンスフンスと少し鼻息が荒い感じになっている美海を見ている。
うん、やる気に満ち満ちている感じでかわいい。ハムスターがハムスターホイールで一生懸命走っているときのような、なんかそんなやる気に満ち溢れている感じがする。
ちなみに、既にクラスのみんなからは、俺がいると美海が休憩時間や終礼後にやって来ることがお決まりになったようで、目新しさもなくなったためか以前よりもざわつきもなくなってきた。
さらに言えば、諦めたような諦めていないような微妙な立ち位置の男たちの溜め息や怒りも徐々に少なっている気がする。
多分。
……いや、一部からはまだ強い念を送られている気もするというか、視界の端の方で藁人形出しているやつがいるんだが……せめて隠せよ!
「えぇ? テストの点数勝負ぅ?」
俺は返事をしなきゃと思って慌ててしまい、思わず語尾がものすごく上がった言い方をしてしまう。
美海の顔は、自信ありげに何かを決め込んだ顔にも、ちょっと意地悪なことをしようと画策している小悪魔的な笑顔にも、もしくはその両方とものように見えた。
おそらくだが、昨日までのテスト勉強での雰囲気で、俺と美海が同じくらいの学力、もしくは、美海の方がちょい上だと思ったのだろうか。つまり、勝てると思って勝負を仕掛けてきた感じがするな。
ボーっとしていた時間の長さなら、きっと美海の方が勝っている気がするけど。
「ね? テストの点数で勝負! しよ? ちょっとだけ! ちょっとだけでいいから!」
ちょっとだけって何? 点数勝負にお試し版みたいなのあるの?
ちなみに、最近、美海がその長い髪をポニーテイルにしていて、ちょっと活発な感じがする。
あー、あれか。
暑くなってきたから、長髪だと暑いからか?
しかし、一部の男どもよ。
美海のポニーテイルからチラリと見えるうなじを凝視するんじゃない。それと、その奥にいる俺の視線に気付いてもなお、凝視を止めないのはやめてくれ。
せめて、俺に気付いたら気まずそうに視線を外せ! 俺なんか関係ないって感じを出さないでくれ!
あと、藁人形! か、く、せ!
「うーん」
ちょっと考えたふりをしている。
いや、でも、いいよね、こう、テストの結果で勝負するの。
俺が中学生のとき、『彼女がいたらしてみたかったこと TOP10』にランクインしている『テストの点数勝負、勝ち誇った彼女を見たり、悔しがる彼女を見たりして、できればお互いに接戦でなんだかんだで最後イチャイチャしちゃうよね』がイチャイチャなしだろうけど、それも達成されようとしている。
TOP10の2つが非常に良いペースで達成されるとなると、残りも期待してしまう。
まあ、彼女じゃないんですけどね……自分のせいですけどね……。はい、いつもの自虐もしておく。
「ダメかな?」
おっと、ダメだな。いや、テスト勝負がダメってことじゃなくて、目の前に美海がいるのに、自分の妄想や自嘲に意識飛んでいたってことがダメで、要は俺がダメってことだけどな。
きちんと受けて立たないと。
だって、美海、テスト勝負したくて、すごく目をキラキラキラと輝かせて待っていて、はい、かわいい、もうかわいい。
……この小動物的な感じのかわいさは抗いがたい魅力があるな。
「返事できてなかったな、ごめん。もちろん、俺はオッケーだけど、勝負内容を聞いてもいいか? テストの総合点数ってこと? それとも教科ごと?」
受けて立つが、最初にルールははっきりさせておきたい。
「やった! うんうん、そうだよね。気になるよね。私も気になる」
決めてないんかい!
「決めてないんかい!」
「うん、2人で決めようと思って……えっと……ダメ?」
お、おぉ……。
「お、おぉ……」
こう、なんというか、そんなうるうるっとした感じで首ちょっと傾げて上目遣いで言ってくるのズルくない? だいたい許せちゃうよな、これ。
「ダメ?」
これはあざとい。
「これはあざとい」
「ええっ!? あざとい!?」
あ、やべ、これ、漏らしちゃダメな本音だった。
「いや、ちが……かわいすぎて、ちょっとあざとく見えただけ! あざとかわいいってあるだろ? えっと……ダメじゃない! 一緒に考えよう! ありがとう!」
とりあえず、謝って、最後はもう押しに押してのごり押しで通した。
美海は、あざといと言われた時はびっくりがほとんどだったが、かわいすぎてと言われてからは露骨に喜んでいて、なんとかご機嫌状態が維持できた。
褒めるの大事。
露骨なくらいがちょうどいい。
「かわいすぎて……えへへ……んふふ……ありがと♪ 勝負内容は、えっと、今回のテストは、現代国語、歴史総合、数学Ⅰ、数学A、理科化学、英語だよね。6つじゃ、同じになる可能性あるのかあ」
そう、美海が言った通り、今回のテストは合計で6つあるのだ。
現代国語、歴史総合、英語という文系科目が3つ、数学Ⅰ、数学A、理科化学という理系科目が3つで文理での偏りはない。
ただ、一緒に勉強している感じ、俺も美海も文系っぽいんだよなあ。
「そうしたら、科目ごとに競うことにして、科目の勝敗で同じ……つまり、3勝3敗になったら、最後の最後に総合点で勝負するなんてどうだ? その方がいろいろとドキドキできて楽しめるだろ?」
俺はどっちかってっと、英語が苦手だけど、そのほかは平均的で国語と社会が数学や理科よりもちょいと高得点を取れる感じ。
それに対して、美海は間違いなく真正の文系で国語、社会、英語が大得意な反面、数学や理科が絶望的に苦手だ。
頭が数字を拒否していると言っていた気がするな。
「たしかに! それ、いいね! 仁志くんってすごいね」
「じゃあ、決定な。がんばらないとな!」
総合得点でも勝負になる以上、文系科目も負けるにしてもギリギリの負けで通さないといけないし、理系科目は確実に勝利をもぎ取らないといけない。
自分で言っておいてなんだが、ちょっと厳しい戦いになりそうだ。
まあ、ダメな時は潔く負けよう。
「負けないからね! そうだ! もっと面白くなるように、勝った人にご褒美なんてどう?」
「ご褒美?」
おいおい、これは聞き捨てならんな。
自販機で飲み物奢るとかくらいなら全然問題なくOKだけど。
俺はどこまでいいかによるけど……美海にネコミミバンドでもつけさせて、「にゃーん」って言わせようかな。
「うん、負けた人は勝った人に……何でもしてあげる、とか?」
……ん? え? は? ええっ? 今、何でもって言った!?
「な、なんでも!?」
俺だけじゃなくて、クラスの全員、一瞬時が止まって、その後、時が戻ったかのようにざわざわとし始めていた。
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